特定技能「自動車運送業」の制度が動き出し、外国人ドライバーの採用を本格的に検討する運送会社が増えています。ただ、日本人ドライバーの採用とは費用の構造がまるで違います。
人材紹介料、送り出し機関への手数料、ビザ申請、住居準備、免許取得、支援委託費。項目が多いうえに、海外から呼ぶのか国内で採るのかによって金額がかなり変わります。この記事では、外国人ドライバーの受入れにかかる費用を項目別・ルート別に整理し、見落としやすいコストや費用を抑えるための判断基準までまとめました。
受入れ費用は何にいくらかかるのか
外国人ドライバーの受入れ費用は、大きく「採用・ビザ申請」「入国準備・免許取得」「乗務開始後の継続費用」の3つに分かれます。順番に見ていきます。
採用・ビザ申請にかかる費用
最初に発生するのが人材紹介料です。登録支援機関や紹介会社を通じて採用する場合、1人あたり30万〜60万円程度が相場です。定額制のところもあれば、年収の20〜30%を成功報酬として設定する会社もあり、金額の幅はかなりあります。
自動車運送業は2024年に制度が始まったばかりで、対応できる紹介会社自体がまだ限られています。見積もりの段階で複数社を比較しておくのが無難です。
海外から人材を呼ぶ場合は、送り出し機関への手数料が20万〜60万円ほど加わります。送り出し国によって金額差が大きく、ベトナムやミャンマーなど二国間協定で送出機関の利用が義務づけられている国では、この費用は避けられません。
在留資格の申請も費用がかかるポイントです。海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内の外国人を採用する場合は「在留資格変更許可申請」が必要で、行政書士や登録支援機関に書類作成を委託すると1人あたり12万〜20万円が目安になります。
自社で対応すれば委託費はかかりませんが、特定技能の申請書類は量が多く、初めての企業が独力でやり切るのは相当な負担です。
入国準備と免許取得にかかる費用
入国・受入れ準備では、渡航費(片道5万〜10万円)、住居の初期費用(敷金・礼金・家具家電を含めて15万〜25万円程度)、生活必需品の準備(2万〜5万円)が発生します。住居費用は地域や物件のタイプで大きく変わるため、あくまで目安として見てください。空港への出迎えや転入届・銀行口座開設の同行といった実費も地味にかかります。
ドライバー特有の大きな出費が免許取得・研修費用です。母国の運転免許を持っている人材であれば外免切替で対応できますが、免許を持っていない場合は日本の教習所で一から取得することになります。
普通免許の取得費用は20万〜30万円、中型・大型免許はさらに20万〜35万円。また、国土交通省告示に基づく初任運転者研修(座学15時間以上・実技20時間以上の計35時間以上)の実施も必要です。
初期費用と毎月かかる費用を分けて考える
ここまでの費用は、採用から乗務開始までに一度だけ発生する初期費用です。海外から新規で採用する場合、初期費用の合計は80万〜120万円程度が一般的な目安。オンライン面接で現地渡航費を省けば、もう少し圧縮できます。
一方、乗務が始まってからも毎月かかるのが登録支援機関への支援委託費です。特定技能の受入れ企業には、生活オリエンテーション、相談対応、定期面談など10項目の義務的支援が求められます。
自社で全支援を実施できる体制があれば委託は不要ですが、多くの運送会社は登録支援機関に委託しており、その費用は1人あたり月額2万〜4万円が相場です。
年間にすると24万〜48万円。5年間の在留期間で計算すれば120万〜240万円。初期費用よりこちらのほうが総額では大きくなるケースもあり、予算を組むうえで見落としてはいけないポイントです。
在留資格の更新申請を外部に委託すれば、1回あたり6万〜10万円がかかります。更新のタイミングは在留期間によりますが、初回は1年で更新になる企業が大半です。なお、2025年4月の政令改正により、在留資格変更・更新の入管手数料は窓口申請で6,000円(オンライン申請は5,500円)に引き上げられています。
