近年のトラック業界ではサイバーセキュリティは不可欠な要素となっています。また、業界特有のセキュリティ課題も存在し、これに対処するためには厳格な法規と基準が求められます。
では、具体的になぜサイバーセキュリティが重要となっており、どのような対策が必要なのでしょうか。本記事でトラック業界にまつわるサイバーセキュリティについて確認していきましょう。
トラック業界におけるサイバーセキュリティの重要性
トラック業界はデジタル化が急激に進んでいる業界です。そして、同時にサイバーセキュリティが極めて重要な役割を果たしています。ここでトラック業界におけるサイバーセキュリティの重要性、サイバー攻撃のリスクとその影響、さらに業界固有のセキュリティ課題について確認していきましょう。
サイバー攻撃のリスクとその影響
トラック業界は膨大なデータと複雑なネットワークで構成されています。そして、多数のデータがあることからサイバー攻撃の標的となり得るものです。もし、悪意ある第三者による侵入やデータ改ざんがあると業務の中断や機密情報の漏洩といった深刻な影響をもたらす可能性があります。
個人の情報としては購入した物の情報や住所などが考えられます。例えば、株式会社エヌ・ティ・ティ・ロジスコは第三者からの不正アクセスを受けており、当社は物流業界を受託する株式会社NTTぷららが含まれており、個人情報が流出した可能性を公表しました。
また、企業で見るとどのような企業と取引をしているのかなどが流出し、経営に大きな影響を与える可能性があります。もし、機密情報などが含まれていれば契約が無くなる、信頼が無くなるなどが起こる可能性は高いです。
このようにトラック業界は重大な情報を保有しており、データ流出をできるだけ防いでおく意識が重要になります。
業界固有のセキュリティ課題
トラック業界が直面するセキュリティ課題には遠隔地での作業やデバイスの多様性、通信プロトコルの複雑さなどが挙げられます。これら課題によって標準的なセキュリティ対策が難しくなり、業界独自の脆弱性が生まれてしまうのです。
例えば、遠隔地でのセキュリティ監視は未現地での監視と比較すると検知にやや不安が残ります。全国各地の拠点を移動するトラック業界にはこのような課題が出てくることも認識しておきましょう。
サイバーセキュリティ法規と基準
サイバーセキュリティの確保に欠かせないのが法規と基準の順守です。そして、その一端を担っているのが「WP29」です。では、WP29や国際的なセキュリティ規則について、どのようなことが定められているのか確認していきましょう。
WP29とは何か?
WP29(Working Party 29)は欧州連合内のデータ保護に関する専門機関です。正式には「Data Protection Working Party」または「個人情報保護作業部会」となります。WP29は欧州連合のデータ保護指令に基づき、加盟している国の個人情報保護に関する問題に対処していく役割を果たしています。WP29は加盟国のデータ保護機関の代表から構成されています。
具体的には個人のプライバシー権利を守るための方針・ガイドラインの策定や個人データの適切な取り扱いに関する助言をおこなっています。そして、企業はWP29の方針を順守することでデータ取り扱いにおいて法的なコンプライアンスを守ることができるのです。
自動車業界における国際的なセキュリティ規則
自動車業界の国際的なセキュリティ規則はサイバー脅威への対処と車両および利用者の安全を確保するために制定されているものであり、複数のものが制定されています。
例えば、ISO/SAE 21434は自動車ソフトウェアエンジニアリングにおけるサイバーセキュリティの要件およびプロセスに関する国際規格です。この規格では車両のエレクトロニクスおよび通信システムにおけるサイバーセキュリティに焦点を当てており、製造業者やサプライヤーに対してサイバーセキュリティの導入・維持を求めています。
また、自動車業界では車両間通信や車両とインフラストラクチャー間通信の規格も重要なものです。例えば、SAE J2735は車両間通信の標準規格であり、安全な車両間通信を実現するためのプロトコルやメッセージの定義を決めています。
これらの規格は自動車産業全体でのセキュリティの向上と標準化を促進し、車両のサイバーセキュリティを確保するための基準を作っているものです。各業界で独自の規格があるため、自分が関わっていくものについては必ず確認をしておきましょう。
サイバーセキュリティ対策の実践
では、サイバーセキュリティ対策を実際にどのようにおこなっていくのでしょうか。サイバーセキュリティ対策には複数の方法がありますが、ここで代表的なものについて確認しておきましょう。
効果的なセキュリティプログラムの構築
サイバーセキュリティの脅威に対抗するためには効果的なセキュリティプログラムの構築が不可欠です。まずは、組織はリスクアセスメント(リスク特定、リスク分析、リスク評価を網羅するプロセス全体)をおこない、組織に存在する脆弱性や脅威を明らかにする必要があります。さらに、その上で適切なセキュリティポリシーと手順を策定し、全従業員に浸透させることが重要です。
また、脆弱性を一度見つければ終わりではなく、定期的な監査や評価をおこない、必要に応じて改善をおこなうことも必要になります。セキュリティプログラムは常に変化する脅威に対応できるよう柔軟性を持った構造であることも意識しなければなりません。
このように組織は最新のセキュリティ技術やベストプラクティスを取り入れることが必要です。また、組織内だけでは完結ができない場合は専門家の助言を受けるケースも少なくありません。
データ保護と脆弱性対策
企業は顧客情報や機密データを適切に保護するために厳格なデータ管理ポリシーを策定し、これを全従業員に浸透させる必要があります。具体的にはデータの暗号化やアクセス制御の強化、定期的なデータバックアップなどが有効な対策であることが多いです。
また、脆弱性対策も重要な要素です。組織はシステムやアプリケーションのアップデートを適切に行い、最新のセキュリティパッチを導入することで既知の脆弱性に対処できます。最新のものであることが重要であり、定期的な脆弱性スキャンやペネトレーションテストを実施することで未知の脆弱性にも対応できるようにしておかなければなりません。
組織内でのセキュリティ意識の強化
高いセキュリティ性を実現するためには組織内の意識が必要不可欠です。しかし、セキュリティ意識を組織全体に浸透させることは簡単ではありません。ここで、具体的にどのような取り組みをおこなえばセキュリティ意識が高まるのかを確認していきましょう。
経営層とセキュリティチームの協力
セキュリティの強化において経営層とセキュリティチームの協力が不可欠です。まず、経営層はセキュリティを組織の重要な戦略的側面として位置づける必要があります。そして、こちらを実現するためにはセキュリティに対する投資やリソースの提供、方針の策定と徹底などが十分でなければなりません。経営層のリーダーシップは考慮されないこともありますが、リーダーシップがないと組織全体のセキュリティ文化の醸成は難しいことをしっかりと認識しておきましょう。
さらに、セキュリティチームと経営層は定期的なコミュニケーションを通じて情報を共有し、最新の情報を共有し続ける意識・仕組みが必要です。セキュリティチームは具体的な脅威や対策に関する専門的な知識を提供し、経営層は組織のビジョンや戦略に基づいて具体的な戦略を策定する必要があります。
継続的な教育とトレーニング
継続的な教育とトレーニングは組織内のセキュリティ意識を向上させるための効果的な手段の1つです。従業員はセキュリティに対する基本的な知識だけでなく最新の脅威や対策に関する情報も定期的に受け取ることが必要になります。
そして、組織全体としてオンラインプラットフォームやeラーニングなどを活用し、従業員が自分自身のペースでセキュリティスキルを向上できるような仕組みを整備することが重要です。継続的な教育とトレーニングは知識が付くだけでなく、組織全体がセキュリティに対する一体感を持つことも可能になります。