商用車市場で長年の歴史を持つダイムラー・トラックは、優れた性能と信頼性で多くの運送業者から支持を受けています。ダイムラー・トラックの製品は、高い耐久性や経済性、環境性能を備えており、幅広い用途に対応する多様なモデルをラインナップしているのも魅力です。
本記事では、ダイムラー・トラックの特徴や種類を詳しく解説し、最新モデルの魅力、同社の今後の展望に迫ります。これからトラックの購入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
ダイムラートラックとは?歴史と成り立ち
ダイムラー・トラックは、商用車の分野で長い歴史を誇るブランドであり、その信頼性と性能は世界中で評価されています。まずは、ダイムラー社の創業から現在のダイムラー・トラックに至るまでの軌跡と、トラック産業への貢献についてみていきましょう。
ダイムラートラックの設立と歴史
ダイムラー・トラックは、ダイムラー・クライスラーの商用車部門として1998年に設立された会社です。
ダイムラー社は、1886年にゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツがそれぞれ創業した企業を源流としています。同社は世界で初めて「ガソリンを動力とする車両」に関する特許を取得したことでも知られており、1890年代から商用車市場へ進出し自動車を量産。
1926年には、ダイムラー社とベンツ社が合併しダイムラー・ベンツ社が設立され、トラックと自動車の技術統合によって製品開発が加速します。1950年代には、ディーゼルエンジンの普及により、商用車としての信頼性が向上しさらなる成長を遂げます。
2000年代に入り、環境意識の高まりから持続可能な輸送を目指す動きが高まってくると、電動化や自動運転技術の開発といった多様なニーズに応える製品の展開に着手。ダイムラーグループの一翼を担うダイムラー・トラックも、その革新性によって未来の輸送業界において重要な役割を期待されています。
ダイムラーグループにおける位置付けと事業展開
ダイムラー・トラックは、ダイムラーグループの商用車部門を担っており、トラック、バス、バンなどさまざまな商用車を製造・販売しています。
ダイムラーグループには複数のブランドがあり、そのなかで特に商業向けのトラックモデルを展開しているのがダイムラー・トラックです。このようにブランドを多様化することで、さまざまな市場ニーズに対応しています。
ダイムラー・トラックは、おもにグローバルな市場戦略と製品の多様化に注力し事業展開を行っています。
ヨーロッパ、北米、アジアなどの地域に特化したトラックモデルを展開しつつ、持続可能な輸送を目指し電動トラックや自動運転技術の開発も進めている状況です。地域特性を考慮した製品開発によって各市場での競争力を強化するとともに、デジタル化を推進し効率的な運行管理の実現を目指しています。
三菱ふそうとの関係と協業体制
ダイムラー・トラックと三菱ふそうは、ダイムラーグループの一員として密接な関係にあります。
三菱ふそうは、1932年に三菱重工業から独立して設立された「ふそう自動車製造株式会社」が前身です。
2003年にダイムラー・クライスラー(現ダイムラー・トラック)の傘下に入り、現在の「三菱ふそうトラック・バス株式会社」となりました。ダイムラー社の傘下に入ることで三菱ふそうはダイムラーの技術やリソースを活用できるようになり、グローバルな競争力を強化しています。
両社はエンジン技術や車両プラットフォームの共有を行い、アジア市場での強みを活かした戦略を展開しています。具体的には、ダイムラーの先進的な電動化技術と三菱ふそうの小型トラック開発ノウハウを組み合わせ、eCanterのような革新的な電動小型トラックの開発を実現しました。
また、ダイムラーの自動運転技術を三菱ふそうの車両に適用する取り組みも進行中で、日本の道路事情に適した自動運転システムの開発を共同で行っています。
さらに、環境に配慮した電動化や自動運転技術の開発にも共同で取り組み、持続可能な輸送ソリューションの提供を目指しています。両社の技術者が定期的に交流し、新技術の開発や既存技術の改良に取り組んでおり、この協業体制がダイムラー・トラックのグローバルな競争力向上に大きく貢献しています。
ダイムラートラックの代表的な車種と特徴
