最近、「ホワイト物流」という言葉を目にすることが多くなってきました。これは一時的な流行ではなく、物流業界の未来を支える大切な推進運動です。トラック運転手の人手不足や長時間労働といった課題を解決し、持続可能な物流システムを構築するための重要な取り組みとして注目されています。
この記事では、ホワイト物流推進運動の目的やメリット、具体的な取り組み方法を、初心者の方にもわかりやすくご紹介します。物流が直面している課題をどのように解決できるのか、また自社でも取り組みを始めるにはどうすればよいのか、一緒に考えていきましょう。
ホワイト物流推進運動とは
少子高齢化や働き方改革が進むなか、物流業界にも大きな変化が求められています。特にトラック運送業界では、ドライバーの高齢化や人手不足が深刻化しており、このままでは物流システム全体が立ち行かなくなる懸念が高まっています。そんな中で注目されているのが、「ホワイト物流推進運動」です。これは単なる業務改善の枠を超え、業界全体が協力して物流の持続可能性を高めていく、国を挙げた取り組みです。
では、このホワイト物流推進運動は、どんな目的を持ち、どのような背景から生まれたのでしょうか？ここから詳しく見ていきましょう。
ホワイト物流推進運動の概要と目的
「ホワイト物流推進運動」とは、トラック運転者の人手不足問題を解決し、安定した物流体制を築くために、国土交通省が中心となり、経済産業省・農林水産省と連携して推進している国を挙げた社会的取り組みです。2019年5月から賛同企業の募集が始まり、全国の上場企業など約6,300社に参加が呼びかけられました。
この運動が目指すのは、物流の持続可能性を高めることです。そのために掲げられている主な柱は、トラック輸送の生産性向上と物流の効率化、そして女性や高齢ドライバーを含む多様な人材が働きやすい「ホワイト」な労働環境の実現です。長時間労働や厳しい労働条件が課題となっている物流業界において、働き方を根本から見直し、改善していくことが重要視されています。
具体的な目的としては、輸送の効率化、環境負荷の低減、そして物流従事者にとって働きやすい職場環境の整備の3点が挙げられます。これらの目的は互いに関連しており、一体的に取り組むことで、より大きな効果が期待できます。
たとえば、荷主企業と運送会社が連携し、パレットの共通利用や積載率の改善に取り組むことで輸送の無駄を削減し、CO₂排出の抑制にもつながります。また、荷待ち時間の短縮や夜間作業の見直しといった工夫により、ドライバーの負担を減らし、安全で安定した運行体制をつくることができます。
このように「ホワイト物流推進運動」は、単に物流業界の問題を解決するだけでなく、企業の競争力向上やサステナビリティ経営の強化にもつながる重要な戦略として、多くの企業に注目されています。荷主企業、物流事業者、そして消費者を含む社会全体が協力することで、持続可能な物流システムの構築を目指しているのです。
推進運動が求められる背景
「ホワイト物流」推進運動は、長年の課題とされてきた物流業界の働き方を見直し、持続可能な物流の仕組みをつくることを目的にスタートした取り組みです。その背景には、いくつかの深刻な問題が存在しています。
まず、トラック運転者の労働環境の厳しさが挙げられます。令和3年のデータによると、トラック運転者の年間労働時間は大型で2,544時間、中小型で2,484時間と、全産業平均の2,112時間を大きく上回っています。しかし、その割には年収は大型で463万円、中小型で431万円と、全産業平均の489万円を下回っているのが現状です。つまり、長時間働いているにもかかわらず、収入は全産業の平均よりも低いという状況に置かれているのです。
次に、人手不足の深刻化という問題があります。ドライバー数は1995年に約98万人いたのが、2015年には約77万人にまで減少しました。さらに2030年にはさらに3割減ると予測されており、このままでは物流サービスの維持が困難になる恐れがあります。物流は私たちの日常生活や経済活動を支える重要なインフラであり、その機能が低下すれば社会全体に大きな影響を及ぼすことになります。
加えて、ドライバーの高齢化も進行しています。平均年齢は、大型で49.9歳、中小型で47.4歳と、全産業平均の43.4歳を大きく上回っています。若い世代の参入が少なく、高齢化が進むことで、将来的な人材確保がさらに難しくなる可能性があります。また、再雇用された高齢ドライバーが増える中で、安全運転への懸念も高まっています。
これらの問題を解決するには、運送会社の努力だけでは不十分です。荷主企業や納品先の協力も欠かせません。たとえば、納品時間の柔軟化や荷待ち時間の削減など、物流に関わるすべての関係者が協力して改善に取り組む必要があります。
「ホワイト物流」推進運動は、こうした背景から、輸送の効率化、環境への配慮、働きやすい労働環境の実現を目指し、物流業界全体で取り組むべき重要なアクションとして位置づけられています。持続可能な社会の実現のためにも、この取り組みは欠かせないものとなっているのです。
ホワイト物流推進のメリットとデメリット
「ホワイト物流を推進すると、実際にどんなメリットがあるの？」と気になっている方も多いのではないでしょうか。実際、企業にとってもドライバーにとっても、得られるメリットはたくさんあります。
