大規模なデータの収集・蓄積・分析が可能な「ビッグデータ」は、ビジネスや社会全体に大きな変革をもたらす可能性を秘めているものです。実際にビッグデータはさまざまなものに適用され始めています。
そこで、本記事ではビッグデータの基本から実用例、課題と対策、未来とビッグデータについて幅広く解説します。ビッグデータの最新動向を理解し、ビジネスや社会にどのように活用できるのかを考えていきましょう。
ビッグデータの基本を知ろう
そもそもビッグデータとはどのようなものを指すのでしょうか。大きなデータということはわかりますが、ビッグデータと呼ばれるものにはある特徴があります。ここでビッグデータについて詳しい内容を確認していきましょう。
ビッグデータとは?
ビッグデータは法律上など明確な定義があるわけではありませんが、下記の3つを満たすものとして扱われることが多いです。下記の3つをまとめて3Vと呼びます。
・Volume(量):従来のコンピューターシステムでは処理できないほど膨大な量のデータ
・Variety(多様性):テキスト、画像、音声、動画など、形式が多種類であるデータ
・Velocity(速度):リアルタイムで生成・更新されるデータ
また、下記の2つをくわえた5Vをビッグデータの定義とすることもあります。
・Veracity(真実性):データの正確性や信頼性
・Value(価値):データを活用することで得られる知見や価値
ビッグデータと聞くと大量のデータを思い浮かぶことが多いですが、実際にはデータの新しさや、その情報が持っている価値なども要因の1つです。
なぜビッグデータが話題なのか?
ビッグデータが話題になっている理由には、データ分析技術の発達、データ量の増加、の2つが考えられます。
まず、近年では機械学習などによって大量のデータを分析することができるようになりました。以前は大量のデータがあっても分析する方法がなく、上手く活用できなかったのです。また、機械学習の技術は現在でも改善がし続けられており、今後も効率が良い手法が見つかるでしょう。
また、そもそもデータの量自体が増加していることもビッグデータが話題になる要因の1つです。近年ではインターネットがあらゆるものに付けられていることから、以前と比べると多種多様なデータが大量に集まっています。これらを分析することで今まではなかった新たな価値を出すことができると考えられているのです。
ビッグデータの実用例
話題になっているビッグデータですが、実際にはどのように活用されているのでしょうか。ここでビッグデータの実用例を確認しておき、ビッグデータの可能性について知っていきましょう。
ビジネスでの利用
ビジネスでの利用方法としてはマーケティングに用いられることが多いです。たとえば、ECサイトでは顧客の購入履歴やWebの閲覧履歴を確認することで、その顧客の趣味・趣向を知ることができます。そして、それらに適したマーケティング・広告をすることで購入率を上げることが可能です。
また、直接的な購入者でなくともSNSを分析することで世の中のニーズを特定することもできます。ここからそのニーズに対応した商品を開発・販売するなど商品開発自体にも活用できます。現在ではSNS分析ツールとしてさまざまなサービスが展開されており、1から作らずともSNS分析を実施することが可能です。
以前であればインタビューやアンケートでおこなっていたことが、ビッグデータとして処理することで一括して、効率よく扱うことが可能になりました。ビジネス分野においては、ターゲット層の人数が多いほどビッグデータを利活用できるでしょう。
社会全体での活用
ビッグデータは、社会全体においても、交通渋滞の緩和や災害対策など、さまざまな分野で活用されています。たとえば、交通機関のデータを分析することで渋滞の原因を特定し、対策案を考えることができます。また、災害時に危険となる箇所の特定などもビッグデータから特定することが可能です。
ビッグデータの応用分野と実例には下記のようなものがあります。
①交通
・交通量や渋滞情報を分析し、交通渋滞の緩和方法を考案(株式会社ゼンリンデータコムの渋滞予測AI)
・公共交通機関の利用データを分析し、運行効率化を図る(株式会社JR東日本の駅構内AI)
②災害対策
・気象データや過去の災害データから災害の発生を予測(株式会社ウェザーニューズのウェザーニューズAI)
・社会インフラのデータをから災害への脆弱性を把握(株式会社NTTデータ関西のPREIN)
③医療
・患者の身体データから新しい治療法の開発や予防医療に活用(株式会社メディカル・データ・ビジョンのメディカルアフェアーズ)
・健康診断データやウェアラブルデバイスのデータを分析し、健康状態の把握(株式会社フィットネス24のフィットネス24 AIマシン)
④教育
・学生の成績や学習履歴から、学生それぞれに最適化された教育プログラムを提供(株式会社リクルートのスタディサプリ)
これらは一例であり、ビッグデータはこれらだけでなく非常に多くの分野に用いられています。技術開発などによってより精度高く、より簡単に導入できるようになっており、今後は普及がさらに進む可能性が高いです。
ビッグデータの課題と対策
