輸送用ドローンによる荷物配送の話題は、エンターテイメント性の高いものに感じるかもしれません。しかし、荷物を配送できる輸送用ドローンは配送業界の抱える問題を解決するうえで大きく貢献することが期待されているのです。
物流業界の現状と直面する課題
インターネットによる販売サービスの種類が増えると同時に、物流システムでの課題点も浮かび上がります。それには、配送荷物の増加や再配達による配達労働者不足、交通渋滞による効率の低下などが挙げられます。
2023年5月に経済産業省が実施した第10回「持続可能な物流の実現へ向けた検討会」では、物流業界における荷待ち・荷役時間の削減や契約の書面化、賃金水準の向上等が課題として挙げられています。
これら課題を解決するためには、現状を把握し具体的な対策案を講じることが不可欠です。
労働力不足と環境問題
物流業界の課題の大きな一つとして、深刻な労働者不足があります。
現在の物流業界では、需要の増加により、タスク量に対して適切な労働者数を確保することが困難な状態です。
人手不足は業務遅延や品質の低下につながり、物流業界全体の効率性に影響を与えます。
とくに配送ドライバーのタスク量が超過しており、長時間過酷労働や求人集客率の低下等、さまざまな弊害も生じています。
そこで、労働力不足を解消するための取り組みを挙げましょう。
物流ロボットの活用
導入コストと維持管理のためのランニングコストはかかりますが、担当者の負担軽減には非常に効果的な物流ロボット。決められたルートを走行して搬送を助ける無人搬送車や、周囲の人や物を察知して走行ルートを決める律走行搬送ロボットなどがあります。
共同配送
共同配送は、複数の運送業者が1つのトラックやコンテナを共同利用して配送するシステム。同一エリアに運ぶ貨物をまとめることで、トラック1台あたりの積載量が上がり無駄なく、少ないドライバーで対応可能になります。
また、物流業界における環境面の課題も問題視されています。
物流過程における環境問題の主なポイントが2つあり、1つは輸送手段における排ガス等の問題です。温暖化の要因となるCO2の排出量の多さでみると、運輸部門が国内のCO2排出量の約20%を占めています。
国土交通省によると、手段ごとの輸送量当たりの二酸化炭素排出量は、トラックが225g-co2/t・kmなのに対し、船舶は41g-co2/t・km、鉄道は18g-co2/t・kmであり、CO2排出量がトラックに対して、船舶では約6分の1、鉄道では約11分の1です。
もう1つは業務上の書類や包装、梱包材などの廃棄物問題もあります。
管理時のダンボールや木枠の使用を控え、リターナブルなスチールボックスなどに切り替えている業者も増えています。また梱包材の3R(リユース・リデュース・リサイクル)を推進することも廃棄物抑制に役立ちます。物流業務において使用する帳票類も電子化するなど変化しつつあります。
これら物流がもたらす環境問題を解決するには、最新の技術を採用しながら、より効果的な環境負荷軽減への道を探ることが大切でしょう。
EC市場の拡大と配送量の増加
EC物流の市場規模が拡大した理由はコロナ禍の影響が大きいと言えます。
経済産業省の調査によると、2021年のBtoC-EC需要は前年比で19.3兆円から20.7兆円に拡大し、大幅なEC市場規模拡大につながったとされています。
これは新型コロナウイルス対策で外出自粛が呼びかけられ、日用品や食品・飲料、家電、衣類など以前は店舗で購入していたものをネット通販で購入する割合や習慣が高くなったからでしょう。
また国内の物流業界全体の営業収入はおよそ24兆円にのぼり、海上・航空運送などと比較してもトラック運送事業の収入が非常に多く、また、2020年の宅配便取扱個数は約48億個と前年比で5億個以上(約11.9%)の増加となっています。
需要増加により、EC各社は顧客獲得のために無料配送や当日・翌日配送など配送サービス充実の競争化が起き、物流サービスのアウトソーシングなど、在庫管理や受注管理、出荷、配送管理まで委託できる業者の利用が増加しています。
しかし、こうしたサービス拡充は物流業者にとっては業務を圧迫します。
参照:物流を取り巻く動向について(令和2年7月)–国土交通省
ドローン配送の可能性と現状
前述のように物流・配送業界において労働力不足やCO2排出などの環境問題がある中、「ドローン」の誕生と普及によって今後大きな解決策になるのではないかと言われています。
