国際物流の未来について

目次

はじめに

物流業界が直面する課題や国際物流の標準化への取り組みなどについて、運輸総合研究所の研究員・島本真嗣氏にお話をお伺いしました。

本インタビューでは、運輸総合研究所の取り組み内容や各研究内容、国際物流等への取り組みについて掘り下げてお聞きし、物流業界が抱える課題に対する運輸総合研究所の取り組みをご紹介いたします。

運輸総合研究所について

運輸総合研究所は旧運輸省(現国土交通省)のイニシアティブにより、日本の産官学の支援で1968年に設立されたシンクタンクで、交通運輸及び観光分野における様々な研究調査活動や政策提言を行っています。

「学術研究と実務的要請の橋渡し」という設立の理念に立脚し、交通運輸及び観光分野の現在及び将来の諸課題について、「世の中の役に立つ」「使いものになる」研究や政策提言、つまり課題解決に資する成果に結実させるべく取り組まれています。

特に、交通運輸及び観光政策の検討・策定の先取りや深堀のための研究調査や、関係業界等において今後の活動や事業経営の手がかりや指針となる研究調査に力を入れて取り組まれているとともに、研究成果の報告会、各研究員が研究成果を発表する運輸政策コロキウム、大学等の研究者や交通事業者等を招いて行う運輸政策セミナー等も定期的に開催されています。

また、東京の本部と海外拠点である米国・ワシントン DC のワシントン国際問題研究所 (JITTI) 及びタイ王国・バンコクのアセアン・インド地域事務所(AIRO)とが一体となり、北米から東南アジア・南アジアまでのインド・太平洋地域や欧州を視野に入れた広域的かつ戦略的な活動にも取り組まれています。

活動(研究)内容について

①研究調査・政策提言

1つめはカーボンニュートラル(CN)についてです。
CN 実現に向けた中長期の戦略、特に交通分野の円滑な燃料転換促進をテーマとした研究調査に取り組み、中でも航空・海運における脱炭素化への道筋・課題などの研究成果は、国際民間航空機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)の場における議論に活用されています。

2つめは公共交通・モビリティについてです。
地域の持続的な発展を支える地域交通産業の抜本的・包括的な基盤強化・事業革新の具体的方策、事業制度のあり方等 について研究調査に取り組み、2023 年 9 月に提言を発表しました。
研究成果は、政府に 設置された「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」における議論に活用されています。

3つめは航空についてです。
航空分野における欧米・日本の政策動向、無人航空機(ドローン)や空飛ぶクルマ等の新技術、空港の機能拡張・強化等に関する研究調査に取り組んでいます。成田国際空港の容量拡大に向けて実施した首都圏空港機能強化検討調査の成果である第三滑走路の新設、年間発着回数 50 万回の構想は、政府及び成田国際空港株式会社のプランとして採用されています。

また、 我々は民間企業から依頼を受けて研究を行っているわけではございません。
利益を追求せず、あくまで純粋により良い日本にするためにはどうしたら良いかを追求しております。

“海外ではできていることがなぜ日本ではできていないのか”といったところに重点を置き、常に探求しております。

②国際活動の推進

本部とワシントン国際問題研究所及びアセアン・インド地域事務所が一体となって、グローバルな視野に基づき、関係国政府・研究 機関等とのハイレベルの交流・連携を図るとともに関係国等のニーズを踏まえた研究調査・セミナーの開催等の活動を行っています。

ーワシントン国際問題研究所 

北米及び欧州等の交通運輸・観光に関する情報収集等を強化するため、1991 年にワシントン DC に設立されました。米国の最新動向調査や日本の政策紹介に加え、日米政府要人や有識者を招いたシンポジウムの開催等を通じて、日米両国の官民関係者間の連携の強化、情報共有と相互理解の増進に取り組んでいます。 

ーアセアン・インド地域事務所 

東南アジア地域・南アジア地域の交通運輸・観光に関する研究調査や情報収集、セミナー・シンポジウムの開催、政府・学界・実務者等への有益な情報発信及び協力関係の構築を目指し、2021年4月にタイ王国バンコクに設立されました。 

国際物流の標準化の課題や取り組み内容について

国際物流については契約関係もインコタームズ(国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件とその解釈に関する国際規則)によりリスク分担されており、国際標準のルールがとても浸透してきているように感じています。
その一方で、国際物流標準化への一番の課題は〝国内の物流とルールをどう繋いでいくか〟という面にあると感じています。
国内には国内で一定のルールがある一方、実際にそれは国際標準ではないという部分も沢山あるものだと思います。

