国際物流では、通関手続きのスピードが競争力を左右する重要なポイントです。しかし、従来の紙ベースの書類作成や手作業による情報のやり取りでは、人為的ミスや処理の遅れが発生し、リードタイムの延長につながることがあります。このような状況は企業の競争力低下や顧客満足度の低下を招く要因となっています。
課題を解決するため、多くの企業が通関手続きのデジタル化を進め、業務効率の向上に取り組んでいます。デジタル化の手段としては、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)の活用、ブロックチェーン技術による情報共有の円滑化、AI・RPAの導入による業務自動化など、さまざまな技術が活用されています。これらの技術導入により、通関処理時間の短縮やコスト削減、手続きの見える化といった効果が期待できます。
この記事では、通関業務のデジタル化がもたらす効果や具体的な導入方法、成功事例について詳しく解説します。国際物流に携わる企業担当者の皆様にとって、実務に応用できる実践的なアプローチを提供します。
通関手続きの現状と課題
国際貿易において、通関手続きの効率化はビジネスの成功を左右する重要な要素です。商品が速やかに国境を越えて移動できるかどうかは、企業の競争力に直結します。しかし、現在も多くの企業や国では紙ベースの手続きが主流であり、人為的ミスやリードタイムの遅延が発生しやすい状況が続いています。書類の作成や確認に時間がかかるうえ、複数の関係機関とのやり取りが複雑になると、さらに処理が遅れることがあります。
また、輸出入に関わる書類の物理的な輸送や承認の遅れがリードタイムを長引かせる原因になることも少なくありません。これらの課題を解決するためには、通関手続きのデジタル化が不可欠です。ここでは、通関手続きの主な課題を整理し、解決につながるポイントを考えていきます。
紙ベース手続きの非効率性
現在も多くの企業で紙ベースの通関手続きが行われていますが、そこにはさまざまな問題が存在します。輸出入には税関申告書、インボイス(商業送り状)、B/L(船荷証券)など多くの書類が必要で、それらを関係機関とやり取りしながら承認を得なければなりません。
ファクスでの送信や紙の書類への押印といったアナログな手続きが主流の企業では、業務の無駄が目立ちます。書類を郵送する場合は輸送に時間がかかるだけでなく、押印や確認のための待機時間が発生することもあります。手書きの記載ミスやデータ入力の誤り、書類の紛失などが発生しやすく、税関での手続きが滞る原因となります。
紙の書類を管理するための保管スペースも必要となり、長期的にはコストの増加につながります。複数の拠点で書類を扱う企業では、各拠点間での物理的な書類のやり取りが発生し、そのたびに数日単位で処理が遅れることもあります。
このような問題を解決するため、多くの企業が通関業務のデジタル化を進め、書類の電子化やクラウド管理を導入することで、業務のスピードアップと正確性の向上を図っています。デジタル化によって、関係者間での情報共有がリアルタイムで行えるようになり、承認プロセスも大幅に短縮できるメリットがあります。
リードタイム遅延の主な原因
通関手続きにおけるリードタイムの遅延は、さまざまな要因が絡み合って発生します。以下のような点が大きなボトルネックとなっています。
第一に、書類の不備や記載ミスが挙げられます。通関手続きでは、輸出入申告書の記載内容が正確であることが求められます。紙の書類の場合、商品コードの記入ミスや数量・金額の誤記などが発生しやすく、税関から差し戻しになることもあります。修正が必要になるとリードタイムが延び、予定していた輸送スケジュールに影響を与えてしまいます。
次に、承認プロセスの複雑化も課題です。通関手続きでは、企業内での承認、輸送業者の確認、税関の審査など、複数のステップを経る必要があります。企業内での承認が多段階にわたる場合、上長の確認待ちや部門間の連携不足が原因で手続きが滞ることもあります。特に大企業では、承認権限を持つ担当者の不在や業務多忙により、承認が遅れるケースも少なくありません。
三つ目の要因は、物理的な書類の輸送による時間のロスです。紙の書類を郵送やファクスでやり取りする場合、どうしても輸送に時間がかかるため、即時対応が難しくなります。海外拠点とのやり取りが発生する場合、国際郵便やクーリエ便の到着待ちがリードタイムを長引かせる原因となります。特に遠隔地や物流インフラが整っていない地域との取引では、書類の輸送に数日から数週間かかることもあります。
