日本の物流業界の未来について

目次

はじめに

普段、皆様が当たり前のように利用している宅配サービス。

指定した日時にしっかりと配送される、そんな我々の生活の中にある“当たり前”の裏には物流の2024年問題が陰を落としています。

今回は東京大学大学院 工学系研究科教授の西成活裕氏にインタビューを行い、日本の物流業界が抱える課題や
未来への展望について様々なお話をお伺いしました。

本記事を通じ、日本の物流の未来について皆様と一緒に考えていければ幸いです。

物流に興味を持たれたきっかけについて

元々は車や人の流れ、混雑などについて30年程研究をしており、当初は“物流”にはそこまで興味を持っていませんでした。しかしある時、物流は“ヒト”ではなく“モノ”が動いているという事に気が付きました。

人の行動は予測が難しい一方、物であればこちら側が決めた通りに動いてくれます。
元々数学や理論物理を専門にしていたこともあり、これら専門知識が物流には直接応用できると考え、20年程前からは物流の研究も始めました。

物流の現場はまだまだ沢山の課題を抱えていますが、それらを解決していくことに楽しさを感じています。

学生を使った実験のご様子

学生を集めて行った混雑実験の様子

日本の物流業界が抱える課題について

課題は様々ありますが、短期的課題と長期的課題の2つに分けられると考えています。

短期的課題としては、例えば「労働力不足による配送問題」が挙げられます。
これは現在、皆さんが当たり前のように利用されている“指定した日時での受け取り”が近い将来出来なくなってしまうなど、皆様の生活にも直接影響してくるような課題であると考えています。

一方で、長期的課題については「脱炭素問題」や「循環経済」など、インフラの持続可能性やマインドセットの転換が問われる課題として位置付けております。

これらに加え、日本の物流にはまだまだ標準化が進んでいない部分や過剰品質の問題など、細かく掘り下げていくと課題は沢山あるように感じています。

これらの課題に対し、現場では協調すべき部分で競争が行われている点も課題と言えるのではないでしょうか?

難しい問題ですが、物流は皆様の生活を支えるインフラであるといえます。
企業としては利益追求を考えなければいけない反面、環境全体の事も考えなければいけないという難しい側面を持っています。

このような“利己と利他の両立”が私の問題意識の根本にあり、物流業界の課題解決に向けては全体の協力が必要不可欠であると感じています。

人手不足問題について

単純に人手を増やせば解決する問題ではないと考えています。

例えば、人手不足の裏側にはそもそも運ばなくてもよいものを運んでしまっている点や、運んだ先で物を廃棄している現状があります。
それらはそもそも運ぶ必要もなければ製造する必要もなかったのでは
ないでしょうか?

このように物流業界には、全体で考える必要のある“省くことができる無駄”がまだまだあるはずです。
サプライチェーン全体を考えた時、このように省ける部分はまだまだ多くあると考えられるため、人手不足だからといって安易に人を増やしても付け焼き刃に過ぎず、根本的な解決には至らないと考えている訳です。

こういった視点で、問題の本質を捉える事が重要であると考えています。
もちろん人を増やす事も重要かとは思いますが、それ以前に、より賢く・より上手に運ぶ最適な仕組みづくりが必要であると考えています。

海外の労働力をどのように取り入れていくか

積載率を70〜80%まで引き上げることができれば人手不足は解消されるという統計やシミュレーション結果も実際に出ています。
その上で、どのように積載率を上げれば良いのかと考えた時、やはり競争するのではなく、協調すること
(共同配送)で人手不足は解消されると考えています。

『海外の労働力をどのように取り入れる』かというテーマもよく議論されていますが、やはり、まずはこのような本質的な課題に対してどのようにアプローチしていくかといった部分が重要であると考えています。

パリ鉄道での混雑緩和のためのコンサルティング

これまでに印象的だった企業とのプロジェクトや取り組みについて

これまで東京ドームにおいて延べ50万人近くの群衆誘導をしてきましたが、人々の安全で効率的な誘導への取り組みは強く印象に残っています。
その他にも、倉庫や工場でのコンサルティングをさせていただく中では残業の削減に成功した際に、ワーカー様から直接感謝のお言葉をいただけた時も嬉しかったですね。

