日本のトラック業界の現状
トラック輸送は、国内物流の基幹的役割を果たしているといえ、産業活動や国民生活に不可欠な存在となっています。少子高齢化やドライバー不足が叫ばれるなか、業界の現状は厳しいところもありますが、DX化など変革の時期を迎えていることからビジネスチャンスが多い業界ともいえます。
業界の成長と課題
運送業界の市場規模の推移としては、緩やかな増加傾向にあります。業界規模は2022年時点で13.9兆円と大きく、日本経済へ与える影響は多いといえるでしょう。
一方で、それを細分化したトラック業界においては、市場規模は4.8兆円であり、2018年から2020年にかけて減少していたものの、2021年には増加へと転じました。
市場規模が増加している背景としては、ネット通販市場の拡大、フリマアプリを利用した個人間取引の増加による宅配便の取扱高が急激に成長していることも要因のひとつといえるでしょう。一方で、燃料費の高騰、人手不足、交通網の渋滞などの課題が多くあるのも実情です。
技術革新への対応
ネット通販、個人間取引の成長による宅配便の増加は、運送業界にとっても追い風となっていますが、ドライバー等の人手不足は深刻なものとなっています。
また、2024年には時間外労働の上限がドライバーにも課せられることとなり、運送業界では業務効率化が急務といえる事態になっています。こうした流れを受け、運送業界では、同業他社及び異業種間での業務効率化を図る施策へと舵を切る企業が出てきています。
そのための技術革新として、オープン型宅配ロッカーやAIを活用した配送伝票の自動化、集荷時の荷物情報読み取りの自動化などに大手運送会社は取り組んでおり、企業は、競争が激化するなか、生き残りをかけ新しいサービスを打ち出しています。
世界市場のトラック業界
トラックメーカーの世界的シェアは分散化されており、1位の東風汽車集団(中国)でさえ市場の1.59%しか占有していません。トップ10内に日本企業はいすゞ自動車と日野自動車が入っているものの、シェア率は各々0.9%台に留まっています。
トラック業界においてはM&Aも活発であり、資金力のあるダイムラーやフォルクスワーゲン、ボルボなどが買収や分社化を行うなど積極的な戦略をとっています。
市場規模と成長予測
2022年の大型トラックの市場規模は2,045億6,000万米ドルであり、今後、年平均成長率(CAGR)は7%ほどで推移していき、5年後の2027年には、3,139億5,000万米ドルにまで成長するとみられています。
新型コロナウイルスの影響で大型トラックの成長が減少したものの、生産再開の動きがみられ、寸断されていたサプライチェーンも復活の兆しがあります。
技術進化の流れ
今後、トラックの需要としては、排ガス規制に対応したもの、安全性の向上などの魅力あるものがスタンダードとなり、物流やEC市場の拡大に付随してトラック業界の市場も拡大していくでしょう。
もちろん、燃費や積載重量が高いものも魅力的であり、そしてトラックの自動運転など、付加価値のあるトラックが市場を席巻することが期待されています。
アジアの運送業界の動向と課題
急成長中のアジア市場における運送業界の動向と課題をみていきましょう。
2021年度の地域別人口をみると1位はアジア47億人、2位アフリカ14億人、3位ヨーロッパ7.5億人、4位北アメリカ6億人というようにアジアの人口がダントツ多くなっています。特に東南アジアは、1つの国に1回しか訪れないと言われる“人口ボーナス”に突入しており、若い世代の人口比率がとても高く、街に出れば活気に満ち溢れています。
そういった急成長の中、市場は活況であり、海外からの企業参入や設備投資も増え、インフラの整備も進み、流通網も発展中であることから、運送業界はこれから特に魅力的な市場といえるのかもしれません。
業界規模と成長率
アジアという魅力的な市場において、運送業界発展のカギを握るのは国内外においての「陸海空」の物流網構築ではないでしょうか。
「物流を制する者は世界を制す」と言われるほど物流というものは大事であり、それに付随して運送業界も発展が見込まれます。海外進出企業総覧2022のデータによりますと、海外に進出している企業の現地法人数は33,015社あり、そのうちアジアが20,629社を占めています。
日本企業が海外において成功するためには、現地運送会社との業務提携もひとつのキーワードといえるでしょう。
日本通運に関しては、いち早く物流網の確立に向けて動いており、中国やASEAN、南アジアの貨物輸送網を敷き、現地ビジネスに参入しています。今後もアジアにおいては人口増加、テクノロジーの発展によるEC市場の拡大が見込まれており、それに合わせ、運送業界の市場も十分拡大が見込まれるものと思われます。
人材不足と業務効率化
市場が拡大するなか、人材不足や業務効率化の課題解決は急務となっているといえます。タイなどアジア内で人口ボーナスが終わった国もあり、日本のように少子高齢化の現象がみられつつある中、長期的に労働力の減少が続く国もあるようです。
これを補うためには、運送業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)化が叫ばれており、人手不足解消、ドライバーの負担軽減、取引先への信用アップなどが期待されています。
DX化により物流の自動化、倉庫内作業の効率化、運送手続きの電子化、配送の見える化などが可能になり、企業は様々なデータ分析を行うことが可能となり、最適な経営判断によって、人手不足解消や業務効率化を行うことが可能となります。
シンガポールにおける物流業界の展望
新型コロナウイルスは、ヒト・モノ・カネ・情報への混乱を引き起こし、現時点でもコロナ禍以前の状況に戻っていない業界もあります。コロナ禍は、物流業界においても、世界的なサプライチェーンへ影響を与え、それはシンガポールにおいても大きな打撃となりました。
現在では、物流の動きは回復の兆しをみせていますが、一方でコロナ禍により業界内で変革をもたらしたものもあります。ここでは、シンガポールにおけるコロナ禍の影響、そして製造・物流の再編加速についてみていきましょう。
コロナ禍の影響
コロナ禍の影響で、シンガポール国内においては、世界的なサプライチェーンの混乱により、貨物の混雑や遅延が続きました。
輸送などに規制もかかるなか、企業はどのようにすればモノを海外へ運べるかを検討せねばならず、周辺国から陸送でシンガポールへ運び、そしてシンガポールの港から輸出するなどの対応に迫られました。また、コンテナ不足や運賃高騰の問題も重くのしかかり、企業は先行き不透明な中、耐え忍んでいたのが実情です。
製造・物流の再編加速
サプライチェーンの混乱も脱したところですが、シンガポールでは倉庫需要の稼働率が高止まりしています。新型コロナウイルスの影響で倉庫の新設は望めず、一方でメーカーはサプライチェーンの混乱を回避する目的で在庫の積み増しを行っているからです。
また、課題としては人材確保、人件費高騰に頭を悩ませているのも実情です。コロナ禍により外国人労働者の確保が難しく、それがまだ尾を引いており、かつコロナ禍後の国内雇用市場の流動化が進み、労働力の獲得競争の激化が要因みています。
コロナ禍以前より人件費問題が発生していたのも事実ですが、パナソニックが撤退したり、三井化学の子会社を事業譲渡したりするなど、消極的な動きがみられるのも事実です。こうした中、追い打ちをかけるように隣国マレーシア南部のジョホール州が倉庫増設、製造施設の移管候補として挙げられており、今後製造・物流の再編が加速していくと思われます。