深刻化する気候変動や環境問題への意識の高まりから、日常生活の中で「サステナビリティ(持続可能性)」を意識したサービスや製品を目にする機会が増えています。
近年、そんなサステナブル社会の実現に向けて、企業は環境に配慮した商品やパッケージの開発、循環モデル構築に向けて積極的に取り組んでいます。
今回は注目されるサステブルパッケージがすすめられる背景や企業の取り組み事例をご紹介いたします。
サステナブルパッケージングの新潮流
あらゆるサービスやプロダクト開発において、サステナビリティはいまや欠かせない指標です。
特にパッケージについては、「サステナブルパッケージ」や「エコ(環境配慮型)パッケージ」と呼ばれる、環境への負荷を抑えたパッケージ製品に関心が高まっています。
エコパッケージやサステナブルパッケージのトレンドや潮流はリサイクル技術などが進歩するに伴って、新しいものがどんどん生まれています。
エコパッケージの最新トレンド
すでにさまざまな「エコ(環境配慮型)パッケージ」や「サステナブルパッケージ」が流通していますが、ここでは、TOPPANホールディングス株式会社が提案する最新パッケージをご紹介します。
いずれも製造時のCO2を抑え、プラスチック使用量を削減しながら強度も確保でき、従来のプラスチック容器からの切り替えパッケージとして利用が可能になり、今後主流になっていくことが期待されています。
キューブパック
従来の洗剤やシャンプーボトルなどは本体も詰め替え商品もプラスチック製でできていました。そこで、水まわりでも使用可能な耐水性を備えながら、ポンプも使える紙製ボトルのキューブパックが生まれました。
一般的な同容量のプラスチックボトルと比較して、プラスチック使用量を55%も削減。代替素材として紙を採用し、耐水性・耐油性を持たせることでシャンプーや化粧品をはじめ、さまざまな用途に利用可能です。
さらに、詰め替え商品はこれまでボトル自体を再利用していたものでしたが、空になった容器からポンプだけを取り外して「付け替え」をするタイプに変わり、衛生面にも優れたパッケージになっています。
製造時には容器のどの面への印刷も可能で、サステナブルさとパッケージのデザイン性の両立にこだわることができます。
参考記事:紙製ボトル「キューブパック」でプラスチック削減に貢献|TOPPAN
MAPKA®(マプカ)
MAPKAは紙パウダーを51%含有し、強度に優れ、プラスチック使用量を削減したパッケージです。
紙パウダーを主原料にした世界でただ一つの新素材であり、高耐性・耐熱性を併せ持ち、プラスチック製の食品を入れる箱などの代替素材として使用できます。
プラスチック使用量削減につながることはもちろん、紙パウダーを51%も含んでいることから、製品にバイオマスマークの付与が可能になり可燃ごみとして処理が可能になります。製造時はシート成形・射出成形加工ができるので、これまでのプラスチックと比較して成形にかかるエネルギー消費量も削減できます。
参考記事:プラスチックの代替素材紙パウダーが主原料の「MAPKA」|TOPPANPackaging
リサイクル技術の進歩
現在、日本ではさまざまな製品のリサイクルが進んでいます。
国内で年間約58万トン使われているPETボトルの約86%がリサイクルされており、リサイクルの優等生だといえます。
一方で、低コストでのリサイクル法として知られるマテリアルリサイクルは、回収したPETボトルを分別、粉砕、洗浄することでPETの原料フレークを再生しています。しかしこの方法では、何度もリサイクルを繰り返すうちに、不純物の影響でポリマーが劣化し性能が低下するため、元のPETボトルには再生できなくなってしまうことが起きます。
そこで、欧米や日本を中心にPETボトルを材料として作り替える「ボトルtoボトル」を実現するケミカルリサイクル法が開発されました。これによって、安定した持続可能なリサイクルが可能になりました。