例えば海外で使われているパレットが日本でそのまま使われることはなく、現場では積替えをしたり同じ荷物を日本のパレットに単純にコンテナから出し、上の荷物を日本のパレットに載せ替えて運ぶというようなことを日本に限らず行っているのが現状です。
このように国際物流の標準と国内のルールが噛み合わないためにわざわざ積み替えが発生したり、プレーヤーを変えていかないといけないというようなことが、
今の課題なのではないかと感じています。

他国に比べて日本が進んでいる分野について

品質管理や温度管理をはじめとした〝管理能力〟にあると思います。
日本の普通=海外の普通ということでは決してありません。
“一つ一つきちんと商品を損なうことなく運ぶ”という日本では一般的に当たり前とされていることが、海外では課題であったりします。

また、東南アジアでは運行管理システムにも興味を示され、担当をどう割り振っていくか、または
世界共通課題であるドライバー不足問題に対してどのようにドライバーをうまく効率化していくかなどについて興味を示されることがありました。

2024年5月に発表された提言について

運輸総合研究所は2024年5月23日に「デジタル技術の活用等による持続可能な物流システムの構築に関する検討委員会」による提言、“持続可能な物流システムの構築に向けて~解決のカギは「デジタル技術」~”を発表いたしました。
本提言は2022年12月に立ち上げた「デジタル技術の活用等による持続可能な物流システムの構築に関する検討委員会」(委員長:西成活裕東京大学大学院教授)の検討成果として提言を取りまとめたものになります。

・検討経緯
運輸総合研究所では、物流の効率化・生産性向上のため極めて強力な手段となるデジタル技術の活用を通じた物流システムの改善が急務であるとして、2022年12月に学識経験者、有識者、関係省庁からの委員で構成される「デジタル技術の活用等による持続可能な物流システムの構築に関する検討委員会」(委員長:西成活裕東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授)を立ち上げ、6回の会合を開催しました。
委員会では、主に国内の企業間物流、幹線物流を念頭におき、デジタル技術の活用に着目して、物流の見える化を通じた物流システムの改善のあるべき姿を想定し、実現に向けて取り組むべき事項について議論を行い、その成果として本提言をとりまとめました。

報告資料や提言のポイント等、詳しくはこちらをご覧ください。

CLO(物流統括管理者)の選任の義務化について

荷主約3,000社へのCLOの設置義務化がなされる予定ですが、特定荷主に対して義務付けられる選任については難しい問題だと捉えています。

提言に即して申し上げると、従来の物流部長をそのままCLOにするのではなく、役員階級の方、つまり経営判断ができる方をCLOにすべきです。

つまり、〝会社全体としての判断の中で物流を考えられる人〟を選ぶべきだが、大企業を例にとっても物流は物流、調達は調達、営業は営業だけで昇進していく構造になっていると思うので、適任者が不在と言うのが実情のように感じています。

そのためリクルートも大切で、CLOに適した人材やCLOを目指したい若い方たちが多く参入する業界にしていくことも大切であると我々は考えております。

・CLOの選任の義務化について
物流法改正案の閣議決定により、一定規模以上の事業者は「特定事業者」として中長期の物流改善計画の作成と定期報告及びCLOの設置が義務付けられました。
CLOの設置により、荷主の物流改善意識の向上やサプライチェーンの効率化、また、物流人材育成への期待も高まっています。

今後の活動方針について

コロナによる社会経済情勢の変化がもたらした社会・個人の価値観・行動の変容や、加速する労働人口の減少は、交通運輸・観光産業の事業革新、DXの展開、脱炭素化の加速、いわゆる「2024年問題」への対応などの必要性をより一層際だたせました。これらの課題に対する取組みについては、中長期的視点に立ちつつ、国際的な知見を活かし、 また、国際的な動向を見極めながら進めていくことが求められています。

以上のような認識の下、当研究所では、より一層皆様との交流・連携を深め、持続可能 で活力に満ちた交通運輸・観光の実現に貢献すべく、研究調査、政策提言、セミナー・シン ポジウムの開催、コンサルティング等の活動に取り組んでまいります。 

・運輸総合研究所HP
https://www.jttri.or.jp/

・メールマガジン登録はこちら
https://krs.bz/jterc/m/profile_new 

・公式X(旧Twitter)
https://x.com/JTTRI_official

※情報配信については月2回のメールマガジンやX(旧Twitter)に加え、提言ごとにシンポジウムの開催や記者発表を行っております。

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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