フィジカルインターネットが目指す世界

目次

はじめに

物流業界が直面する課題と、その解決策として注目されているフィジカルインターネットについて、JPIC(一般社団法人フィジカルインターネットセンター)の事務局長、奥住智洋氏にお話を伺いました。

本インタビューでは、JPIC設立の背景、現在の活動、将来のビジョン、そしてフィジカルインターネット推進における課題について掘り下げています。物流業界の変革に向けたJPICの取り組みをお伝えいたします。

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そもそもフィジカルインターネットとは?

一言で言うと、フィジカルインターネットは業種や業態を超えた「究極の」共同物流の実現です。今話題になっている物流の2024年問題として、トラックの積載率が4割を切っているという状況がありますが、共同物流が広まることでこの問題が少しは改善されると期待しています。

改めましてJPICについて簡単な紹介と目的について教えてください

一般社団法人フィジカルインターネットセンター(JPIC)は、フィジカルインターネットに関する調査研究、普及啓発、人材育成など、さまざまな取り組みを行っています。また後述する、法改正により対象企業に設置が義務付けられる物流戦略を統括的に意思決定する「物流統括管理者(CLO)」のサポートに向けた準備も進めています。

こうした取り組みを通じてフィジカルインターネットを実現し、物流の安定供給と環境負荷の削減に貢献したいと思っています。

JPIC創設の背景について詳しくお教えください

JPICはヤマトグループ総合研究所からスピンアウトする形で、2022年6月に有志企業で設立。 その後、内閣府主導で実施された戦略的イノベーション創造プログラム「スマート物流サービス」の後継団体として2023年2月に行政から公認されました。

行政主導である「スマート物流サービス」の研究開発が終了し、推進法人が解散することになりました。次年度以降も「スマート物流サービス」の研究成果を社会に発信し、実際の物流システムに取り入れるためには、組織が必要とされていました。特に、「スマート物流サービスの啓蒙活動」、「物流標準ガイドラインの維持」、「国際連携」の3つの機能を維持・継続することが重要でした。

そこで、JPICが中心となり、SIP研究開発プログラムに参加した企業と連携して、これらの研究成果と社会実装のさらなる普及を目指すことになりました。さらに、2023年10月には組織を一新し、物流ニーズの多様化や環境問題への対応を強化しています。

現在取り組んでいる内容は何ですか?

現在、私たちはフィジカルインターネットに関する啓蒙活動、調査、研究を行っています。この取り組みはSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の活動を引き継ぎ、フィジカルインターネット実現ロードマップに基づいています。具体的には、物流・商流のプラットフォームを構築し、効率性の向上、強靭性の確保、良質な雇用の確保、そして物流を社会インフラとして強化することです。また、物流DXや物流標準化の推進を通じて、サプライチェーン全体の最適化と、シンプルかつ滑らかな物流の実現を目指しています。

物流業界で感じている問題点や課題とは?

物流の生産性を約30%向上させなければ、日本の物流が機能しなくなるという危機感が、JPIC創設の出発点でした。これを解決するには、物流プロセスを最適化し、生産性を上げるしかないと考えました。そして、その最適化の方法として、フィジカルインターネット構想があるとJPICでは定義しています。共同物流を実現するためには、水平連携と垂直統合、そしてデジタル化を絡めた3次元のネットワークを拡大させていくことが不可欠であると考えます。

物流業務の標準化における課題とは?

標準化は目的ではなく手段であり、生産性を向上させるためにはフィジカルインターネットの実現が不可欠です。そのためには、AIやビッグデータ、そして標準化が必要です。情報の標準化はそういうポジションにあるものだと思っています。

しかし、各企業において既存の仕組みで運用されているため、現在のシステムを標準化するには多くの時間とコストがかかります。そのため、共通言語でならばシステムがシームレスに連携可能である等のメリットは充分理解しているものの企業は導入に慎重になっているのが実態です。

JPICの直近のビジョンや目標を教えてください

2024年問題に対応するために、政府は2023年6月に「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、荷主企業に対して「物流統括管理者(*CLO)」を設置することが義務付けられています。CLOが設置されることで、物流が経営の重要な課題として捉えられるようになると考えています。

JPICでは、今年の6月にCLOシンポジウムを開催し、以下の2つを宣言しております。

1.CLOに求められる要件の整理
2.CLO協議会の立ち上げ
この協議会を発足し、今年度は4回開催する予定です。CLOの方々が実務で役立つ事例や情報を発信・共有することで、共同輸送や共同保管などによる生産性向上を目指し、最終的には国全体でのフィジカルインターネットの実現を目指していきます。
*CLO=Chief Logistics Officer(最高ロジスティクス責任者)

今後に向けたメッセージ

JPICの今後のイベントや活動へのご参加をぜひお待ちしております。今年度は、ワークショップやセミナーを各10回ほど開催する予定です。また、2月14日にはシンポジウムも予定しています。その他、標準化事業にも積極的に取り組んでいきます。

フィジカルインターネットの国際会議は毎年1回開催されており、昨年はアテネ、今年はアメリカのジョージア州サバンナで5月に開催されました。JPICは、フィジカルインターネットの研究をリードしているジョージア工科大学とパリ国立高等鉱業学校と基本合意書(MOU)を結び、密に連携を取りながら国際的な視点で活動を進めております。

また、物流業界での人材育成にも力を入れていきたいと考えています。物流の魅力を伝え、幅広く学生にも興味を持ってもらうために、大学の先生に客員研究員として物流に関する研究を行ってもらい、その成果を発信していきます。そのうえで、将来的にはフィジカルインターネット学会(仮)を設立し、高度物流人材の育成に貢献していきたいと思っています。

【 JPICへのお問合せはこちら 】

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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