現場で使うクレーンの選択を間違えると、資材の搬入が滞り、工事の進行が遅れて、追加費用がどんどん増えてしまいます。都市部の狭い場所や舗装されていない作業場、団地の中の道路など小回りが重要な環境と、高速道路を使って一日のうちに複数の現場を回る移動重視の環境では、選ぶべきクレーンの種類が全く違ってきます。
この記事では、トラッククレーンとラフタークレーン(ラフテレーンクレーン)の構造の違い、公道での走行可否と速度、悪路での性能や小回り能力、持ち上げ能力と作業範囲、必要な免許・資格、特殊車両通行許可などの法的要件、さらにレンタル費用の目安や導入時の注意点まで、現場目線で総合的に説明します。「結局どちらを選べば安全で確実、かつ低コストか」を、場面ごとに具体的に判断できるようにご案内します。
トラッククレーンとラフタークレーンの基本的な違い
このセクションでは、両者の基本的な構造と移動・作業における前提条件を理解していきましょう。
トラッククレーンは、トラックの車台(キャビン)にクレーン装置を取り付けた車両で、走行用の運転席とクレーン操作用の操作席が別々に分かれているのが基本的な構造です。舗装された道路での長距離移動や高速道路の利用に適しており、現場間の移動時間を短縮できるという特徴があります。
一方、ラフタークレーンは、走行とクレーン操作を一つの運転室で行う構造になっており、四輪駆動(4WD)と四輪操舵(4WS)によって、整備されていない土地や狭い場所での取り回しに優れています。現場に到着した後の準備作業が少なく、作業開始までの段取りが早いという利点がある反面、最高速度が低く、長距離の自走や高速道路での移動には適していません。
公道走行が得意な「トラッククレーン」の構造と特徴
トラッククレーンは、一般的なトラックをベースにクレーン装置を搭載した「車両積載形」または「トラックベースの移動式クレーン」で、走行用の運転室とクレーン操作用の操作席(キャブや側面操作台)が分かれています。
この分離した構造により「移動はトラックとして」「作業はクレーンとして」と役割を明確に分けて運用でき、長距離・高速移動を伴う案件で力を発揮します。舗装された道路での走行安定性があり、車両法に準拠した寸法・重量の管理がしやすく、条件を満たせば高速道路も利用しやすいというのが実務上のメリットです。
ただし、操舵は一般的に前輪のみで、車両の軸距(前後車軸間の距離)も長いため、狭い場所での鋭角なターンや縦列での後退は慎重な誘導とスペース計画が必要になりやすく、設置時にはアウトリガーの張り出しと地盤の耐荷重確保を厳格に行う必要があります。
悪路や狭い現場で力を発揮する「ラフタークレーン」の構造と特徴
ラフタークレーン(ラフテレーンクレーン)は、走行とクレーン操作が一つのキャビンで一体化した構造で、4WDと4WSが標準的に装備されています。これにより小回り性能が高く、舗装されていない資材置場や軟らかい地盤、狭い区画での取り回しに強く、現場に到着後すぐにアウトリガーを展開して作業を開始できる段取りの早さが現場で高く評価されています。
公道は自走可能ですが、実用上の最高速度は50km/h未満に制限されるのが一般的で、高速移動や長距離の自走には適していません。さらに大きなカウンターウエイトを装着した状態での公道走行は禁止されるなど、製品カタログに明確な注意書きがあります。案件ごとに製品カタログの注意書きを必ず確認してください。
【性能比較】作業効率と現場適性を徹底分析
ここでは「走行性能・機動力」と「吊り上げ性能・作業範囲」の観点から、現場効率に直結する違いを具体的に整理します。移動を重視するか、設置場所の自由度・段取りを重視するかで、選ぶべき機種は明確に分かれます。
走行性能と機動力の比較
都市間・現場間の移動が短時間で済むかどうかは、工程と人件費に直接影響します。トラッククレーンはベースが道路車両のため、高速道路の最高速度(2024年4月に中大型トラックが90km/hへ緩和)枠に適合しやすく、移動の速さに優位があります(車種・諸元・積載状態に依存)。