四つ目に挙げられるのは、税関の処理混雑やシステムの遅延です。特定の時期(年度末や繁忙期)には、税関での手続きが集中し、審査に時間がかかることがあります。税関のシステムに障害が発生した場合、すべての通関業務が滞り、企業の輸送計画に大きな影響を与えることもあります。
最後に、関係機関との連携不足も大きな要因です。通関手続きには、フォワーダー(貨物取扱業者)、輸送業者、倉庫業者、税関など、多くの関係者が関わります。各機関の連携がスムーズでないと、確認作業の遅れや情報伝達ミスが発生し、通関処理が滞ることになります。情報共有の仕組みが整っていない場合、担当者間の連絡ミスやコミュニケーション不足によるトラブルも発生しやすくなります。
これらの課題を解決するためのポイントは「デジタル化」です。電子申告システムの導入やデジタル文書の活用により、書類の確認にかかる時間を短縮し、リードタイムの遅れを防ぐことができます。また、クラウドベースの情報共有プラットフォームを活用することで、関係者間の連携を強化し、通関手続きの効率化を図ることが可能になります。
デジタル通関システムの導入と効果
通関手続きのスピードアップや正確性向上を目指し、多くの企業がデジタル通関システムを導入しています。デジタル化により、申告から許可までの時間が短縮されるだけでなく、情報の管理や共有もスムーズになり、業務全体の効率化が進みます。
特に日本では、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)の活用が進んでおり、多くの企業や通関業者が電子申告を取り入れています。また、より先進的な企業ではブロックチェーン技術を活用した情報共有の仕組みも構築されつつあります。これらの技術は、通関業務の課題解決に大きく貢献しています。ここでは、それぞれの特徴や活用方法について詳しく解説します。
NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)の活用法
NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)は、日本の通関手続きを電子化し、業務の効率を向上させるシステムです。このシステムは1978年に稼働を開始し、現在では日本の輸出入通関の約99%がNACCSを通じて処理されています。従来の紙ベースの手続きに比べ、時間短縮やコスト削減が期待できる重要なインフラとなっています。
NACCSの主な機能としては、まず電子申告の一元化が挙げられます。輸出入許可・承認申請、関税の支払い、税関審査などをオンラインで一括して実施できるため、手続きの簡素化が図られています。また、情報共有の効率化も重要な機能です。税関、船会社、フォワーダー、倉庫業者などの関係者がリアルタイムで情報を共有できるため、手続きの進捗状況を即座に把握することが可能です。さらに、データ入力の自動化機能により、入力ミスを削減し、税関審査をスムーズに進行させることができます。
NACCSを導入することで得られるメリットは多岐にわたります。まず、書類の作成・印刷・郵送・保管といった手間を大幅に削減できます。電子データでのやり取りが基本となるため、紙の消費量も減少し、環境負荷の低減にもつながります。また、書類のやり取りや承認の待機時間を短縮できるため、通関処理全体のリードタイムが短くなります。これにより、通関手続きの遅延リスクも軽減され、輸送計画の精度向上にも貢献します。
実際にNACCSを導入した企業では、通関処理時間の短縮や業務コストの削減につながった事例も多数報告されています。ある輸入商社では、NACCSの導入により通関処理時間が平均で30%短縮され、年間のコスト削減効果は約2,000万円に達したとの報告もあります。通関手続きを効率化し、リードタイムを短縮するために、今後さらに活用が進むことが期待されています。
ただし、NACCSの導入にあたっては、システム利用料や導入時の社内教育コストなども考慮する必要があります。また、社内の業務フローの見直しも必要となるため、計画的な導入が求められます。
ブロックチェーン技術による情報共有の円滑化
