環境問題が深刻化するなか、企業の取り組みが環境や社会にとって持続可能であり、エシカルであることの価値は高まっています。
そのため、経営戦略の一つとして、サステナビリティブランディングは企業価値向上や安定した経営にとって非常に重要な役割を果たします。
サステナビリティとブランディングの交差点
では、企業にとって大きなカギを握るサステナビリティブランディングは、どのようにブランドの認知や評判を向上させるのか、またサステナブルな事業活動は消費者との信頼関係の構築や関係についてどう活きるのかを見ていきましょう。
ブランドイメージの向上
近年、消費者は環境に配慮し社会的責任を果たしている企業に対して信頼を寄せる傾向があります。
そしてあらゆる場面でSDGsの取り組みが加速しているなか、組織活動が環境問題や社会問題につながっている企業やブランドの姿勢は常に注目され、責任を果たすことが求められています。
したがって、SDGs目標達成に向け積極的に取り組み、ブランディングに活かしている企業は、消費者・社会からの好感度が上がることは間違いありません。SDGsブランディングを強化することは、企業価値向上にも紐づくのです。
例えば、SDGsに着手する様子をメディアやSNSなどで発信することは、ブランドイメージ向上においてもっとも有効的な手段です。そしてサステナビリティに繋がる具体的な取り組み内容や、今後の企業展望を明確に発信することは重要になります。
また、社内環境の整備もサステナビリティ実践の大きな一つです。ワークライフバランスの考慮や福利厚生の充実など、従業員一人ひとりが誰も残らないように働きやすい環境にし、働きがいと経済成長を同時に後押しすることもサステナブルブランドイメージの確率に結びつきます。
これらが企業ブランドからイメージされるものとして広まっていきます。よって、サステナビリティブランディングは慎重に行うことが重要です。
コンシューマーのエンゲージメント
また、利己的なブランドよりも利他的なブランドのほうが消費者との信頼関係の構築においては益をもたらすでしょう。
サステナビリティ実践を積極的に開示しているブランドは、イメージアップによって顧客も増え、ステークホルダーからも信頼を得るため、結果として経営・環境・社会面でサステナブルな企業になると考えられます。
例えば、ユニリーバジャパンは、ビジネスを通じてSDGsの17の全目標に貢献している企業です。実際に、2020年までに10億人以上が健やかに暮らせるための支援や、環境負荷を削減するなど事業戦略「サステナブル・リビング・プラン」を実施し、消費者のユニリーバ製品使用1回当たりの廃棄物量を32%も削減させたり、全工場で埋め立て廃棄ゼロなど、多くの成果を上げています。さらに、環境や社会における課題を解決しながら成長し続けるための後継プラン「ユニリーバ・コンパス」を掲げています。
また、サプライチェーン全体のサステナブルな取り組みについても情報開示を積極的にしているユニリーバ。これらの取り組みが高く評価され、世界の34カ国において「大学生が選ぶ・もっとも働きたい企業」の消費財部門で毎年選出され続けています。
こういった背景からも、世界トップのサステナブル企業として周知され、消費者の購買促進にもつながっています。
実際のサステナビリティブランド事例
現在、数多くのブランドがSDGsの目標達成に貢献できるような事業活動をし始めています。
実際にどのような取り組みで、各市場において成功しているのかを具体例とともにご紹介します。
ファッション業界のサステナビリティブランド
今までも現在も「大量生産、大量消費、大量廃棄」を繰り返すファッション産業は、石油産業に次いで第2位の世界の環境汚染産業と位置付けられています。
わたしたちがサステナブルな社会を実現するためには、産業の仕組み自体を変革させることが不可欠であります。
従来型の産業形態のままで、環境問題や社会問題の解決に積極的でない企業やブランドは消費者はもちろんステークホルダー全体から厳しい目を向けられ、淘汰されていく可能性もあります。
ではそんなファッション業界で実際に取り組まれている事例と結果を見てみましょう。
PUMA(プーマ)
2022年のサステナブルブランドランキングで首位に立ったスポーツ用品製造・販売を行うプーマ。
2017年から2021年にかけて、売り上げが大幅増加したにもかかわらず、CO2排出量を自社事業とサプライチェーンの両方で、それぞれ88%・12%も削減させました。
100%再生可能エネルギーの購入や全社用車を電気自動車へ変更、持続可能な原材料の使用、工場の稼働効率化の実施などにより、この削減を達成したということです。
またサプライヤーのリストを開示し、サプライチェーンの透明性を確実なものにし、廃水テストの結果の公表や廃水処理に関する標準を徹底順守することも努めています。
さらに、労働環境の整備と労働者の権利を向上させるため、公正労働協会および国際労働機関と連携し、賃金データや社会的成果指標を年次報告書で公表しています。
このようにプーマは、気候変動への対策と持続可能な開発目標に忠実に沿いながら、ファッション業界を発展させるサステナブルブランドリーダーとして経営を行っています。
他の業界のサステナビリティブランド事例
では、その他の業界ブランドのサステナブルな取り組みや、どのようにブランド力を向上させているのか見てみましょう。
資生堂
国内の美容業界でトップを走る資生堂。
重点的に取り組んでいるSDGsへの目標達成のために、「環境・社会」問題に関して大きく貢献しています。
サステナブルな容器包装
2025年までに100%サステナブルな容器を実現するために、容器軽量化や、「つめかえ・つけかえ」容器の促進、リサイクル可能な容器の展開や生分解性樹脂の利用に取り組んでいます。
店頭回収リサイクルの取り組み