ダイムラー・トラックは、多様なニーズに応えるために幅広い車種を展開しており、それぞれが異なる特徴を持っています。ここでは、ダイムラー・トラックの代表的な車種、各モデルの特性や用途について詳しくご紹介します。
メルセデス・ベンツ・アクトロス:大型トラックのフラッグシップモデル
メルセデス・ベンツ・アクトロスは、長距離輸送向けに設計された高性能の大型トラックです。
最新のディーゼルエンジン技術を搭載しており、その優れた燃費性能と環境性能で排出ガスの低減を実現しています。具体的には、Euro VI規格に適合した6気筒直列エンジンを採用し、最大出力530馬力、最大トルク2600Nmという強力な性能を誇ります。
また、快適な運転環境を提供するため、広々としたキャビンや最新のインフォテインメントシステムを備えている点も特徴です。キャビン内には10インチのタッチスクリーンディスプレイを搭載し、ナビゲーションや車両情報の管理を直感的に行えるようになっています。
さらに、衝突回避支援や車線維持支援などの先進運転支援システム(ADAS)が搭載されており、安全性の観点からも多くの運送業者から高い評価を得ています。具体的には、アクティブブレーキアシスト5や車間距離保持機能付きクルーズコントロールなどが標準装備され、長距離走行時の運転負荷を大幅に軽減しています。
フレイトライナー・カスケディア:北米市場を席巻する長距離輸送用トラック
フレイトライナー・カスケディアは、効率と快適性を兼ね備えた北米市場向けの長距離輸送トラックです。
走行中の空気抵抗を最小限に抑えるエアロダイナミクスに優れたデザインが大きな特徴で、最新の燃費効率を追求したディーゼルエンジンによる環境性能の高さも強みです。具体的には、Detroit DD15 Gen 5エンジンを搭載し、最大505馬力、最大トルク1850lb-ftの性能を発揮します。
また、快適な運転環境を追求したキャビンや、先進のインフォテインメントシステムも充実しています。キャビン内には最大15インチのタッチスクリーンディスプレイを採用し、車両情報やエンターテインメント機能を統合的に管理できます。さらに、人間工学に基づいて設計されたシートは、長時間の運転でも疲労を軽減する効果があります。
アクトロス同様に衝突回避支援や車線維持支援システムなどの技術も搭載されており、ドライバーの負担が最小限に抑えられる運送業者にとって理想的な車両といえるでしょう。特に、Detroit Assurance 5.0という先進安全システムを標準装備し、アクティブブレーキアシストや車線逸脱警報などの機能を提供しています。
三菱ふそう・スーパーグレート:日本の物流を支える主力トラック
三菱ふそう・スーパーグレートは、おもに大型トラック市場向けに設計された高性能トラックです。強力なディーゼルエンジンによる優れたパフォーマンスと燃費効率に加え、広々としたキャビンデザインが特徴で快適性も兼ね備えています。具体的には、最新のFUSO 6R10エンジンを搭載し、最大440馬力、最大トルク2200Nmの性能を発揮します。
また、厳しい条件下でも安定した走行が可能な耐久性に優れたボディ構造と先進のサスペンンション技術で、効率的かつ安全な輸送を実現するトラックとして高く評価されています。特に、日本の道路事情に適した車両設計と、きめ細かなアフターサービス体制が、国内の運送業者から高い支持を得ている要因です。
さらに、スーパーグレートにも先進的な安全技術が搭載されています。例えば、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報システム、ふらつき警報などが標準装備され、長距離輸送時の安全性向上に貢献しています。また、最新モデルでは、部分自動運転技術の導入も始まっており、高速道路での長距離走行時のドライバー負担軽減に寄与しています。
ダイムラートラックの未来:電動化と自動運転技術への取り組み
ダイムラー・トラックは、持続可能な未来を見据えた電動化と自動運転技術の開発に積極的に取り組んでいるトラックメーカーです。これらの革新的な技術がどのようにトラック業界に変革をもたらすのか、ダイムラー社の最新の取り組みをご紹介します。
eActros、eCanter:環境に配慮した電動トラックの開発と普及
eActrosは、メルセデス・ベンツが長距離輸送市場向けに開発した電動トラックで、2021年に発売されました。
