テクノロジーの進歩やコロナなどの社会問題を背景に、多方面で新たな生活様式に変わっている場面をよく見かけるでしょう。
「移動」に関しても例にもれず、安全かつスムーズな付加価値サービスの進化が求められています。そうしたモビリティの進化を実現するテクノロジーとして、近年注目されているのがテレマティクスです。このテレマティクスがどのような技術であり、どのようにわたしたちの生活を変えていくのかを説明します。
テレマティクスの基本とコスト削減への影響
私たちがはじめて「テレマティクス」に触れたのは、おそらく電話回線を利用したFAXでしょう。受話器からの音声だけではなく、電話機を通して情報・文字・図表・画像で受け取れるようになったことは、非常に画期的なことであり、FAXの普及によって情報処理・理解力が一気に向上しました。
その後、インターネットや電子メールが登場し、さまざまな情報の質・量・伝達スピードが格段に進歩を遂げ、現在に至ってはリアルタイムで高画質かつ長時間の動画をやり取りできるようになっています。
テレマティクスとは?
テレマティクスとは、「テレコミュニケーション:電気通信」と「インフォマティックス:情報処理」を組み合わせた造語で、移動体に通信システムを利用し、遠隔サービスを提供することを指す総称です。
基本的にテレマティクスには、ネットワークを介して通信をやり取りするTCUと呼ばれるテレマティクス制御ユニットという装置が使用されています。このTCUがあることで、車両のエアバックと連動される自動緊急通報をはじめ、車両盗難時の追跡やリアルタイムでの交通・天気情報を受け取れるだけでなく、位置情報や稼働状況、走行履歴といった幅広いデータ取得などの通信を可能にしています。
今ではデフォルトで搭載されているGPSカーナビは代表的な例です。車載GPSが発する位置情報や車速をシステムが解析し、目的地へと誘導してくれるその利便性の高さから、登場以降瞬く間に普及しました。
また、近年発売されている自動車の多くは、車両のさまざまなシステムを制御する電子制御ユニット・ECUが搭載されており、緊急コールボタンを押すだけで直接通話ができるコールセンターにつながったり、車両の情報を自動で送れたりするサービスなど、安全を守ることに特化したテレマティクス機能を備えた便利なサービスが提供されています。
遠隔診断で実現するコスト削減のメカニズム
大きなカギとなる「遠隔診断」は、テレマティクスの力を利用して車両の継続的な監視から、収集された情報を用いて、潜在的な問題を迅速に分析するシステムです。
例えば、トラックやバスなどの車両での遠隔診断の仕組みを見ていくと、高度なテレマティクス技術を採用し、重要なエンジンパラメータを継続的に遠隔で監視しています。引き続きサービス拠点でも従来の診断サービスを受けることはできますが、このテレマティクスを利用した遠隔診断では、走行中などのリアルタイムデータをデジタルで送信できるため、予定外のダウンタイムとコストを削減できるのです。
具体的なコスト削減のメカニズムは、遠回りな走行ルートやアイドリングの時間、エンジンのオンオフなど、遠隔で車両の動向がわかるようになるため、無駄を察知し回避することができます。このように無駄な走行や時間がなくなれば、かさむ燃料費はもちろん配送時間短縮、車両台数の最適化もできるようになり、車両を用いた業界はコスト削減を実現できます。
テレマティクス導入の具体的メリット
前述のようにテレマティクスを利用した遠隔診断で、車両の運行状況や位置情報をリアルタイムで確認することが可能です。また、車両を管理することによって、交通事故の軽減や防止、燃費向上などが期待できるなど多くのメリットが期待されます。
では、具体的なメリットをご紹介します。
具体的な業務効率の向上とは
まず、車両を利用した業界、とくに運送業では業務効率化に伴った売上拡大が期待できるメリットが挙げられます。
テレマティクスによる遠隔診断で、今まで現場以外では見えなかった配送ルートが可視化され、無駄のない運行を可能にします。それに加えて、リアルタイムの位置情報がわかるため、スムーズな指示と連携が実現できるため、隊列走行を始め、複数台の車両の長時間運転も削減できます。