ドローンに対する規制緩和や5G回線普及によるネットインフラ向上によって、ドローンがもっと身近なものになるとも見込まれています。
ドローンによる革新的な配送方法
物流業界に大きく貢献することが期待されるドローンは、2025年頃から一般的な配送が実現するのではないかと予想されています。
ドローン配送が実現すると、大きく5つのメリットがあると期待されています。
労働力不足の解消
物流業界が抱える人手不足の問題も、ドローン配送なら解決可能です。
既存ドライバーの業務負担が大きいこと、労働環境の悪化や収入面の減少から、労働力不足の改善は難しいとされていましたが、この現状を打破するのがドローンとなります。
コスト削減
ドローン配達は無人なため、トラック維持費・燃料費や人件費などが不要になるため、大幅なコスト削減にもつながります。
ドローン導入コストはかかりますが、低コストで配達できる可能性が大いにあります。
配達効率の向上
上空を飛ぶドローンは配達効率の向上に大きく貢献してくれます。
上空を飛ぶため、配達先まで一直線に最短距離を移動することが可能であり、渋滞に巻き込まれることもありません。
また山間部や離島といった、車の侵入や走行が難しく、時間がかかるような地域にも、簡単に配送できます。
交通渋滞緩和
ドローン配送が一般化すれば、従来の配送トラックによる配達は現在と比べると減少すると考えられ、都市部や高速道路などで起こる渋滞が発生しにくくもなるでしょう。
災害時などにも配送可能
上空から配達できることは災害時の物資運搬にも役立つと期待されています。
大規模災害が発生すると、被災地への陸路の物資運搬は難しくなります。ドローンであればトラックや船では行けない場所や、ヘリコプターの着陸場所がない所でも、安全に物資を運搬することが可能になります。
日本と世界のドローン配送実用化の比較
まだ日本では実用化までの多くの実証実験が行われているところですが、海外ではすでにドローンによる配送サービスが実施されている国もあります。
日本のドローン配送の現状
2022年12月、「航空法等の一部を改正する法律」が施行され、日本国内でのドローンのレベル4飛行が解禁されました。
レベル4飛行とは、有人地帯で目視の範囲外でドローンを自動・自律飛行させる方法のことです。
これによって一部地域を除いては住宅地や都市部など、人が行き交うエリアでも、目視外のドローンを自動・自律飛行させることが可能になりました。国土交通省は離島や山間部など、人口の少ない地域からドローン配送検証を行い、段階的に拡大していくロードマップを発表しています。
また日本郵便では、2016年にすでに輸配送業務へのドローンの活用を検討し始めています。2018年には、福島県南相馬市と浪江町間において日本初となる目視外飛行(レベル3)による配送を実現し、2019年以降は、奥多摩町や三重県熊野市でトライアルを重ねてきました。
2022年の改正航空法の施行によって、機体の認証制度や操縦士の国家資格が設けられた上でレベル4の飛行が解禁となりました。そして国土交通省航空局から飛行承認を取得し、日本初となるレベル4での飛行を実施し配送トライアルを行っています。
2023年からドローンでの郵便配達を本格的に導入すると発表しています。
参照:未来の物流レボリューションVol.4日本初!レベル4飛行でのドローン配送を実施
海外のドローン配送の現状
日本では実証実験が繰り返されている段階のドローン配送ですが、海外では既に実用化されている国もあります。
セブンイレブン社
セブンイレブンは2016年より、Flirtey社と共同で、アメリカでの商業ドローン配送に成功しています。
荷物収納ボックスと、上空から荷物を降ろすワイヤーが搭載されたドローンで行われ、店舗から住居まで自動で飛行して配達するもの。
セブンイレブンの店舗から、アプリを利用して商品を注文した顧客の元へドローンでの配送を完了しています。これはアメリカで初となる、FAA(アメリカ連邦航空局)認可の下でのドローン宅配実験の成功例であり先例です。
Amazon社
Amazonはドローン配送サービスである「Amazon Prime Air」を、2022年にアメリカで導入開始しています。
