世界的な脱炭素の流れが、自動車産業に大きな影響を及ぼしていますが、トラックを取り巻く環境も大きく変化し始めています。
世界各国のメーカーで、自動車のEVシフトは加速の動きを加速させています。
特に電動化で先行している欧州メーカーは、大型トラックでもすでにEV電気自動車を発売し、開発目標を航続距離の延長に置いて、競争が激化しています。
また、欧米メーカーだけでなく、コスト力で存在感を見せる中国勢もこの動きに追随しています。
そこでこの記事では、欧米メーカーが加速しているトラックの電動化について、市場を予測するとともに、日本のメーカーの現在位置について解説し、トラック電動化の課題についても取り上げて深掘りします。
欧米で加速するトラック電動化と日本の動向
まずは、電動化で先行している、欧米のトラックメーカーによる電動化の進捗状況を確認して、あわせて、日本での導入状況や、日本の市場との違い、日本の市場の特異性に焦点を当てて解説します。
欧米におけるトラックの電動化の進化
欧州で急速に電動化が進展した背景には、EU欧州連合が、2035年に、EU域内でのガソリン車の販売を事実上禁止する方針を打ち出し、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も禁止する見込みがあるからです。
さらにEUでは、2050年までに、温室効果ガスの排出量の実質ゼロを目指しており、このような政策的な後押しが、電動化が進化している理由です。
自動車の完全な脱炭素化が進むなかで、自動車全体のC02の排出量の30%強を占める、トラックなどの商用車の脱炭素化は、乗用車に比べて車両サイズや用途、走行パターンなどに違いが大きいトラックでは、EV化は容易ではなく、その動きは遅れています。
しかし、トラックなどの商用車は、走行距離が長いため、燃料費節約のメリットを出しやすいことや、インフラが集約して整備しやすいなど、乗用車よりもEV化を進めやすい面もあります。
また、インフラ投資の予算には限りがありますが、長距離輸送のほとんどを占める幹線輸送においては、走るルートがほとんど変わらないため、利用の多い幹線道路に絞って、優先的に充電施設を整備すれば、台数の多い長距離輸送が先行して電動化でき、効率が良いというメリットもあります。
競合するメーカーが、充電インフラの整備においては、提携しており、すでに、欧州の自動車専用道路などに、1700以上の充電施設を整備しています。
欧州では、業界が連携・連動して、EV化の進展に取り組んでいるのです。
米国では、ゼネラルモーターズが、次世代EV用の、より高性能で、低コストのバッテリー開発を目的として、の新しい研究開発センターの計画を発表しています。
この開発センターでは、新しいバッテリー素材の実験をおもに行い、バッテリーコストの60%削減を目指しています。
フォードも、GMのこの発表とほぼ同じ時期に、約1兆2200億円を、EVのピックアップトラックの組立工場と、3つの新しいバッテリー工場の建設に投資すると発表しています。
また、部品や素材のメーカーからの供給不足を避けるため、自社でバッテリーの開発も進めていきます。
さらに、自社によるEVの充電網を構築するために、充電管理スタートアップの「米エレクトリファイ社」を買収しました。
また、欧米の各メーカーでは、EVの航続距離を伸ばすために、EVに搭載する蓄電池の大容量化を進めており、さらに、高出力で充電が可能な、急速充電スタンドの設置を推し進めています。
日本市場での電動トラックの現状と課題
「EV後進国」と言われる日本では、電動トラック市場の拡大は進んでいないのが現状です。
価格競争が非常に激しい日本の流通の現場では、CO2の削減目標を達成するには、いまだに解決されていない、多くの課題を、同時に解決していく必要性があります。
中でも、車両導入コストが高いことが、EVが進展しない最も大きな理由になっています。
物流運輸業界が、国や行政機関の立体的な支援とともに、これらの課題を解決するために、さまざまな取り組みを行っていかなければ、先行する欧州に追いつくことは困難でしょう。
また、業界や企業側でも、EVトラックを導入することは、社会的な課題を解決することに貢献し、それが、企業としての責任を果たす取り組みの一つになり、企業価値の向上につながるとして、推し進める必要があります。
