トラック業界の課題はなにか?未来はどうなるのか?

豊かで便利な生活に欠かすことのできない物流。その中でも重要な役割を担っているトラック業界ですが、多くの課題を抱えています。トラック業界が抱えている課題と未来を解説します。

目次

トラック業界の現状

トラック業界は物流に欠かすことのできない重要な役割を担っています。しかしながらドライバー不足や高齢化、運送コストの増加など課題が山積みになっている現状があります。

トラック業界の市場規模

全日本トラック協会が発刊した「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2022」によると、トラックや鉄道、海運、航空、倉庫などを含めた日本の物流事業の市場規模はおよそ29兆円です。この中でトラック運送事業の市場規模は、平成30年(2018年)度で19兆3,576億円となっており、物流市場全体の約7割を占めます。
トラック運送事業に次いで多い営業収入が外航海運の3兆3,360億円であることから、大きなシェアを誇るトラック運送事業が物流の主役であることがわかります。

トラック運送事業の営業収入の推移としては、平成22年(2010年)度では12兆2,437億円。平成23年(2011年)から平成28年(2016年)は14兆円半ばから16兆円弱を推移しますが、平成29年(2017年)で16兆3,571億円に、平成30年(2018年)度では一気に増え19兆3,576億円となります。
また、トラック運送事業に従事する就業者数の面では令和3年(2021年)で約199万人、このうちドライバーなどの機械運転従事者数は約84万人です。
平成22年(2010年)では総数で181万人、ドライバーなどの機械運転従事者数は79万人でした。平成22年から令和3年まで就業者数は微増していますが、ドライバーなどの機械運転従事者数はほぼ横ばいで推移しています。

トラック業界が直面する課題

トラック業界が直面する課題にドライバー不足やドライバーの高齢化、運送コストの増加があります。
近年ではインターネット通販などの宅配便の取り扱い個数が増加しており、それに伴いトラック運送事業の営業収入も増加しています。
一方、ドライバーの数は増えておらずほぼ横ばいであるためドライバーが不足している状況にあります。さらに現在トラック運送事業に従事しているドライバーの多くが中高年層であり、令和3年(2021年)では10代が1.0%、20代が9.0%、30代が14.1%、40代が29.1%、50代が27.6%、60代が17.6%と、40代50代がもっとも多く、ドライバーの高齢化が年々進んでいます。
運送コストの面では、全日本トラック協会が公表する一般貨物運送事業損益明細表によると、人件費が39.8%と最も多くの割合を占め、ドライバー不足がその要因として考えられます。
次に多くの割合を占めるのが燃料油脂費の12.0%です。原油価格は令和2年に新型コロナウイルス感染拡大により一時下落したものの、経済活動の回復から再び上昇。ウクライナ情勢の影響から原油価格の高騰に歯止めがかからない状態になっています。

課題解決の取り組み

トラック業界では労働環境の改善が急務であり、ITを活用した業務効率化や女性の採用によるダイバーシティ推進の取り組みが必要です。

労働環境改善とITの活用

ドライバーの担い手が不足している原因は、低賃金や長時間労働といわれています。
全日本トラック協会が発刊した「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2022」によると、令和3年(2021年)の全産業平均の年間所得額が489万円であるのに対し、大型トラックドライバーは約5%低い463万円、中小型トラックドライバーでは約12%低い431万円にとどまります。
年間労働時間では令和3年の全産業平均労働時間が2,112時間であるのに対し、大型トラックドライバーでは432時間長い2,544時間、中小型トラックドライバーで372時間長い2,484時間となっています。
トラックドライバーの長時間労働の背景の一つに荷受け先での荷待ち時間があります。
国土交通省の調べによると、1運行あたりの平均荷待ち時間は1時間45分。1時間以上の荷待ち時間が発生する割合は55.1%もあります。
このような労働環境の改善に向けた動きは急務といえます。平成31年(2019年)の働き方改革では労働基準法が見直され、1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、1日の休息期間は、勤務終了後、継続 8 時間以上必要となりました。
近年ではITを活用した業務効率化が注目されており、デジタコやドラレコを装着しているトラックが増えています。
受注情報をパソコンでまとめ、荷物を車両に効率的に割り振ることができる配車支援システムを導入している企業もあります。またGPSを利用した車両動態管理システムでは車両の現在地や運行状況を即座に確認できます。

