国際物流コストは以前から上昇していましたが、2020年の秋ごろから国際物流の混乱が本格化しており、その後、ウクライナ戦争の勃発により、燃料費などが高騰したため、深刻な状況が続いています。
国際物流運賃の高騰は、トラック運送業界にも大きな影響を与えています。
荷主企業や物流関係者は、ピークは打った模様ではあるが、相変わらず回復の見込みが見えない国際物流運賃の高騰に頭を悩ませています。
今回の記事では、近年の国際物流運賃の高騰について、その原因や背景、経済に与える影響、そして、対策や今後の見通しについて、詳しく解説していきます。
国際物流運賃の高騰の背景
まずは、なぜ国際物流運賃が高騰しているのか、その理由について見ていきましょう。
物流費には大きく分けて、輸送費・荷役費・保管費・梱包費・物流管理があります。
「輸送費」は、ガソリン代やチャーター費など、モノを運ぶための費用で運賃に当たります。
運賃は、物流費全体の約5〜6割を占めているので、運賃が高騰すれば、物流費も当然高騰していきます。
近年、運賃が高騰している理由にはさまざまありますが、今回は2つを取り上げて、掘り下げて解説します。
それぞれ見ていきましょう。
コロナ禍による物流の変化
新型コロナの感染拡大に伴い、私たちの生活様式は大きく変わりました。
外出自粛や都市ロックダウンにより、在宅ワークや巣ごもりを余儀なくされ、オンラインでさまざまなものを購入する傾向が高まりました。
また、コロナ禍は、工場生産の停止や、労働力不足が物流の混乱をもたらし、輸送コストの高騰を招きました。さらに、資源やエネルギー価格を上げる原因の一つにもなり、それがまた、物流費の高騰につながるという悪循環に陥っています。
EC(電子商取引)サービスの利用者が急増したことで、新たに物流の需要も高まりましたが、物流の現場では、人手不足が著しく、それを補うために、賃金の高騰が迫られていて、その面でもコストアップが避けられなくなっています。
コンテナ不足の深刻化
世界的にコンテナ不足が続いている原因の発端は、新型コロナウイルスの蔓延にあります。その後は複数の原因が複雑に重なりあい、長期的な問題になっています。
その中でも最も大きな原因は、新規コンテナの生産量の低下です。
世界のコンテナの実に約98%が中国で生産されていますが、2019年の米中貿易摩擦によって荷動きの低下が懸念されたため、生産量が前年比の40%まで落ち込み、2020年に入ると、コロナの流行で工場の生産能力が低下して、前年比25%生産量が減っています。
生産量不足のところに、コロナ禍が落ち着きを見せ、世界的に重要が回復してきたため、コンテナの運賃が、コロナ禍前の約3〜4倍まで高騰しています。
また、いわゆる「空コンテナ」問題も、コンテナ不足を深刻化させました。
通常貨物の入ったコンテナは、輸入地に到着してから14日以内に中の貨物を取り出し、空のコンテナとして返却する必要があります。
しかし、コロナで港湾作業員が不足したことによって、コンテナ貨物が港湾に滞留したため、海運会社もコンテナ船を減便させ、それにより、空のコンテナが港に留め置かざるを得なくなり、輸出地で、輸出用のコンテナが不足するようになっています。
中国の生産量は回復傾向にあるものの、現状を回復するには、まだまだ時間がかかりそうで、コンテナ不足は当分の間続くと見られています。
高止まりする物流運賃とその影響
新型コロナウイルスのパンデミックや、ウクライナ戦争など、相次いだ世界情勢の変化の影響で、国際物流の混乱は収まらず、輸送費の高騰も継続して高止まっていて、経済活動にも大きな影響を及ぼしています。
この章では、物流コストの高騰が、経済的にどのような影響を及ぼし、トラック業界にはどう波及しているのかについて解説します。
運賃高騰の経済的影響
すでにお伝えしたように、運賃の高騰は物流コストの長期的な上昇を招いています。
企業サイドも、生産や収益に大きな影響を受けていて、価格に転嫁せざるを負えない状況になっています。
製品やサービスの価格に、物流コストの上昇が転嫁されると、さまざまな商品やサービスの価格が上がり、消費者の買い控えへとつながり、経済的な影響が長引くことが懸念されています。
トラック業界への波及
物流コストの大半は輸送コストで、そのほとんどはトラック輸送が担っています。
従って、物流コストを左右しているのは、トラック輸送の単価、つまり運賃なのです。
燃料コストの上昇や、トラックドライバーの待遇改善のため、宅配便大手のヤマト運輸は、基本運賃を2023年に約10%近く値上げをしており、佐川急便も約7%の値上げを行っています。
トラック路線便の大手でも値上げの動きが強まりつつあり、大手の西濃運輸も2023年に値上げしています。
今後、中小のトラック運送業者に、どの程度値上げの波及効果があるのかが、懸念されています。
対策と今後の見通し
最後の章では、物流運賃の高騰に対して、業界が取り組んでいる対策と、今後の運賃の動向はどのように推移していくのかについて解説します。
業界の対応策
まず業界の対応策ですが、物流費の高騰を抑えるために、コスト削減策としていくつかの対策を行っていますが、大きく分けると以下の2つの対応が挙げられます。
・業務効率化のためにDXを推進
・オペレーションの改善により効率化を図る
「業務効率化のためのDXの推進」ですが、DXとはデジタルトランスフォーメーションの意味で、「デジタル変革」とも呼ばれます。
デジタルテクノロジーを活用して、ビジネスモデルやのプロセスなどを変革したり、新たに創造したりして、変わり続ける市場の要求に応えるプロセスのことです。
具体的には、物流業務やオペレーションの効率化です。
AIテクノロジーを活用することで物流業務の効率化を図ります。
ベテラン従業員にしかできなかった配車計画を、誰でも簡単に作れるようにしたり、より少ない人数や労力で業務をオペレーションできるように改善したりして、コストを抑えるようにしています。
以上のコスト削減策は、物流費高騰だけでなく、次に紹介する「2024年問題」への対策にもなります。
将来の物流運賃の見通し
新型コロナウイルスの感染はおさまりましたが、ウクライナ戦争や、最近では「イスラエル問題」などもあり、世界の情勢の変化は予測がしづらく、国際物流の混乱は継続する見通しで、原油価格の上昇も続いているため、輸送費の高騰も高止まりが続くという見方が多いようです。
加えて、ドライバー不足がさらに深刻化する「2024年問題」は大きな影響をもたらしそうです。
「物流の2024年問題」とは、2024年4月1日からトラックドライバーに適用される、時間外労働の上限規制によって生じる、国内の物流の停滞や、物流コスト上昇による影響のことです。
国内物流の90%を占めるトラック輸送においては、最も影響が大きいといわれています。
ドライバーの稼働時間が制限されてしまうため、トラック輸送運送業者の輸送能力は、低下することが避けられず、また、時間外割増の賃金率も引き上げられるため、人件費の増加が見込まれ、利益率をさらに圧迫する可能性があるとされています。
上述のように、業界では、影響を少なくするべく、さまざまな対策を構築中です。