物流業界で働く人間なら誰もが一度は考えたことがあるはずです。もっと重い荷物を、もっと大きな貨物を、一度でまとめて運べたらどれだけ効率的だろうかと。この永遠とも言える課題に対して、一つの解決策として注目を集めているのが5軸トラックという存在です。一般的なトラックと比べて軸の数が多いこの車両は、輸送能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めていると言われています。
しかし、実際に5軸トラックを導入するとなると、話はそう単純ではありません。まず車両の構造をしっかりと理解する必要がありますし、関連する法規制についても把握しておかなければなりません。さらに導入コストや運用上の注意点など、検討すべき事項は多岐にわたります。
本記事では、5軸トラックの導入を真剣に検討している運送事業者の方々や、荷主として輸送効率の改善を模索している皆様に向けて、5軸トラックについて知っておくべき情報を詳しく解説していきます。種類ごとの構造的な違いから始まり、積載量を決定する法規制の仕組み、実際の活用シーン、そして導入前に必ず確認すべき事項まで、幅広くカバーしていきます。自社の輸送ニーズに5軸トラックが本当に最適なのか、その判断材料となる情報を提供できればと考えています。
5軸トラックとは?基本的な構造を理解する
5軸トラックという言葉を聞いたとき、まず疑問に思うのは「5軸」とは一体何を指しているのかということでしょう。そして、なぜわざわざそのような多軸構造が必要になるのか、その理由も気になるところです。ここでは、5軸トラックの基本的な仕組みから解説を始めていきます。代表的な車両の種類や、一般的な3軸・4軸トラックとの構造的な違いを理解することで、5軸トラックの特性をより深く把握できるようになります。
「5つの軸」の数え方と車両の種類
5軸トラックを理解するための第一歩は、そもそも「軸」とは何を指すのかを正確に知ることから始まります。トラックにおける軸というのは、車体を横から見たときに左右のタイヤを結んでいる車軸、つまりアクスルのことを指しています。したがって5軸トラックとは、この車軸が5本ある車両の総称ということになります。
5軸トラックには大きく分けて2つのタイプが存在しています。まず一つ目は、物流現場で最も頻繁に目にすることができるセミトレーラー連結車です。これは運転席とエンジンを搭載したトラクター、いわゆる牽引車と、荷台部分であるセミトレーラー、つまり被牽引車を連結した形態を取っています。この場合、トラクターに2軸、セミトレーラーに3軸という組み合わせで合計5軸となる構成が主流となっています。
もう一つのタイプは、運転台から荷台までが一つのシャシー、つまり車台で構成されている単車と呼ばれるものです。一般的な大型トラックは前2軸・後2軸の4軸が最大となっていますが、特殊な重量物輸送などの用途において、後輪を3軸にするなどして合計5軸とした単車も存在しています。ただし、その数はセミトレーラーと比較すると非常に限定的であり、一般的に5軸トラックと言えば、多くの場合セミトレーラー連結車を指すことが多いというのが実情です。
3軸・4軸トラックとの構造的な違い
ここで素朴な疑問が湧いてきます。なぜわざわざ軸の数を3軸や4軸から5軸に増やす必要があるのでしょうか。その最大の理由は荷重分散という考え方にあります。日本の道路法では、公道を走行する車両が道路に与えるダメージを抑制するため、1本の軸が支えることができる重さ、つまり軸重が原則として10トンまでと定められています。
もし車両総重量、つまり車両自体の重さと積荷の重さを合わせた重量が大きい貨物を、より少ない軸数で支えようとすると、どうなるでしょうか。特定の軸に荷重が集中してしまい、この10トンという制限を超えてしまう可能性が高くなります。そこで軸を1本追加して5軸にすることで、車両全体の重さを5本の軸に分散させることができるようになります。これにより、1軸あたりの荷重を10トン以下に抑えながら、車両全体としてはより重い貨物を積載することが可能になるという仕組みです。
この荷重分散の考え方は、トラックの積載能力を最大限に引き出すための根幹をなすものと言えます。軸数を増やすということは、単純にタイヤの数を増やすということではありません。法令を遵守しながら輸送効率を高めるための、極めて合理的な構造的選択なのです。また、軸数が増えることで地面との接地面積が増加し、走行安定性が向上するという副次的なメリットも生まれます。しかし一方で、全長が長くなることによって内輪差が増大し、運転の難易度が上がるという側面も持ち合わせていることは忘れてはいけません。
5軸トラックの積載量はどう決まる?関連する法規制
5軸トラックの最大の魅力である積載能力は、実は法律によって厳密に定められています。ここでは、その上限を決定づける車両総重量や軸重といった基本的な規制内容について詳しく見ていきます。また、セミトレーラーならではの重要な指標である第五輪荷重についても、その関係性を分かりやすく解説していきます。
