長時間運転するトラックドライバーにとって悩みの種である腰痛。この記事では腰痛のメカニズムや対策について紹介します。
腰痛の主な原因とは?
腰痛のメカニズムとは?痛みが起こるのはどのような瞬間でしょうか?
腰痛のメカニズム
一口に腰痛と言っても、その症状はさまざまであり、腰痛で医療機関を受診する人の約85%はその原因を断定できないものなのです。腰痛には大きく分けて2つの種類があり、原因を特定できるものと原因を特定できないものがあります。
腰椎椎間板ヘルニアなどは原因を特定できる腰痛のわかりやすい例ですが、多くのトラックドライバーを悩ませる腰痛にはいわゆる慢性腰痛やぎっくり腰が多く、医学的には痛みの出ている組織を断定できないため、原因のわからない腰痛に分けられます。
最初の痛みから3か月以上続く腰痛を慢性腰痛と呼びますが、トラックドライバーが慢性腰痛になる要因としては長距離運転で長時間全身に振動を受ける、頻繁に重いものを持つ、長時間同じ姿勢でいるなどが考えられます。ぎっくり腰は急に襲われる強い腰の痛みですが、比較的短期間で痛みがおさまる傾向があります。
腰痛の起こる瞬間・運転と荷物の取り扱い
慢性腰痛はつねにチクチクとした痛みがあり、ぎっくり腰は重いものを持ち上げようとした際や、腰をひねる動きをした際に急な痛みに襲われる腰痛です。
どちらも腰を曲げた瞬間や腰をひねった瞬間に痛みが出ることが多いため、なるべく腰に負担をかけない体勢や心構えでいることが大切です。
とくに低い位置にある重いものを持ち上げる際には腰に負担がかかりやすいため、腰を大きく曲げて荷物を持ち上げるのではなく、一旦しゃがむような格好で太ももの筋肉を使って立ち上がるように持ち上げると腰への負担が少なくて済みます。重い荷物でも小分けにできるものはなるべく分けて持ち、一度に持つ荷物の重量を少なくするのも効果的です。また、腰をひねる動きでも痛みが出やすいため、腰をひねらず体全体を向けたい方向に向けるのもよいでしょう。
現場で試せる腰痛対策
現場で試せる腰痛対策には運転姿勢の最適化と休息・ストレッチがあります。
最適な運転姿勢の取り方
シートに深く座る
シートに深く腰掛け、背中とシートの背もたれ部分を密着させ隙間のないようにします。シートと背中を密着させることで、上半身の体重をシートと腰に分散させることができます。
ここでシートと背中に隙間があると腰痛を起こす原因になり、ブレーキ操作にも悪影響が出ます。ランバーサポートなどシートと腰の隙間を調節する機能があるものは有効に使いましょう。
シート座面の高さを調節する
シート座面の高さは高すぎず低すぎず、自分の体格に合う高さに調節しましょう。
シートの前後を調節する
ブレーキを強く踏んだ際にひざが伸び切らず、少し曲がるようにシートを前後に調節します。
ハンドルの上下・前後、シート背もたれの角度を調節する
ハンドルを上下(チルト)前後(テレスコ)に調節します。ハンドルに手を置いた際にひじが伸び切らずに少し曲がるように調節します。ハンドルとの距離を確かめながら背もたれの角度も調節しましょう。
効果的な休息とストレッチ
腰に負担がかかっていると感じた場合は無理をせず体を休めることが大切です。長距離ドライバーの場合、4時間運転した際には30分以上の休憩が必要です。休憩時間を有効に活用して体を休めたりストレッチをして腰痛を対策しましょう。
イスに座ったままできる4の字前屈ストレッチ
イスに浅く腰掛けます。
4の字になるように片方の足のくるぶしをもう片方の足の太ももにのせます。
背筋を丸めないようにまっすぐにし、上半身を前に倒します。
10秒キープします。
足を入れ替えて同じ手順を繰り返します。
床で行う仰向けストレッチ
床に仰向けになり膝を90度曲げます。
太ももに力を入れお尻と腰を持ち上げます。
膝から胸が一直線になるところまで持ち上げましょう。腰に痛みがある場合は痛みの出ないところで止めます。
この状態を10秒キープします。
3回繰り返します。
腰痛対策の製品とアイテム
腰痛対策にはシートを交換する方法と、腰痛対策に役立つアイテムを活用する方法があります。
腰痛対策用シートの選び方
運転姿勢を最適に調節しても腰痛が解消しない場合には、運転席シートをまるごと交換する方法もあります。交換するシートで有名なメーカーとしては、国産のスポーツカーにも採用されているドイツのレカロや日本のシートメーカーであるブリッドがあります。もともとはスポーツカーのスポーツ走行やドレスアップなどにシートを交換する人が多かった印象ですが、最近では乗り心地改善のためにシートを交換する人も増えています。
シートには、ホールド性を高めリクライニング機構を持たないフルバケットシートと、リクライニング機構のあるセミバケットシートがありますがトラックにはセミバケットシートがおすすめ。どちらのメーカーもトラックに適合したシートが販売されているため、その中から選ぶとよいでしょう。カー用品店などでは試しに座ることができる店舗もあるため店舗スタッフに相談してみましょう。
その他の有用なアイテムと製品
シートを交換する場合10万円以上の費用がかかるケースも多いため、あまり費用をかけずに腰痛対策をしたい人はクッションなどの腰痛対策アイテムを使う方法もあります。
シートタイプクッション
シートタイプは頭や首のあたりからお尻の周りまで、全体に体をサポートするクッションがあるイメージです。横揺れの体のズレを防いだり正しい運転姿勢をサポートするのに役立ちます。
部分タイプクッション
部分タイプは腰の後ろや首などの一部分だけにクッションを配置するタイプです。腰痛や肩こりなどの一部分に疲れがたまりやすい人におすすめです。運転姿勢を調節しても背もたれと腰が離れてしまう人は、腰の後ろに置く腰椎クッションがよいでしょう。
低反発と高反発クッション
クッションには低反発と高反発があります。低反発は圧がかかるとゆっくり沈み体にフィットします。高反発は反発力でクッションの形に体を矯正する働きがあります。
腰痛と労災の関連性
最後に腰痛が労災に認められる条件と申請手順を解説します。
腰痛が労災に認められる条件
厚生労働省では腰痛を2種類に分け、労災と認めるためにそれぞれ要件を定めています。
災害性の原因による腰痛
1. 2と3をどちらも満たすもの
2. 腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
3. 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既住症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
災害性の原因によらない腰痛
1. 突発的な出来事が原因ではなく、腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの
2. 長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を持続して行う業務に3か月以上従事した長距離ドライバー含む
この2種類の腰痛のどちらかの要件を満たしていれば労災と認められるということです。
また、ぎっくり腰は日常的な動作の中でも生じるため労災認定されません。ただし、腰への強い力が加わった場合は認められる場合があります。
腰痛を労災として申請する手順
1.労災発生
2.事業所から証明をもらった療養の給付請求書を受け取る
3.医療機関にかかり療養の給付請求書を提出
4.医療機関は医師の証明の入った療養の給付請求書を労働基準監督署に提出
5.労働基準監督署の調査(災害発生状況報告書の提出を求められることがある)
6.労働基準監督署による医療機関への療養費の支払い
なお、労災指定の医療機関以外で受信した場合は実費で支払い、後日労働基準監督署から指定口座に費用が振り込まれます。