ただし、「本当にいいことばかりなの？」と不安を感じる方もいるかもしれません。ここでは、ホワイト物流を推進することで期待できる前向きな効果と、導入にあたっての注意点の両面を、わかりやすくご紹介します。どちらも理解することで、より効果的に取り組みを進めることができるでしょう。
推進によるメリット
「ホワイト物流」の推進には、ドライバーだけでなく荷主企業や納品先企業にとっても多くのメリットがあります。ここでは、具体的な効果を4つの視点からご紹介します。
まず一つ目は、生産性の向上です。ホワイト物流の取り組みでは、商慣習や業務プロセスの見直しを通じて、作業の無駄が削減されます。たとえば、これまで当たり前とされてきた複雑な発注手続きや短納期の依頼などを見直すことで、物流全体の効率が高まります。また、輸配送ルートの最適化や積載率の向上により、コスト削減と時間効率アップが期待できます。無駄な走行や空きスペースを減らすことで、運送コストの削減につながるのです。
二つ目は、環境負荷の低減です。物流の効率化により、走行距離や使用車両が減少します。これにより、二酸化炭素（CO₂）の排出量も自然と削減され、エコで持続可能な輸送体制を実現できます。環境問題への対応が求められる現代において、CO₂排出量の削減は企業の社会的責任としても重要な要素となっています。
三つ目は、物流の安定確保です。トラック運転者の労働環境が改善されることで、人材の定着と安定的な輸送体制が整います。ドライバーの負担が減れば離職率も下がり、経験豊富な人材を長く雇用することができます。また、業界のイメージ改善により、新たな人材の確保にもつながります。これにより、「車両が確保できない」「配送が間に合わない」といったリスクの軽減が期待できるのです。
四つ目は、企業の社会的責任（CSR）とイメージ向上です。持続可能な物流への取り組みは、社会貢献活動としても認知されやすくなります。また、自主行動宣言の提出により、政府サイトで企業名が公開されるなど、対外的にも取り組みをアピールすることができます。このような活動は、消費者や取引先からの信頼性やブランドイメージの向上にもつながるでしょう。
このように、ホワイト物流の推進は業務改善にとどまらず、経営力・環境対応・人材確保のすべてを底上げする重要な施策といえます。短期的な視点だけでなく、中長期的な企業価値の向上にも貢献する取り組みなのです。
考えられるデメリット
「ホワイト物流」の推進には多くのメリットがありますが、導入初期には負担や調整が必要となる場面もあります。ここでは、推進する際に考慮すべき点や、起こりうる課題についてご説明します。
まず、労働環境の改善に関するデメリットとして、柔軟な対応が難しくなる可能性があります。これまでは、ドライバーの長時間労働や無理な運行計画によって、即日配送や急な依頼にも対応できていた面がありました。しかし、労働時間の適正化や無理のない配送計画を徹底することで、従来のような柔軟性が失われる場合があります。特に、「今日中に届けてほしい」「明日までに必要」といった急な要望に対応しづらくなることは理解しておく必要があるでしょう。
次に、生産性向上のための取り組みには、新システムの導入による初期コスト負担が発生する場合があります。配送管理システム（TMS）やパレット共有システムなどの導入には、一定の投資が必要です。また、新しい業務フローに慣れるまでは、一時的に業務効率が落ちたり、混乱が生じたりする可能性もあります。しかし、これらの初期コストや一時的な混乱は、長期的に見れば効率化によるメリットで回収できるものと考えられます。
環境への配慮に関しては、車両・設備の入替えに費用がかかる可能性があります。より環境に配慮した低公害車への切り替えや、省エネ設備の導入には相応の投資が必要です。また、こうした取り組みの効果が目に見える形で現れるまでには時間がかかることもあります。
企業価値やCSRの観点では、関係者への理解と説明が必要になります。取引先や社内の各部門に対して、なぜホワイト物流に取り組むのか、どのような変化が起こるのかを丁寧に説明する必要があります。特に、納期の緩和や発注方法の変更などは、営業部門や調達部門の理解を得ることが重要です。社内での合意形成に時間がかかることもあるでしょう。
これらのデメリットや注意点は、導入初期に特に顕著に現れることが多いものです。しかし、長期的な視点で見れば、ホワイト物流の推進による効果はこれらの課題を上回るものと考えられます。また、多くの企業が共通して直面する課題であるため、業界全体で解決策を模索することも可能です。
ホワイト物流の導入には一定の課題があることは事実ですが、それ以上に中長期的な企業価値の向上や安定経営への貢献が期待できる取り組みです。デメリットを理解したうえで、計画的かつ段階的に推進していくことが成功への鍵となるでしょう。
ホワイト物流推進の具体的な取り組みと参加方法
ここまでで、「ホワイト物流を推進する意義や効果」はご理解いただけたかと思います。
