トラック業界とグリーンエネルギーの関係

産業部門と比較すると大きな差はあるものの、運送部門におけるCO2排出量は産業部門に次ぐ多さです。トラックのグリーンエネルギー転換への取り組みをさらに進め、カーボンニュートラルの達成に近付けることは喫緊の目標であります。

目次

トラック業界のグリーン転換

SDGs達成のための課題のひとつ、「CO2排出量の削減」に向けた取り組みが求められている今、物流業界が取り組んでいるのが、グリーン物流です。実は、グリーン物流は、環境問題だけでなく、トラックドライバーの労働環境も改善できるなど、多くの効果があることをご存じでしょうか。
今回は、グリーン物流の取り組み事例とその効果についても、詳しくご紹介します。

CO2削減への取り組み

国土交通省の調査によると、2021年度における日本の二酸化炭素排出量(10億6,400万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億8,500万トン)は17.4%を占めています。
運輸部門のうち、自家用乗用車は44,3%(8,191万トン)、次いで大型トラックなどの営業用貨物車は23%(4,247万トン)のCO2を排出しています。
参照:環境:運輸部門における二酸化炭素排出量 – 国土交通省

車両自体の燃費改善や、新型コロナウイルスの影響により輸送物量が減少したことなどにより、この数字は過去よりも減少傾向にありますが、カーボンニュートラル達成に向けてはより一層グリーン物流の取り組みに参画していくことが求められています。

以下は、日本ロジスティクスシステム協会、日本物流団体連合会、経済産業省、国土交通省、日本経済団体連合会の業界を超えた連携で取り組んでいる事例です。

共同配送
複数の荷主の商品を、共通の納品先へ1台のトラックで一括配送することにより、効率的な配送を実現する輸送・物流形態です。
各社が輸送車両を手配するよりも車両台数を減らすことができ、当然CO2の削減が可能になります。また、1台の車両で少量の商品を輸送すると、配送コストも割高となってしまうので、積載効率を上げてまとめて配送することは物流コスト削減にも繋がります。

VMIセンター導入による輸送最適化
工場や倉庫から路線便などにより遠隔地の納品先へ、小ロットの多配送をしているケースでは納品先近隣にVMIセンターを構え、VMIセンターまでは大ロットで輸送し、そこから各納品先へ小ロットで配送する物流に切り替える事例があります。
これによって、関東・関西間の場合、工場からVMIセンターまで一括してトレーラー、大型トラックなどによる輸送をし、路線便による小口輸送と比較して約30%のCO2削減ができたという事例があります。

参照:VMI:Vendor Managed Inventory|用語集|物流事例|大和物流株式会社

カーボンニュートラルへの道

次に、全日本トラック協会のトラック運送業界の環境ビジョン2030では、カーボンニュートラルへ向けての行動例が設定されています。

主軸として、2030年時点でのCO2排出原単位を、2005年比で31%削減することを目標に掲げています。
CO2の排出源単位とは、輸送量(トン)あたりの燃料使用量のことを指します。
一般的に、電気自動車でない場合、輸送量が増えれば必然的にCO2の排出量も多くなります。しかし輸送量そのものはトラック業界のみがコントロールできるものではありませんが、エコドライブや輸送効率化などを推し進め、輸送量あたりのCO2排出量を減らすことは可能であります。

主目標に連なるサブ目標としては、以下が設定されています。
・車両総重量8トン以下の貨物(トラック)車両について、2030年における電動車の保有台数を10%にとどめる
・各事業者が自社の貨物(トラック)車両のCO2排出総量、またはCO2排出原単位を把握する

参照:トラック運送業界の環境ビジョン2030 | 全日本トラック協会

次世代トラックの挑戦

物流業界では、着々とカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが実行されています。主に環境負荷が低い輸送手段に切り替えるモーダルシフトや、CO2排出量が少ない次世代トラックの導入などがその一例です。

電気トラックの未来

地球温暖化防止や大気汚染対策として、世界中でEV(電気自動車)の普及が進んでいます。
日本でも「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」という目標が2021年に当時の菅総理大臣が表明し、国内自動車メーカーがEV生産拡大に向けて着々と進めています。自家用車以外にもトラックやバスなどの車両にもEV化は展開されており、2022年以降は「EVトラック元年」とも呼ばれるほど注目されています。

EVトラックの導入には以下のメリットが挙げられます。
・長距離走行中にCO2等の温室効果ガスが排出されない
・集配場で積み荷中に充電が可能になり、給油のためのガソリンスタンドに寄らずに済むため生産性も上がる
・ガソリン車と比べて、充電にかかる電気代の方が安いためコスト削減ができる

EVへの転換は輸送時のCO2排出量削減に大きく貢献できるとされており、物流・運輸業界で多く利用されるトラックをEV化することは地球温暖化対策への大きな一歩になるでしょう。
また近年、SDGsを意識した事業計画に取り組む事業者が増えており、EVトラックを導入することもその社会的責任を果たすため、企業価値の向上にも繋がるでしょう。

企業の事例として、ヤマト運輸株式会社は2022年7月に、国内初の量産型国産小型商用EVトラックを500台導入すると発表しています。
ヤマト運輸では、2050年温室効果ガス排出実質ゼロ及び2030年温室効果ガス排出量48%削減(2020年度比)に向けて取り組んでおり、その主要施策の一つとして2030年までにEV20,000台の導入目標も掲げています。

