トラック・運送業は長時間労働かつ不規則な勤務状況が多い業界であるため、働き方改革が特に必要な業界の一つです。
しかし、短期で労働環境を変えることが難しいことから、働き方改革関連法の施行後も時間外労働の上限規制の適用は、2024年までの猶予期間が設けられていました。
今回は、トラックドライバーの働き方改革の概要をはじめ、現状取り組むべきことなどを解説します。
トラックドライバーの働き方の現状と課題
トラックドライバーの現状としては、労働者の数は2012年以降横ばいが続いています。しかし近年のEC業界の発展拡大により、取り扱う荷物のロット数が急激に増加したことでドライバー不足は深刻化する事態となっています。
では、トラックドライバーの働き方の現状と課題、解決策を見てみましょう。
労働時間、賃金、労働環境など、現状における具体的な課題
若年層や65歳以上、女性のドライバーが増えない原因に、低賃金・長時間労働の恒常化というトラックドライバーの労働条件があります。労働時間は、1運行(業務)当たりの拘束時間が休憩時間を含めて平均11時間〜13時間30分と長時間になりがちです。
また、日本の年間の労働時間の平均は、全産業で2,112時間なのに対し、中型トラックドライバーで2,484時間、大型トラックドライバーだと2,544時間です。月に換算してみると、全産業の平均と比べて中型トラックドライバーで31時間、大型トラックドライバーは36時間長い計算になります。
そして労働時間だけでなく、ドライバーの年収自体も全産業と比較して5〜10%程度低いことも、トラック運送業界において課題となっています。
課題が生じる原因と背景
上記のような労働時間、賃金などの課題が生まれる原因はどういったものがあるのでしょうか。
取り扱い荷物数(ロット数)の増加
まず大きな原因としては、取り扱い荷物数の増加があります。国土交通省の発表によると、2020年までの5年間で宅配輸送で取り扱う荷物は約10.9億個も増加しています。これはEC市場とスマートフォンの急激な発達により、簡単に商品が購入できるようになったことが挙げられます。
しかし前述のとおり、ドライバーの数は2012年以降横ばいで推移しています。取扱荷物数が増加しているにもかかわらず、労働者数は増加していないため、常に人材不足の状態になっています。
ドライバーの高齢化
トラックドライバーの年齢構成は他の産業分野と比べて、中年層の割合が高い点が特徴です。ドライバー就業者全体のうち、45.2%が40〜55歳の階層で、全産業と比べても平均年齢が3〜6歳ほど高い傾向です。現在活躍する中年層のドライバーは11~20年後には定年の65歳を迎えるため、その頃にはドライバーが一斉に不足することも予想されます。
65歳以上のドライバーの就業困難
またトラックドライバーは身体的な業務負荷が高い作業が主で、他の業種と比べて65歳以上の就業者は少ないです。全産業において定年退職後の65歳以上の就業者が占める割合は13.7%に対し、トラックドライバーは9.5%にとどまっています。日本社会全体が高齢化していることを考えると、65歳以上でも活躍できるドライバーを増やすことができないと、将来的な人材不足の解消は難しくなるでしょう。
若年層ドライバーの担い手不足
現在、ドライバー就業者のうち15〜29歳の若年層が占める割合は全産業では16.6%なのに対して、トラックドライバーは10.1%と低い傾向です。現状で若い人材が不足しているので、現役世代が高齢・定年によりドライバーを引退すれば、業界全体で深刻な人材不足が起こることが考えられます。
運転免許制度改正の影響
以前までは普通免許を取得するだけで、2tトラック程度の運転は可能でした。しかし、2017年3月12日以降の運転免許制度の改正により、新たに免許を取得しても最大積載量2t未満の車しか運転できません。運送会社によっては、準中型免許や大型免許の資格取得補助をしているところもありますが、免許取得にかかる費用や時間の負担からも、トラックドライバーを諦める人もいることが予想されます。
女性ドライバーの進出遅れ
トラックドライバー全体のうち女性従事者が占める割合は約2.5%に留まっています。全産業とくらべると女性が占める割合は約43.2%のため、この数字は極めて低い水準です。活躍する労働力が中高年男性に偏ってしまっていることも、ドライバー人口が不足していく原因の一つです。