ビッグデータはさまざまな分野に活用できますが、一方で課題も持っています。では、ビッグデータはどのような課題を持っているのでしょうか。また、それらに対する対策はあるのでしょうか。良い面だけでなく課題についてもしっかりと把握しておきましょう。
テクニカルな課題と対策
テクニカルな問題にはデータ量の膨大さが挙げられます。技術の発達によって大量のデータを処理できるようになりましたが、取得できるデータ量の増加には技術が追い付いていません。そのため、今後はより効率よくデータ処理ができるコンピュータもしくは手法が必要になります。
また、データ変化の速さもテクニカルな問題です。現在は情報がすぐに更新されるため、ビッグデータに用いるデータを最新のものにすることが技術的・コスト的に難しい場合があります。こちらはデータ処理をできるだけ自動化し、処理の時間自体も短くすることが必要です。
実際に取り組んでいる例としてはGoogleのGoogle Big Queryがあります。こちらは大規模なデータを処理できるシステムであり、データ量の増加に対して対応できる日々改良されているシステムです。
リアルタイム性に関してはX(旧ツイッター)ではApache Stormを活用しており、ツイートのデータをリアルタイムに分析し続けています。
これらのようにテクニカルな課題に対しては新たなシステムが開発され、利用者がそれを用いることで解決が図られています。
倫理的な課題と対策
ビッグデータにはプライバーの問題点が出てきます。ビッグデータは適切に処理されていない可能性もあり、場合によっては個人情報が含まれています。そして、何らかの理由で情報が流出すると大きな問題になりかねません。ビッグデータはAIによって処理することが一般的ですが、ブラックボックスであるため完全にコントロールできないのが現状です。
また、ブラックボックスであることから、場合によっては出力に差別的なものが含まれる可能性もあります。差別は難しく、人間でも人によって解釈が異なるものです。こういった人間の感情面を機械に理解させるのは現状難しいと言われています。
これらの対策には、与えるビッグデータの性質・項目を人間が確認し、出力についても人間の目でチェックすることが求められます。手間はかかってしまいますが、現状ではこれらをおこなわないとビッグデータを適切に用いることができません。
これら課題に対してはGoogleやAmazonなど大企業が注力しています。たとえば、Googleであれば位置情報を匿名化してから保存するシステムを搭載しており、漏洩しても匿名化されたものにする対策を取っています。
また、Amazonはデータを一か所に集めるのではなく分散させ、情報漏洩が起きた際の影響を最小限にとどめる工夫をおこなっています。
さらに、日本においては2022年に個人情報保護法が改正され、情報の匿名化・暗号化に関する規定が強化されました。このように法律の面からも個人情報保護を大切に扱うようになってきています。
ビッグデータの未来
ビッグデータは今後どのようになっていくのでしょうか。ここで現在の活用法とは変わっていくのか、もし変わるのであればどのように変わっていくのかを確認していきましょう。
テクノロジーの発展とビッグデータ
ビッグデータの活用にはデータの収集・蓄積・分析のための技術が必要です。そして、今後は機械学習などの技術がさらに進歩することで大規模で複雑なデータの処理が可能になると考えられます。また、データの標準化や自動化も進むことで、ビッグデータの活用がより容易になるでしょう。
また、ビッグデータを扱うことができるロボットなどハード面でも変化が起きると予想されます。このようにテクノロジーの発展によって、よりビッグデータを効果的に扱えるようになる可能性が高いです。
たとえば、現在では完全な自動運転は実現できていません。運転中は前の情報が変わり続け、常にその場での最適な行動を取ることが必要です。しかし、ビッグデータの処理の限界や非常に細かで瞬時に制御できるテクノロジーは一般的ではありません。
これら課題がある自動運転もテクノロジーとビッグデータ処理技術の両方が改善されることで、いつか実現されるでしょう。
ビッグデータと変える未来
今後、ビッグデータは社会に用いられるようになってくると予想されています。現在、さまざまな実証実験がおこなわれている渋滞の解消などは実際に導入される可能性が高いです。
また、自分自身のライフスタイルなどをデータとすることで、より快適な生活を送れるような商品・アドバイスを提供するようなサービスも出てくる可能性が高いです。プライバシーの問題を解消することができれば、このように個人でビッグデータを活用できるようになる未来となるでしょう。
たとえば、私たちは自分にとっての最適な睡眠時間・就寝時間はわかりません。十分に寝たと思っている場合でも寝不足なことは多々あります。そこで、自分の日中の行動から脳の使い方、今日の気温・湿度などから何時に寝れば良いのか正確な答えを出すサービスも出てくるでしょう。
現在は睡眠の質を図るものはありますが、日中の行動などを考慮した睡眠観測システムは実現できていません。こちらは日中でも観測が容易なものが開発され、提案の最適性も向上されれば実現可能になるシステムかと思います。