とはいえ、実際に企業がどのような工夫や仕組みで取り組んでいるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、現場で行われている具体的な取り組み事例を紹介しながら、「自社でも取り組みを始めてみたい」と思ったときに役立つ、自主行動宣言の提出方法についてもわかりやすくご説明します。これらの情報が、皆さんの企業におけるホワイト物流推進の一助となれば幸いです。
企業の取り組み事例
ホワイト物流を進めるうえで、実際の企業がどんな工夫をしているのか気になるところです。ここでは、現場で行われている主な取り組みをご紹介します。
まず注目すべきは、パレット化と機械荷役の導入です。従来、多くの物流現場では手作業での荷積み・荷下ろしが行われてきました。この作業は体力的に負担が大きく、時間もかかります。しかし、パレットを活用しフォークリフトを使って積み込み・荷下ろしを機械化することで、手作業の負担を大幅に軽減することができます。ある企業では、手作業では2〜3時間かかっていた作業が、機械荷役の導入によって20〜30分に短縮されたという事例もあります。これにより、ドライバーの拘束時間を減らし、労働環境を大幅に改善することが可能になりました。
次に、積載効率の改善も重要な取り組みです。輸送コストの削減や環境負荷の軽減において、トラックの積載効率を上げることは非常に効果的です。具体的な例として、ある企業では使用するパレットに合わせてカートンサイズを見直しました。これにより、パレットにきれいに積めるようになり、輸送効率が大幅にアップしました。また、商品の梱包方法を工夫することで、同じトラックでより多くの商品を運ぶことができるようになりました。このような取り組みは、無駄なスペースや配送回数を削減し、コスト削減にもつながっています。
また、専用機材の導入で作業を効率化している例も見られます。例えば、あるメーカーでは、パレットへの結束作業を、立ったまま行える機械を導入しました。これにより、かがんだり膝をついたりする必要がなくなり、腰や膝の負担を軽減しながら、作業スピードも向上させることができました。このように、設備投資を行うことで、作業者の安全と効率を両立させる取り組みも広がっています。
さらに、配送計画の最適化も重要です。配送管理システム（TMS）を導入することで、最短ルートの算出や積載効率の向上、ドライバーの労働時間管理などを一元的に行うことができます。これにより、無駄な走行を減らし、ドライバーの労働時間も適正化できます。また、AIを活用した需要予測により、必要な車両数や人員を事前に把握することで、効率的な配車が可能になります。
これらの取り組みに共通しているのは、荷主企業と物流事業者が協力して進めている点です。荷主側の発注方法や納品条件の見直し、物流事業者側の運行計画や作業方法の改善など、双方が歩み寄ることで大きな効果を生み出しています。小さな改善の積み重ねが、ホワイト物流の実現につながっているのです。
自主行動宣言の提出手順
ホワイト物流を推進したいと考えたとき、最初の一歩となるのが「自主行動宣言」の提出です。これは、企業が自主的に物流改善に取り組むことを公に示すものです。提出手順はシンプルで、どのような企業でも取り組みやすいものとなっています。
まず最初に、取り組み項目の検討を行います。国土交通省のウェブサイトには、自主行動宣言の様式が掲載されています。この様式には、取り組み項目例が示されており、自社で取り組める内容を選定します。例えば、荷待ち時間の削減、納品条件の見直し、発注リードタイムの確保などがあります。自社の状況や課題に応じて、無理なく取り組める項目を選ぶことが重要です。すべての項目に取り組む必要はなく、まずは可能な範囲から始めることができます。
次に、社内の合意と体制づくりを行います。ホワイト物流の推進には、社内の様々な部門の協力が不可欠です。特に、物流部門だけでなく、営業部門や調達部門など、物流に関わる全ての部署の理解を得ることが大切です。経営層の理解を得て、全社的に協力体制を整えましょう。また、取り組みの責任者や連絡窓口を決めておくことも重要です。
準備が整ったら、宣言書の作成と提出を行います。ホワイト物流推進運動の公式サイトからフォーマットをダウンロードし、必要事項を記入します。取り組み項目や具体的な実施内容、実施予定時期などを記載します。記入が完了したら、提出フォームから送信すれば登録完了です。提出された宣言は、公式サイト上で公開され、賛同企業として掲載されます。これにより、企業のCSR活動としてのアピールにもなります。
提出後は、定期的なフォローアップが大切です。宣言した取り組みを確実に実行していくために、進捗状況を定期的に確認しましょう。また、他社の事例や取り組みを参考にしながら、より効果的な方法を模索することも重要です。国土交通省などが開催するセミナーやイベントに参加することで、最新の情報や他社の成功事例を学ぶことができます。
このように、「自主行動宣言」は書類1枚から始められる、ホワイト物流への第一歩です。大掛かりな設備投資や体制変更がなくても、できることから少しずつ取り組むことができます。自社の物流を見直すチャンスとして、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。持続可能な物流システムの構築に向けて、一社一社の取り組みが大きな変化を生み出していくのです。