継続費用を含めた「1年目のトータルコスト」で見ると、海外採用で110万〜160万円程度、国内採用で60万〜100万円程度が目安になります。紹介料だけを見て安いと判断せず、月額費用や更新費用まで含めた総額で比較してください。
海外採用と国内採用で費用はどう変わるか
採用ルートによって費用構造はかなり異なります。もっとも費用が膨らむのは海外から新規で呼ぶケースです。人材紹介料、送り出し機関の手数料、渡航費、住居の初期費用、在留資格認定申請の委託費がすべて重なり、初期費用だけで80万〜120万円に達します。現地面接のために担当者が渡航すれば、出張費として15万〜25万円が上乗せされます。
すでに日本国内に在留している外国人を採用する場合は、送り出し機関の手数料と渡航費が不要になります。日本で生活している人であれば住居の新規準備も省けることがあり、初期費用は30万〜60万円程度で収まるケースが多いです。
ただし国内採用にも落とし穴があります。自動車運送業の特定技能は2024年12月に評価試験が始まったばかりの分野で、国内に「試験合格済みで日本の運転免許も持っている外国人」はまだほとんどいません。
他分野から転職してくる場合は、入社後に試験合格と免許取得を進めることになり、その間の人件費と教育コストが上乗せされます。額面の初期費用は抑えられても、戦力化までの時間が読めないリスクは頭に入れておく必要があります。
技能実習からの移行はどこまで抑えられるか
自動車運送業は技能実習の対象職種ではないため、「自社の技能実習生をそのままドライバーに移行する」というルートは存在しません。ただし、他の職種で技能実習2号を良好に修了した外国人が、特定技能「自動車運送業」に在留資格を変更して転職してくるケースは今後増えると見込まれています。
このルートでは送り出し機関の費用が不要です。すでに日本で生活しているため住居準備も最小限で済み、在留資格変更申請の委託費(12万〜20万円)、特定技能評価試験の受験、運転免許の取得費用くらいで、初期費用は20万〜50万円程度に抑えられます。
ここで注意したいのが試験免除の範囲です。技能実習2号を良好に修了していれば日本語試験は免除されますが、自動車運送業分野の技能評価試験は免除されません。
自動車運送業は技能実習の対象外なので、どの職種から移行する場合でも必ず「異分野」扱いとなり、技能試験の合格が求められます。加えて日本の運転免許がなければ乗務はできません。
それでも、このルートの優位性は大きいです。日本語力と生活習慣がすでに身についている人材は、運転教育や安全指導の飲み込みが早い。コミュニケーションの土台ができているぶん、配車係や同僚との連携もスムーズに進みます。費用面だけでなく、現場での教育効率と定着率を考えると、検討する価値は十分あります。
見積に出てこない隠れたコストに注意する
紹介料やビザ申請費だけを見て予算を組むと、あとから想定外の出費に驚くことになります。受入れを経験した企業が「見積に入っていなかった」と口をそろえるのが、生活の立ち上げにかかる細かな費用です。
住居の準備は物件の契約費用だけでは終わりません。家具付き物件を選べば初期費用は抑えられますが、WiFiルーター、寝具、調理器具、洗剤やタオルといった日用品まで含めると、1人あたり5万〜10万円程度はかかります。複数人を同時に受け入れるなら、その分がそっくり上乗せされます。
運転免許の取得方法による費用差も見落としやすいポイントです。外免切替なら試験場手数料や翻訳文の取得費などを含めて1万〜2万円程度で済みますが、本国の免許を持っていない人材や、外免切替の技能確認に何度も落ちてしまう場合は、教習所に通う方針に切り替えるしかありません。