いかに効率的にピッキング・配送をしていくか、これからもデータや数学を駆使して様々な課題に取り組んで参ります。

東京ドームでのイベントのお写真

現在、期待されているテクノロジーについて

AIの予測精度は日々進化していますが、物流や交通の問題については未来予測を完璧に行う事ができれば、ほとんど全ての問題は解決します。

しかし、誰が何をいつ欲しがるかなど、どうしても予測しきれない部分に対してはいかに上手く予測をするかという点がポイントになると考えています。

消費者の過去の購入履歴や住居地等の情報から現在はAIが精度良く予測を行っていますが、地震や台風をはじめとした天候問題などの突発的な現象は予測が難しい部分も多くあるため、“完璧な予測”はまだまだ難しいように感じています。

今後、この予測精度が上がってくる事で、より効率的な物流や人流誘導の実現を期待しています。

共同配送の実現について 

共同配送について、全員で協力すれば全員がWIN-WINで儲かる物ではあると思っています。
しかし共同配送が浸透していない大きな理由として、制約条件の多さが考えられるのではないでしょうか。
営業情報の漏洩をはじめ、現実的には実現に向けた障壁が現場にはまだまだ多くあるように感じています。

例えば、匂いの強い化粧品と洋服で合積みをすると洋服に匂いが移ってしまうこともあり、
共同配送に参画いただける相手を上手く見つけることは実は難しく、今後、いかに相性の良いマッチング相手を探していくかが鍵になると思います。

日本の物流の特徴について

日本は海外に比べ、故障したものの回収や再生産性が弱い点など、静脈物流に対する意識の低さが特徴ではないでしょうか。これは、静脈物流がビジネスに繋がりにくいという点が起因しているように思いますが、例えばヨーロッパは環境先進国として静脈物流に力を入れており、国全体として循環経済を目指しているという特徴があります。

他にも“過剰品質”は日本の特徴であると言えるのではないでしょうか。
例えば、翌日配送サービスは日本では一般的ですが、海外と比べると過剰品質に当たると考えており、同時に人手不足や積載率の低下にも関わる問題だと感じています。

配送に係る過剰品質については、配送を翌々日以降に設定することで積載率が倍近くに改善され、労働者の残業時間の削減にも繋がるという実験結果も出ていますし、実はそもそも消費者も当日・翌日配送をそこまで望んでいないというデータも存在します。

日本ではよく“お客様は神様”という言葉が使われますが、それでもやっぱり、当日・翌日配送は“過剰品質”と言えるのではないでしょうか。

ただ一方で、過剰品質は日本の良さでもあることは間違いないでしょう。

過剰品質の問題については「消費者がこれを望んでいる」という思い込みが膨らみ、エビデンス無しに動いてしまっているため、今後しっかりと考えていく必要があるでしょう。

 

2024年問題に対する消費者意識を向上させるためには

今年できた物流新法で荷主(物流事業者)には強く規制をかけられるようになった一方、消費者の行動をコントロール出来る手段はまだ無いのが現状かと思います。

“再配達問題”については国土交通省がテレビコマーシャルで人気キャラクターのちびまる子ちゃんを起用する事で再配達削減を呼びかける働きかけも行いましたが、それでも消費者の意識改革はまだまだ難しいと思います。

そこで、再配達を減らすためにまずは“再々配送の有料化”が一番簡単かつ効果的ではないかと考えています。

先述の通り、過剰品質は日本の良さでもあり、“お客様は神様”という考え方も日本の文化のひとつと言って良いでしょう。
しかし、自ら日時指定したにも関わらず、2度も再配達をさせるのは明らかに問題です。

今後について 

我々は最適な仕組みを考えられるような高度な物流人材を育てたいと考えております。
講演活動や講座なども開催しているので、興味のある方は是非ご連絡いただければと思います。

2024年問題については消費者である我々一人一人がしっかりと当事者意識を持ち、皆で日本の物流の未来を考えていくことが解決への近道だと思います。

リンク: https://webpark2119.sakura.ne.jp/web/

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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