トラック業界は現在、人手不足や労働時間の短縮など解決すべき問題が多くあります。人手不足の原因や労働環境の現状、効率化への取り組みを解説します。
トラック業界の現状と人手不足
トラック業界の人手不足の現状や原因を解説します。
業界の人手不足の現状
運送業界では人手不足が深刻化している現状があります。道路貨物運送業のドライバー数はピーク時の1995年が98万人であったのに対し、2021年時点では84万人にとどまっており26年間で14万人減少したことになります。
また、ドライバーの有効求人倍率では2009年ではおよそ0.27倍でしたが2018年時点では2.76倍まで上昇しており、全職業の有効求人倍率に比べ2倍近い水準で募集に対しての人材が不足している状態です。
人手不足の影響はドライバーや企業への負担を増加させることにも繋がります。仕事量に対してドライバーが不足しているためドライバー1人の労働時間が長くなりやすく、休暇が取りづらくなります。
また、日々の業務で手一杯になることにより若手社員への教育機会の損失や従業員の意欲の低下など、離職者が増加するきっかけが生まれやすい環境になってしまっている現状があります。
人手不足の原因
人手不足の原因として考えられることは複数ありますが、宅配便の増加もその中の1つです。ECサイトによるインターネットショッピングが急速に拡大しており、国土交通省の調べでは2011年で約34億個だった宅配便の取り扱い個数は2020年では約48億個に増加。
コロナ過の影響で生活必需品や食料品の個人宅への配送も増えており、人手不足にさらに拍車がかかっている状態です。
さらに、道路交通法の一部を改正する法律により準中型免許が新設され、2017年3月12日以降取得の普通免許ではいわゆる2tトラックが運転できなくなりました。準中型免許や中型免許を取得してまでトラックドライバーになろうとする若者は少ないと考えられています。
次の項目で詳しく解説しますが、労働条件の厳しさやドライバーの高齢化も原因となっています。
労働環境とドライバー不足
労働環境や労働条件の厳しさ、ドライバーの高齢化や若者の車離れを解説します。
労働条件の厳しさ
労働環境や労働条件の厳しさもドライバー不足の原因の1つです。運送ドライバーは体力仕事できつい・汚い・危険といった3Kのイメージを持っている人も多く、車中泊を伴う長距離輸送であれば数日家に帰らないこともあります。
そのため家族に反対されるケースもあり、敬遠される要因になっています。
さらに低賃金や長時間労働も問題になっており、全日本トラック協会の調べでは、2021年の全産業平均年間所得489万円に対し、大型ドライバーでは463万円、小中型ドライバーでは431万円にとどまっています。
年間労働時間では2021年の全産業平均労働時間2,112時間に対し、大型トラックドライバーでは2,544時間、中小型トラックドライバーで2,484時間となっており、労働時間の割には賃金が少ないといった現実があります。
高齢化と若者の興味不足
ドライバーの高齢化も人手不足と大きく関係しています。国土交通省の「トラック運送業の現況について」では、ドライバーの平均年齢は中小型トラックでは45.4歳、大型トラックでは47.5歳となっており、全職業平均と比較して約3歳から17歳高いことになります。
また、若者の興味関心から車やトラックが薄れている現状もあります。現在現役でトラックドライバーをしている人の中には、車を持つことが1つのステータスであったり、トラックを題材にした映画があったりと車が身近な存在であった人も多いのではないでしょうか。
若者世代ではそういった価値観は薄れ、消費税や物価が高くなったことも重なり車を持たない若者も多くいます。若者が車を持たない理由としては維持費がかかる、駐車場代が高い、電車やバスで十分、カーシェアリングを利用するなどがあります。
これらの理由から、若年層は職業としてトラックドライバーを選びづらく、ドライバーの高齢化がますます進むといった現状になっています。
課題に対する取り組みと未来