プライム会員向けの実証実験は以前から進められており、実際にはドローンを使用して約2.3kgまでの荷物を、物流拠点から購入者の家へ直接届ける仕組みです。
現在、配達地域はカリフォルニア州ロックフォードと、テキサス州カレッジステーションが送り先のみの対応です。
「大きさ」や「総重量」など荷物に制限はあるものの、「1時間以内に商品を届ける」ことを目標とし、注文した商品がすぐに届く画期的なシステムが計画され今後普及拡大することは大いに予測されています。
物流業界の効率化と環境対策
ECサイトの需要普及によって、物流業界にかかる負担は過去数年にくらべて格段に増しています。
長時間労働の問題や人材不足、環境問題の負荷がさけばれる中、一刻も早く物流業務の効率化を図らなければならないと考える事業者は少なくありません。
倉庫管理と輸配送管理の最適化
倉庫や輸送管理は物流業務において、それらすべての業務を効率化するのは決して簡単ではありませんが、全体を効率化できれば大幅な業界の安定化など目標達成できるとも言えます。
物流管理システムで各種データの可視化
大きく2つに分けられる物流管理システムは、物流業務の最適化を目的とした情報管理システムのことで、サプライチェーンに関するあらゆるデータ管理が可能になります。
倉庫管理システム(WMS):入荷管理、出荷管理、在庫管理など
輸配送管理システム(TMS):配車・配送計画、配車管理、動態管理など
これら物流管理システムを導入すれば、すべての情報をデジタル化できる他、人の能力に左右されずに物流計画が組めたり、それに伴い人件費やムダなコストが削減できたりというメリットがあります。
オートメーション化
次に、物流自動化ロボットを使用したオートメーション化があります。ピッキング・仕分け・荷役といった、これまで労働者が必要だった作業を、人に代わり実施してくれるロボットを活用したものです。
床の磁気テープに沿って荷物搬送をしてくれる無人搬送ロボットや、周囲を検知しながら目的地に向かって自律走行する自律走行ロボット、アームやレール上で仕分けを行ってくれる自動仕分けロボットなどがあります。
また近年では、これらのロボットを組み合わせたフルオートメーションの物流倉庫も登場しており、最小限の労働人員で、最大限の生産性を生み出すことにも成功しています。
デジタル技術を物流業務に活用している取り組みを「物流DX」と呼び、国土交通省もこれらの技術導入を推進しています。
物流アウトソーシング
物流アウトソーシングとは、物流業務の全てまたは一部を外部物流業者に委託するサービスのことです。
物流アウトソーシングを活用することで、自社で新たな人材を探したり、物流機能を持ったりする必要がなくなるため、限られたリソースを自社の中心業務に集中させることができます。
それぞれのプロに託すことで、輸配送時に発生しがちな破損や、商品のピッキング間違いなどトラブルが削減され、物流品質の向上に期待ができます。
ドローンと自動運転による将来の展望
2021年に改訂されたデジタル庁の官民ITS構想・ロードマップでは、2030年の目標として「国民の豊かな暮らしを支える安全で利便性の高いデジタル交通社会を世界に先駆け実現する」ことを掲げています。
デジタル交通社会とは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)技術などを駆使した情報連携から生み出されたモビリティサービスや自動運転などの革新的移動社会を指します。
物流業界の需要増加における業務の圧迫化や環境問題などは、従来のシステムのままでは改善されることは困難です。
しかし解決策のひとつと期待されている「ドローン配送」は、海外はもちろん、国内でも郵便局のように既に一部で導入が開始されています。
将来的な一般実用化にむけて、法整備やルール策定などが必要ですが、労働者不足や交通渋滞への対処策、CO2排出削減となるほか、過疎地の生活支援としても期待されているため、同時に技術発展も求められています。
デジタル交通社会への達成には、日本を取り巻くモビリティの自動化・電動化の流れ、未来社会構想、移動に関する深刻化する社会課題といった、さまざまな社会環境の変化を多軸的に把握することが必須です。
ドローン配送や自動運転トラックなどが技術発展し、普及拡大、連携し合うことで、高度な交通サービスやデジタルモビリティ社会を実現する環境を作り出していくことが可能となるでしょう。