最近ではPCR材料の活用がかなりすすんでいて、製造時のCO2排出も削減し、やむを得ずプラスチック容器が必要な場合においても有害なプラスチックを約50%減らすことができています。
また、多くの洗剤類や容器のメーカーは、現状の再生材料の有効利用を検討すると同時に、技術開発によって、あらゆるタイプの容器やパーツをリサイクル可能にしていく試みをすでに始めています。
現在、花王株式会社とライオン株式会社は複合素材であるパウチ容器を新しいパウチ容器にリサイクルする技術課題を共有しながら、共同でパウチ容器リサイクルに取り組んでいるということです。
参考記事:日本の廃棄物処理・リサイクル技術|環境省
プラスチック資源循環の取り組み|日本石鹸洗剤工業会
具体的なブランドの取り組み事例
製品のパッケージは消費者にとって選択肢のひとつであり、そのファーストコンタクトはとても重要です。
それと同時に、いまやサステナブルなコンセプトをパッケージデザインに取り入れることはブランド戦略的に不可欠であり、ブランド側の創造性と独創性は、環境の負荷を減らし業界全体の大きな発展に役立つと周知されています。
今回は化粧品業界と食品業界における、サステナブルパッケージの事例を見ていきましょう。
化粧品業界のサステナブル挑戦
化粧品業界における「サステナブルパッケージ」の取り組みと聞いて、真っ先に思い浮かぶのはエコフレンドリーなボトルや詰め替えリフィルでしょう。
「サステナブルパッケージ」とひと言でいっても取り組みは多岐にわたり、外側のパッケージはもちろん、中身の原料調達もそのひとつに含まれます。
では、各ブランドが実践している事例を見ていきましょう。
shuuemura/シュウウエムラ
同ブランドは人気商品であるアイシャドーパレットのレフィル式パッケージを採用し、年間約10トンのプラスチック消費削減を実現しています。
またブランドの顔でもあるクレンジングオイルはボトルに100%PCRプラスチックを採用し、2025年までにすべてのクレンジングオイル製品のポンプも再生材に切り替え、パッケージ重量を20%削減しています。
さらにボトル、アイシャドーパレットを2025年までに100%レフィル式、再利用、再生利用、またはコンポスト可能な素材へ切り替えることを目指しています。
また2021年より、シュウウエムラのリサイクルプログラムがスタートしており、一部店舗で使い終わったクレンジングオイルのボトルを回収し、リサイクルする取り組みを開始しています。回収したボトル容器はリサイクル加工し、再資源化されています。
参考記事:シュウウエムラのサステナビリティ活動|SHUUEMURA
Aveda/アヴェダ
サステナブルパッケージをいち早く取り込み実践し、化粧品業界をリードしているヘアケアで知られるアヴェダ。
2002年に化粧品業界で初めて、100%使用済みリサイクルPETを採用しました。現在のアヴェダのスキンケア製品およびヘアスタイリング製品のボトルまたはジャータイプのPET容器の85%以上は、100%使用済みリサイクル材からつくられています。
また、アヴェダ開発のパッケージはどれも環境フットプリントを意識し、包装を極力減らしながら、出来る限り再生可能な原料、使用済みリサイクル材を使用しています。
アヴェダが活用するバイオプラスチックは、サトウキビを主原料としたバイオポリエチレン。サトウキビは再生が早いため、持続可能な原料とも言えます。チューブのリサイクルはまだ広まっていませんが、バイオプラスチックはリサイクルすることができるため、日本国内の一部アヴェダショップでは、テラサイクルジャパン合同会社と協力し、使用済み空き容器を回収するBOXも設置しています。
ほかにもトレーサビリティを重視した原料調達や再生可能エネルギーの利用など、その活動は枚挙に暇がありません。
参考記事:サステナブルな未来|アヴェダ
食品業界におけるエコパッケージ導入事例
ハウス食品
レトルト食品を多く販売するハウス食品。商品開発において、一部レトルトカレーのパウチを電子レンジ調理に対応できる素材に変更することで、CO2排出削減に貢献しています。
