近年、インターネットで注文した食品を自宅に届けてくれるネットスーパーの利用が広がっています。共働き世帯の増加や高齢化、さらには新型コロナウイルス感染症の流行による外出自粛など、さまざまな要因が重なり、私たちの生活に欠かせないサービスとなりつつあります。
この記事では、ネットスーパーで特に重要な生鮮食品の温度管理と、それを支える物流の仕組みについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。
ネットスーパーの成長と生鮮食品物流の重要性
近年、ネットスーパー市場は急速に成長しています。共働き世帯や高齢者の増加、感染症対策など、さまざまな要因が背景にあります。この成長の中で、特に重要なのが生鮮食品の物流です。
生鮮食品は、野菜、果物、肉、魚など、鮮度が命の商品です。ネットスーパーでは、これらの商品を新鮮な状態でお客様に届けることが、サービスの信頼性を左右する大きなポイントになります。しかし、生鮮食品は温度変化に弱く、適切な温度管理が欠かせません。そこで、「コールドチェーン」と呼ばれる物流システムが重要な役割を果たします。
拡大するネットスーパー市場
ネットスーパー市場は、ここ数年で急速に拡大しています。その背景には、共働き世帯の増加や高齢化の進展により、自宅にいながら食材を購入できる利便性が求められていること、感染症対策として非接触での買い物の需要が高まったことなどがあります。
また、AIを活用した需要予測や、効率的な配送ルートの最適化技術が進化したことで、よりスムーズなサービス提供が可能になりました。特に、注文から配達までの時間を短縮する技術は、ネットスーパーの成長を後押ししています。
大手スーパーだけでなく、食品メーカーや農業法人も直接オンライン販売を始めるなど、食品業界全体でオンライン化が進んでいます。例えば、イオンやセブン&アイホールディングスは、ネットスーパーの配送網を拡充し、より短時間での配送を可能にしています。
ネットスーパーにおける生鮮食品販売の課題
ネットスーパーの中でも、生鮮食品の販売は特に難しいとされています。通常の加工食品や日用品とは異なり、鮮度管理、物流、消費者の購買行動といった点で、さまざまな課題が存在します。
鮮度管理と温度管理は、最も重要な課題です。生鮮食品は、適切な温度で管理されないと鮮度が劣化しやすく、お客様の満足度を大きく左右します。そのため、生産地からお客様の自宅まで、一貫して低温を維持する「コールドチェーン」の仕組みが不可欠です。
また、配送コストの問題もあります。生鮮食品は、常温の商品のようにまとめて配送することが難しく、冷蔵・冷凍配送を適切に行うための設備や車両が必要です。そのため、物流コストが通常のEC(電子商取引)よりも高くなる傾向にあります。
さらに、「実際に商品を見て選びたい」というお客様の心理も、ネットスーパーでの生鮮食品購入をためらう要因の一つです。この課題に対応するため、一部のネットスーパーでは、「鮮度保証制度」や「商品の詳細情報(産地、生産者、賞味期限など)の提供」といった取り組みを行っています。
鮮度を守る!コールドチェーンの仕組み
生鮮食品の品質を維持するためには、適切な温度管理が不可欠です。そこで重要になるのが、「コールドチェーン」と呼ばれる物流システムです。コールドチェーンは、生産から消費までの流通過程で一貫して低温を維持し、食品の鮮度や安全性を確保する仕組みです。
コールドチェーンとは?
