深刻な人手不足に喘ぐ日本のトラック業界。高齢化によるドライバーの減少や、労働条件の厳しさから若者の入職は減少の一途を辿っています。こうした状況を打破する一手として、特定技能制度がトラック業界にも拡大されました。
外国人ドライバーの受け入れは、業界にどのような変化をもたらすのでしょうか? 本記事では、制度の概要からメリット・デメリット、そして未来への展望まで、詳しく解説していきます。
止まらない高齢化、深刻化する人手不足
国土交通省の調査によると、2022年度のトラックドライバーの平均年齢は40.7歳と、高齢化が急速に進んでいます。全産業の平均年齢が41.2歳であることと比較すると、その深刻さが浮き彫りになります。
有効求人倍率も、全産業平均が1.30倍であるのに対し、トラック輸送業は3.77倍と、人材不足は深刻化の一途を辿っています。政府は2030年までに約10万人規模の外国人ドライバーの受け入れを目標としていますが、現状では人材確保の目処が立っておらず、業界全体の輸送力低下が懸念されています。特に、地方部における人材確保は深刻で、一部の地域では輸送サービスの維持が困難になりつつあります。
従来の人手不足解消のための対策として、賃金アップや労働時間短縮、女性ドライバーの積極的な採用などが行われてきましたが、抜本的な解決には至っていません。そこで期待されるのが、外国人ドライバーの活用です。体力があり、長時間労働にも耐えられる若年層の外国人材は、人手不足解消の切り札として注目されています。厚生労働省の発表によると、2023年12月末時点で特定技能1号の資格を取得した外国人労働者は約47万人に達しており、トラック運送業でも受け入れが開始されています。
特定技能制度とは? 外国人ドライバー受け入れの仕組み
特定技能制度とは、2019年4月に施行された外国人材の受け入れを促進するための新たな在留資格です。「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があり、トラックドライバーは1号に該当します。政府は制度開始から2030年度までの期間で、段階的に受け入れ規模を拡大する計画を掲げています。
特定技能1号を取得するためには、まず技能試験に合格する必要があります。この試験では、道路交通法や貨物自動車運送事業法などの知識に加え、大型トラック、中型トラック、軽貨物自動車の実技試験が課されます。試験は母国で実施され、合格後に来日するケースが一般的です。さらに、日本語能力試験で日常会話レベルのN4を取得することが求められます。これは、職場で上司や同僚とコミュニケーションをとったり、簡単な指示を理解したりできる程度の日本語能力です。
受入れ企業には、外国人材に対して日本人と同等以上の待遇を確保することが義務付けられています。具体的には、月給23万円以上(2023年時点の業界平均)の給与水準、社会保険の完備、安全な労働環境の整備などが求められます。外国人材の採用や生活支援を行う登録支援機関への委託も必要で、委託費用は企業や機関によって異なります。
特定技能1号で就労できる業務範囲は、大型トラック、中型トラック、軽貨物自動車の運転はもちろん、荷物の積み下ろしや配送、車両の点検整備なども含まれます。ただし、危険物運搬や特殊車両の運転には、別途資格が必要となります。在留期間は通算5年までで、2号への移行は認められています。
先行事例から学ぶ準備のポイント
すでに技能実習制度などで外国人材を受け入れている企業の事例から、特定技能制度で外国人ドライバーを受け入れる際の成功のポイントが見えてきています。
企業事例1
東京都内の運送会社A社では、技能実習生として受け入れているベトナム人材に対し、きめ細かな教育プログラムと生活支援を実施しており、この経験を特定技能制度での受け入れにも活かす予定です。A社では、経験豊富な日本人ドライバーと外国人ドライバーをペアにすることで、OJTを通じて実践的なスキルを習得させるとともに、日本の商習慣や接客マナーも自然に身につけてもらう取り組みを行っています。また、スマートフォンアプリを活用した多言語コミュニケーションツールを導入することで、言語の壁を最小限に抑えることにも成功しています。
企業事例2