ダイバーシティの推進と持続可能性の追求

ダイバーシティとは年齢や性別、人種、障害の有無、宗教や価値観などの「多様」な人々が同じ組織やコミュニティにおいて共存している状態を示します。
ダイバーシティのメリットは大きく分けて2つあります。
1つ目は人材を確保しやすいこと、2つ目は年齢、性別、人種などの全く異なる視点から新しいアイデアや課題の解決方法が生まれやすいことがあります。
トラック業界のダイバーシティとしては、女性や未経験者の採用を推進していきたい狙いがあります。総務省統計局の令和4年(2022年)度の労働力調査による産業別の女性就業者の割合は、運輸業・郵便業は21.9%、これはもっとも割合の低い建設業の17.1%に次いで低い数字です。
トラック業界は力のある男性が活躍する仕事といったイメージや3K(きつい・汚い・危険)のイメージがあり、女性が就業しにくい一因になっているのではないでしょうか。ですが、平成23年(2011年)の同調査での女性比率の割合は運輸業・郵便業で18%だったことから、多少ではありますが徐々に女性の就業が増えていることがわかります。
トラック業界での女性の活躍は、SDGsの目標である「ジェンダー平等を実現しよう」や「働きがいも経済成長も」に重なる部分も多く、トラック業界全体の持続可能性を高めることにもつながります。

新たな変化と将来

コロナウイルス感染拡大の影響やネット通販の増加などに対応するため、IoTを活用する企業も増えています。

コロナパンデミックがもたらした変化

新型コロナウイルス感染症はトラック業界にも影響を及ぼしました。感染拡大を防ぐ目的での外食の自粛や時短営業、観光の自粛、人の集まるイベントの中止などでレストランや観光地、ホテルやイベントホールなど企業へのBtoB配送は減少しました。
一方、在宅時間が増えたことによる巣ごもり需要の影響で、インターネットショッピングや食料品の配達サービスなどの一般消費者へのBtoC配送が増加しました。
国外では工場の稼働停止や人、モノの移動制限でさまざまな物資の供給が不足または途絶する事態が発生。事業所単位では、毎朝のアルコールチェックに加え体温のチェックやアルコール消毒、荷主から配送ドライバーへのマスク着用要請などもありました。

IoT技術の活用とネット通販の増加

IoTはさまざまな「モノ」に通信機能を持たせ、状態の確認や機器同士の通信などが可能になる技術です。
物流でのIoT活用の事例では、商品情報が書き込まれたタグをリーダーで読み取るRFIDシステムがあります。
RFIDは無線通信なのである程度離れていても読み取れるメリットがあり、高所の品物を下ろさずに数えたり、大量の品物をまとめてチェックできたりと、倉庫作業の効率化に役立ちます。また、倉庫管理システムであるWMSは品物のピッキング作業での最適な導線を導き出したり、在庫の自動管理やロケーション管理を行ったりします。これによりヒューマンエラーの予防や作業効率アップが期待できます。

近年ではネット通販による宅配便が増えており、国土交通省の調べによると平成23年(2011年)では約34億個だった宅配便の取り扱い個数が、令和2年(2020年)では約48億個と年々右肩上がりに増加しています。このため消費者一人一人への時間指定配達や再配達などで、ドライバーへの負担が増えており、ドライバーの増員や負担軽減が課題となっています。

このような状況を受けて、国土交通省は貸し切りバスやタクシーが乗客と荷物を一緒に運ぶ「貨客混載」を全国で行えるよう規制緩和を打ち出しました。また、宅配便の翌日配達エリアの縮小を発表した企業もあり、少しずつですがドライバーの負担軽減に向けての機運が高まっているものと予想されます。

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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