通関業務では、輸出入関連の書類を複数の関係者とやり取りする必要があり、情報共有の遅れがリードタイムの延長につながります。これを解決する手段として、近年ではブロックチェーン技術の活用が注目されています。ブロックチェーンは、データの改ざんが困難で、関係者間での情報の透明性が高いという特性を持っています。
ブロックチェーン技術を通関業務に導入することで得られるメリットは大きく分けて四つあります。一つ目は、情報の遅れを解消できることです。従来の方法では、情報が関係者間を順番に伝達されていくため時間がかかりましたが、ブロックチェーンを活用すれば関係者間でリアルタイムに情報を共有することが可能になります。
二つ目は、書類管理の負担軽減です。紙の書類からデジタルデータへの移行により、保管スペースの削減や検索の効率化など、作業の手間を大幅に削減できます。データはクラウド上で管理されるため、地理的な制約なく必要な時に必要な情報にアクセスすることができます。
三つ目は、データの改ざん防止機能です。ブロックチェーンは一度記録された情報が後から変更できない仕組みになっているため、データの信頼性が向上します。これにより、通関書類の正確性が保証され、虚偽申告などのリスクも低減されます。
四つ目は、手続きの進捗状況の可視化です。従来は手続きの進み具合が分かりにくく、問い合わせに時間がかかることがありましたが、ブロックチェーンを活用することで各関係者が状況を即座に把握できるようになります。これにより、ボトルネックの特定や対応も迅速に行えるようになります。
具体的な活用方法としては、まず電子書類の一元管理が挙げられます。申告書類をデジタル化し、関係者が共通のデータを参照できるようにすることで、書類の確認作業がスムーズに進むようになります。例えば、インボイスや船荷証券などの重要書類を一つのプラットフォーム上で管理することで、情報の整合性を保ちやすくなります。
次に、リアルタイムでの情報共有も重要な活用方法です。税関、フォワーダー、倉庫業者などが手続きの進捗状況を即座に把握できるようになり、承認待ちや手続きの遅れを減らすことができます。例えば、船積み書類の準備状況や税関審査の進捗などを関係者全員が確認できるため、次のステップへの準備を効率的に進められます。
さらに、データの改ざん防止機能を活用することで、記録を変更できない仕組みによりデータの正確性を保つことができます。これは特に原産地証明書など、真正性が重要視される書類の管理に有効です。
NACCSとブロックチェーンを組み合わせることで、通関手続きはさらに円滑に進むようになります。NACCSが通関手続きを電子化し、書類作成や申請業務の負担を軽減する役割を担う一方、ブロックチェーンは情報共有を効率的に行い、関係者間の確認をスムーズにする役割を果たします。両者を連携させることで、より使いやすく効率的な通関システムの実現が期待されています。
マースク社とIBMが共同開発した「TradeLens」は、ブロックチェーン技術を活用した国際物流プラットフォームの代表例です。このシステムでは、コンテナの輸送情報や通関書類をブロックチェーン上で共有することで、手続きの透明性を高め、リードタイムの短縮に成功しています。
ブロックチェーン技術は、通関業務の手続き時間の短縮、情報の正確性向上、コスト削減に大きく貢献します。NACCSとの併用により、より使いやすく効率的な通関システムの実現が期待されています。
AI・RPA導入による通関業務の自動化
通関業務では、データ入力や書類チェックなど、繰り返し発生する作業が多く存在します。これらの業務は時間がかかるだけでなく、人為的ミスが発生するリスクも高いため、業務の大きな負担となっています。この課題に対応するため、多くの企業がAI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した自動化を進め、作業の効率化とリードタイム短縮に取り組んでいます。
AI技術は大量のデータから傾向を学習し、高度な判断を行うことができるため、通関書類のチェックや最適な通関ルートの提案などに活用されています。一方、RPAは定型的な作業を自動で行うツールとして、データ入力や転記作業の効率化に大きな効果を発揮しています。これらの技術を組み合わせることで、通関業務全体の効率化と精度向上が期待できます。ここでは、具体的な導入事例と効果について紹介します。
繰り返し作業の自動化事例
通関業務では、データ入力や書類チェックなどの定型業務が多く、手作業による処理がミスや遅延の原因となることがあります。これらの業務を効率化する手段として、AIとRPAの導入が着実に進んでいます。