車両総重量と軸重・輪荷重の関係
5軸トラックの積載量を正確に理解するためには、いくつかの重要な法規制について知っておく必要があります。トラックの重量に関する規制の基本となるのが、車両総重量、軸重、そして輪荷重の3つです。
まず車両総重量について説明しましょう。これは車両本体の重量に加えて、乗員の体重、燃料、そして積荷の全てを合わせた、その時点での車両全体の総重量を指します。道路法における一般的制限値では、車両の長さや軸距、つまり最前部の軸と最後部の軸の距離に応じて変動しますが、多くの大型トラックで20トン、条件を満たした一部の車両で最大25トンと定められています。
次に軸重ですが、これは前述の通り1つの車軸にかかる重さのことで、原則として10トンが上限となっています。そして輪荷重は、1つの車輪にかかる重さを指し、こちらは5トンが上限と定められています。トラックの積載量は、これらの数値をどれか一つでも超えない範囲で決定されなければならないという決まりがあります。
5軸トラックは、軸重の制限をクリアしながら車両総重量の枠を最大限に活用するために設計されています。例えば、車両総重量が36トンにもなる貨物を運ぶ場合を考えてみましょう。軸数が少ないトラックでは一部の車軸に重さが集中してしまい、軸重10トンの制限を超えてしまうリスクが高まります。そこで軸を1本追加して5軸にすることで、車両全体の重さをより多くの軸で支えることができるようになり、各軸にかかる荷重を基準値内に収めやすくなるというわけです。ただし、これらの一般的制限値を超える車両を公道で走らせるには、後述する特殊車両通行許可の取得が絶対条件となることは覚えておく必要があります。
セミトレーラーにおける第五輪荷重の重要性
セミトレーラータイプの5軸トラックにおいて、積載量を左右するもう一つの極めて重要な要素があります。それが第五輪荷重と呼ばれるものです。これはトラクターとトレーラーを連結する部分、つまりカプラーにかかる、トレーラー側からの垂直方向の荷重のことを指しています。
トレーラーに積まれた荷物の重さは、どのように支えられているのでしょうか。実はトレーラー自身の車軸と、連結部分である第五輪の2箇所に分散してかかっています。つまり、トラクターは荷物を引くだけでなく、荷物の一部を支える役割も担っているということになります。
この第五輪荷重の上限値は、トラクターの自動車検査証、いわゆる車検証に明記されています。車検証には第五輪荷重という項目があり、そこに記載されている数値、例えば9,500kgといった数字が、連結部で支えることができる最大の重さとなります。また、備考欄などに連結可能なトレーラの車両総重量として、そのトラクターが牽引できるトレーラーの最大重量が記載されている場合もあります。
どれだけ高性能な3軸トレーラーを用意したとしても、連結するトラクターの第五輪荷重が不足していれば、トレーラーの性能をフルに発揮することはできません。トラクターとトレーラーを組み合わせる際には、この第五輪荷重の数値を必ず確認し、輸送したい貨物の重量とトレーラーの性能に見合ったトラクターを選定することが、安全かつ法令を遵守した運行の鍵となります。
5軸トラックが活躍する具体的な輸送シーン
高い輸送能力を持つ5軸トラックは、具体的にどのような現場でその力を発揮しているのでしょうか。ここでは、その代表的な活用シーンを紹介するとともに、導入後に直面することになるコストの問題や、日々の運行で注意すべき点など、現実的な側面にも光を当てて解説していきます。
重量物・長尺物輸送におけるメリット
5軸トラックがその真価を最も発揮するのは、分割することが不可能な重量物や長尺物の輸送シーンです。その圧倒的な積載能力と安定性により、他のトラックでは対応が難しい特殊な輸送ニーズに応えることができます。
代表的な例として、まず建設機械の輸送が挙げられます。ショベルカーやブルドーザー、大型クレーンといった重機は、それ自体が数十トンに及ぶ重量物であり、5軸の低床セミトレーラーが活躍する典型的な現場と言えるでしょう。低床タイプは荷台の高さが低く設計されているため、重機が自走で乗り降りしやすいという利点があります。さらに全高を抑えられるため、高架下やトンネルの通行にも有利に働きます。
次に鋼材や橋梁といったインフラ資材の輸送も重要な活用シーンです。これらの貨物は非常に重いだけでなく、長さが数十メートルに及ぶことも珍しくありません。5軸トラックの安定した走行性能は、こうした長尺物を安全に目的地まで運ぶために不可欠な要素となっています。同様に、近年需要が増えている風力発電のブレード、つまり羽根なども、5軸トラックが得意とする輸送品目の一つとなっています。
また、国際物流の要である海上コンテナの輸送、特に重量のある40フィートコンテナの陸上輸送においても、5軸セミトレーラーは主力として活躍しています。その他にも、工場で使われる大型のプレス機や、振動を嫌う精密機械など、付加価値が高く、かつ慎重な取り扱いが求められる貨物の輸送においても、その安定したプラットフォームは高く評価されています。