1回の充電で最大400キロメートルの航続性能を備えており、急速充電に対応したバッテリーを搭載しているため、都市内物流や短距離輸送にも適しています。欧州での商業運行が開始されてからは、環境への配慮を重視する企業に広く導入されています。
eActrosの具体的な性能データとしては、総重量40トンの牽引性能を持ち、3つの11.5kWhバッテリーパックを搭載しています。
充電時間は、急速充電を使用した場合、20%から80%まで約1時間で充電が可能です。また、回生ブレーキシステムを採用しており、制動時のエネルギーを効率的に回収し、航続距離の延長に貢献しています。
eCanterは、三菱ふそうが開発した世界初の量産小型電動トラックで、2010年にコンセプトモデルが発表され、2017年に量産型が発表されました。
都市部の配達や商業用途を中心とした小型トラックの需要に合わせ、ドライバーの快適性を考慮した設計が施されています。環境配慮と低騒音運転を兼ね備えたスペックが広く支持されており、おもに日本、北米、欧州での導入が進んでいる状況です。
eCanterの性能としては、最大積載量は3~3.5トンで、1回の充電で約100キロメートルの走行が可能です。充電時間は、急速充電を使用した場合約1時間で80%まで充電できます。特筆すべき点として、eCanterは従来のディーゼルエンジン車と比較して、CO2排出量を約100%削減し、騒音レベルも大幅に低減しています。
これらの電動トラックは、環境規制が厳しくなる都市部での配送や、持続可能な物流ソリューションを求める企業にとって、理想的な選択肢となっています。ダイムラー・トラックは、これらのモデルを通じて、商用車セクターの電動化を先導し、環境負荷の低減に大きく貢献しています。
自動運転技術の開発状況と今後の展望
ダイムラー・トラックは、トラック運行の安全性と効率を向上させるための技術革新を推進しており、自動運転を実現するためのさまざまなプロジェクトが進行中です。
例えば、前走車に追従するアダプティブ・クルーズ・コントロールと、車線維持を行う先進運転支援システム(ADAS)を組み合わせた自動運転機能の開発などが挙げられます。この技術は、高速道路での長距離輸送時にドライバーの負担を大幅に軽減し、安全性の向上にも寄与します。
ダイムラー・トラックの自動運転技術開発の現状として、レベル2の自動運転システムがすでに実用化されています。このシステムでは、高速道路などの特定の条件下で、ステアリング、加速、制動の一部をシステムが担当しますが、ドライバーは常に運転に関与し、必要に応じて介入する必要があります。
今後の展望としては、2025年までにSAEレベル4の高度自動運転システムの実用化を目指しています。
このレベルでは、特定の条件下において、システムがすべての運転タスクを担当し、ドライバーの介入なしで走行することが可能になります。ダイムラー・トラックは、この技術を長距離輸送ルートに導入することで、ドライバー不足の解消や輸送効率の向上を図ろうとしています。
さらに、自動運転技術の開発と並行して、車車間通信や路車間通信などのコネクテッド技術の開発も進めています。これにより、交通情報のリアルタイム共有や、効率的な車両管理が可能になり、物流全体の最適化につながると期待されています。
電動化やコネクテッド技術との統合を進め、持続可能で効率的な輸送ソリューションを提供することを目指しており、物流業界全体の革新が期待されます。例えば、電動トラックと自動運転技術を組み合わせることで、環境負荷を低減しつつ、24時間稼働可能な無人輸送システムの実現も視野に入れています。
このような取り組みを通じて、ダイムラー・トラックは単なるトラックメーカーから、総合的なモビリティソリューション提供企業への転換を図っています。
今後は、AIやビッグデータ解析技術を活用した予防保全システムの開発や、ブロックチェーン技術を用いた安全な物流管理システムの構築など、さらなる革新的な取り組みが期待されています。
ダイムラートラックと他のトラックメーカーとの比較
トラック市場には多くのメーカーが存在し、それぞれが独自の技術や強みを持っています。ほかの主要なトラックメーカーと比較したうえで、あらためてダイムラー・トラックの強みを探ってみましょう。
いすゞ、日野、UDトラックスとの比較:国内メーカーとの違い
ダイムラー・トラックは、グローバル市場での技術革新に力を入れ、自動運転技術や電動化において業界をリードし、北米や欧州、アジアで広範な展開を行っています。