RPAは、これまで担当者が行っていた繰り返し作業をソフトウェアロボットが代行する技術です。通関業務においては、以下のような作業の自動化が実現されています。
データ入力の自動化はRPAの代表的な活用例です。通関申告書の入力作業をRPAが代行することで、24時間365日稼働が可能になります。人手に頼っていた場合、夜間や休日は作業が進まないという問題がありましたが、RPAの導入によりその制約がなくなります。また、入力ミスも大幅に減少するため、書類の差し戻しによる遅延も防止できます。
書類フォーマットの変換も、RPAが得意とする作業です。輸出入業務では取引先や国によって異なる書類フォーマットを扱うことが多いですが、RPAを活用することでこれらを自動的に統一フォーマットに変換できます。これにより、データの整合性が確保され、後続の処理がスムーズに進むようになります。
情報検索の自動化も重要な応用例です。関係機関とのやり取りに必要なデータを即座に取得できるため、問い合わせ対応の時間が短縮されます。例えば、HSコード(国際的な商品分類コード)の検索や関税率の確認などを自動で行うことができ、担当者の負担が軽減されます。
ある商社では、通関申告書のデータ入力をRPAに置き換えた結果、1件あたりの作業時間を従来の30分から5分に短縮し、年間約3,000時間の作業時間削減に成功しました。これにより、手続きのスピードが向上しただけでなく、担当者はより付加価値の高い業務に集中できるようになりました。
AIの活用も通関業務の効率化に大きく貢献しています。AIは大量のデータを分析し、高度な意思決定をサポートする技術で、通関業務においては以下のような活用例が見られます。
過去のデータを基に最適な通関ルートを予測することで、リードタイムの短縮やコスト削減に貢献します。例えば、特定の商品や時期によって税関の混雑状況が異なる場合、AIがその傾向を学習し、最も効率的な輸入ルートを提案することができます。
不正リスクを事前に察知し、コンプライアンス強化につなげることも可能です。AIが過去の申告データから不自然なパターンを検出し、虚偽申告や誤りのリスクがある案件を自動的にフラグ付けすることで、問題の早期発見と対応が可能になります。
税関審査に必要な書類のチェックを自動化し、エラーを低減することもAIの重要な役割です。例えば、インボイスと通関申告書の内容の整合性を自動でチェックし、不一致があれば警告を出すシステムを構築している企業もあります。
これらのAIとRPAの技術を組み合わせることで、通関業務の正確性向上、コスト削減、リードタイム短縮が期待できます。担当者はより高度な業務、例えば顧客対応や特殊案件の処理など、人間の判断力や交渉力が必要な業務に集中できるようになり、結果として企業の生産性向上にもつながります。
エラー削減と処理速度向上の実績
通関業務では、B/L(船荷証券)やインボイスなどの書類作成・入力が必要不可欠ですが、特に大口顧客の案件では書類の枚数が多く、手作業によるデータ入力では時間がかかるうえ、入力ミスが発生しやすいという課題がありました。この問題を解決するため、安田倉庫株式会社では先進的なOCR(光学式文字認識)技術を活用したスマートOCRを導入し、通関業務の負担軽減に成功しています。
導入前の安田倉庫が抱えていた課題は三つありました。一つ目は、大口顧客の通関業務では、1件あたり数十枚の書類を処理する必要があり、担当者の作業負担が大きかったことです。これによって処理速度が遅くなり、通関手続き全体のリードタイムにも影響を与えていました。
二つ目は、アルファベット・数字・ハイフンが混在する書類の入力ミスが多発していたことです。特に製品コードや数量、金額などの重要情報は正確さが求められますが、手入力では集中力の低下とともにミスが増える傾向にありました。
三つ目は、人的ミスによる書類修正が発生し、申請の遅延が課題となっていたことです。入力ミスが税関で発見されると書類が差し戻されるため、修正作業が発生し、さらに時間を要することになっていました。
スマートOCR導入後の効果は顕著でした。まず作業時間が約50%削減されました。書類から自動的にデータを抽出することで、入力作業の負担が大幅に軽減され、業務効率が向上しました。従来は1件の書類処理に30分以上かかっていたものが、15分程度で完了するようになりました。