導入後のコストと運行上の注意点
輸送効率の向上という大きなメリットがある一方で、5軸トラックの導入と維持には相応のコストがかかることも事実です。まず初期投資である車両価格について見てみましょう。新車のトラクターとトレーラーを合わせると2,000万円を超えるケースも少なくありません。中古車市場でも選択肢はありますが、年式や走行距離、車両の状態によって価格は大きく変動することになります。
維持費で特に大きな割合を占めるのがタイヤです。例えば、一般的な前1軸・後1軸の2軸トラクター、つまりタイヤ6本と、後輪が全てダブルタイヤの3軸トレーラー、つまりタイヤ12本を組み合わせた場合、合計で18本ものタイヤが必要になります。1本あたりの価格も決して安くはありませんし、交換時期が来ると一度に大きなコストが発生することになります。日々のタイヤ点検の手間とコストは、4軸トラックと比較して確実に増加することは覚悟しておく必要があります。また、燃料費や、車両区分が大きくなることによる高速道路料金の増加も考慮に入れる必要があります。
運行上の注意点としては、まず旋回半径の大きさが挙げられます。全長が長くなるため、交差点を曲がる際の内輪差が非常に大きくなり、運転には高い技術と経験が求められることになります。特に、狭い市街地や搬入先の敷地内での取り回しには細心の注意が必要です。また、駐車場の確保も課題となり得ます。一般的な大型トラック用の駐車スペースでは収まらないケースも多く、運行ルートや休憩場所の選定には事前の計画が欠かせません。
5軸トラック導入前に押さえておきたい確認事項
5軸トラックの導入は、車両を購入すれば終わりというわけではありません。安全かつ合法的に運行するためには、事前の準備が不可欠です。ここでは、運転に必要な免許や乗務員の確保、そして公道を走るための通行許可など、導入を決断する前に必ず押さえておくべき重要な確認事項を解説していきます。
必要な運転免許と乗務員の確保
5軸トラック、特に主流であるセミトレーラーを運転するためには、特別な免許が必要になります。貨物自動車であるトラクターを運転するための大型自動車免許に加えて、トレーラーを牽引するために牽引免許が必須となります。牽引免許の取得には、教習所に通う場合で10万円から20万円程度の費用がかかり、合宿などで集中的に行えば1週間程度の期間が目安となります。
しかし、単に免許を所持しているだけでは不十分であることは強調しておきたいと思います。前述の通り、トレーラーの運転は内輪差が大きく、バック、つまり後退は単車と全く異なる動きをするため、非常に高度な運転技術と空間認識能力が求められます。特に、重量物を積載した状態での坂道やカーブの走行は、車両の挙動を熟知した経験豊富なドライバーでなければ安全を確保することは困難です。
したがって、5軸トラックを導入する際には、必要な免許を持つ乗務員を確保するだけでなく、その人物がトレーラーの運転に習熟しているか、あるいは十分な教育・訓練を施す体制が整っているかが極めて重要になります。経験の浅いドライバーにいきなり運転を任せることは、重大な事故につながるリスクを伴うことを認識しておく必要があります。
特殊車両通行許可の申請と運行ルート
5軸トラックが輸送する貨物は、その多くが重量や寸法において道路法で定められた一般的制限値を超過することになります。車両総重量20トン、幅2.5メートル、高さ3.8メートル、長さ12メートルといった制限値を超える車両が公道を走行するためには、道路管理者から事前に特殊車両通行許可、いわゆる特車許可を得なければなりません。道路管理者とは国や都道府県、市町村などを指します。
この申請は、国土交通省のオンラインシステムを利用して電子申請することも可能になっています。申請時には、車両の諸元、つまり寸法や重量などの情報や、走行したい経路を詳細に申告する必要があります。道路管理者は、提出された経路が橋梁の耐荷重や道路の幅員、トンネルの高さといった条件をクリアしているか審査し、問題がなければ許可証を発行することになります。
注意すべきは、申請から許可が下りるまでの期間です。経路が国道のみなど単純な場合は比較的早く許可されることもありますが、地方道などが含まれ、経路が複雑になると審査に時間がかかることになります。数週間から場合によっては数ヶ月を要することもあるため、輸送計画を立てる際には、この申請期間を十分に見越しておく必要があります。
万が一、無許可で走行したり、許可された経路を逸脱したり、あるいは過積載が発覚した場合、どのような事態になるでしょうか。運転手個人だけでなく、運送事業者や荷主に対しても厳しい罰則が科せられる可能性があります。道路法に基づき100万円以下の罰金などが科せられることもあります。さらに、行政処分として車両の使用停止命令や事業許可の取り消しにつながる場合もあります。5軸トラックの運用は、徹底した法令遵守と運行管理が大前提となることを肝に銘じておく必要があります。



