世界の自動車産業の市場規模は、Statistaのデータによると、2030年までに約3兆ドルに達すると予測されており、その成長を牽引するのがCASEです。
本記事では、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング&サービス)、Electric(電動化)という4つの要素からなるCASEについて、最新のデータと動向を交えながら解説します。
CASEとは?自動車業界の大変革
「CASE」は、環境問題や都市化、技術革新を背景に、自動車産業のあり方を根本から変えようとしている概念です。世界の主要自動車メーカーは、CASE関連技術の開発に積極的に投資しています。
CASEの定義と背景
CASEとは、Connected、Autonomous、Shared & Services、Electricの頭文字を組み合わせた造語です。2016年のパリモーターショーでダイムラー社(現メルセデス・ベンツ・グループ)のディーター・ツェッチェ会長が提唱し、自動車産業の未来を示す重要な指標として世界的に認知されています。
CASEは以下の4つの要素で構成されています。
Connected(コネクテッド):インターネットを介した車両の接続性
Autonomous(自動運転):AI技術による運転の自動化
Shared & Services(シェアリング&サービス):移動サービスの共有化
Electric(電動化):環境負荷の少ない電気自動車への移行
CASEが注目される理由
CASEは単なる技術革新ではなく、社会課題の解決に直結しています。世界の交通事故の約94%が人的要因によるものとされ、自動運転技術はこの問題の解決に貢献します。また、都市部の深刻な渋滞問題に対して、シェアリングサービスの活用で車両数を最適化できます。
さらに、世界の運輸部門におけるCO2排出量は全体の約24%を占めており、電動化の推進は環境負荷の低減に大きく寄与します。トヨタの「Woven City」構想は、これらの課題を統合的に解決しようとする先進的な取り組みとして注目を集めています。
CASEの登場による自動車業界への影響
CASEの登場により、自動車業界の競争構造は大きく変化しています。従来の自動車メーカー間の競争から、GoogleのWaymoやAppleなどのテクノロジー企業との協調と競争へと発展しています。
テスラは2023年に全世界で約131万台を販売し、電気自動車市場でのリーダーシップを確立しています。従来の自動車メーカーも、フォルクスワーゲンが2026年までにEVやソフトウェアに1,800億ユーロ、GMが2025年までにEVと自動運転に350億ドルを投資すると発表しています。
CASEの4つの要素:技術ごとの詳細解説
CASEを構成する4つの要素は、それぞれが独立した技術革新であると同時に、相互に密接に関連しています。各要素の現状と将来性について、具体的なデータと事例を交えて解説します。
Connected(コネクテッド)技術の現状と将来
コネクテッド技術は、車両をインターネットに接続することで、安全性と利便性を向上させる基盤技術です。Statistaのデータによると、2023年時点で世界のコネクテッドカー市場規模は約500億ドルに達し、2030年までに約1,910億ドルまで成長すると予測されています。
具体的なサービスとして、リアルタイムの交通情報提供、車両状態の遠隔監視、OTAによるソフトウェアアップデートなどが実用化されています。トヨタの「T-Connect」は、24時間365日のオペレーターサービスや緊急時の自動通報機能を提供しています。
5G通信の普及により、車車間通信(V2V)やインフラとの通信(V2I)が本格化し、より高度な安全支援システムの実現が期待されています。
Autonomous(自動運転)技術の進展と課題
自動運転技術は、レベル0(運転自動化なし)からレベル5(完全自動運転)まで6段階で定義されています。2024年現在、世界各地でレベル3の条件付き自動運転が実用化され、一部の限定エリアではレベル4の実証実験が進んでいます。
メルセデス・ベンツは2022年にレベル3自動運転システム「Drive Pilot」を世界で初めて量産車に搭載しました。日本でもホンダが「レジェンド」でレベル3システムを導入し、高速道路での渋滞時に運転を代替できるようになっています。
Waymoは米国フェニックスやサンフランシスコで完全無人のロボタクシーサービスを展開しています。中国では百度(Baidu)が北京、上海など10都市以上でロボタクシーの商用運転を開始しています。
自動運転の社会実装に向けては、技術面での信頼性向上に加え、事故時の責任所在の明確化や保険制度の整備など、法制度面での対応も急務となっています。
Shared(シェアリング)の普及と社会への影響