また、正確性も大きく向上しました。AIによる自動チェック機能により、入力ミスがほぼゼロになりました。スマートOCRは通常のOCRと異なり、AIが学習することで認識精度が向上するため、特殊な形式の書類でも正確にデータを抽出できるようになりました。
さらに、手続きのスムーズな進行も実現しました。税関への申請差し戻しが減少したことで、リードタイムが短縮されました。従来は書類の不備による差し戻しが月に数件発生していましたが、OCR導入後はほとんど発生しなくなり、予定通りの輸送スケジュールを維持できるようになりました。
安田倉庫の事例は、AIやOCRといったデジタル技術の導入が、通関業務の負担軽減と品質向上に大きく貢献することを示しています。特に書類処理が多い通関業務では、これらの技術の活用が業務の生産性向上につながる重要な取り組みとなっています。
同様の効果は他の企業でも報告されており、例えば大手フォワーダーでは、RPAとAIを組み合わせた通関システムの導入により、書類処理時間を従来の3分の1に短縮し、年間約5,000万円のコスト削減を実現した事例もあります。
通関デジタル化の成功事例と投資対効果
通関業務のデジタル化は、多くの企業でリードタイムの短縮やコスト削減に大きく貢献しています。クラウドベースの通関管理システムやAIを活用した書類チェックの導入により、業務のスピードと正確性が向上し、企業の競争力強化につながっています。
デジタル化の取り組みは初期投資が必要となりますが、中長期的に見れば大きなリターンが期待できます。人件費の削減や業務効率の向上、顧客満足度の向上などの効果が現れるため、投資回収は比較的短期間で可能となるケースが多いです。ここでは、日本企業の具体的な導入事例と、その投資対効果について紹介します。
日本企業の導入事例と成果
日本通運株式会社では、通関業務の効率化と品質向上を目的に、NECの「関税計算書システム」を導入しました。日本通運は国内最大手の物流企業の一つであり、多数の通関案件を処理しています。従来の業務では、通関営業所ごとに異なる手順が採用されており、業務の標準化が大きな課題となっていました。また、書類の入力やチェック作業の負担が大きく、効率化とともにペーパーレス化の推進も必要とされていました。
導入前の課題としては、まず通関営業所ごとに業務手順が異なり、標準化が進んでいなかったことが挙げられます。各営業所で独自の運用が行われていたため、全社的な品質管理が難しく、担当者が変わると業務の引継ぎにも時間がかかっていました。また、書類作成や審査にかかる作業負担が大きく、特に関税計算書の作成には膨大な時間を要していたため、業務効率が低下していました。さらに、紙ベースの業務が主流であり、デジタル化による業務改善が強く求められていました。
関税計算書システムの導入後の成果は明確でした。まず入力作業の負担が大きく軽減されました。関税計算書の視認性が向上し、明細情報が一覧表示されることで確認作業が容易になり、作業効率が大幅に向上しました。従来は手作業で行っていた計算も自動化され、入力時間が約40%短縮されました。
また、入力ミスも大幅に削減されました。システムには入力漏れを知らせるワーニング表示機能が搭載されており、書類の不備を事前に発見できるようになりました。これにより、税関での差し戻しが減少し、通関手続き全体のスピードが向上しました。入力ミスによる修正作業も減ったため、担当者の負担軽減にもつながっています。
さらに、業務の標準化と品質向上も実現しました。業務手順が統一され、属人性が排除されたことで品質が安定し、どの担当者が処理しても一定の品質を保てるようになりました。これにより、急な人員変更や繁忙期の応援体制も組みやすくなり、業務の柔軟性が向上しました。
システムの導入により、日本通運は通関業務の作業時間を短縮し、業務の正確性を向上させることに成功しました。従来は1件あたり約60分かかっていた処理が、システム導入後は約35分で完了するようになり、年間の作業時間削減効果は約5,000時間に達しています。この時間を他の付加価値の高い業務に振り向けることで、顧客サービスの向上にもつながっています。
今後も同社では、さらなるデジタル化の推進により、業務効率の向上と顧客満足度の向上を目指しています。特に、AIやRPAとの連携を強化し、より高度な自動化を実現することで、競争力の強化を図る計画です。