また、2022年6月以降「北海道シチューシリーズ」のルウのふた部分の印刷にバイオマスインキが採用されるほか、バイオマス原料を配合したボトルもメーカーと共同開発し、バイオマスマーク取得のボトルを自社商品の一部に採用しています。
同社ではエコパッケージを中心とした環境配慮製品のガイドラインを制定し、省資源化・減量化・環境保全などの全30項目におよぶ評価シートをもとに、どれだけ環境に配慮することができているかを評価する取り組みも実施しています。
ネスレジャパン
食品業界におけるエコパッケージ化の流れの中で、2019年には「キットカット」の紙パッケージへのリニューアルが、積極的なPRや口コミで注目を集め、消費者に食品のプラスチック包装が環境・廃棄物問題につながることを再認識させるきっかけとなりました。これをきっかけに2020年以降、菓子類や袋めんなどで紙パッケージへのリニューアルが増加しています。
またケース販売のみですが、ラベルやステッカーを一切使用しない「ネスカフェエクセラボトルコーヒー」を初のラベルレス製品として販売しています。
2021年からは、医療機関や介護施設、家庭での栄養管理に活用されている「アイソカル100」をはじめとした栄養補助飲料12品目に付属しているストローを、プラスチック製から紙製に変更しています。紙パック飲料への紙ストロー採用は、日本国内の食品業界初となります。
参考記事:ネスレ日本の活動ニュース|サステナビリテ
ネスレ、持続可能なパッケージへの変革を強化
これら事例のようにプラスチックフリーのエコパッケージは、企業やブランドの環境への取り組みに対して高評価が期待できるため、既存商品の紙パッケージへのリニューアルを予定する企業は増え、採用は加速するとみられています。
循環型経済への貢献と経済的メリット
昨今、サステナブルという言葉は多くの場合、企業のマーケティング戦略の一環として発信されるトレンドワードになっています。上手く取り組み活用すれば、経済的なメリットは大いにあり、その反面で真剣に取り組んでいなければグリーンウォッシングとしてマイナスな影響も及ぼします。
企業存続のための循環型経済(サーキュラーエコノミー)をうまく行うために、製造プロセス、材料調達、サプライチェーン、そしてセールスやマーケティングなど、すべての段階でサステイナビリティが考慮されていれば、消費者やステークホルダーに対して高評価の材料となります。
循環型経済とサステナブルパッケージング
まず、「循環型経済」は生産・消費・リサイクルが永続的に循環し、最終的には廃棄物が発生しない経済活動のことです。
商品そのものや包装、パッケージを循環可能なものにつくり変えるほか、リサイクルやリペアサービスを提供したり、循環につながるイベントやキャンペーンを行ったりと、その取り組み対象はさまざまあります。
従来の商品そのものの素材や仕様を変更することは簡単ではありませんが、サステナブルパッケージへの変更ならば比較的低コストで実践することは可能です。
世界的に見ても、今後パッケージのサステナブル化は企業の必須義務となるでしょう。各分野の企業にはパイオニアの企業はすでにいるので、参考にしながら環境負荷が低いサステナブル素材を使ったパッケージへシフトしていくことで、循環型経済への参加にいち早く対応することができます。
サステナビリティがもたらす経済効果
前述のように、パッケージのサステナブル化をすることは、消費者はもちろん、ステークホルダーにもブランドイメージの向上をもたらします。
特に、ダボス会議(世界経済フォーラム)において、各企業においてSDGsが達成されると、環境、エネルギー、都市開発などの分野で約12兆ドルのビジネスチャンスを生み、3億8000万人の雇用を生むという巨大な経済効果が試算されました。
この大きな「サステナブル」市場に先駆けて取り組めば、市場優位のビッグチャンスともなり、逆に対応が遅れるほどデメリットが多く発生することが予想されます。