モビリティのシェアリングは、車両の稼働率を高め、都市の交通問題を解決する有効な手段として注目されています。Statistaのデータによると、2022年の世界のカーシェアリング市場規模は約250億ドルで、年平均成長率12.5%で拡大を続けています。
ドイツではBMWとメルセデス・ベンツが共同で展開していたSHARE NOWは2022年にサービスを終了しました。日本でもトヨタとソフトバンクが協業し、MONET Technologiesを設立して新しいモビリティサービスの開発を進めています。
特に注目されているのが、自動運転技術とシェアリングを組み合わせたロボタクシーサービスです。McKinseyの分析によると、2030年までにロボタクシー市場は全世界で約1,600億ドル規模に成長すると予測されています。
Electric(電動化)の重要性と導入状況
電動化は、気候変動対策における重要な施策として世界的に加速しています。IEAによると、2023年の世界の電気自動車販売台数は約1,000万台で、新車販売に占める割合は約14%に達しました。
中国は世界最大のEV市場です。欧州では2035年までに新車販売を全てゼロエミッション車にする規制を導入しました。日本も2035年までに新車販売の100%を電動車にする目標を掲げ、充電インフラの整備を推進しています。
バッテリー技術も急速に進化しており、BloombergNEFのデータによると、2022年のリチウムイオン電池パックの平均価格は1kWhあたり151ドルです。航続距離も伸び、最新モデルでは500km以上走行可能な車種も増えています。
CASEがもたらす自動車業界の変革と課題
CASEの進展により、自動車メーカーのビジネスモデルは大きく変化しています。従来の「つくって売る」モデルから、モビリティサービスの提供者としての役割が重要になっています。
CASEによる自動車ビジネスの変革
自動車メーカーの収益構造に変化が生じており、従来の車両販売に加え、ソフトウェアやサービスの収益が増加しています。
トヨタは「Woven City」プロジェクトを通じて、次世代モビリティの実証実験を行う実験都市を静岡県に建設しています。自動運転、パーソナルモビリティ、ロボティクスなどの技術を統合し、未来の暮らしの実現を目指しています。
CASE実現への課題と解決策
CASEの実現には、技術面、制度面、社会面での課題が存在します。半導体不足や原材料価格の高騰は、電動化の推進における大きな課題となっています。
サイバーセキュリティの確保も重要な課題です。コネクテッドカーの普及に伴い、車両へのサイバー攻撃リスクが増大しており、ISO/SAE 21434など国際標準規格に基づく対策が進められています。
CASEがもたらす雇用への影響
自動車産業の雇用構造も大きく変化しています。特に需要が高まっているのは、ソフトウェア開発、データ分析、AI技術者などのIT人材です。フォルクスワーゲンはソフトウェアエンジニアの増員、BMWも同様に、デジタル人材の採用を強化しています。
CASEが描く未来:自動車と社会の新しい関係性
CASEの進展により、自動車は「移動手段」から「モビリティサービスプラットフォーム」へと進化しつつあります。この変化は、私たちの生活様式や都市のあり方にも大きな影響を与えることが予想されています。
CASEによる生活と社会の変化
自動運転技術の発展により、交通事故の大幅な削減が期待されています。WHOの報告によると、世界の年間交通事故死者数は約135万人に上ります。
日本においても、2020年の交通事故死者数は2,839人まで減少し、政府は2030年までに年間死者数を1,500人以下にする目標を掲げています。自動運転技術の進化は、この目標達成に大きく貢献すると期待されています。
コネクテッドカーの普及は、移動時間の活用方法も変えつつあります。車内でのエンターテインメントや仕事が可能になり、従来の「運転する時間」が「活用できる時間」に変わりつつあります。
今後の展望と自動車業界の未来
CASEの実現は、環境負荷の低減、安全性の向上、移動の効率化という社会課題の解決に大きく貢献すると期待されています。自動車メーカーにとって、CASEへの対応は生き残りをかけた重要な経営課題となっています。今後も技術開発と新サービスの創出が加速すると予想されています。
このように、CASEは単なる技術革新を超えて、私たちの暮らしや社会のあり方を大きく変える可能性を秘めています。その実現に向けては、技術開発はもちろん、法制度の整備や社会的受容性の向上など、さまざまな課題に取り組んでいく必要があります。
自動車産業は今、100年に一度の大変革期を迎えています。CASEの進展により、環境にやさしく、安全で快適な移動社会の実現が、着実に近づいているのです。



