現代、誰もが利用しているネットショッピング。その商品を消費者に届ける宅配便など、多くの場所で、トラックは物流を支えています。そんなトラック業界も近年大きな問題を抱えています。その問題を解決するために、「AI」が活用されつつあるのです。
今回は、物流業界が抱える問題を紹介しつつ、トラック業界とは関係が薄そうに感じるAIについて、どのように使用されているのか、そのメリット・デメリットなどを紹介していきます。
現代物流が直面する主要な課題
近年の生活の変化とともに需要が増してきているトラック業界の課題を紹介します。
ドライバー不足
物流業界では、トラックドライバ不足が深刻化しています。国土交通省のデータによると、国内貨物輸送の40%以上を担うトラック業界で、約188万人の方が働いています。しかし、そのうちの約45.2%は40歳〜52歳で、29歳以下の割合は10%にも届きません。また、女性の割合は、2.5%と全産業と比べると、極めて低い状況です。
インターネットショッピングの利用拡大
近年は、インターネットの普及が進み、ECサイトの市場規模が拡大し続けています。そこで、多くの方がインターネットショッピングを利用するようになりました。特に、2020年以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、外出自粛などの行動制限が行われたことで、自宅から注文し受け取れるインターネットショッピングの利用機会が増加しました。消費者からすれば、利便性が向上したことで生活が楽になりましたが、物流業界からすると負担が増加し始めています。
また、ECサイトの競争激化により、即日配達や送料無料といった施策を行う企業が増えてきています。トラックドライバーには、「いち早く商品をお届けしなければならない」という負担に繋がってしまう場合もあります。
さらに、不在によって発生する荷物の再配達がトラックドライバーの負担をより増加させています。
過酷な労働
トラックドライバーは長時間労働がほとんどで、厚生労働省のデータによると、年間の総労働時間は全産業が2,100時間となっていますが、中小型トラックは2,484時間、大型トラックは2,532時間となっており、全職業平均より約2割長いです。また、基本的にトラック運転者の1日の拘束時間は13時間以内と決まっており、最大16時間以内の拘束は週2回まで可能となっています。
それに比べ、年間賃金は全産業平均に比べ1〜2割低い状況です。
労働時間に比べ、賃金が低いことは、ドライバーの負担を考えると、とても過酷な環境と言えます。
AIを活用した効果的な解決策
今回紹介した課題について、AIがどのように利用され解決に導いているのか説明していきます。
データ入力の効率化
光学技術にAIの学習能力を搭載したAI OCRを導入することにより、データ管理の効率化が可能です。OCRとは、高額技術を利用して手書きの帳簿や画像などから文字を読み取り、デジタルデータに変換する仕組みです。
AI OCRとは、AI技術を活用したOCRの仕組みやサービスのことで、AIの特徴である、学習機能によって文字認識率をより高めることが可能になり、大きな業務効率化に繋がります。
作業の自動化
AIを搭載した自動運転フォークリフトを利用して、トラックの積み下ろし・入出荷作業の自動化・トラック運転手の待機時間の削減・倉庫内の人員の削減に繋がります。また、大量のバーコードの読み取り処理や、検品作業の効率化・棚卸しの自動化も可能です。
需要予測
在庫管理システムWMSなどの需要予測を物流センターに導入することにより、物量をより正確に予測できるので、発注量を調節するなどして過剰在庫を防ぐことができます。またこれにより、在庫回転率や店舗への配送計画なども改善されます。
安全性の向上
車両から得たデータをAIで分析することで、危険運転を予測・検知することが可能です。安全運転支援の分野でもAIは役に立ちます。最近では、AIを活用した車内カメラを設置し、ドライバーの居眠りを監視することができます。
AIが居眠りの兆候を映像から判別した上で、ドライバーに呼びかけを行えます。これにより、ドライバーの居眠り運転による事故を大幅に削減させることに繋がりました。
配送ルートの最適化
より効率的に配送できるルートをAIによって自動的に予測できるようになると、ドライバーの稼働率向上に繋がり、労働時間の減少にも繋がります。
AI導入のデメリット
まず、高精度なAIの開発には、膨大なビッグデータを収集・蓄積する時間とコストがかかります。導入するために、コストがかかる点がデメリットといえるでしょう。
また、AIを導入する際には、業務プロセスの見直しが必要です。そのため作業マニュアルを変更することになる点もデメリットです。
そして、AIを搭載したシステムやソフトウェアを運用する際には、新たに操作方法を習得する必要があります。長期的に得られるコスト削減効果を見据えてAIを導入する際には、再度トレーニングが必要になる点もデメリットです。