また、テレマティクス搭載の車両管理システムには自動運転日報作成機能も組み込まれているため、ドライバーは携帯電話やスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、簡単な操作で入力が可能になります。運転を職業とする際に必須であり、今まで手間になっていた手書きの日報作成時間も大幅に削減できます。運転した情報がそのままデータに残り、会社側にも送信されるので、そのぶんドライバーは本業に集中でき、業務効率がよくなり、最終的には収益向上にも寄与することが見込まれます。
安全性の管理とコストの関係性
近年注目が高まっている「スマートモビリティ」。これは交通システムや移動形態をより安全かつ効率化するテクノロジーで、テレマティクス導入は大きなメリットを秘めています。
話題の自動運転、カーシェアリング、MaaSというテクノロジーを活用し、電車やバス、タクシー、レンタカーなどの各交通手段をインターネットサービスで一括利用することなども、スマートモビリティの一環です。
まずスマートモビリティの基本概念は、「安全性確保・向上」「交通渋滞緩和」「経済損失軽減」「環境汚染抑制」です。この中でも「安全性確保・向上」と「経済損失軽減」に関しては、テレマティクスサービスが有用で、事故や危険運転の可能性をリアルタイムで確認でき、的確な伝達によってリスク回避が期待できます。
また、一日の運転状況をデータとして抽出することができるため、企業の安全運転管理者がこの情報をもとに、ドライバーへの適切な指導も可能になります。
回避でき得る事故を未然に防ぐことができれば、企業側の負担コスト削減が実現できます。
遠隔診断技術の進化と今後の展望
テレマティクスサービスが得意とする遠隔診断と予測は、センサーや制御モジュールから送信されたデータを用いて、車両に関わる全ての状態をリアルタイムで監視・診断できます。伝達されたデータを分析して問題を特定し、起こり得るリスクや、解決できる事柄を回避することが可能になります。
では、最新の遠隔診断技術や今後の展望を見ていきましょう。
最新の遠隔診断技術とその可能性
アメリカ合衆国のエンジンメーカー、カミンズの最新テレマティクス技術を例に挙げます。
同社の遠隔モニタリングと診断機能は、車両の主要エンジンのテレマティクスと故障データがテクノロジープラットフォームに直接送信され、トラック走行中に分析されます。つまり、サーバーを一括管理するフリートマネージャーは故障や問題に即座に対応し、関連するデータにアクセスすることができます。そして、自動的にGPSから位置情報を調べ、最寄りのサービスステーションに車両を向けることが可能になります。
この遠隔診断サービスは、特に大型車両を管理する企業にとって、コスト削減を大幅に実現させます。故障が発生する前に故障を防止し事故リスクを回避し、顧客の混乱を軽減させ、かつ車両の寿命を延ばすこともできます。
このカミンズ社のテレマティクスの明確なデータ洞察と専門家による適切な指導により、管理元のフリートマネージャーは情報に基づき意思決定を行い、不必要な作業を減らし、企業側に多くのメリットをもたらします。
さらに、これらのデータ分析で、カミンズは現在のモデルのパフォーマンスを引き続き向上させ、より良い効率的な未来の車両システムを開発することができます。
今後のテレマティクス業界の動向予測
テレマティクス自体は、スマホやインターネットの普及に伴って、もはや特別でも珍しいものでもなくなってきました。
この記事でご紹介したように、安全性や業務効率をはじめ、テレマティクス業界がとりわけモビリティ業界を進化させるために不可欠なキーワードであることは明らかです。
今後の動向としては、日本で一般に普及しているドライブレコーダーの進化が見られます。従来の映像を記録するだけのドライブレコーダーと違い、テレマティクス技術を用いた管理システムで車両データを集めて車両・運行管理をどちらも行えるシステムが可能になります。
またその多くが、走行履歴や習慣が記録できるなど、リアルタイムでの危険運転検知やそれに伴ったアラート機能、AIカメラによる居眠り運転やながら運転の検知機能、大きな衝撃発生時に安否コールが自動で届く機能など、事故防止と安全運転支援に役立つ機能が搭載されるため、法人企業の導入が増えることは間違いないでしょう。