温室効果ガスによる地球温暖化や気候変動の問題が深刻化する中、限りある資源を有効に使っていくために必要とされているのが循環型社会というシステムです。今回は、企業が循環型社会にどのように貢献できるのか、具体的な取り組みと成功事例を紹介します。
循環型社会とは何か?
そもそも循環型社会とはどういうシステムなのでしょうか。言葉の定義と資源枯渇問題、SDGsとの関連性を踏まえ見ていきましょう。
循環型社会の基本を知る
循環型社会とは、限られた資源が枯渇してしまわないように、資源を効率的に使用したり、再利用したりして循環させ続ける社会ないし社会の仕組みを指します。
資源の再利用について、3Rという言葉をよく耳にすることがあるでしょう。3Rは、「リデュース(減らす)」、「リユース(再使用する)」、「リサイクル(再利用する)」の3つを指します。循環型社会と似た概念ですが、3Rは多かれ少なかれ廃棄物が発生することが前提になっています。一方、循環型社会では廃棄物や汚染そのものを発生させないことを目指しています。
循環型社会はなぜ必要なのか
循環型社会が注目されるようになった背景には、資源の枯渇問題があります。資源にまだ余裕があった時代には、生産されたものが消費され廃棄されるというサイクルを直線的に繰り返すだけでした。しかし、資源が減っていく一方、廃棄物がどんどん増えていき、処理する場所や方法といった問題点が浮き彫りになり懸念されるようになります。
国連の推計では、2030年までに世界の人口は85億人に達し、さらに2050年には97億人にまで増加すると予測されています。このままでは近い将来、資源が枯渇してしまうという事態に直面し、循環型社会の必要性が急速に高まってきました。
出典・参照:国連広報センター 人口と開発
資源を有効利用し、廃棄物を発生させないという循環型社会の仕組みは、2015年に国連で採択されたSDGsの目標達成においても重要な要素の1つです。SDGsは、世界の様々な社会的課題解決を目指し、17の目標と169のターゲットで構成されています。循環型社会の実現は、特に以下のSDGs項目と関わり合っており目標達成への貢献が期待されます。
目標12「つくる責任 つかう責任」
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標14「海の豊かさを知ろう」
目標15「陸の豊かさも守ろう」
企業が循環型社会で行うべき取り組み
循環型社会の実現に向け、企業が行うべき取り組みにはどのようなものがあるでしょうか。実際に国内外の企業で実践されている具体的な事例を交えながら解説します。
日本企業の取り組み事例
資源循環プラットフォーム「POOL」の運営・提供事業を手掛けるレコテックは、「POOL PROJECT TOKYO」を立ち上げ、廃棄プラスチックを回収し「POOL樹脂」という再生素材にリサイクル、販売する取り組みを東京都と共同で実施。1kgの廃プラスチックあたり1kgのCO2削減効果を実証しました。2030年には年間約2万トンの廃棄プラスチックのリサイクルを見込んでおり、使い捨てプラスチックの削減や資源循環の仕組みづくりを積極的に進めています。
出典・参照:東京都環境局 CO2削減効果
小田急電鉄は、2019年に座間市と「サーキュラーエコノミー推進に係る連携と協力に関する協定」を締結。翌2020年には、「座間市内の資源物・ごみ収集業務のスマート化」の実証実験を開始しました。収集業務を効率化することで、収集車が排出するCO2削減につなげる取り組みです。
座間市での実証実験の成果として、2021年9月にはウェイストマネジメント事業「WOOMS」が始動。集積所の位置情報や収集状況をデジタルテクノロジーで一元管理し、作業効率の向上を目指すものです。収集効率が上がったことにより、バイオ燃料の資源となる剪定枝の収集が行えるようになりました。2021年度の座間市の家庭可燃ごみの搬入量は、前年比で7.76%減。これまで可燃ごみと一緒に捨てられていた剪定枝の収集を始めたことにより、全体のごみ減量にもつながっています。
出典・参照:高座清掃施設組合 令和3年度 構成市別・種別ごみ搬入量
地域の自治体や住民と協力関係を築きながら、循環型社会の実現を目指していく好例と言えるでしょう。
海外企業の取り組み事例
NIKEでは、「Move to Zero」という取り組みを通し、循環型社会へ貢献すると宣言しています。「Move to Zero」の主な取り組み内容は下記の5つです。
・2050年までに、ナイキが所有及び運営する施設において100%再生可能エネルギーで稼働
・2030年までに世界のサプライチェーン全体からの炭素排出量を30%削減する
・全てのフットウェア生産過程で発生した廃棄物の99%を再活用する
・1年に10億本以上のプラスチックボトルを廃棄せず、新しい製品のめに再利用する
・Reuse-A-Shoeとナイキグラインドでは、廃棄物を陸上のトラックやコートに変える
アメリカのスタートアップ企業テラサイクル社が立ち上げた「Loop」は、20カ国以上で展開している世界初の循環型ショッピングプラットフォームで、「捨てるという概念を捨てよう」というコンセプトを掲げています。その一環として、使い捨て容器を繰り返し使えるように改良し、購入者から回収・再利用するという新しい仕組みをつくりました。
