2024年3月の閣議決定で、特定技能の対象分野に「自動車運送業」が加わりました。トラック運送業だけで今後5年間に約20万人のドライバー不足が見込まれる中、外国人材の受け入れは「検討する・しない」ではなく「どう準備するか」の段階に入っています。
ただ、特定技能でトラックドライバーを雇うには、外国人本人と受入企業の双方に条件があり、片方でも欠ければ在留資格は下りません。この記事では条件を「本人側」と「企業側」に分けて整理し、採用から就労開始までの実務の流れと、見落としがちな注意点をまとめました。
自動車運送業分野の制度と受入枠
自動車運送業分野で外国人トラックドライバーを受け入れるには、本人と企業の双方が満たすべき条件があり、どちらも欠かせません。
制度対象と特定技能1号の基本
自動車運送業分野の対象は、トラック・タクシー・バスの3業種です。トラック運送業の場合、貨物自動車運送事業における運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成、荷崩れ防止の積付けなどが業務範囲に入ります。日本人ドライバーが通常行っている付随業務も同じように任せられます。
トラック分野は現時点で特定技能1号のみが対象で、2号はまだ認められていません。在留期間は通算で最長5年、雇用形態はフルタイムの直接雇用に限定、派遣は不可です。5年で入れ替わる前提になるため、採用計画を立てるときはこの点を織り込んでおいてください。
受入れの上限数は、自動車運送業分野全体(トラック・タクシー・バス合計)で5年間2万4,500人です。DX推進や労働環境改善を進めてもなお不足する人数として設定された数字で、トラック単独の枠ではありません。
本人要件と企業要件の分け方
特定技能トラック分野の条件は、外国人本人が満たすものと受入企業が満たすものの2つに大別できます。
本人側は、技能試験の合格、日本語試験の合格、日本の運転免許の取得の3点。企業側は、働きやすい職場認証またはGマークの取得、協議会への加入、支援計画の整備、日本人同等以上の報酬確保などです。どちらか一方でも欠ければ在留資格の申請は通りません。
実務上は、採用活動を始める前に「自社が企業要件を満たしているか」を先に確かめるのが鉄則です。認証やGマークの取得には申請から時間がかかります。いい人材を見つけてから慌てて動いても、認証が間に合わないケースは珍しくありません。
外国人本人が満たす条件
技能試験と日本語試験の合格、そして日本の運転免許取得の3つが、特定技能トラック分野の本人要件です。
技能試験と日本語試験の合格条件
トラック分野で特定技能1号の在留資格を得るには、「自動車運送業分野特定技能1号評価試験(トラック)」と日本語試験の両方に合格しなければなりません。
技能試験は2024年12月に開始されました。試験言語は日本語、学科試験と実技試験の2本立てで、出題内容は運行業務・荷役業務に関するものです。出張方式(ペーパーテスト)とCBT方式(コンピュータ受験)があり、実施主体は一般財団法人日本海事協会。受験料は国内5,000円(税抜)、海外37米ドルで、合格証明書の発行手数料が別途14,000円(税抜)かかります。
日本語試験は、日本語能力試験(JLPT)N4以上か、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)で200点以上(250点満点)のどちらかを満たせばOKです。タクシーやバスはN3以上を求められますが、トラックはN4で足ります。JFT-Basicは国内テストセンターでほぼ毎日受験できるので、日程の融通が利きやすい試験です。
技能実習2号を良好に修了した方は、トラック分野に限って日本語試験が免除されます。他分野(建設や製造業など)の技能実習2号修了者も対象です。ただし、技能試験(自動車運送業分野特定技能1号評価試験)は免除されません。自動車運送業に対応する技能実習の職種が存在しないため、技能試験は別途受験して合格する必要があります。ここを「両方免除」と勘違いしている方が多いので気をつけてください。
運転免許の取得ルートと特定活動ビザの活用
トラック分野では第一種運転免許が必須です。母国の免許を持っていても、そのままでは日本で業務に使えません。
取得方法は2つあります。日本の自動車教習所に通って取る方法と、外国免許の切替(外免切替)です。外免切替は運転免許センターで知識確認と技能確認を受け、合格すれば日本の免許に切り替わります。
母国で一定期間の運転経験がある方はこちらのほうが早く済むケースが多いです。2024年6月以降、運転免許の学科試験が全国的に20言語対応になりました(開始時期は都道府県によって若干異なります)。日本語力に不安がある候補者でも、免許試験そのものは受けやすくなっています。
問題は「免許を持っていない状態でどうやって日本に来るか」です。この場合は在留資格「特定活動」(特定自動車運送業準備)を使います。技能試験と日本語試験に合格していれば、免許取得前でもこの特定活動ビザで入国でき、教習所への通学や車両清掃などの関連業務に従事できます。
トラックの場合の在留期間は6ヶ月、更新は不可。免許が取れたら速やかに特定技能1号へ在留資格を変更してください。この特定活動の期間は特定技能1号の通算5年には算入されません。
受入企業が満たす条件
