インターネット通販の利用が当たり前になった現代において、物流は私たちの生活を支える重要なインフラとなっています。 EC市場の拡大に伴い、物流業界では「ラストワンマイル」という言葉が注目されています。ラストワンマイルとは、商品が消費者の手元に届くまでの最後の配送区間を指し、物流業界における最大の課題の一つとして認識されています。
本記事では、ラストワンマイルの意味や重要性、そしてその課題解決に向けた最新技術やソリューションについて詳しく解説していきます。
ラストワンマイルとは?EC時代の重要性を解説
物流業界において、ラストワンマイルの最適化は企業の競争力を左右する重要な課題となっています。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2022年のBtoC-EC市場規模は20兆6,970億円、前年比7.6%増と急速に拡大しています。この成長に伴い、商品を確実に消費者の手元に届ける「最後の一歩」であるラストワンマイルの重要性が、かつてないほど高まっているのです。
ラストワンマイルの意味と概要
ラストワンマイルとは、物流における最終配送区間を指します。具体的には、配送センターや物流拠点から消費者の手元に商品が届くまでの最後の工程です。国土交通省の資料によると、この区間は輸送コスト全体の約3割を占め、最も効率化が求められる領域となっています。
従来の物流では、大量の荷物を効率的に運搬する幹線物流が中心でした。しかし、EC時代の到来により、個別配送の需要が急増。少量多頻度の配送が必要となり、人手不足や配送コストの上昇という新たな課題が浮上しています。実際に、物流大手のヤマトホールディングスの発表によると、2023年度の宅急便取扱個数は17億8,000万個を見込んでいます。これは前年比約4.7%増で、配送需要の増加傾向は続いています。
特にECサイトでは、アマゾンが提供する「当日配送」や「翌日配送」などの迅速な配送サービスが一般化し、消費者の期待値も上昇。各企業は配送品質の向上と効率化の両立という課題に直面しています。
EC普及で高まるラストワンマイルの重要性と課題
EC市場の成長に伴い、ラストワンマイルの重要性は年々高まっています。日本通信販売協会の「令和4年度 通販・EC市場規模実態調査」によると、EC利用者の73.7%が「配送の正確さ」を重視し、68.1%が「配送のスピード」を重視すると回答しており、配送品質が顧客満足度に直結することが明らかになっています。
現在、物流業界が直面する主な課題は以下の通りです。
・配送員不足
厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、2023年8月の運輸業、郵便業の有効求人倍率は2.31倍で、全産業平均の1.29倍を大きく上回り、深刻な人手不足が続いています。
・配送コストの上昇
最低賃金の上昇や燃料費の高騰により、一個あたりの配送コストが増加しています。
・再配達問題
国土交通省の「宅配便の再配達に関する調査」報告書(2016年)によると、宅配便の再配達率は20%で、再配達にかかるコストは年間約1,800億円と試算されています。
これらの課題に対し、先進的な企業では様々な取り組みを展開しています。例えば、佐川急便は駅やコンビニに設置した宅配ロッカーを活用し、再配達率を削減することに成功しています。また、日本郵便は電動アシスト自転車を導入し、環境負荷の低減と配送効率の向上を実現しています。
このようにラストワンマイルは、単なる配送の最終工程ではなく、企業の競争力とブランド価値を左右する重要な要素となっています。今後も技術革新やサービスの多様化により、さらなる進化が期待される分野といえるでしょう。
ラストワンマイルの課題解決:最新技術とソリューション
物流業界では、ラストワンマイル配送の効率化に向けて、先進的な技術やサービスの導入が加速しています。配送の最終区間における革新的なソリューションの開発が活発化しています。
再配達によるコスト増加とCO2排出量の増加
国土交通省の「宅配便の再配達に関する調査」報告書(2016年)によると、再配達に伴う社会的損失は年間約3,700億円に上り、CO2排出量も年間約42万トンの増加につながっています。この問題に対し、物流各社は様々な取り組みを展開しています。
楽天グループは、独自のAIアルゴリズムを活用した配送予測システムを導入し、顧客の在宅確率が高い時間帯に配送を行うことで、再配達率を削減することに成功しました。
ヤマト運輸は、LINEを活用した配送時間の変更サービスを展開。スマートフォンで手軽に受け取り時間の調整が可能となっています。
ドローン・ロボット・宅配ボックスで配送効率を向上
最新テクノロジーを活用したラストワンマイルの革新も進んでいます。
日本郵便は離島でのドローン配送実験を実施し、従来の船便と比べて配送時間を最大80%短縮することに成功。急峻な地形や災害時の代替輸送手段としても期待されています。
セブン-イレブン・ジャパンは、東京都港区の複合施設「東京ポートシティ竹芝」で自動配送ロボットの実証実験を開始しました。歩道を自律走行して商品を配送することで、人手不足の解消と24時間配送の実現を目指しています。