デジタル化投資の回収期間と長期的メリット
国際物流の需要が拡大する中、通関業務の効率化は企業にとって重要な課題となっています。株式会社バイナルと株式会社日立システムズは、通関業務を支援するクラウドベースの通関管理システム「TOSS-CUSTOM/D」を展開し、多くの企業の業務デジタル化を強力に推進しています。
クラウドシステム導入による業務効率化の成果は顕著です。バイナルが開発した「TOSS-CUSTOM/D」は、大手商社やフォワーダーを含む100社以上で導入され、通関業務の自動化を実現しています。このシステムの導入により、多くの企業で以下のような成果が得られています。
まず、通関処理時間の短縮が実現しています。従来の紙ベースの業務と比較して、通関処理にかかる時間が平均40%削減されています。例えば、従来は1件の通関処理に約3時間かかっていたものが、システム導入後は約1.8時間で完了するようになりました。これにより、貨物の引取りや輸出のタイミングを早めることができ、顧客サービスの向上にもつながっています。
次に、コスト削減効果も大きな成果です。手作業による業務負担が軽減され、通関業務全体の年間コストが平均20%削減されています。人件費の削減だけでなく、紙の使用量や保管スペースの削減、ミスによる修正コストの低減なども含めると、年間数百万円から数千万円の効果が出ている企業も少なくありません。
人的ミスの低減も重要な成果の一つです。AI-OCRを活用した書類処理の自動化により、入力ミスが大幅に減少しています。従来は手入力による転記ミスや見落としが少なからず発生していましたが、システム導入後はそうしたミスがほとんど発生しなくなり、税関での差し戻しや修正作業も減少しています。これにより、予定通りの輸送スケジュールが維持しやすくなり、顧客の信頼向上にもつながっています。
情報管理の統一化も進んでいます。クラウド環境を活用することで、通関書類の管理・共有がスムーズになりました。複数の拠点や担当者間での情報共有が容易になり、業務の進捗状況がリアルタイムで把握できるようになっています。これにより、顧客からの問い合わせにも迅速に対応できるようになり、サービス品質の向上が実現しています。
「TOSS-CUSTOM/D」は、月額88,000円(1アカウント5ユーザーまで)で利用できるサブスクリプション型のサービスとなっており、導入企業にとって費用対効果の高いシステムとなっています。初期投資コストと月額利用料を考慮しても、業務効率の向上や人件費削減効果により、初期投資コストは1〜2年で回収可能と見込まれています。
長期的には、さらに多くのメリットが期待できます。まず顧客満足度の向上が挙げられます。スムーズな通関処理によりリードタイムが短縮され、予定通りの納品やスケジュール管理が実現することで、取引先からの評価が高まります。特に、急ぎの案件や重要顧客への対応力が向上することで、信頼関係の構築や取引の継続・拡大につながっています。
新規顧客の獲得も重要なメリットです。業務の効率向上によるコスト削減分を価格競争力や付加価値サービスの提供に活用することで、新規顧客の獲得や市場シェアの拡大につなげることができます。実際に、システム導入後に営業活動に注力できるようになり、新規顧客数が増加した企業も報告されています。
業務の標準化と属人性排除も大きな効果です。システムを活用することで、担当者によるばらつきのない均一な業務品質を実現できます。これにより、急な人員変更や業務拡大時にも安定したサービスを提供できるようになり、人材育成コストの削減や業務の柔軟性向上にもつながります。
バイナルと日立システムズは、今後も通関業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、さらなる業務効率の向上を支援していく方針です。特に、AIやブロックチェーン技術との連携を強化し、より高度な自動化や情報共有の仕組みを構築することで、企業の競争力強化に貢献する計画です。
通関手続きのデジタル化は、初期投資が必要となるものの、中長期的には大きなリターンが期待できる取り組みです。リードタイムの短縮や業務コストの削減、顧客満足度の向上など、多面的な効果が現れることから、国際物流に関わる企業にとって重要な経営戦略の一つとなっています。デジタル化の波に乗り遅れることなく、積極的に新技術を導入することが、今後の企業成長に不可欠と言えるでしょう。