大阪の物流会社B社は、制度開始に向けて、すでに準備を進めています。B社では、母国語対応の業務マニュアルやAI翻訳ツールを導入し、外国人ドライバーがスムーズに業務を理解できるようにするだけでなく、24時間体制の相談窓口を設置することで、生活面での不安やトラブルにも対応できる体制を整えています。
行政による支援体制
外国人ドライバーの受け入れを促進するため、国や地方自治体はさまざまな支援策を用意しています。厚生労働省は「特定技能外国人受入れ環境整備事業」として、企業向けに最大300万円の助成金を設けています。この助成金は、日本語教育や生活支援、設備整備などの費用に充てることができます。
さらに、国土交通省は「自動車運送事業等における外国人労働者受入れ促進事業」を実施し、専門のアドバイザーによる相談窓口の設置や、企業向けセミナーの開催など、包括的なサポート体制を整えています。地方自治体レベルでも、外国人材の受入れ支援センターの設置や、生活ガイドブックの多言語化など、独自の取り組みが進められています。
外国人ドライバー採用で会社はどう変わる? メリット・デメリットを徹底分析
外国人ドライバーを採用することで、企業は人手不足の解消、多様性の促進、グローバル化への対応といった様々なメリットを得られると期待されています。
人材確保のメリット
まず、人手不足の解消という点では、外国人ドライバーは貴重な戦力となります。特に、若年層の外国人材は体力があり、長時間労働にも対応できるため、即戦力として期待できます。また、人材の多様化は、企業の活性化やイノベーションにも繋がります。実際に技能実習生として外国人を受け入れている企業からは、「従来の働き方や業務プロセスを見直すきっかけになった」「職場の雰囲気が明るくなった」といった声も聞かれます。
コスト面での検討事項
コスト面では、外国人ドライバーの採用には、在留資格取得の支援費用、日本語教育費用、住居支援費用など、一定の初期投資が必要となります。制度開始に向けて、これらの費用を事前に見積もり、予算化しておく必要があります。ただし、これらの費用の多くは助成金の対象となるため、実質的な企業負担は軽減されます。また、長期的な視点では、生産性向上や業務効率化によるコストメリットが期待できます。
グローバル化への対応
グローバル化が加速する物流業界において、外国人ドライバーの採用は、企業の国際化を促進する効果も期待できます。海外との取引拡大や、外国人顧客へのサービス向上にも繋がる可能性があります。また、外国人ドライバーの視点や発想は、新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけになるかもしれません。
受入れ企業に求められる体制整備
制度開始に向けて、企業には充実した支援体制の構築が求められます。就労支援においては、母国語による安全教育や運行管理者による丁寧な指導が不可欠です。また、デジタルタコグラフやドライブレコーダーなどのテクノロジーを活用し、運転技術の向上をサポートすることも重要です。
生活面では、住居の確保や医療機関の紹介、銀行口座開設のサポートなど、きめ細かな対応が必要となります。特に、来日直後の3ヶ月間は重点的なフォローアップが求められます。文化や習慣の違いによる戸惑いも多いため、日本人社員との交流機会を積極的に設けることも効果的です。
未来へ加速するトラック業界! 外国人材との共存で描く新たな道
特定技能制度の導入により、トラック業界は大きな転換期を迎えました。外国人ドライバーの受け入れは、単なる人手不足対策にとどまらず、業界全体の活性化につながる可能性を秘めています。
今後は、自動運転技術やAIの進展を見据えた新たな役割の創出も重要となります。外国人ドライバーが単なる労働力としてではなく、次世代の物流を支える専門人材として活躍できる環境づくりが必要です。そのためには、継続的な技能向上の機会提供や、キャリアパスの明確化も欠かせません。
政府は受け入れ開始後、定期的に制度の運用状況を検証し、必要に応じて見直しを行う方針です。業界団体や受入れ企業の声を積極的に取り入れながら、より実効性の高い制度へと発展させていくことが期待されています。 外国人ドライバーとの共生は、トラック業界に新たな可能性をもたらすはずです。多様な人材が活躍できる環境づくりを進めることで、持続可能な物流システムの構築が実現するでしょう。