2023年10月1日から、最大積載量2トン以上のトラックには、「昇降設備の設置」と「ヘルメットの着用」が義務化されました。
これにより安全性の向上が期待されますが、企業には設置準備と設置コストの負担が必要となります。
この記事では、今回の2つの義務化について詳しく解説します。
新規則導入の背景と業界への影響
まず、なぜこの新規則が導入されることになったのか、その背景を確認し、トラック輸送業界にどのような影響を及ぼしかねないのかについて、詳しく解説します。
トラック業界における新規則の概要
今回、この新規則が導入された背景には、運送業で最も労働災害が多いのが、荷役作業中という事実があるからです。
運送業の労災の実に約70%が荷役作業中に発生しており、そのうち約40%が荷台などへの昇降の際の転落なのです。
今回の改正は、厚生労働省が労働安全衛生規則等の一部を改正し、「墜落・転落」事故を減らすために行われました。
業界への具体的な影響と対応
「ヘルメット着用」および「昇降設備設置」の規則は、事故や労働災害の予防を目的としており、違反者には、罰則(6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金)が科されることが定められています。
この規則がトラック業界に与える具体的な影響と、企業がこれらの規則に対応する方法は次の通りです。
1.ヘルメット着用の影響と対応
影響としては、「安全性の向上」「作業環境改善」が考えられます。
ヘルメット着用規則は、運転者や荷役に従事する作業者の頭部を保護し、事故や重症化のリスクを低減します。
これにより、従業員の安全性が向上し、労災や事故の発生率が減少する可能性があり、企業のコンプライアンス遵守が確保されます。
対応策としては、企業は、適切なヘルメットを作業員に提供し、さらに、着用を徹底するために、教育やトレーニングを実施する必要があります。
2.昇降設備設置
影響としては、トラックの荷台での作業において、安全で効率的な作業を可能にし、これにより、転落による事故のリスクが低減し、労働者の安全確保が図れることです。
また、作業効率が圧倒的に向上することで、時間とコストの節約が期待できます。
対応策としては、企業は昇降設備を整備し、定期的に点検し、機能不全や安全性に問題がないか確認する必要があります。
また、作業員に使用方法を教育し、定期的にトレーニングや安全対策を実施することが求められます。
ヘルメット着用の義務化詳細
ヘルメット着用義務化は、荷台からの転落時に、頭を強打して重症化するケースが多いため、重症化を防ぐのが目的となっています。
ヘルメットの着用義務化が対象となるケースは、「5トン以上の車で作業」、「2トン以上の開放できる車」ならびに「2トン以上でリフターを使うとき」と規定されています。
ただし、高さ2m以上の場所で作業する場合には、2トン以下でもヘルメット着用の義務があります。
ヘルメット選びのポイント
ヘルメットにも条件があり、検査に合格した「墜落時保護用」のヘルメットを着用しなければなりません。
構造としては、「帽体」「着装体」「衝撃吸収ライナー」「あごひも」をもつものです。
選ぶ際にポイントとなる条件には、その他として以下の条項があります。
・フィット感
ヘルメットは頭部にしっかりとフィットしていなければ効果的ではありません。
適切なサイズを選び、しっかりと頭部にフィットすることが重要です。
快適な装着感を確認しましょう。
・通気性
作業中に快適に使えるように、通気性の確保されたヘルメットを選ぶことが必須です。
ヘルメットは、規格や安全基準に従い、作業員が安全に作業できるようにすることが不可欠です。
罰則とその影響
ヘルメットの着用義務については、違反した場合、事業者(企業)と労働者の両方に罰則が科せられます。
法令違反した場合の罰則は、6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられることになりました。
影響としては、以下のような点が挙げられます。
・安全意識の向上
罰則があることで、企業や労働者はこの規則を順守する意識が高まります。
・労働者の保護
労働者の保護が強化され、労働時の災害のリスクが低減するメリットがあります。
・企業への影響
罰則が科せられると、企業には、業務停止の影響や経済的な損失が出る可能性があります。
トラック業界においては、法令を順守して、ヘルメットを着用することが、安全な労働環境を確保し、従業員を労働災害から守るために重要です。
昇降設備と特別教育の義務化
今回の規則の改定では、昇降設備の設置が義務化されただけではなく、テールゲートリフター操作には特別教育が必要となりました。
以下で詳しく説明します。
昇降設備設置の義務とその種類
昇降設備の設置条件は以下の通りです。
・ステップ台、踏み台、階段の設置(安全に踏めることが条件)
・自分たちで設置、取り付けできるもの
2トン未満でも、高さ1.5mを超える場所で作業するときには、昇降設備の設置が必要です。
昇降設備に望まれる仕様としては、踏み台などの可搬式のもののほか、貨物自動車に設置されている、昇降用のステップなどが含まれます。
なお、昇降用ステップの場合には、乗降グリップなどによる三点支持があり、安全に昇降できるタイプのものとすることが規定されています。
テールゲートリフターの教育の重要性
お伝えしたように、昇降設備の設置とともに、テールゲートリフター操作に対する特別教育が必要となりました。
テールゲートリフター特別教育の概要は以下の通りです。
・対象者
18歳以上のテールゲートリフターの操作者。
稼働スイッチやキャスターストッパーなどの操作、昇降板の展開・格納の操作をする人のすべてが対象です。
ただし、車両の点検のためにテールゲートリフターを操作する場合や、介護用車両に設置されている、車いす用装置を操作する場合などは対象ではありません。
・特別教育の内容
学科教育4時間と実技教育の2時間、合計で6時間受講する必要があります。
・受講方法
受講方法は「外部受講(社外で特別教育を実施している場所に、従業員が赴いて受講する方法)」「会社に講師を招く方法」、そして「オンライン受講」の3つがあります。
オンライン受講の場合には、実技はオンラインでは受講できないので、外部団体で受講するか、講師を外部から招いて受けなければなりません。
しかし、外部団体ですべての教育を受けるよりも、時間を節約できるメリットがあります。
労働者と企業の安全意識向上への期待
ヘルメット着用と昇降設備の設置義務化により、企業や労働者の安全意識が高まることが期待されています。
最後に、今回の新規則の効果や、業界に対する影響について解説します。
ヘルメット義務化の効果
トラック業界において、ヘルメットの着用を義務化することには、さまざまな効果が期待されています。
その主な効果は以下の通りです。
・労働災害の減少
ヘルメットの着用が義務化されたことで、労働災害や重大な事故の発生率が低下する可能性があります。
運送業の労災の約40%を占める、荷台からの転落の際の重症化を防げます。
・生産性の向上
安全な労働環境が確保されることで、従業員は安心して作業に従事できます。
安全な作業環境となることで、生産性が向上する可能性があります。
・法令順守
ヘルメットの着用が義務化されたことで、企業や労働者は法を順守することが求められます。これにより、法令順守の意識が高まり、罰則を回避しようとする意識も高まります。
法規制による安全意識の高まり
ヘルメット着用義務が実施されると、安全意識の向上が期待されます。
・企業の法令順守意識向上
企業は法規制を順守しなければならないため、ヘルメットの着用を徹底的に教育します。
これにより、企業は信頼性を高め、労働災害のリスクが低減されることで、保険料の削減を期待できます。
・労働者の安全意識向上
ヘルメット着用の義務化で、労働者は自身の安全に対する意識が向上します。
また、作業環境の改善により、生産性が向上し、従業員の働きやすさや満足度が向上することで、結果的に業績にも影響を及ぼす可能性があります。