女性ドライバーの増加とその背景
物流・運送業界において2024年問題を抱える今、働き方改革法案による労働時間に上演が課されている問題が発生しており、企業には変革が問われています。
また、人手不足にもあえぐ中、まだまだ問題は解消されていないのが現実ですが、近年、女性トラックドライバーの数が増加傾向にあります。今回は、その背景、そして多様性の時代を生き抜く実情を見ていきましょう。
業界内の女性比率の変化
総務省統計局の調査によれば、運輸業・郵便業は、建設業に次いで2番目に女性比率が低い業界と言われており、2022年の労働力調査では、国内トラックドライバーは約86万人となっています。うち女性トラックドライバーは3.6％（約3万人）ほどであると見られています。
男女の就業者数に差があるのは、女性にとって働きにくいイメージが持たれていることが原因の一つと言われており、いわゆる「きつい」「汚い」「危険」の3Kもそのひとつでしょう。
また、業界では、慢性的な人手不足やドライバーの高齢化に悩んでおり、業界動向として、国土交通省において2014年を「人材確保・育成元年」と位置づけ、「トラガール促進プロジェクト」を立ち上げています。全日本トラック協会も積極的にトラガールの育成に力を入れており、近年、その認知度も増えた中、女性トラックドライバーを積極的に採用する企業も増加しており、それに伴い業界内の女性比率も増加傾向にあります。
女性ドライバー支援の取り組み
物流業界において、ある調査によると女性社員を積極的に採用している企業は約５割となっており、企業は女性に対してアイデアの提案、業務改善、効率化を期待しているようです。
女性ドライバーを増やしていくためには、企業体制及び福利厚生を充実させ、魅力あるものにしていかなければなりません（もちろん男性社員に対しても魅力的なものでなければなりません）。3Kの払拭、充実したOJT、子育て支援等、企業体制を整える必要性があり、また求人においては、求職者へうまくアピールすることも大切なことです。
トラガール促進プロジェクトにおいて、企業側に対しては、助成金や奨励金が充実しており、業界内においてもトラガールは注目されている存在であることから、今後もますます女性ドライバーが増えていくことが予想されます。
女性の進出による業界変革
日本において女性の社会進出は年々増加しており、企業の取締役へと出世する方も多くいらっしゃいます。物流・運輸業においても同じく女性の社会進出が僅かながら進んでおり、企業は人手不足に悩む中、女性の雇用を増やしていくために「物流・運輸業界は男性中心の業界である」というイメージを払拭するための施策を行っています。女性の進出による業界の変革について見ていきましょう。
女性ドライバーによる業界への影響
トラックドライバーの仕事へのイメージとしては、「長時間労働、社内設備の老朽化＝3K（きつい、汚い、危険）」などがあげられます。こういったイメージを持つのは、近年では女性だけでなく、若い男性も3Kに対して就職の判断材料として見ているようです。
企業側は、女性専用トイレや更衣室の設置、育児や介護と仕事の両立支援制度の導入、託児所の設置など女性が働きやすい環境作りに着手する必要性があるといえます。
また企業は、永続的に事業を営んでいかなければならず、多くの企業は人手不足の解消と社員定着率の安定が大きな課題となっています。採用を増やし、人手不足を解消していくという意味では、既存社員の働き方にもよい影響を与えるといえ、全体を通して有効的な作用があるものと期待されています。
多様性の重要性と将来展望
昨今、「多様性」という言葉は、社会を生きていくうえで重要となりつつあります。性別、人種、宗教、国籍などだけではなく、インターネットが普及し、SNS等で安易に様々な情報を入手できることから、人々の興味は細分化され、またそれに伴い思考も多様になっているといえます。
つまりは、仕事に対する考えも昔以上に様々であり、「曜日、時間関係なく働いてお金を稼ぎたい人」、「趣味に時間を費やしたいために労働時間を短くしたい人」、「一生独身で過ごすと決めており、生活できる範囲の稼ぎがあればよく、出世意欲がない人」など、ある意味これらも多様性です。
もちろん、女性トラックドライバーを受け入れることも多様性であり、逆に女性がトラックドライバーの仕事をしたいという考えも多様性であるといえます。
「多様性を柔軟に受け入れ、かつそれを活用できる企業」が今後ビジネスを勝ち抜いていく企業であり、そして、この柔軟性を掛け合わせたことにより生まれたアイデアこそが、きっと新たな市場を創造していくことでしょう。この流れは今後ますます加速していくものと思われ、企業には少しでも早く「多様性」を活用する体制を構築することが望まれます。
女性の活躍と業界成長
筆者は、男女差別という考えはまったくなく、良い意味で「男性の役割（男らしさ）」、「女性の役割（女らしさ）」というものが存在すると思っています。ただ、近年では、そもそもその考え方が男女差別と言われたり、実際に男女の役割の垣根がなくなってきたりしているのは事実です。
女性トラックドライバーが活躍できる環境においての問題点とはどのようなものなのか、そしてそれが業界成長へとどう繋がっていくのかを見ていきましょう。
課題と解決策
女性トラックドライバーが活躍する環境においては、今後ESG経営がヒントであると思われます。ESGとは、環境（Environment）、社会（Social）、ガバナンス（Governance）の頭文字をとって作られた言葉で、企業活動や投資判断の中心的なテーマである「持続性」
を測る基準として注目されており、その考えは、グローバルスタンダードとして定着しているのが現実です。
企業は、持続可能な世界の実現のために様々な課題をクリアしていく必要があります。こうした環境・社会・ガバナンスに注力している企業は、求職者目線から見て魅力的な会社であり、求人倍率も高いといえるでしょう。
女性トラックドライバーを増やしていきたいと考えている企業があれば、このESGを基準として、社内体制を整えることが先決といえます。
女性ドライバーと業界のシナジー
女性ドライバーが業界へ与えるシナジー（相乗効果）にはどういったものがあると思いますか。先述の通り、「女性の役割（女らしさ）」という言葉を使うとすれば、男性の比率が高い業界において、今後更に女性雇用の比率が増加し、なおかつ女性管理職も増加していけば、今まで気づかなかった課題や問題点を新たな視点でクリアできる可能性が高くなることでしょう。
新たな視点から見出すESGを追求することで、会社の基盤を強固なものにしていく力が備わっているという考え方もでき、それは3Ｋの払拭や荷役作業を省力化する設備投資など、男女が働きやすい職場を作ることができる企業として世間から評価され、こうしたことに取り組む企業こそが今後生き残っていく企業といえます。
近年では、ＡＩ技術が大きな進歩を遂げており、人間がやっていた仕事をすべて機械に任せるという企業は今後も増えてくると見られています。ただ、それらをすべて作り出した大元は我々人間です。雰囲気（空気）の読み取りなど、人間にしかできない仕事ももちろん残されており、こういったところは、女性の活躍が見込まれる場であるといえるでしょう。
女性ドライバーの雇用増加、体制づくりに成功している企業を参考とする企業が今後増えていけば、女性ドライバーが業界に与えるシナジーは十分あるといえます。
2014年から取り組まれているトラガールの挑戦は、業界を通して見れば、まだまだ始まったばかりなのです。