Loopのプラットフォームには、海外の企業のみならず日本の大手メーカーも参画して注目を集めています。2021年5月からイオンの一部店舗で実証実験を開始。同年にはECサイトも開設し、味の素やキッコーマン、資生堂などの大手食品メーカーと一都三県共同での実証実験に取り組むなど、多くの企業や自治体を巻き込むことに成功しています。
出典・参照:環境省 Loop Japan合同会社
ユニリーバでは、以下の3つの取り組みを実施し、資源の効率的な利用に努めています。
・Less Plastic(プラスチックの使用量を減らす)
・Better Plastic(リサイクルしやすい素材や再生プラスチック等に替える)
・No Plastic(紙・金属・ガラス等プラスチック以外のものに替える)
この取り組みによって、世界全体で非再生プラスチック使用量を12%削減、日本では100トン以上の削減に成功するなど成果を上げています。
循環型社会への取り組みの効果
CO2削減や資源の効率的利用といった循環型社会への取り組みは、どのような効果となって表れるのでしょうか。環境、経済に与えるポジティブな影響をそれぞれ見ていきましょう。
環境への影響
地球の自然環境は、大気や水、土壌、生態系それぞれがうまくバランスを保つことで成り立っています。たとえば大気は、植物が光合成により二酸化炭素を取り入れて酸素をつくり、その酸素を動物が吸って二酸化炭素をつくる、という循環があります。循環型社会は、人々が生産活動を続けながら、自然界の健全なあり方を守っていくために必要なシステムと言えるでしょう。
近年では、循環型社会の実現を目指し、CDPやRE100など環境系の国際イニシアチブへ加盟する企業が増えてきています。環境に配慮した企業の輪が広がれば、それだけ大きな相乗効果を生むことが期待できるでしょう。
経済への影響
循環型社会では、自然の循環に配慮した経済の循環システムが必要です。すなわち、生産、流通、消費、廃棄という一連の流れにおいて、廃棄物の発生抑制、資源の有効活用、適切な処分、3Rなどが配慮されなければいけません。こうした経済の循環と自然の循環が調和することで、循環型社会を実現できると言い換えることもできるでしょう。
また、環境問題が深刻化する中、環境に配慮した経営を行う企業を投資対象として評価するESG投資が注目されるようになりました。企業価値の向上につながり、資金調達もしやすくなることから環境経営に乗り出す企業は着実に増えてきています。循環型社会を目指す取り組みは、それだけ企業の成長にもつながり、経済へ良い影響をもたらすことになるのです。
法規制と企業の取り組み
循環型社会に関連する法規制やそれに対する企業の取り組みを見ていきましょう。
日本の法規制状況
日本政府は、各省庁で循環型社会に向けた政策を実施しています。
環境省では、2018年に「第四次循環型社会形成推進基本計画」を策定。以下の3点が掲げられ、2025年までに国が実施すべき指標を定めました。
・地域循環共生圏形成による地域活性化
・ライフサイクル全体での徹底的な資源循環
・適正処理の更なる推進と環境再生
これにより政府では、2025年度目標として循環型社会ビジネスの規模を、2000年度実績の4兆円から約2倍に押し上げるとしています。
経済産業省は「循環経済ビジョン2020」で、従来の3Rの考えからから脱却し、以下3つの観点から循環型経済への転換を図り、今後の日本の進むべき道筋を示しています。
・循環性の高いビジネスモデルへの転換
・市場・社会からの適正な評価の獲得
・レジリエントな循環システムの早期構築
ただ、いずれも具体的な法規制などのアクションにまでは踏み込めておらず、企業の自主性に委ねられているというのが実状です。
そこで注目したいのが、第四次循環型社会形成推進基本計画で掲げられた地域循環共生圏です。これは、地方にある資源を最大限利用し、足りない部分を近隣地域で補うことで、地域での生産、消費を行い循環させていくというものです。資源の循環による経済の循環は、地方の経済活性化が期待されています。
海外の法規制状況
欧州委員会は、2015年に「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を発表し、循環型社会を実現させるための行動指針を定めました。主なアクションプランは以下のとおりです。
・Horizon2020(EUによる研究と革新的開発のためのプログラム)から6.5億ユーロ以上、EU構造基金から55億ユーロの財政支援を行う
・食品廃棄物削減のために、共通の測定方法の開発、賞味期限表示の改良などSDGsを達成するためのツール開発を行う
・二次原料の品質基準を開発する
・プラスチックに含まれる有害物質や海洋プラスチック漏出を削減する
サーキュラー・エコノミー・パッケージでは、「2035年までに、一般廃棄物のリサイクル率を65%にする」などの具体的な数値目標が示されています。さらに2020年には「サーキュラー・エコノミー・アクションプラン」を発表し、以下の4つの柱を掲げ、循環型社会へ向けた取り組みを加速させています。
・持続可能な製品デザインの政策と原則の確立
・循環型経済への転換余地が大きい分野の具体的な法整備
・廃棄物の削減
・持続可能な雇用の創出
サーキュラー・エコノミー・アクションプランでは、法改正による廃棄物削減が盛り込まれており、着実に法規制を進めている状況です。