このような原因・課題によって業務量に対してドライバー人口が見合っていないと言えますが、2024年問題によってドライバー不足は加速する可能性もあります。2024年問題とは、自動車運転業務における時間外労働の上限規制で、トラック運送などの自動車運転業務では、時間外労働は年間960時間までの上限規制が設けられます。そのため、これまでドライバーの時間外労働のおかげで物流業務を行い支えられていた会社では、今後業務を円滑に遂行できなくなる恐れがあるでしょう。同時に長時間労働によって高収入を維持していたドライバーは、時間外労働が制限されることで収入に影響がでることも避けられません。
働き方改革の取り組みと進捗状況
物流・トラック業界が2024年問題を解決するために、さまざまな取り組みが考えられています。働き方改革としては、
* 時間外労働は年960時間(休日労働含まない)
* 月平均80時間までの労働(休日労働を含まない)
* 将来的に一般中小企業と同じ規定の適用を目指す
* 運行管理者をはじめ、ドライバー以外の事務職・整備・技能職・倉庫作業職等は通常の時間外労働の上限と同じ規定に従う
というような取り組みが始まっています。
政府、業界団体、企業など、各主体による具体的な取り組み
では各業界、団体が始めている取り組みを例としてご紹介します。
輸送や配送方法の検討
長距離配送や輸送便数を減らすために配送方法の見直しが広まっています。例えば、複数人体制でリレー運送を行いドライバー当たりの残業時間を減らし、商品の発注者側も車両を用意して複数のサプライヤーを循環運行する「ミルクラン方式」を採用したりといった工夫が導入されています。また、鉄道や海運を併行利用する「モーダルシフト」も選択肢のひとつとして挙げられます。このモーダルシフトの導入は政府から補助金を受けられるため導入は広まっています。
荷主とのリードタイムの調整
商品の発注から納品までにかかる時間・日数のリードタイムを荷主と調整することも重要であり、改善されています。今までの労働時間と同様の状態で長距離輸送をするのは現実的には不可能です。しかし、リードタイムが1日変わるだけでも規定の労働時間内に業務を収めることができます。このリードタイムの調整には、荷主と物流会社とのコミュニケーションは必要不可欠です。なお、中1日開けて次の荷物の積載をしておくだけでも積載率の高い効率的な輸送が可能です。単純な荷物量の減少で終わらせないように業務効率を工夫することが見直されています。
AI・ITシステムの活用
時間外労働を削減しながらも、従来のように生産性を維持するには業務効率を上げる必要があります。例えば、配車や配送計画のAIデジタル管理化やトラック予約システムの導入、伝票や送り状のデータ化など、物流業界におけるITシステムの導入による時間削減・効率化が図られています。また、勤怠管理システムを導入することで時間外労働の削減やチェックにも効果をもたらします。今まで手書きだったタイムカードの記録や提出、上司への勤怠報告や給与計算など、さまざまな周辺業務の軽減や、ドライバーの業務外の待機時間が削減できます。
勤怠管理の強化
勤怠管理の強化は働き方改革関連法の違反を防ぐためにも不可欠な取り組みです。例えば、時間外労働の上限規制だけでなく勤務インターバル精度の導入も意識する必要があります。基本的に社外にいるドライバーは、日中だけでなく深夜勤務で働いている可能性が大いにあります。従来のアナログな手法ではドライバー一人ひとりの勤怠管理をするのは困難でした。勤怠管理がおろそかになり、気づかないうちに違反して罰則対象や罰金になるリスクがあるため、社内の実態を把握することが進められています。
働き方改革法などの法規制の影響と効果
働き方改革関連法案は可決されたのち、2019年4月から順次施行されています。この働き方改革関連法の施行によって、下記のような影響と効果が考えられます。
労働力不足が顕著に、女性・高齢者の活躍へ
現在の物流業界をはじめ、すでに大きな課題である労働力不足が、法改正で長時間労働への規制がかかることによってより一層顕著になっています。そのため、人手不足により長時間労働が常態化しているような業種は、今まで介入しづらかった女性の働き手や高齢者に対する雇用の枠が広がり、それに伴い補助や協力体制が整う可能性も期待されています。
テクノロジーが変える未来のトラックドライバー
近年、あらゆる分野でIT・テクノロジー化が進んでいますが、トラックの自動運転技術においても目覚ましい進歩が見られます。すでにいくつかの新技術は試験後、実用化されており、トラックを安全かつ従来の負担を減らしながら運転するために、あらゆるドライバーをサポートしています。
自動運転、AI、IoTなどの技術革新が働き方に与える影響