一方、いすゞ、日野、UDトラックスといった国内メーカーは日本市場に重点を置いたモデルが多く、海外展開は限定的です。
ダイムラー・トラックの強みは、グローバルな研究開発ネットワークを活かした最先端技術の導入にあります。例えば、自動運転技術においては、ダイムラーはすでにレベル2の自動運転システムを実用化していますが、国内メーカーは主にレベル1の運転支援システムの段階にとどまっています。
電動化の面では、ダイムラーは長距離輸送用の電動トラックeActrosを商用化していますが、国内メーカーの電動トラック開発は主に小型車両や短距離輸送向けにとどまっています。例えば、いすゞの電動トラック「エルフ EV」は、航続距離が約200kmと都市内輸送向けの仕様になっています。
また、ダイムラーは持続可能な輸送を追求し、環境負荷を低減する電動トラックの開発に積極的ですが、国内メーカーの取り組みは相対的に遅れている状況です。例えば、ダイムラーのeActrosが400km以上の航続距離を実現しているのに対し、国内メーカーの電動トラックの多くは100-200km程度の航続距離にとどまっています。
ブランド力や国際的な信頼性もダイムラー・トラックの強みであり、これらの要素がグローバルな競争力の違いを生み出しているといえるでしょう。ダイムラーの「メルセデス・ベンツ」ブランドは、高級車メーカーとしての評価も相まって、商用車においても高い信頼性と先進性のイメージを確立しています。
一方で、国内メーカーは日本の道路事情や顧客ニーズに特化した製品開発を行っており、国内市場においては強い競争力を持っています。例えば、狭い道路や頻繁な発着を伴う配送業務に適した小回りの利く車両設計や、きめ細かなアフターサービス体制などが、国内顧客から高く評価されています。
ボルボ、スカニアなど、海外メーカーとの比較
ボルボはダイムラー・トラックと同様に先進運転支援システムや電動トラックの開発に注力しており、特に安全技術において高い評価を受けています。例えば、ボルボの「Volvo Dynamic Steering」システムは、低速時の操舵力軽減と高速時の直進安定性向上を両立し、ドライバーの疲労軽減に貢献しています。
スカニアは、燃費効率とパフォーマンスに優れたエンジン技術を提供し、長距離輸送向けの強力なモデルラインナップが強みです。特に、スカニアの最新エンジンは、バイオ燃料やLNG(液化天然ガス)などの代替燃料にも対応しており、環境性能と経済性の両立を図っています。
環境問題への対応は各社に共通するテーマで、ダイムラー・トラックとボルボは電動トラックを通じて持続可能な輸送を追求しています。ダイムラーのeActrosとボルボのFE Electricは、どちらも都市内配送や地域輸送向けの電動トラックとして開発されていますが、eActrosの方が若干長い航続距離を実現しています。
スカニアは、持続可能な燃料やリサイクル可能な部品を使用した製品開発に取り組んでいます。例えば、スカニアのバイオエタノールエンジンは、従来のディーゼルエンジンと比較してCO2排出量を最大90%削減することができます。
事業展開の方針やビジネス戦略は三者三様です。ダイムラー・トラックはグローバルな展開を強みとし、特に北米や欧州で強力なプレゼンスを持っています。例えば、北米市場ではフレイトライナーブランドを通じて大きなシェアを獲得しています。
ボルボは安全性と環境への配慮を前面に出したマーケティング戦略を展開しています。「Volvo Safety Concept Truck」のような革新的な安全コンセプト車両の開発を通じて、安全技術のリーダーとしてのブランドイメージを強化しています。
スカニアはカスタマイズ性の高いトラックを提供し、顧客のニーズに応じたソリューションを提案しています。「Scania Tailor-Made」プログラムでは、顧客の業務に最適化されたトラックの構成を提供し、運用効率の最大化を図っています。
これらの要素を含め、海外メーカー各社はそれぞれが強みを活かしながら競争を続けており、商用車市場の進化に貢献しているといえるでしょう。ダイムラー・トラックは、グローバルな展開力と先進技術の開発力を活かし、この競争の中で重要な位置を占めています。
今後も、電動化や自動運転技術の分野でリーダーシップを発揮し、持続可能な輸送ソリューションの提供を通じて、物流業界の発展に寄与していくことが期待されます。