サステナブルパッケージの経済効果としては、多数の競合商品が並ぶ売り場の中で、パッケージをサステナブルな仕様へと切り替えていくことで、企業としての社会・環境貢献への取り組み姿勢を分かりやすくアピールすることができます。そして、ライバル商品との違いを消費者に伝え、企業イメージやブランド価値の維持向上にも寄与する、重要なコミュニケーションツールにもなります。
参考記事:世界経済フォーラム
読者が実践できるサステナブルな選択
エシカル、グリーン、フェアなどのキーワードがつく商品・サービスの消費が広がりつつあります。こうした動きの背景として、商品・サービスの背後にある消費者の意識の変化があります。
日常でできるエコな選択
個人レベルで実践できるエコでサステナブルな選択は、日々の生活にあふれています。
使い捨て容器商品を選ばない
一度使って、短時間ですぐゴミ箱にさようなら。そんな使い捨て容器に頼らない生活にシフトすることは簡単にできて、今とても重要な選択です。
そして、最近日本でも増えている量り売りのお店(バルクストア)が近くにないか、早速調べてみましょう。食料品はもちろんのこと、洗剤などさまざま充実しているので、空き容器ができたらぜひ持って利用しましょう。
そして基本的なことですが、店頭で不要な袋や包装を断ること、マイバッグを常に持ち歩くことを意識しましょう。
日用品を長持ちするものにシフトする
今までは短いサイクルで買い替えていた身の回りのものに着目しましょう。
例えば、ビニール傘から丈夫なお気に入りの傘に変えたり、安く手に入るプラスチックのタッパーをガラス容器などより長く繰り返し使えるものに変えてみたり、割れがちな洗濯ハンガーをステンレス製のものへ変えてみることなどがあります。
5Rを意識する
Refuse(リフューズ)ごみになってしまうものを断る
Reduce(リデュース)ごみを発生させない、減らす
Reuse(リユース)ものを繰り返し使う
Repair(リペア)ものを修理して使う
Recycle(リサイクル)資源として再生利用する
これら「5R」を実践することは、サステナブルかつ環境への負荷が少ない社会の実現につながります。
私たち一人ひとりの日々の意識と行動が、社会を変える原動力となるので、ぜひ5Rを意識した環境にやさしい生活をはじめましょう。
参考記事:取り組もう!リデュース・リユース・リサイクル|経済産業省
企業が取り入れるべきサステナブル戦略
店頭に並ぶ⾊とりどりで華やかなデザインの商品が消費者の関⼼を引き、購買につなげています。ですが、役⽬を終えた包装・パッケージがその後どうなるかについては、企業側は⾒て⾒ぬふりをしていることが当たり前でした。
しかし近年、企業におけるESG・サステナビリティ戦略の重要度が⾼まるにつれて、生産している自社商品のパッケージのサステナビリティ性についても考えることが求められています。
有名ブランドや大企業は先陣を切って課題に取り組む必要があるのです。
適切でサステナブルな戦略を⾒出ださなければ、店頭で⼈⽬を引いていた魅⼒的なパッケージが⼀転して不快なゴミへと変わってしまい、消費者やステークホルダーからの企業の評判を下げるリスクにもつながるおそれがあります。
同時にブランディングにおける「サステナブル」なイメージづくり・ロゴ・宣伝広告活動・クオリティー・販売活動の実現などを連想させることは、抽象的に企業の付加価値を高める、企業の競争優位を高めるといったサステナブル戦略にも貢献するでしょう。
そして小さな企業であればあるほどロードマップづくりは重要になります。サステナブル戦略において現状とのギャップを可視化し、課題をあぶりだし、行動に移します。
サステナビリティの視点をうまく取り入れたKPIを設計し、サステナブル経営を成功させている企業は数多くあるため、専門的知見を持つパートナーとの提携やKPIツールは大いに活用するべきといえるでしょう。