新時代を切り開く二代要素とも言われる脱炭素化とデジタルトランスフォーメーション(DX)ですが、ビジネスや社会にどのような影響を与えているのでしょうか。
DXと脱炭素の関連性、具体的な適用例や将来への影響について解説します。
DXと脱炭素とは
そもそも脱炭素、DXとは何でしょうか。これらに関連する環境問題の現状とDXがビジネスにもたらす影響を見ていきましょう。
脱炭素とは何か
脱炭素化(カーボンニュートラル)とは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出を総合的にゼロにする取り組みを指します。
2016年の温室効果ガス排出削減を掲げた国際的枠組みである「パリ協定」では、産業革命以前に比べて平均気温の上昇を2℃、努力目標として1.5℃に抑えることを世界共通の目標として掲げました。これに基づき、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするとしています。CO2の排出量自体を減らすことはもとより、排出されたCO2の回収や森林管理などによる吸収量も含め、差し引きで実質ゼロにするというものです。
日本政府も2050年のカーボンニュートラル実現を目指していますが、欧州諸国に比べると法整備の遅れなど課題を多く抱えています。今後、持続可能な社会を実現していくためには、世界が足並みを揃えて脱炭素化に取り組んでいくことが重要です。
DXとは何か
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称です。インターネットやクラウドコンピューティング、人工知能(AI)、IoTなど、最新デジタル技術の活用によって、社会システムやビジネスモデル、業務の進め方を劇的に向上させるいわゆるデジタル変革のことを指します。
ITの有効活用により、業務はもとより企業の新たな価値を創出することも目的としています。企業だけでなく、行政手続きの簡略化・迅速化など社会全体を豊かにしていくための取り組みでもあります。
現代社会は将来の予測が困難な「不確実性の時代」と言われています。状況が目まぐるしく変転し、未来予測が難しくなる中、社会やビジネスにおいてDXの必要性は日に日に高まってきています。
脱炭素とDXの関係
脱炭素とDX。一見、別々の取り組みにも思えるこの2つのキーワードですが、どのように関わり合っているのでしょうか。この2つがどのような相互関係を成しているのかを見ていきましょう。
脱炭素とDXの相互作用
脱炭素化とDXは、各々で推し進めていくものだと捉えている人が多いかもしれません。経済産業省は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、”グリーンとデジタルは、車の両輪である”と明記しています。脱炭素とDXは相互作用するものであり、同時に推進していくことが必要とされています。
例えば、DX化の代表例としてIoT技術があります。IoTセンサーで電力消費量を計算、可視化することでCO2排出量の把握が可能になりました。
温室効果ガス排出に関する国際的な基準を定めた「GHGプロトコル」では、「直接排出量」、「間接排出量」、「その他の間接排出量」の3つが、企業の責任になるとしています。CO2排出量削減をするために、企業がこれらを詳細に把握し報告するには、IoT技術が必要不可欠です。
環境保護とビジネスの進化を支えるDX
脱炭素化につながるDXの事例は他にもあります。その1つが「テレワーク」の普及です。テレワークは人の移動を減らし、交通手段に要するエネルギーの削減につながります。
国際エネルギー機関(IEA)の分析では、世界中の自宅で仕事ができる人が週1日の在宅勤務をした場合、CO2排出量は約2,400万トン/年(ロンドンの年間CO2排出量と同等)削減されるとしています。また、オフィスの電力使用量の削減、文書のペーパーレス化、生産・廃棄で発生するCO2の削減にもつながると言えるでしょう。
出典・参照:ワークスタイル:デジタル化
脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料
脱炭素化とDXを同時に進めていく上で、課題の一つとして挙げられるのが「DXの推進にはこれまで以上に電力が必要になってくる」という点です。つまり単純にDX化するだけでは、むしろ脱炭素化から逆行してしまうのです。