既存の人手不足への取り組みやテクノロジーの活用を解説します。
既存の人手不足への取り組み
運送業界で現在行われている人手不足への取り組みは以下の通りです。
労働条件の改善
前述した通り、運送ドライバーの低賃金・長時間労働は人手不足の原因として大きなウエイトを占めています。
このような労働環境を是正するため物流業界ではホワイト物流に賛同した労働環境づくりに力を入れる企業も増えています。ホワイト物流への賛同は長時間労働の削減や荷役負担の軽減など、現役ドライバーの労働環境を見直すことにも繋がります。
女性が働きやすい環境づくり
女性が働きやすい環境を整えることも人手不足を解決する取り組みの1つです。
女性専用のトイレや更衣室・シャワー室の設置、力を必要としないパレットでの荷役やルート設定、産休や育休の取得のしやすさなどの工夫で女性ドライバーを採用する企業も増えています。
テクノロジーの活用
AIやIoTなどのデジタルテクノロジーの活用も物流の課題に対する取り組みの1つです。
多くの企業で採用が増えているIoT技術にRFIDがあります。RFIDは商品情報が書き込まれたタグを品物に付けておくことで、ある程度離れた場所からでもリーダーで読み取ることができる技術です。
RFIDタグは数百の品物データを段ボール箱に入った状態でも一括で読み取ることができるため、バーコードに比べ棚卸作業などの大幅な短縮になります。
また、配車計画や運行管理を一括して行う輸送管理システムであるTMSの導入も進んでいます。
配車計画では、事前にトラックの台数やドライバー、積載量などを入力しておくことで効率的な配送ルートやトラックの台数、所要時間などを割り出すことができます。運行管理ではトラックの位置情報からドライバーの配送状況などの進捗状況を把握することで配車計画とのズレを割り出し、的確な指示を出すことができます。
この先の未来、さらなるテクノロジーの発展により既存の物流システムの大幅なアップデートが期待されています。完全自動化した倉庫ではロボットがピッキングを担当し、パレット積みできない重量物は人の力を増幅するパワードスーツを使用するといったアイデアがあります。配車業務などは既に人を介さずに完結できるシステムであり、こうした技術が人手不足で悩む未来の物流企業の助けになる可能性があります。
業界全体での変革の必要性
働き方改革の影響や業界全体での変革の未来について解説します。
働き方改革の影響
2019年に施行された働き方関連法案では労働基準法が見直され、トラックドライバーは原則13時間以内・最大16時間以内の拘束時間、継続 8 時間以上の休息期間、2日平均で1日あたり9時間以内の運転時間、4時間以内の連続運転時間などの改善基準告示がされました。
2024年問題も控えておりドライバーの労働時間の短縮が急務となっています。
労働時間の短縮に向けた効率化の取り組みとして、軽貨物運送業の認可を受けた個人事業主との連携があります。ラストワンマイルを個人配送に委託することでドライバーの負担の軽減に繋がります。
また、国土交通省はトラックやバス、タクシーのドライバー不足解消に向け外国人労働者の受け入れを認める在留資格である特定技能の対象に「自動車運送業」を追加する方向を検討しています。
業界全体での変革の未来
運送業界は他業種に比べDXの推進が遅れている業界でもあります。
前述した通り早急な労働時間の短縮が求められている運送業界には、IoTなどのDXでの効率化が不可欠です。長時間労働の最大の原因と言われているのが長い荷待ち時間であり、1運行あたりの荷待ち時間の割合では55.1%のドライバーが1時間超えの荷待ちをしています。
さらに荷役では品物の入った段ボール箱を手作業で1つ1つトラックへ積み込むことも日常茶飯事です。このようなムダとも取れる時間や作業をDXの推進により効率化することで労働時間を短縮する必要があります。
過渡競争状態の運送業界ではシェアを広げることも立派な経営戦略ではありますが、早急に解決すべき問題が目の前にあることを思い出し、業界全体でこれからの持続可能な運送を考えていく必要があります。