働きやすい職場認証またはGマークの取得から、支援計画の整備と協議会加入まで、企業側の準備が不可欠です。
働きやすい職場認証・Gマークの取得条件
トラック運送業で特定技能外国人を受け入れるには、「働きやすい職場認証」か「安全性優良事業所(Gマーク)」のどちらかを取得していることが条件です。両方取る必要はなく、いずれか一方で構いません。
働きやすい職場認証は、法令遵守、労働時間・休日、心身の健康、安心・安定、多様な人材の確保・育成、自主性・先進性の6分野について基本的な取組要件を満たせば認証されます。実施主体は一般財団法人日本海事協会。運送事業許可の取得から3年以上経過していることが前提で、申請受付期間が限られているため、スケジュールは事前に確認しておいてください。
Gマークは、全国貨物自動車運送適正化事業実施機関(公益社団法人全日本トラック協会)が実施する貨物自動車運送事業安全性評価事業による認定です。安全性に関する法令遵守、事故・違反の状況、安全への取組の積極性が審査されます。
申請は年1回、7月の約2週間のみ。タイミングを逃すと丸1年待ちです。Gマークは事業所単位の認定ですが、同一法人内であれば、受け入れる事業所とは別の事業所で保有している場合でも条件を満たせます。
どちらの認証も有効期限があり、定期的な更新が必要です。取得して放置するわけにはいかないので、更新時期の管理もあわせて体制に組み込んでおくべきです。
支援計画・協議会・報酬の要件
認証やGマークに加えて、特定技能制度に共通する要件もクリアしなければなりません。
1号特定技能外国人支援計画の作成と実施は義務です。支援計画には、入国前ガイダンス、住居の確保、生活オリエンテーション、日本語学習の機会提供、相談・苦情対応、定期面談など10項目の義務的支援が含まれます。
自社で体制を整えて直接実施する方法と、登録支援機関に全部または一部を委託する方法があります。外国人雇用の経験がない会社は、最初は登録支援機関に丸ごと委託するのが現実的です。委託費用は1人あたり月額2〜3万円程度が一般的な水準です。
「自動車運送業分野特定技能協議会」への加入も必須で、2025年1月に加入受付が始まっています。国土交通省のホームページから申請できますが、事務局での内容確認に1ヶ月程度かかります。在留資格申請の直前に慌てて出すと間に合わない恐れがあるので、早めに動いてください。
賃金は、同じ業務に従事する日本人ドライバーと同等以上の報酬が求められます。「外国人だから安く雇える」という発想は制度上通用しません。報酬の支払いは銀行口座への振り込みが原則です。このほか、5年以内に出入国・労働法令の違反がないこと、過去1年以内に行方不明者を発生させていないことなど、欠格事由に該当しないことも確認が必要です。
採用から就労開始までの手続きと注意点
採用から就労開始までの流れは免許取得の有無で異なり、在留資格の変更手続きなど見落としやすい点が複数あります。
免許の有無で変わる採用フロー
特定技能トラック分野の採用は、他の特定技能分野より手間がかかります。運転免許の取得が絡むためです。
企業側の準備として、まず働きやすい職場認証またはGマークを取得済みか確認し、協議会への加入申請を済ませます。候補者が技能試験と日本語試験に合格していることを確かめたうえで、フルタイムの直接雇用による特定技能雇用契約を結びます。雇用契約書・条件書は日本語と母国語の併記が必要です。
日本の運転免許をすでに持っている候補者なら、支援計画を作成して在留資格認定証明書の交付申請(海外在住者)か在留資格変更許可申請(国内在住者)を行い、許可が下りればそのままトラックドライバーとして就労を開始できます。
免許を持っていない候補者の場合は、先に特定活動(特定自動車運送業準備)の在留資格で入国し、教習所通学や外免切替で免許を取得してから、特定技能1号に在留資格を変更する流れです。トラックの特定活動ビザは6ヶ月が上限で更新不可ですから、この期間内に確実に免許を取りきるスケジュールを組んでください。
よくある誤解と届出の落とし穴
現場で実際にトラブルになりやすい点をまとめます。
まず「転職を禁止できる」という誤解。特定技能外国人は同じ業務区分(トラック運送業)の範囲内であれば転職が認められています。引き留めたいなら労働条件の改善で対応するしかなく、契約書で縛ることはできません。
行方不明が発生したときの届出義務も見落とされがちです。特定技能外国人が行方不明になった場合、受入れ機関は出入国在留管理庁へ届け出なければなりません。届出を怠ると今後の受入れに支障が出ます。
特定活動ビザで入国した外国人が免許を取得できたら、在留期間がまだ残っていても速やかに特定技能1号への変更申請をしてください。「まだ期間があるから」と放置すると制度上の問題になりかねません。出入国在留管理庁のページにも明記されている義務です。
四半期ごとの定期届出も地味ですが大事な事務作業です。受入れ状況、支援計画の実施状況、活動状況(報酬の支払い、離職者数、行方不明者数など)を出入国在留管理庁に報告する義務があり、届出の不履行には罰則が設けられています。担当者を決めてスケジュール管理を徹底してください。
特定技能トラック分野は条件が多く、準備に時間がかかります。認証・Gマークの取得や協議会への加入は早めに動き、候補者の試験合格や免許取得のスケジュールと並行して進めていくのが受入れ成功の基本です。