近年のテクノロジーの進歩に伴って、今後この自動運転技術はますます普及していくことは間違いなく、トラック・輸送業界にもこの流れは波及しています。しかしながら、自動運転技術による完全無人トラックの普及には多くの課題が存在しており、100%実現にはまだまだ時間がかかることも事実です。
そういった課題があると同時に、業務効率や人手不足などの大きな課題に対応するためにはトラック業界は自動運転技術に一刻も早く着手し、実践するべきだと言われています。この技術変革が一般化すれば、物流・輸送業界全体の人員不足改善、仕事効率化やコスト削減、さらには安全性の向上に貢献することが期待されています。
ではAI、IoTなどの技術革新がドライバーの働き方に与える影響を見てみましょう。
効率的な輸送ルートを最適化する
AIによる輸送ルート最適化システムによって、運送時間や輸送コストの大幅削減に貢献します。モーダルシフトのように、配送地点までの最適な順序をAIが計算し、トラックだけでなく船舶などの運送手段の最適な組み合わせをすることで、燃料消費の削減や運送時間の短縮が実現し、ドライバーの走行業務時間を抑えることが可能です。
物流トラブルの早期発見と対処
導入が進むAIのモニタリングシステムは、物流領域の機器故障やトラブルを早期に検出して、予防する役割を果たしています。これによって運送中のトラブルは減少し、ドライバーの運行以外の業務負担は減ります。日本国内の大手物流業界でも、AIシステムを駆使した成功事例が数多く存在しています。その一例としては、ヤマト運輸が自動運転技術とAIを組み合わせた新たなデリバリーサービスを展開しています。これによって効率的な荷物の集配を実現し、日本全国での配送効率を向上させながらも環境に配慮した物流サービスの提供が可能になっています。
物流在庫管理を最適化する
AIモニタリングシステムの在庫管理機能により、最適な在庫量と配置を保ち、在庫過多などのコスト削減と売り上げの増加が実現されています。またAIによる過去のデータ分析によっても、需要の変動に対応するための的確な予測も可能になります。
具体的に想定される未来の働き方のシナリオ
AIが人材不足や業務効率化を解決することで、物流業界の未来はどうなるのでしょうか。未来の想定されるトラック業界の働き方を考えてみましょう。
AIトラックが解決する労働者不足問題
全日本トラック協会が発表した資料「日本のトラック輸送産業 現状と課題」によると、2023年時点のトラックドライバーは約86万人、2017年から横ばいに推移しています。内訳をみても40歳以上が7割と、深刻なドライバー高齢化は明らかです。そこで、完全自動運転可能もしくは監視下における自動運転可能なAIトラックを導入することで、深刻な業界の人手不足課題を解決できます。
AIが描く未来の物流業界
また、AIによる配送ルートの最適化や自動運転トラックの実用化はすでに進んでいます。近い将来、AIシステムがドライバーの運転業務以外の補完的な役割を果たすことは間違い無いでしょう。さらに将来的には、「完全無人のコンビニ・スーパー」のように物流業界の「無人化」が実現するかもしれません。政府が公表している「人工知能技術戦略企画」では、2030年までに物流を無人化していく意向を示しています。
「働き方改革」が求められるなか、このような、 AI・IoTシステムの活用により、輸送効率向上をはじめ、安全対策の推進、環境負荷低減が進むものと期待されています。国土交通省は2019年に、トラック運送事業の生産性向上等に資する手引きとして、「中小トラック運送業のための IT ツール活用ガイドブック」を、また 同年に、過労運転等による重大事故の発生につながる 運転者の長時間労働是正に向けて、運送事業者における適切な運行管理等に役立つ ICTを紹介した「適切な運行管理と安心経営のためのICT活用ガイド」も作成・公表しています。
トラックドライバーの未来に向けた提言
いまの日本の経済を支えている物流の中でも、空輸や海運輸に比べて圧倒的な取扱量であるのが陸運、特にトラック輸送です。ほぼ全ての業界において物流は欠かせない存在で、機械の部品や材料、燃料、食品などあらゆるモノを全国各地へと日々輸送しています。そんな陸運と日本経済を支えるトラックドライバーは、物流に欠かせない存在と言えるでしょう。
働き方改革をさらに進めるために必要なこと
政府が開いた「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、何の対策もしない場合には2030年には輸送能力が34.1%も不足する可能性が指摘されています。輸送能力が低下すれば、翌日に品物が届かないことはもちろん、輸送自体を断られ水産物など新鮮な生ものや、自ら出向かないと手に入らないという事象も起こり得ることでしょう。このトラック輸送という社会インフラに必要不可欠な業種を守っていくために、国はトラックドライバーの働き方改革を推し進めています。