普通免許で20万〜30万円、大型免許ならさらに20万〜30万円。しかも教習所に通っている間は乗務ができないのに、給与や社会保険料は発生し続けます。見積もりには出てこない「免許取得期間中の人件費」は、実質的なコストとしてかなり大きなものです。
日本語教育の費用も頭に入れておいてください。自治体の無料日本語教室を活用する方法もありますが、配送先での受け答えや安全指導の内容を理解させるには、業務に即した日本語教育が必要になる場面があります。外部の日本語研修はオンラインのグループレッスンなら月額数千円で済むものから、対面の個別指導で数万円のものまでさまざまです。
住居費・教育費は企業と本人でどう分けるか
住居費用や生活立ち上げ費用は、法律上すべてを企業が負担する義務はありません。特定技能外国人の運用要領では、住居の引越し費用や初期費用、家賃について、合意のうえで本人負担とすることが認められています。
ただし現実問題として、本人負担を重くしすぎると応募が集まりません。特定技能で来日する外国人の多くは、生活コストを抑えて母国への仕送りに回したいと考えています。家賃の一部補助や社員寮を提供している企業のほうが応募は集まりやすく、入社後の定着率も高い傾向にあります。
教育費も同じです。初任運転者研修の費用(約1万5,000円)や安全教育は企業負担が基本ですが、日本語学習には本人が自主的に取り組む部分も多いです。企業としては、自治体の日本語教室や無料オンライン教材の情報を提供しつつ、業務上必要な専門用語の研修だけを自社負担で行う。この線引きが、費用と効果のバランスがとれた落としどころです。
費用を抑えるために見積で確認すべき項目
登録支援機関や紹介会社から見積を取る際、金額だけで比較するのは危険です。同じ50万円の紹介料でも、どこまでの業務が含まれているかで実質コストはまったく変わります。
見積比較で必ず確認すべきなのが、支援委託費に含まれる業務の範囲です。定期面談、相談対応、転入届や銀行口座開設の同行、行政手続きの翻訳対応。どこまでが月額費用に入っていて、どこからオプション料金になるのか。このあたりが曖昧な見積もりは、あとから追加請求が出る原因になります。
返金規定のチェックも外せません。採用した外国人が入社前や入社直後に辞退・離職した場合、紹介料の一部が返金される契約かどうか。返金規定がない会社に高額の紹介料を払い、入社前に辞退されたケースは実際に起きています。
自動車運送業分野の対応実績がある登録支援機関かどうかも大事な判断材料です。運送業特有の事情、つまり初任運転者研修の手配、外免切替の手続き支援、運行管理体制の整備に精通している機関はまだ多くありません。実績のない機関に任せると、結局は自社で動かなければならない部分が増え、手間もコストも余計にかかります。
もう一つの選択肢として、人材紹介と支援業務を同じ会社にまとめて依頼する方法があります。窓口が一つになれば管理の手間が減り、セット料金で割安になることも。ただし、支援の質が紹介のおまけ程度になっているところもあるので、支援体制は別途確認してください。
安さだけで選ばず定着まで見て判断する
費用を考えるうえで見落とされがちなのが、離職した場合の再採用コストです。80万円かけて採用した外国人ドライバーが半年で辞めれば、また同じだけの費用がかかります。初期費用の安さだけで委託先を選ぶのではなく、過去の定着率や離職後のフォロー体制まで見て判断すべきです。
特定技能の外国人は、技能実習生と違って転職ができます。より条件のよい会社に移ってしまうリスクは常にあります。だからこそ、受入れ時に生活基盤をしっかり整え、職場でのコミュニケーションを支え、先の見えるキャリアパスを示すことが定着につながります。こうした取り組みには費用がかかりますが、長い目で見ればトータルコストは確実に下がります。
初期費用だけ比べても意味がありません。1年間、3年間、5年間でどれだけの費用が発生し、その間にドライバーがどれだけ稼いでくれるか。その視点で計算してはじめて、本当にコストパフォーマンスの高い採用ルートと委託先が見えてきます。