パナソニックは、IoT対応のスマート宅配ボックスを開発。温度管理機能や防犯機能を搭載し、生鮮食品やEC商品の安全な受け取りを可能にしています。導入施設では再配達率が低下したという結果が報告されています。
ラストワンマイルとサステナビリティ:環境への取り組み
サステナビリティへの関心が高まる中、ラストワンマイル配送の環境負荷低減は喫緊の課題となっています。環境省の「令和2年度 環境経済の政策研究報告書」によると、運輸部門(旅客輸送と貨物輸送を含む)のCO2排出量は、2019年度で1億8,210万トンで、国内の総排出量の約18%を占めています。その中でもラストワンマイル配送の割合が増加傾向にあることが指摘されています。
CO2排出量削減に向けたサステナブルな配送方法
物流各社は環境に配慮した配送手段の導入を積極的に進めています。
日本郵便は2030年度までに集配用車両の100%を電気自動車にする目標を掲げています。
アマゾンジャパンは、都心部で電動自転車やカーゴバイクによる配送を拡大しています。
佐川急便とヤマト運輸は2017年に共同配送プロジェクトを開始し、一部地域で宅配便の集荷・配送業務を共同化しています。
消費者行動がラストワンマイルのサステナビリティに与える影響
環境意識の高まりは消費者の行動にも変化をもたらしています。
イオンは、店舗での受け取りや宅配便ロッカーの利用など、環境負荷の少ない配送方法を選択した顧客にポイントを付与する「グリーンデリバリー」プログラムを導入しています。
ラストワンマイルの未来:IoT・AIで進化する物流
デジタル技術の発展により、ラストワンマイルの革新は新たな段階を迎えています。
IoTやAIがもたらす物流の進化とラストワンマイルへの影響
大手物流企業は、AIを活用した配送最適化システムの導入を進めています。
日本通運はAIシステムにより、配送ルートの最適化と積載効率の向上を実現しています。
ZOZOは、RFIDタグを活用した在庫管理システムを導入し、物流センターの作業効率を向上させています。
消費者ニーズに応える未来のラストワンマイルサービス
配送サービスの個人最適化も進んでいます。
ソフトバンクとヤマト運輸は、AIを活用した「パーソナライズド配送」の実証実験を行い、配送効率の向上を確認しています。
ウーバーイーツは、機械学習を活用した配送需要予測システムを導入し、配送効率を向上させています。
さらに、楽天は「スマートデリバリー」構想を発表。IoTデバイスとAIの連携により、配送状況をリアルタイムで把握し、天候や交通状況に応じて最適な配送手段を自動選択するシステムの構築を目指しています。
ラストワンマイルにおける個客対応の重要性
EC市場の拡大と多様化に伴い、顧客一人ひとりのニーズに合わせた配送サービスの提供が求められています。従来の一律的な配送サービスでは、顧客満足度を高めることが難しくなってきています。
例えば、共働き世帯や単身世帯の増加により、日中の在宅率が低下しています。そのため、従来の配送時間帯では荷物を受け取ることができず、再配達を依頼するケースが増えています。また、商品の種類やサイズ、配送地域によって、最適な配送手段は異なります。
このような状況に対応するため、物流業界では、AIやIoTなどの最新技術を活用した個客対応のラストワンマイル配送サービスの開発が進められています。
AIによる配送ルートの最適化と配送時間帯の予測
AIを活用することで、個々の顧客のライフスタイルや配送履歴などを分析し、最適な配送ルートや配送時間帯を予測することが可能になります。これにより、再配達のリスクを低減し、配送効率を向上させることができます。
IoTによる配送状況のリアルタイム共有
IoTデバイスを活用することで、荷物の位置情報や配送状況をリアルタイムで顧客と共有することができます。これにより、顧客は安心して荷物を受け取ることができ、配送に関する問い合わせを減らすことができます。
多様な配送オプションの提供
顧客のニーズに合わせて、多様な配送オプションを提供することが重要です。例えば、宅配ロッカーやコンビニ受け取り、時間指定配送、置き配など、顧客が自由に配送方法を選択できるサービスが求められています。
ラストワンマイルの未来展望
ラストワンマイルは、物流業界における最も重要な課題の一つであり、今後も技術革新やサービスの多様化が加速していくと予想されます。
自動運転技術の活用
自動運転技術の進歩により、無人配送車やドローンによる配送が実現すると期待されています。これにより、人手不足の解消や配送コストの削減、24時間配送の実現などが可能になります。
ブロックチェーン技術の活用
ブロックチェーン技術を活用することで、配送履歴の改ざん防止や配送情報の共有、スマートコントラクトによる自動決済などが可能になります。これにより、配送の信頼性向上や業務効率化が期待されます。
ラストワンマイル配送のプラットフォーム化
複数の物流事業者が連携し、配送情報を共有するプラットフォームが構築されることで、配送効率の向上や配送コストの削減、顧客サービスの向上が期待されます。
ラストワンマイルは、物流業界全体の効率化と顧客満足度向上に大きく貢献する重要な領域です。今後も、最新技術やサービスを積極的に導入することで、より便利で効率的なラストワンマイル配送が実現すると期待されます。