トラックをEV化することのメリットは多くありますが、同時に課題も多く存在しています。
現在発売されている自家用車EVでは、急速充電器を利用しても80k%まで充電をするのに30分かかり、普通充電であれば数時間以上かかっています。
一方、エンジン車がガソリンスタンドで燃料を満タンにする時間は約3〜5分なので、比較するとEVは時間を要することが明らかです。
多くの荷物積載や、長時間稼働が必要なトラックの走行用バッテリーは大容量になることが考えられ、充電時間は運用において課題となりそうです。

燃料電池トラックの可能性

つぎに、商用車の温室効果ガス(GHG)排出量削減に向け、カギとなる燃料電池大型トラックが実用化に向け動き始めています。
具体例としてアサヒグループジャパンは、トヨタ自動車と日野自動車が共同開発した車両を用いて燃料電池トラックの走行実証を始めました。
EVトラックの普及拡大も進んでいますが、大型トラックの特徴である長距離走行や大量積載、短時間の燃料供給はEVでは不得意な分野です。
これをグリーンエネルギーの代表ともされる水素を燃料に発電する「FC大型トラック」でカバーすることも考慮され利用実証されています。

しかしながら燃料電池自動車・トラック導入の課題も存在します。
第一に、車両価格が高いことです。新車価格はガソリン車と比べて倍以上に高く、簡単に購入できる額ではないのが事実です。
トヨタ(日本)とヒュンダイ(韓国)の価格例として、 2022年時点でトヨタ自動車「MIRAI(ミライ)」は7,100,000〜8,600,000円(税込)、ヒュンダイ「ネッソ」は7,768,300円 (税込)。上記の通り、最低700万円は超えるため、補助金の約200万円を申請したとしても、500万円に上ってしまいます。

さらに、トラックに置き換えると1億円以上になるとも言われ、導入のハードルは高いです。
第二に、水素ステーションの数が少ないことが課題です。
燃料となる水素は、ガソリンのように車に給入し走行します。そのため水素を供給する水素ステーションのインフラ整備が必要となります。
国内の水素ステーションの数は、「首都圏」「中京圏」「関西圏」「九州圏」の4大都市圏が中心で159カ所、そのうち首都圏が最も多く59カ所。(2022年5月時点)
一方でガソリンスタンドの数は全国で29,005ヵ所と、その差は歴然です。
今後、ガソリン車のように燃料電池トラックを普及させるためには、より多くの水素ステーションが必要になるでしょう。

サステナビリティと物流の関係

近年、あらゆる場面でも存在感を高めているキーワードの「サステナビリティ)」。
物流業界においても、取り組みを行っている企業が増えています。これは企業活動の柱の1つとなり、成長戦略にも活用できることです。

SDGsと物流業界の関連性

物流業界は陸・海・空のすべてにおける運輸産業が関わり、事業活動において多くのCO2を排出するため、SDGsと関わりが深い業界といわれています。

「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
物流業界や、関連する企業が解決すべき課題の1つが、設備やシステムにおける省エネルギーです。
省エネルギーの取り組み例として、CO2を排出しない再生可能なグリーンエネルギー活用の導入があります。

「13.気候変動に具体的な対策を」
輸送時だけでなく、物流施設からも気候変動の原因であるCO2を大気中に多量に排出しています。カーボンニュートラルへの取り組み例として、輸送機器や物流施設のグリーンエネルギー転換は必須です。

「15.陸の豊かさも守ろう」
物流に関する企業は、事業活動を通じて大量の管理・包装廃棄物を出しています。
使い捨てではなく再利用かつ再生可能な資材に切り替えるなどして廃棄物を削減することが求められています。

また、物流大手の日立物流グループでは、ステークホルダーと連携しながらサプライチェーン全体でSDGsに取り組んでいます。

「5.ジェンダー平等を実現しよう」
女性社員のキャリア形成において、支援や男性社員の育児休業取得の促進に取り組んでいます。

「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
エネルギー利用の効率化を主軸として、再生可能エネルギーの導入、エコカーへの代替などによりカーボンニュートラル化を進めています。

「13.気候変動に具体的な対策を」
設備や利用資材などで大気汚染物質の削減や資源循環の促進、森林資源保護に積極的に取り組んでいます。

参照:HITACHI『日立物流グループのサステナビリティ』

サステナブルな物流戦略とは

物流を取り巻く企業や施設やヒト、物流自体をSDGs基盤に置き換えることで、今までの業界の流れを変え、サステナブルな循環を生み出します。

物流が大きな機能を担うサプライチェーンでは、そのサステンブルな物流・持続可能性が課題になることが多くあります。

最新技術や自動化の導入
物流業界におけるサステナブル経営の成功の鍵を握るのはテクノロジーの活用です。
自動運転化やロボット導入が増えることで、労働状況の緩和に寄与するだけでなく、効率よく電気使用量を節約し省エネ対策に繋げることができます。
今後、SDGs達成やESG投資という、避けては通れない必須課題を、効率的かつ戦略的に展開していくことで、今後の物流経営の命運が分かれてくることは予想されます。

物流プロセスでのCO2排出削減
国際的な課題であるCO2排出削減について、物流業界が果たせる役割は大きいです。
物流施設の省エネや輸送効率化など、サステナブルな観点での可能性は無限にあります。今後は、物流に関わる業者同士が協力し合い、環境問題に協働する「グリーン物流パートナーシップ」の取り組みも推進し、業界全体で解決することは物流戦略において不可欠であります。

人材を中心に考えるホワイト物流
環境問題だけでなく、従業員のウェルビーイングの向上もESG戦略には含まれています。
国土交通省が掲げた「ホワイト物流」では、トラック輸送プロセスでの生産性の向上と共に、労働環境を改善するという取り組みも設定されています。ESGやSDGsの観点を取り入れることで、他企業と区別化でき物流戦略を推し進めることが可能となります。

参照:「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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