トラック運送業界において、車検は避けて通れない重要な手続きです。乗用車とは異なり、トラックの車検には特有の規定や注意点があり、業務への影響を最小限に抑えるためには計画的な準備が不可欠です。車検の有効期間は車両総重量によって大きく異なり、費用も車種や依頼先によって幅があります。
トラック車検を成功させるためには、まず自社の車両がどのカテゴリに該当するかを正確に把握し、必要な書類を事前に整えることが重要です。また、検査項目や基準を理解しておくことで、事前の準備と費用の見積もりが可能になります。本記事では、トラック車検の基本的な流れから具体的な費用相場、必要書類、そして特有の検査項目まで、実務に直結する情報を詳しく解説します。
トラックの車検期間はいつ？車種ごとの違い
トラックの車検制度は、一般的な乗用車とは大きく異なる仕組みを持っています。最も重要な違いは、車両総重量（GVW：Gross Vehicle Weight）によって車検の有効期間が細かく設定されていることです。これは、重量が大きいほど道路への負荷や安全性への影響が大きくなるという考えに基づいています。
乗用車の場合、初回車検は新車登録から3年後、その後は2年ごとに車検を受ける必要があります。しかし、トラックの場合は商用車両として使用頻度が高く、安全性の確保がより重視されるため、より短い間隔での検査が義務付けられています。
車両総重量で変わる有効期間
トラックの車検有効期間は、車両総重量によって3つのカテゴリに分類されます。軽トラックの場合、初回は新車登録から2年後、その後も2年ごとに車検を受ける必要があります。これは軽自動車規格に基づく車両であり、一般的な乗用車よりも短い期間となっています。
車両総重量8トン未満の小型・中型トラックでは、初回車検は新車登録から2年後に実施されますが、2回目以降は毎年車検を受ける必要があります。これは、商用車両としての使用頻度の高さと、積載による車両への負荷を考慮した規定です。
最も厳格な規定が適用されるのは、車両総重量8トン以上の中型・大型トラックです。これらの車両は初回車検から1年後に実施され、以降も毎年継続して車検を受けなければなりません。大型トラックは長距離運行が多く、車両への負荷が大きいため、より頻繁な安全確認が求められています。
車検満了日の確認方法と注意点
車検満了日の確認は、車検証（自動車検査証）で行うのが最も確実です。車検証には「有効期間の満了する日」が明記されており、この日付を基準に車検のスケジュールを立てる必要があります。車検の更新は満了日の1ヶ月前から可能で、早めの手続きが推奨されています。
フロントガラスに貼られている検査標章（車検シール）でも確認できますが、こちらは年月のみの表示となっているため、詳細な満了日は車検証で確認する必要があります。特に月末が満了日の場合、シールだけでは正確な日付が分からないため注意が必要です。
車検が切れた状態で公道を走行すると、道路運送車両法違反となり、違反点数の加算と罰金が科せられます。また、車検切れの車両で事故を起こした場合、保険の適用外となるリスクもあります。車検切れの車両を移動する場合は、積載車による輸送や仮ナンバーの取得が必要になり、追加の費用と手間が発生します。
気になる車検費用の内訳と相場
トラックの車検費用は、大きく分けて「法定費用」と「整備費用」の2つの要素で構成されています。これらの費用は車両の重量や依頼先によって大きく変動するため、事前の見積もりと比較検討が重要です。
車検費用の予算を立てる際には、法定費用は必ず発生する固定費として、整備費用は車両の状態や依頼先によって変動する変動費として考える必要があります。また、緊急の修理が必要な場合は、予想以上の費用が発生することもあるため、余裕を持った予算設定が推奨されます。
必ずかかる法定費用（重量税・自賠責・印紙代）
法定費用は、どの業者に依頼しても金額が変わらない固定費用です。自動車重量税は車両の重量に応じて段階的に設定されており、車両総重量8トン未満の貨物車では重量に応じて税額が異なります。自家用トラックの場合、1トン以下で6,600円、2トン以下で13,200円、3トン以下で24,600円となっており、重量が増すごとに税額が上がります。車両総重量8トン以上の場合は、毎年車検となるため年額での納付となり、税額も異なる設定になっています。
自賠責保険料は、自家用トラックの場合12ヶ月分で35,620円、事業用トラックでは49,550円となっています。これは車両の使用目的によって異なる料金設定となっており、事業用の方が高額に設定されています。
印紙代（検査手数料）は、車検を受ける際に運輸支局に支払う手数料で、通常1,800円程度となっています。これらの法定費用は、車検の種類や依頼先に関わらず一定額が必要になります。
依頼先で変わる車検基本料と整備費用
車検基本料は依頼先によって大きく異なります。ディーラーでの車検は最も高額で、小型トラックの場合150,000円から200,000円程度が相場となっています。ディーラーは純正部品の使用と手厚いサービスが特徴ですが、その分費用も高くなる傾向があります。
民間整備工場での車検は、120,000円から170,000円程度が相場で、ディーラーよりも費用を抑えることができます。地域密着型の整備工場では、長期的な関係構築によって費用の相談もしやすく、コストパフォーマンスに優れています。
最も費用を抑えられるのはユーザー車検で、80,000円から130,000円程度となっています。ただし、この場合は自分で運輸支局に車両を持ち込む必要があり、検査に不合格になった場合の再整備も自己責任となります。