日本の大手運送業者の動きとしては、ヤマト運輸は、EVトラック導入ペースを上げており、日野自動車のEVトラックを500台すでに導入を済ませており、三菱ふそうからも900台導入予定です。
佐川急便も、2030年までに、配送用の軽自動車のEV化を計画しており、スタートアップ企業とも軽EVの開発を進め、すでに運行を始めています。
電動トラックの環境影響と市場予測
次に、環境規制の強化が、電動トラックの普及をどのように推進していくのか、また、電動トラックの市場の成長予測と将来の見通しについて解説していきます。
環境規制が推進するトラックの電動化
EV化、特にトラックの電動化は、各国の環境規制の動きが推進、左右しているという面があります。
前章で紹介したように、EUでは乗用車に対して非常に厳しい環境規制がなされており、トラックも含む商用車についても、欧米がルールメイクをしていく意向です。
欧州では、環境規制がさらに強化されて、2030年までに商用車のCO2の排出量を、2019年と比べて、3割削減することを求めています。
アメリカでも、脱炭素への取り組みを強化していて、特に先進的なカリフォルニア州では、2045年までに、販売する全てのトラックをEVや燃料電池車にする規制を導入しています。
気候変動に対する取り組みが注目され、特に脱炭素への流れが加速したことで、企業としても、脱炭素の取り組みを強化する必要が出ており、車両をEV化することは、脱炭素をアピールするには非常に重要な面となっています。
どの国も企業も、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に背を向けるわけにはいかなくなっているのです。
電動トラック市場の未来予測
最新の予測では、電動トラックの世界市場規模は、2019年には約631億円でしたが、2030年までの予測期間中に、年平均成長率が26%で成長し、2030年には約800億円に達すると予測されています。
トラックの電動化が進んでいく理由は、電動化がもつ他のメリットにも関連しています。
運送の電動化のメリットには、ランニング コストの削減もあります。
走行時が非常に静かなため、早朝や深夜の運行が可能になり、稼働時間を延ばすことができます。
またEVは、インフラとセットで考えることができ、商用車の場合、決められたルートの走行になるため、乗用車に比べて、充電インフラの設置や、保守メンテナンスが容易であることが推進される理由です。
電動トラック導入における課題と展望
最後に、国内外での電動トラック導入の際の、技術的な課題とその解決策、また、トラックの電動化がもたらすビジネスチャンスについて説明します。
国内外での技術的課題と解決策
電動トラックには、以下のような課題が残されています。
・航続距離が短い
・充電時間が長すぎる
・導入コストが高い
・寿命が短い
最も大きな課題だった航続距離の改善は、近年急激に進んでいます。
燃料電池車の、航続距離が長く、素早い充電が可能というメリットが最も有効なのが、トラックの長距離輸送です。
バッテリーの品質も向上して、航続距離も長くなり、寿命も伸びています。
また、走行距離や走行状態によって異なってくる、残量バッテリーの状態を表示できるシステムも開発されています。
技術の革新・改善が進んで、徐々に電動トラックの課題が解決されています。
電動トラックの将来像とビジネスチャンス
コロナ禍以降、急速にEコマースの発展に伴い、宅配便の取扱数も急激な伸びを示しています。人手不足の解消に向けた動きが、流通の多方面で広がっており、新たなビジネスチャンスが生まれています。
トラック業界も、今後、物流改革に向けて、新たなアイデアや車両が続々と投入されてくることが期待されています。
世界の自動車メーカーは、現在、大変革の動きの中にあり、「つながる」「自動運転」「シェアサービス」それと「電動化」が、新たなビジネスチャンスのキーワードとなっています。
日系・欧州系の大手自動車メーカーは、モビリティサービスの会社を目指す方向性を打ち出していて、異業種間のアライアンスなどを進め、ビッグデータの処理や、通信などの分野で協同をすすめ、交通システムなどの劇的な変化も期待されています。