働き方改革に必要な取り組み
今回の法改正により労働時間に上限が設けられ、さらには改善基準告示によりドライバーが安全に従事できるように運転時間や拘束時間、休息時間などドライバーの労働条件も改善されています。今までの長時間拘束の労働環境が見直されることによって、個々の労働時間に頼った運用を改善しなければ大幅に輸送量は減ってしまうことが想定されます。そのため、業界各社で労働時間を削減する取り組みを進めていることに加えて、輸送量を極力下げないような取り組みも必要とされています。
またAI・loTシステムの導入による業務効率化と人員不足解消は今後の物流業界には必須の取り組みです。コンテナや倉庫内においてデジタル化を進めることで、今までは数時間かかった商品、在庫管理や荷下ろしの時間を大幅に削減すること、ドライバー一人が長時間走ることが難しくなることを想定したリレー輸送をつないでいくなど大幅に課題を解消し転換している会社も見られます。
トラックドライバーの魅力を高め、人材を確保するための施策
働き方改革による法改正によって、現役ドライバーの負担を減らし労働環境の改善は見られています。その一方で、離職者を出さない人材確保の取り組みも必要不可欠となります。
そこで、近年のトラックドライバーの人材不足や長年の労働者数横ばいを鑑み、国土交通省・厚生労働省の両省で連携して施策を実施し、トラックドライバーの人材の確保・育成・キャリアパスを推し進めています。
トラックドライバーの処遇改善と、安心して働けるための環境整備
* 長時間労働・賃金・取引環境等の労働条件の改善
* 雇用管理の知識習得、実践
* 現場の徹底した安全管理
トラック運送業界の魅力向上や人材育成等に向けたきめ細かな直接的な取り組み
* トラック運送業への入職、雇用促進
* 女性の活躍促進と労働環境整備
* 関係団体等の連携による、人材育成と定着支援
運送業界のキャリアパス
またトラックドライバーからのキャリアパスとしてはいくつも挙げられますが、代表的なものを3つご紹介します。
運行管理者
運行管理者とは、従業員が使用するトラック管理やドライバーのスケジュール管理のほか、配送ルートの管理や安全管理などを行います。所属する運送会社全体の輸送業務が円滑にこなせて、かつ安全に働ける管理を行うことが主な業務内容です。ECサイトが普及し将来的にも需要がなくなることはない運送業でも、特に管理業務を担う運航管理者は重宝されています。なにより、現場をよく知るドライバーが一番キャリアアップしやすいポジションです。運航管理者の平均年収は、中小企業だと約300〜400万円、大手になると約600〜800万円となっています。
衛生管理者
またトラックドライバーから衛生管理者を目指すことも可能です。衛生管理者の仕事内容としては、ドライバーをふくめた労働者の健康と命の安全を守ることが主です。職場全体の労働環境を整え、現場を変えていく実感を持つことができるため、やりがいのある仕事と言えます。年収は企業規模によって異なりますが、約350〜800万円です。
危険物取扱者
危険物取扱者は、運搬や使用するのに危険が伴う危険物の積荷の取り扱いや、定期点検を行うことが主な仕事内容。危険物取扱者にキャリアアップするメリットは、危険物を扱う職場が多いため、雇用の需要があること、就職後のキャリアの幅が大幅に広がることが考えられます。年収は上記同様に、企業規模によって異なりますが、約400〜800万円が相場です。
まとめ
トラックドライバーの現状と将来的な課題に対処するためには、従業員や管理者の頑張りだけでは乗り切れません。今回ご紹介した取り組みや、AI・loTシステム導入、さまざまな業務の工数を削減したり標準化し、労働環境を改善しながらも生産性を向上させていくことが不可欠です。
国や業界団体は、トラックドライバーの労働環境改善や人材確保のために様々な施策を打ち出しています。これらの施策が実を結び、トラックドライバーがより働きやすい環境が実現されることが期待されます。
また、自動運転技術やAIなどのテクノロジーの進化は、トラックドライバーの働き方を大きく変える可能性を秘めています。これらの技術を活用することで、ドライバーの負担軽減や安全性向上、さらには物流業界全体の効率化が期待されます。
トラックドライバーは、日本の物流を支える重要な存在です。彼らの働き方改革は、日本の経済活動を維持するためにも不可欠な課題と言えるでしょう。