車検代行手数料は、車検専門店では5,000円から10,000円程度ですが、ディーラーでは20,000円から50,000円程度と高額になります。また、整備費用として50,000円から80,000円程度が追加で必要になることが多く、車両の状態や走行距離によってはさらに高額になる場合があります。
依頼から完了までの流れと必要書類
トラック車検の手続きは、計画的に進めることで業務への影響を最小限に抑えることができます。車検の流れを理解し、必要な書類を事前に準備することが、スムーズな車検実施の鍵となります。
車検の予約は、満了日の1ヶ月前から可能ですが、依頼先によっては予約が取りづらい場合があります。特に決算期や年度末などの繁忙期は、早めの予約が必要です。また、車検に不合格になった場合の再検査や整備期間も考慮して、余裕を持ったスケジューリングが重要です。
車検業者への依頼から完了までの手順
車検の手続きは、まず信頼できる業者の選定から始まります。複数の業者から見積もりを取り、費用だけでなくサービス内容や所要時間も比較検討することが重要です。見積もり時には、基本的な車検費用だけでなく、予想される整備費用も含めた総額を確認する必要があります。
業者が決まったら、車検の予約を入れます。この際、車両の入庫日時と引き取り予定日時を明確にし、代車の必要性についても相談します。トラックの場合、同クラスの代車確保が困難な場合があるため、業務スケジュールとの調整が必要です。
車検当日は、必要書類を持参して車両を預けます。業者による予備点検が行われ、追加整備が必要な場合は見積もりが提示されます。この時点で予算を大幅に超える場合は、整備内容の優先順位を相談することも可能です。
検査と整備が完了したら、新しい車検証と検査標章を受け取り、車検費用の精算を行います。この際、整備内容の説明を受け、次回車検までの注意点やメンテナンス計画についてもアドバイスを受けることが重要です。
事前に準備すべき書類リスト
車検には複数の書類が必要で、事前の準備が欠かせません。最も重要なのは現在の車検証で、これがないと車検を受けることができません。車検証は車両の基本情報が記載された公的な書類で、検査時に車台番号との照合も行われます。
自動車税納税証明書は、自動車税が適切に納付されていることを証明する書類です。最近では電子化が進み、一部の場合で省略が可能になっていますが、確実に準備しておくことが推奨されます。
自賠責保険証明書は、現在有効な証明書と、新しい車検期間をカバーする保険に加入していることを証明する書類が必要です。車検の有効期間と保険期間が一致していることを確認し、不足がある場合は事前に更新手続きを行います。
定期点検整備記録簿は、法定点検が適切に実施されていることを証明する書類です。ユーザー車検の場合は特に重要で、自分で点検を行った場合も記録簿への記載が必要になります。
知っておきたいトラック特有の検査項目
トラックの車検では、乗用車とは異なる特有の検査項目があります。これらの項目は、トラックの用途や構造的特徴を考慮して設定されており、より厳格な基準が適用されます。事前にこれらの項目を理解し、日常点検で確認することで、車検をスムーズに通過できます。
商用車両であるトラックは、長距離運行や重量物の積載により、乗用車よりも過酷な条件下で使用されます。そのため、安全性と環境性能に関する検査がより重視され、細かな基準が設けられています。
乗用車とは違う重点チェックポイント
トラックの車検では、外観検査において灯火類の点検が特に重要です。方向指示器、制動灯、後退灯など、乗用車よりも多くの灯火類が装備されており、それぞれが適切に機能することが求められます。また、車体の改造や装備品の取り付けについても、保安基準に適合しているかの確認が行われます。
タイヤの検査では、溝の深さが乗用車よりも厳しく設定されています。貨物車の場合、タイヤの残り溝が1.6mm以上必要で、偏摩耗や亀裂の有無も細かくチェックされます。また、空気圧の管理も重要で、適正な空気圧が維持されていることが確認されます。
ブレーキ検査では、重量のあるトラックに対応した制動力が発揮されているかが重点的に確認されます。前輪・後輪の制動力バランスや、駐車ブレーキの効き具合も厳格に検査されます。エアブレーキシステムを搭載している車両では、空気圧の上昇具合や排気音の正常性も確認されます。
運行記録計（タコグラフ）の装着が義務付けられている車両では、装置の正常な動作と記録の保存状況が確認されます。デジタルタコグラフの場合、データの記録と保存が適切に行われているかがチェックされます。
車検前に自分でできる日常点検
車検前の日常点検を適切に行うことで、車検時の追加整備を最小限に抑えることができます。ブレーキの点検では、ペダルの踏みしろや効き具合を確認し、ブレーキ液の量や色もチェックします。エアブレーキ装着車では、空気圧計の動作と異常音の有無を確認します。
タイヤの点検は最も重要な項目の一つで、溝の深さを定期的に測定し、偏摩耗や亀裂がないかを確認します。空気圧は適正値を維持し、ホイールナットの緩みがないかも点検します。スペアタイヤの状態も忘れずに確認することが重要です。
エンジンルームの点検では、冷却水の量と色を確認し、ファンベルトの張り具合と損傷の有無をチェックします。エンジンオイルの量と汚れ具合も重要な確認ポイントです。バッテリーの液量と端子の腐食状況も定期的に点検します。
灯火類の点検では、すべての灯火が正常に点灯することを確認し、レンズの破損や汚れがないかをチェックします。方向指示器の点滅が正常で、警告音が適切に作動することも確認します。ワイパーの動作とウォッシャー液の量も重要な点検項目です。
これらの日常点検を継続的に行うことで、車検時の不具合を事前に発見し、計画的な整備が可能になります。また、点検記録を適切に保管することで、車検時の手続きもスムーズに進めることができます。
