現在さまざまな分野においてAIの導入が進んでいます。物流業界もその中の1つです。
今回はAI技術がトラックや物流業界にどのような影響を与え、どう変化しているのか事例を交えて紹介します。
AIが変えるトラックの運転
オンライン注文の普及により、再配達や長時間労働など、トラック運転手への負担が高まっています。物流業界は従来のやり方では対応できなくなっており、変わらなければなりません。
そこで注目を集めているのが、AI(人工知能)の活用です。
トラック運転へのAI導入
AIが人間に変わってトラック運転をサポートすることで、業務の効率化やコストカットを実現します。真っ先にあげられるのが、配送ルートの最適化です。
従来の管理者やトラック運転手の経験に頼った配送ではなく、データに基づきAIが配送ルートを自動化・最適化します。
配送ルートが最適化されることで、トラック運転手の負担軽減やガソリン代・人件費のコスト削減につながります。運転手の安全性が向上し、トラック業界の効率化に寄与します。
また、AIによるドライバーの自動運転支援もあげられます。自動運転の実証実験が国内外で進行中です。このように、トラック業界では段階的にAIの導入が進んでいくでしょう。
具体的なAI活用例
国内商用車メーカーの三菱ふそうでは、AIソフトウェアを手がける米ワイズ・システムと業務提携し、AIによる配送ルートの自動生成システムを導入しています。
AIが車両や配送オーダー、運転手、交通情報などのデータに基づき、最適なルートを導きます。
システムの導入により「車両の走行距離が平均15%削減、稼働率は20%、配送遅延は最大80%解消」などの見込みです。
AIは配送ルートの最適化だけではなく、トラックの運転自体にも導入が進んでいます。
2023年4月、千葉県市川市では自動運転「レベル4」のトラックを使用した実証実験が実施されました。自動運転レベル4とは、0〜5まで6段階あるうちの上から2つ目であり、高速道路などの「一定条件下の自動運転」を意味します。
今回の実証実験では、千葉県内の高速道路においてドライバーを乗せた状態で走行しました。トラックには障害物を感知するセンサーが搭載され、ハンドルが自動で動きます。
実験を行った大手商社とITベンチャー企業が設立した合弁企業によると、2025年には東京と大阪間で自動運転を活用した配送を目指しているといいます。
政府はトラック自動運転レベル4の普及に向けたロードマップ「官民ITS構想・ロードマップ」を公表しました。それによると、2026年からは社会実装の段階に突入することを明らかにしています。
AI導入の課題
トラック業界のAI導入には多くのメリットをもたらす一方で、さまざまな課題があります。
データ収集とコスト
AI開発にはデータ収集が欠かせません。精度の高い結果へ導くには、量と質を兼ね備えたデータが必要で、トラック配送に関連したさまざまなデータを求められます。しかし、従来の配送管理では十分なデータが集まっていない企業も多いでしょう。
データが不十分だと、仮にAIを導入したとしても高い効果を期待できません。また、導入コストの障壁もあります。AIを導入するには、これまで使ってきた管理システムを一元化し、データを集約しなければなりません。
またシステムを一新する期間を要するでしょう。AIを使った配送に慣れるまで、トラック運転手への負担がかかります。時間コストに加え、AIそのものの費用も見逃せません。効果が未知数なAIに対し、初期費用を渋りたい気持ちもあるはずです。
AI導入を推進するための解決法
AI導入を推進するためには、導入しないデメリットを検討しましょう。新たな技術を導入するにはリスクがつきものです。
しかし、導入しない場合、どれくらいのコストが発生するでしょうか。短期的な利益を追求するのではなく、業界の未来を見据えた長期的な投資が求められます。
自動運転トラックと物流業界の未来
自動運転トラックの開発状況とその将来性、物流センター内の自動化について、具体的な例とともに解説します。
自動運転トラックの見通し
自動運転トラックはドライバー不足を解消し、配送の効率化をもたらします。
トラック業界における課題を解消する技術としては自動運転が注目されています。
高速道路や商業施設敷地内など、一部のエリアにおいて自動運転トラックの社会実装が実現間近です。世界各地で自動運転トラックを使った実証実験や関連企業の活躍が目立ちます。
韓国の大手自動車メーカーヒュンダイでは2018年8月、自動運転トラックの走行実験を実施しました。40トントラック「Xcient」を使用し、約40キロメートルの距離を自動で運転したといいます。
中国系スタートアップのTuSimpleは2022年12月、アメリカの公道で自動運転トラックの走行に成功したことを発表しました。同社の自動運転システムでは、夜間に物体を検知するセンサーや1,000メートル離れた物体を感知できる技術を備えています。
近い将来、トラック運転手は全てのルートを手動で運転する必要がなくなり、高速道路などでは自動運転が実現するでしょう。現状はトラック運転手のサポートにとどまりますが、最終的には「完全」自動運転が実現する未来も考えられます。
国内トラックメーカーのUDトラックスでは、2030年までに完全自動運転トラックの実現を目指すことを発表しています。
物流センター内での活用
物流業界を考えると、トラック配送での活用に加え、物流センター内での活用にも期待が寄せられています。膨大な商品を効率的に管理するにはAIの活用が欠かせません。
国内大手流通企業の加藤産業では、AIを活用した商品配置システムにより、センター内の人の移動距離が9.5%、出荷生産性は8.6%改善するという結果になりました。物流センターでは、他にも入出庫・検品・仕分けなどの各工程においてAIの活用が進んでいます。
AIが変える人材不足と物流業界の未来
トラック業界の人材不足は顕著になりつつあります。AIが人材不足をいかに解消し、物流業界の未来はどうなるのでしょうか。
AIトラックが解決する人手不足問題
全日本トラック協会が発表した資料「日本のトラック輸送産業 現状と課題(2022)」によると、2021年のトラックドライバーは約84万人、2017年から横ばいに推移しています。内訳をみると、40歳以上が7割。深刻な高齢化は明らかです。
一方でトラック輸送が担う宅配数は増加傾向にあります。国土交通省の発表によると、2021年における国内の宅配便取扱個数は7年連続増加の49億5,323個を記録しました。AIトラックを導入することで、業界の人手不足課題を解決できます。
AIが描く物流業界の未来
AIによる配送ルートの最適化や自動運転トラックの実用化が進んでいます。近い将来、AIが
ドライバーの補完的な役割を果たすでしょう。さらに将来的には、「完全無人のコンビニ」のようにトラックの無人化が実現するかもしれません。
政府が2017年に公表した「人工知能技術戦略企画」では、2030年までに物流を無人化する意向を示しています。物流業界の未来はAIが担っているでしょう。