一方でラフタークレーンは公道での自走こそ可能ですが、実用上の最高速度は概ね50km/h未満で、高速道路走行は不可とする運用解説も多く見られます。ただし「条件を満たせば高速道路走行が可能」とする案内もあるため、実務では個別の車両諸元(新規格車かどうか)、指定道路、特殊車両通行許可の条件を含め、個別確認が不可欠です。
小回り性能はラフタークレーンが顕著に優れています。4WSにより最小回転半径が短く、内輪差・張り出しを抑えた進入・転回が可能で、団地内道路や商店街の裏路地のような狭い曲がり角でも設置場所に近づけます。
対照的にトラッククレーンは二輪操舵が主流で軸距も長い傾向にあり、狭い場所では誘導員・誘導車の確保と切り返しスペースの事前確保が前提になりやすい点に注意が必要です。
吊り上げ能力と作業範囲の比較
両者とも油圧式伸縮ブームを備えており、ブーム長が伸びるほど、また作業半径が広がるほど定格総荷重(定格)が減少します。定格は「アウトリガーの張り出し幅」「ブーム角度・長さ」「ジブの有無・角度」「作業半径」などの複合条件で規定され、選定時はメーカーの荷重曲線表で機種別・条件別の値を確認するのが鉄則です。
実務では「必要な吊り荷重」だけでなく「必要な揚程(高さ)」と「必要な作業半径」を同時に満たせるかが重要で、設置位置の最適化(半径短縮)を含む段取り設計が、より小さな番手で安全に作業を実現する鍵になります。用語として「作業半径」は旋回中心からフック中心までの水平距離を指し、この値が大きいほど許容荷重は下がることに留意してください。
ラフタークレーンは「整備されていない土地・狭い場所・多点移動」の段取り短縮により実働時間を圧縮できる強みがあり、トラッククレーンは「長いブーム構成」「舗装路での広域移動」による工程最適化に強みがあります。どちらが「絶対に優れている」ということではなく、現場の要件と段取り設計に対して相性が良い方を選ぶことが肝心です。
【用途別】最適なクレーンを選ぶための判断基準
最適解は「現場条件×段取り×移動要件」の三点を同時に満たすことで決まります。ここでは代表的なシナリオで機種選定の考え方を整理します。
現場の状況から考える選定ポイント
都市部のビル建設現場や夜間の資材揚重では、進入路の幅、交差点の形状、歩行者の動線、占用許可、騒音規制の制約が重なります。鋭角なターン・S字進入・短時間占用が前提なら、4WSで小回りが利き、到着後に組立を必要とせずすぐに作業へ移れるラフタークレーンが安全・迅速です。団地内道路からの室外機揚重やルーフトップの資材揚げなど、設置点に近づきたい作業でも同様です。
一方、郊外の低層建築や倉庫群、新築現場の基礎固まり待ちの合間に複数現場をローテーションするような工程では、トラッククレーンの移動効率が一日の実働を向上させます。高速道路の活用が前提のタイトな工程では、ラフタークレーンの低速運用がボトルネックになりやすく、移動優位のトラッククレーンが適しています。
広大な工場ヤード・プラント更新・資材置場内の重量物移動のように「未舗装・軟弱地盤・段差が混在」する敷地では、ラフタークレーンの4WD×4WSが威力を発揮します。仮設鉄板や路盤改良の手間を最小化しつつ、アウトリガー下の地盤耐力さえ確保すれば、設置点を小刻みに移しながらの多点作業を短時間で回せます。
逆にトラッククレーンは、アプローチ動線と設置スペース(アウトリガー最大張り出し)を広めに確保できる現場で真価を発揮します。
導入コストと運用面の注意点
レンタル費用感は地域・条件・オペレーター有無で変動しますが、代表的な「25t級ラフタークレーン」は日額6〜7万円台の掲載例が複数あります(付帯費は別途)。オペレーター、玉掛け要員、交通誘導員、敷鉄板、夜間加算、移動回送費などを積み上げると総額は上振れします。