サーキュラーエコノミーが求められる中、使用後や廃棄に伴う取り組みとして、他企業との連携で店頭回収ボックスを設置するなどして資源再活用を進めています。
サステナブルで責任ある材料調達の推進
サプライヤーと協働して労働環境の見直し、人権侵害の課題に積極的に取り組み、サプライチェーンにおけるサステナブルな原材料調達に責任をもつことを重きに置いています。
ジェンダー平等を実現する社会課題の解決
性別に関係なく誰もが自分の力を自由に発揮できる社会を重要視し、90年代からすでに女性のライフイベントへの支援を実践し続け、その結果2000年頃にはほぼ100%の女性社員が育児休業を経て復職するなど、国内では先進的な取り組みに成功させていました。
キッコーマングループ
キッコーマングループでは2015年に国連が採択したSDGsでの「水・エネルギー・気候変動・海や陸の豊かさ」の持続可能性を目標とし、長期ビジョンにもとづいて取り組みをすすめることで、SDGsの目標達成に貢献することを目指しています。
気候変動対策
2030年度までに2018年度比でのCO2排出量を50%以上削減することで、気候変動対策に取り組んでいます。
この目標達成のために、製造プロセス改善、エネルギー効率の高い設備導入、再生可能エネルギーの活用や技術革新などの施策を推進しています。
食の環境整備
水環境の保全と持続可能な原材料調達に取り組むことで、食の環境の維持に努めています。水の効率的な活用によって、工場の使用水をできるだけきれいにして自然に還しています。また、環境と人権に配慮した持続可能な原材料の調達をすすめています。
資源の活用
貴重な資源を有効活用するために、食品ロス削減や環境配慮型商品の展開に取り組んでいます。製造や流通段階で発生する廃棄物の削減をすすめ、生産部門においては再資源化率100%に取り組んでいます。さらに、石油由来の容器や原材料削減をはじめ、バリューチェーン全体を通じた環境配慮型の商品展開や生産を進めています。
サステナビリティ戦略の策定と実行
ブランドイメージの向上とともにサステナビリティ経営戦略を意識することは今後不可欠になっていくでしょう。
サステナビリティ戦略は、企業活動において「環境、社会、経済」を主軸に持続可能性を高めていくことで経営戦略をたてることです。あらゆる気候変動などの環境問題、貧困や劣悪な労働環境などの社会問題を解決していくことはグローバルに求められており、SDGsに沿った活動はサステナビリティな経営の大きなカギとなります。
世界全体が2030年のSDGs達成を目指す今、企業・ブランドが長期にわたり生き残り、信頼を獲得するにはサステナビリティ観点の経営に邁進する必要があります。
サステナビリティの目標設定
上記のように、基本的なサステナビリティ戦略は、企業が「環境・社会・経済」の3つが主軸となって持続可能性を高めますが、それぞれの目標テーマに対する解釈は分野やブランドによってバラつきが生じてしまいます。
しかし、その違いを埋めるために「バックキャスティング」と言う、未来のあるべき姿から逆算して現在におけるサステナビリティ戦略を考える思考法が有効になります。
優先課題の決定
まずは自社ブランドの最優先課題を決定します。
環境、社会、経済面のそれぞれ多くに課題がありますが、どの企業においても等しく重要というわけではありません。よって、あらゆる課題の中から自社ブランドにとって最も重要である課題を決定し明確にする必要があります。
長期的なビジョン設定
決定した優先課題から、長期的なビジョン設定をします。
ブランドにおけるサステナビリティ戦略では自社が決めた優先課題に対して、どうアプローチし目指していくのかを長期的な視点で策定することが不可欠です。
具体的な目標設定と実行
長期的なビジョンが決まったら、具体的に実践する目標を設定します。
自社ブランドの社会におけるあるべき姿から、実行可能な具体的な目標を設定します。KPIを設定し特定の期間や具体的なアクションを明確に共有することで、目標達成の可能性は高まります。
コミュニケーションとマーケティング
幾多に及ぶブランドの中から、市場での位置付けを高いものとして強化するために、サステナビリティのメッセージの伝え方は非常に重要なポイントとなります。
サステナビリティ経営を掲げる企業が増えている中、自社ブランドの利益をどうあげるかというだけの利益至上主義ではなく、ESG戦略を意識することは不可欠です。
さらにブランドメッセージの「伝える順番」と「その伝え方」次第で、ビジネスチャンスや利益が得られない可能性もあります。
・投資家やステークホルダーから信用が獲得できない
・経営資金調達が困難になり、新たな事業開発が足止めになる
・ブランドビジョンに共感できず、顧客が離れたり労働人材不足になる
上記のようなリスクを回避するために、ブランドの商品やサービスをプロモーションする際に、「理念」や「社会課題」などを真っ先に伝えたくなりますが、ファーストコンタクトで消費者やステークホルダーとの壁が高くなってしまうと、一部の社会的意識の高い層にしか理解できない状況になる可能性があり注意が必要です。
大前提として、すぐに「サステナブル要素」が伝わらなかったとしても、商品やサービス自体が「サステナブルで魅力的」であることが重要となります。
マーケティング戦略上で提供される商品やサービスの詳細を広め、サステナビリティ情報にも触れていき、「実はサステナブル」であるというメッセージを伝えていきます。
まずマーケティング視点が弱ければ、当然ですが結果として売上や顧客層は広がらず、サステナブルな経営はスケールしません。
初めからサステナブルブランド要素を強く打ち出しすぎず、どの消費者も気軽に商品にアクセスできることは、ビジネス拡大へとつながる可能性を高めます。
ブランドの思想やビジョン、社会的な意義が明確であってもそれを「伝える順番」とその「伝え方」はサステナビリティ戦略の成否に影響するでしょう。