この問題を解消し、DXを推し進めていくには省電力化が必須となります。しかし、詳述してきたようにカーボンニュートラルの実現において、DXを切り離すことはできません。このジレンマを解消する鍵となるのが、エネルギー消費の電化です。
国際的な自然エネルギー政策ネットワーク組織であるREN21が発表した「自然エネルギー世界白書 2021」によると、世界のエネルギー総消費量のうち、電力の形で消費されているものは全体の1/5に過ぎません。依然として多くを占める化石燃料の燃焼によるエネルギー利用では、細かい制御が難しく省電力化が進まない原因となっているのが現状です。必要な時に、必要なだけのエネルギー消費を行う省エネルギー化のために、電化の推進は必要不可欠です。
出典:REN21 「Renewables 2021 Global Status Report (GSR)」
ビジネスにおける脱炭素とDXの実践例
現在のビジネスにおける脱炭素とDXの適用例にはどのようなものがあるでしょうか。テクノロジーが、企業の環境パフォーマンスや業績にどのように影響を与えるのか見ていきましょう。
グリーンテクノロジーの活用
グリーンテクノロジーは、環境負荷のかからない製品やサービスの開発、社会的な課題解決への貢献など、持続可能な世界を実現するために活用されるテクノロジーです。現在では、グリーンテクノロジーの開発を手掛ける、新たな産業分野の開拓が進んでいます。
例えば、ゼロ・エミッションに代表される産業廃棄物のリサイクルテクノロジー、コージェネレーションなどのエネルギー効率を高める省エネルギーシステム、有害物質を分解し環境浄化・再生を促すバイオテクノロジーなどがあります。
企業によるグリーンテクノロジーの取り組みは、自社の優位性の確保、企業ブランディングの向上により業績向上につながります。企業価値の向上は、社内全体のモチベーション向上や人材獲得も期待できます。また、エネルギーの効率化により、光熱費・燃料費などのコストを削減することもできるでしょう。
デジタルテクノロジーの可能性
デジタルテクノロジーの可能性として今注目を集めているのは、AI技術の活用です。
例えば、大手コンビニやスーパーなどの小売業界では、需要予測にAI技術を活用しています。大型スーパーのイトーヨーカドーでは、全店でAIによる発注システムを導入しています。価格や商品陳列の列数などの情報や、天候情報、曜日特性や客数などの基本情報をAIシステムが分析し、最適な販売予測数を割り出します。システム導入により、商品の欠品率は27%も減少。廃棄ロス・全体コストの大幅な削減に成功しています。
出典・参照:イトーヨーカドー 「AI(人工知能)発注」の仕組みを全店に導入
出典・参照:最新AI技術
ビジネスにおいてデジタルテクノロジーはまだまだ無限の可能性を秘めており、今後も脱炭素に取り組んでいく上での大きな効果が期待できるでしょう。
未来のビジネスへの影響
DXと脱炭素化は同時進行で進められていますが、少なからず課題も抱えています。今後、DXと脱炭素化はどのように連携していけば良いでしょうか。未来へのビジョンを探ります。
脱炭素とDXの統合による新たなビジネスモデル
脱炭素化とDXを融合させた今後の新たなビジネスモデルとして筆頭に挙げられるのは、やはり再生可能エネルギーの事業でしょう。企業の再生可能エネルギーの利用や事業への参入、投資家による事業投資によって、これまでの化石燃料による電力使用を大幅に低減することができます。
次に、VPP(バーチャルパワープラント)などに代表されるエネルギー効率化・最適化を目指すビジネスモデルがあります。VPPとは、エネルギー資源をIT技術によって制御する仮想発電所のようなシステムです。VPPは供給が不安定な再生可能エネルギーのデメリットを解消する技術として普及してきており、その効果が広く期待されています。
その他にも、自社の供給網において環境に配慮したサプライヤーを選定する「グリーンサプライチェーン」が浸透してきています。また、環境保護や再生可能エネルギープロジェクなどへの投資によって、間接的にCO2削減に貢献する「カーボンオフセット」を導入する企業も増えています。
脱炭素の取り組みは、いまや大企業のみならず中小企業にも求められています。世界的な脱炭素の潮流を見ても、中小企業が積極的にカーボンニュートラルに取り組むメリットは大きいと言えます。むしろ今後予定されている炭素税などの新たな関連税制が導入されれば、エネルギーの調達コストが増加し、従来の経営を続けるリスクの方が高くなってしまうでしょう。全ての企業が先を見据え、脱炭素化へ大きく舵を切っていく局面に来ていると言えるのではないでしょうか。