中古調達の相場感としては、古年式の25tラフタークレーンで概算1,000万円前後の例示もありますが、年式・稼働・整備で大きく変わるため個別査定が前提です。トラッククレーンは小型〜中型で安価に出せることがある一方、狭い現場での段取り・養生費(鉄板、仮設、誘導)が嵩むと総額で逆転することもあります。
搬入経路は「幅・高さ・橋梁制限・交差点形状・最小回転半径」を図面で照合し、必要なら誘導車・ガードマン・夜間許可を事前に手配します。特殊車両通行許可が必要な寸法・重量のケースも珍しくありません。
新規格車や指定道路の取扱い、通行条件(時間帯、連行禁止、橋梁でのすれ違い制限、誘導車帯同)によって工程が変わるため、許可取得は早期着手が安全です。
導入前に必須の知識!免許・資格と関連法規
クレーン導入は「道路での運転資格」「現場での操作資格」「玉掛け」の三層を整えて初めて合法・安全に運用できます。ここを間違えると、現場は止まり、やり直しコストが膨らみます。段取り段階で資格者の手配・証明書確認まで必ず完了させてください。
運転と操作に必要な免許・資格の種類
公道運転の免許区分について
トラッククレーンはベース車両の区分に従い、中型〜大型など該当する自動車運転免許が必要です。ラフタークレーンは「大型特殊自動車免許(大特)」での運転が必要です(普通車の運転資格とは別の体系)。
現場でのクレーン操作資格について
吊り上げ荷重5t以上の移動式クレーン(トラッククレーン、ラフタークレーン、オールテレーン等)を操作するには国家免許「移動式クレーン運転士」が必要です。5t未満は「小型移動式クレーン運転技能講習」で対応可能です。
荷の掛け外し(玉掛け)について
吊り上げ荷重1t以上の玉掛け作業は「玉掛け技能講習」修了が必要です。1t未満は特別教育の区分があります。
重要なのは「運転免許=公道走行の資格」であり「クレーン操作=移動式クレーン運転士(または小型技能講習)」「玉掛け=別資格」という三層が別立てで必要になる点です。オペレーターが運転免許だけで現場操作に入ることはできません。発注条件・安全書類の段階で、資格者の割当と証明書の写しを確実に確認しましょう。
公道走行と現場作業で遵守すべき法律
道路側の枠組み
道路法・車両制限令で幅2.5m、高さ3.8m、総重量20t(高速・重さ指定道路は条件により25t)など一般制限が定められ、超過する場合は「特殊車両通行許可」を事前に取得します。許可には通行時間帯、連行禁止、橋梁でのすれ違い制限、誘導車帯同などの条件が付くことがあり、工程・ルート設計に直結します。
現場側の枠組み
労働安全衛生法および関係政省令に基づき、移動式クレーンの運転(5t以上は免許、5t未満は技能講習)と玉掛け(1t以上は技能講習)が義務付けられています。荷重曲線表に基づく作業計画、アウトリガー設置、吊具点検、合図者の選任、資格証の確認・記録など、法令で求められる手順を厳格に運用してください。
まとめ:こう選べば失敗しない
狭い場所・未舗装・段取り重視ならラフタークレーン
4WD×4WSで設置点に近づけ、到着後すぐに作業へ移行できます(ただし速度は低く、高速道路の扱いは個別条件に依存)。
長距離移動・複数現場の同日ローテーション・高速道路活用が前提ならトラッククレーン
ベース車両としての機動力が工程短縮に直結します(寸法・重量が一般制限を超える場合は特車許可が必須)。
最終判断は「必要吊り荷重」「必要揚程」「必要作業半径」「設置スペースと地盤耐力」「搬入経路と通行許可」「必要資格の段取り」「総コスト(車両+付帯)」の7要素を同時に満たせるかで下してください。
荷重曲線表と現場図(平面・断面)でシミュレーションし、経路・許可・資格の成立性を先に確定させれば、手戻りは最小化できます。現場図と荷の仕様があれば、必要半径・揚程から「番手と台数」を具体的に検討することが可能です。