AIを使ったトラック運行管理の革命
クラウド型運行管理システムには、運行日報の自動作成、運転者の作業状態の表示、車両の現在位置の表示、事務所からのメッセージ送信、車両の走行軌跡の表示、庫内温度のグラフ表示、運転者の安全運転評価、車両別の経費集計(燃料費など)、車両別の燃費把握、運転者の運転時間・拘束時間の管理など、様々な機能があります。
トラックに装着したデジタルタコグラフに記録される運転速度、エンジン回転数、運転時間、現在位置などの運行データがクラウドセンターに送信されることにより、帰庫後のメモリーカード読み取りなどの作業が省略されるほか、2日以上の長距離運行時も交通状況や納品先の待ち時間の把握、中間点呼などの労務管理が確実に行えるメリットがあります。
トラック運転者不足への解決策として期待されているのが、先頭車両のみが有人で後続車両が無人のトラック隊列走行です。
具体的には、運転者が手動で運転する先頭車両の後方に1台または複数台の無人のトラックを短車間距離で電子的に連結して走行する後続車両無人システムを用いて、時速70~80kmで車間距離約10m~20mの車群を組んで走行するほか、運転者が手動で運転する先頭車両の後方に1台または複数台の有人のトラックが協調型車間距離維持支援システムや車線維持支援システム等により運転支援される後続車両有人システムにより、時速70~80kmで車間距離約35mの車群を組んで走行する後続車両無人システムでは、車両間通信による制御システムにより、有人の先行車両が無人の後続車両を牽引するとともに、後方・側方の画像や情報を基に、先行車両の運転者が周辺の監視を行います。
また、道路に白線がない地点等でも後続車両が先行車両を追従できる先行車両トラッキングセンサや、先行車両と後続車両との車間距離を一定に保つ、ミリ波レーダによる車間距離センサなどを活用し、隊列を維持します。周辺走行車両の乗員からどのように認識されるかという被視認性や印象、周辺走行車両の追い越し等の挙動に及ぼす影響等も確認するそうです。
AIとロボットが支える物流施設の最新動向
Amazonでは、倉庫に棚ごと商品を運んでくれる自動走行ロボットを導入しています。自動走行ロボット「Drive」は、商品棚の下に入り込んで、棚を持ち上げながら移動してくれる仕組みで自動のフォークリフトのような役割です。
商品棚を作業員の前まで運んできてくれるので、作業員は倉庫内を歩き回る必要が無く、入荷した商品の棚入れ作業や、受注商品の棚出し作業を大幅に効率化できます。そのため、従業員の負担軽減や人手不足解消といった課題解決に貢献しています。
三菱倉庫のEC向け物流センターでは、ギークプラスの自動棚搬送AIロボットが採用されていて、人に代わって商品を探し運搬することで、商品のピッキングに掛かる時間を大幅に削減することができます。
佐川急便では、オプティマインドのラストワンマイルに特化した「Loogia」というルート最適化サービスを導入しました。
この「Loogia」は、佐川急便の集配業務において使用されている情報端末と、リアルタイムで最適な集配順序を予測するLoogiaを連携させることによって、アナログで行われてきた集配順序の決定をシステム化できるサービスです。このようなサービスにより、ドライバーは業務を効率化できるようになります。
ロボット技術の最前線と物流業界への影響
AIロボットの導入によって、作業員の移動削減やピッキング作業に掛かる時間削減、集配業務の時間削減など、多くの作業を効率化し、負担を削減に繋げています。
その一方で、大半が中小・零細規模であるトラック運送事業者は、IT化の推進に振り向けるだけの資金や、専門的なスキルを持った人員の確保が難しいです。
これは、トラック運送業界が過当競争の激化や取引の多層化によって運賃水準が低下し、商いも利益も薄い「薄利薄売」の状況に陥っていることに加え、長時間・重労働・低賃金といった厳しい労働環境から、パソコンなど電子機器の扱いに慣れた若年層の労働力を十分に確保できていないという事情があります。
同業他社との差別化や荷主ニーズへの対応を図るためにも、トラック輸送におけるIT化の推進は至上命題であるが、方法や時期を見極めることなく導入することはリスクが大きいとも言えます。
また、社内で十分な協議が行われないまま、デジタルコグラフやドライブレコーダーなどの車載器や点呼管理システム、原価計算システムなどの管理ツールをやみくもに導入すれば、運転者は自分の運転行動の全てが管理者に監視され、その評価が給与などの待遇に反映されるのではないかという不信感や不安感を抱き、労働のモチベーションを低下させる恐れがあります。
アナログながらも長年にわたって築き上げてきた荷主とのパートナーシップや運転者・事務員との信頼関係、顧客・消費者に対する安全・確実な輸送ノウハウを失いかねないことが懸念されています。