コールドチェーンとは、温度管理が必要な食品を、生産地から消費者の手元に届くまで、低温で輸送・保管するための物流システムのことです。このシステムが適切に機能することで、食品の鮮度を保ち、食中毒のリスクを減らし、食品ロスの削減にもつながります。
コールドチェーンは、主に以下の5つの工程で構成されます。
1.生産地での収穫・加工: 農産物や畜産物、水産物は、収穫・加工後すぐに適切な温度で保管されます。
2.一次輸送: 冷蔵・冷凍トラックや専用コンテナを使用し、生産地から加工・流通センターへ適温を維持したまま運ばれます。
3.流通センターでの保管・仕分け: 商品ごとに最適な温度帯で保管し、小売店や配送センターへ振り分けられます。
4.二次輸送: スーパーやコンビニ、ネットスーパーの配送拠点へと運ばれます。
5.最終消費者へ届ける: 消費者が購入するまで、冷蔵・冷凍設備で保管されます。ネットスーパーでは、クール便や保冷バッグを利用して家庭まで適切な温度で配送されます。
このように、生産から消費までのすべての工程で温度管理を徹底することで、食品の品質を維持しながら供給することが可能になります。
温度帯別の管理方法
コールドチェーンでは、食品の種類に応じた温度管理が求められます。食品ごとに適切な温度帯が異なるため、冷蔵と冷凍の管理基準を明確にし、厳格に運用する必要があります。
1. 冷蔵管理(0〜10℃)
冷蔵管理は、野菜、果物、乳製品、精肉、魚介類など、常温では劣化しやすい食品を適切な温度で保存する方法です。
・野菜・果物(5〜10℃): 温度が低すぎると凍結し、組織が破壊されて品質が落ちるため、適度な冷蔵が必要です。特に葉物野菜は低温障害を受けやすいので注意が必要です。
・乳製品(3〜7℃): チーズやヨーグルト、牛乳は、微生物の増殖を防ぐために一定の低温を保つ必要があります。
・精肉・魚介類(0〜4℃): 肉や魚は、微生物の増殖を抑えるため、できるだけ低温で管理します。特に魚介類は鮮度保持のために0℃近くの管理が理想とされています。
2. 冷凍管理(-18℃以下)
冷凍食品やアイスクリームなどの保存には、-18℃以下の低温環境が必要です。
・冷凍食品(-18℃以下): 製造直後に急速冷凍し、-18℃以下の環境で保管・輸送することで品質を維持します。
・アイスクリーム(-25℃以下): アイスクリームは、-25℃以下で保存しないと食感や風味が変化しやすいため、通常の冷凍食品よりも厳格な温度管理が必要です。
冷凍管理では、「冷凍焼け」を防ぐことも重要です。温度が上昇すると食品の表面の水分が蒸発し、品質が劣化するため、適切な梱包と密閉が求められます。
物流現場の課題を解決する最新技術
生鮮食品の物流は、品質維持の難しさや配送コストの高さなど、多くの課題を抱えています。これらの課題を解決するために、近年、さまざまな最新技術が導入されています。
温度管理システムの進化
IoTセンサーを活用したリアルタイム監視が、温度管理の精度を飛躍的に向上させています。これらのセンサーは、配送車両や倉庫の内部に設置され、温度や湿度を常に監視します。設定された温度範囲を超えると、すぐに担当者にアラートが送られる仕組みです。
さらに、AIを活用した温度予測システムの導入も進んでいます。このシステムは、過去の温度データや、天候、配送ルートなどの外部環境の情報を分析し、温度変動を予測します。これにより、事前に温度変化に対応した対策を講じることができ、食品の品質低下を防ぐことが可能になります。
品質管理の安全性向上のための取り組み
ネットスーパーの生鮮食品の安全性を確保するためには温度管理だけでなくHACCP(ハサップ)やトレーサビリティシステムといった取り組みも重要です。
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食品の製造・加工・流通の各段階で発生する可能性のある危害を分析し、それを防止するための管理方法です。 例えば、ある精肉加工会社では、HACCPに基づいて、肉の温度管理を徹底しています。 具体的には、加工場内の温度を常に一定に保ち、作業員の衛生管理を厳格に行い、定期的な細菌検査を実施することで、食中毒のリスクを最小限に抑えています。
トレーサビリティシステムは、食品の生産から消費までの過程を追跡できる仕組みです。 例えば、ある野菜農家では、トレーサビリティシステムを導入し、種まきから収穫、出荷までの情報を記録しています。 消費者は、購入した野菜のパッケージに記載されたQRコードを読み取ることで、生産者、収穫日、農薬の使用状況などの情報を確認できます。これにより、消費者は安心して野菜を選ぶことができ、生産者は自分の作った野菜に責任を持つことができます。
これらの取り組みにより、ネットスーパーは、より安全で高品質な生鮮食品を消費者に届けることができるようになっています。 AIを活用した品質管理はさらに進化し、データ分析による品質の可視化が進んでいます。 センサーで収集したデータを分析することで、食品の品質を数値化し、より正確に管理することが可能になりました。
また、AIは、過去の販売データに加え、天候やイベント情報などのさまざまな要因を考慮し、需要を予測します。これにより、過剰な在庫を抱えることなく、必要な時に必要な量の商品を供給できるようになり、食品ロスの削減にもつながっています。