未来の乗り物として注目されている「空飛ぶ車」。SFの世界の話と思われがちですが、実は現在、国内外で開発が進められ、近い将来には私たちの日常生活に登場するかもしれません。
空飛ぶ車が実現すると、どんな新しい体験が待っているのでしょうか？また、どのような技術で空を飛び、どのような課題を乗り越える必要があるのでしょうか？
この記事では、空飛ぶ車の定義や飛行の仕組み、現在の開発状況や未来の展望まで詳しく解説していきます。空飛ぶ車が普及することで交通渋滞の解消や都市の姿がどのように変わるのか、新しい移動体験がどのように私たちの生活に影響を与えるのかを一緒に見ていきましょう。
空飛ぶ車の基礎知識：定義、種類、飛行の仕組み
空飛ぶ車と聞くと、映画の中の未来都市を想像するかもしれませんが、実際にはすでに多くの企業や研究機関が「空を飛ぶ車」を現実のものにしようと取り組んでいます。ここでは、空飛ぶ車の定義や種類、空を飛ぶための基本的な仕組みについて解説します。
空飛ぶ車の定義と種類
空飛ぶ車は、経済産業省では「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」と呼ばれています。電動で動き、垂直に離着陸できる自動制御の飛行機を意味します。一般には「eVTOL（イーブイトール）」とも呼ばれ、ドローンや電気自動車の技術を応用し、空を移動できる新しい乗り物です。
eVTOLは、その用途や設計によって様々な種類に分けられます。
・ドローン型
プロペラを複数搭載し、ドローンに近い形状を持つタイプ。小回りが利き、都市部での移動に適しています。
・飛行機型
飛行機のような翼を持ち、長距離の飛行に適したタイプ。高速で移動できるのが特徴です。
・マルチコプター型
複数のプロペラを搭載し、安定した飛行が可能なタイプ。荷物の運搬などにも利用が期待されています。
空飛ぶ車は、道路を走る車というイメージを持たれることもありますが、地上を走る機能を持たないeVTOLも多く、空飛ぶタクシーとして都市内の移動手段としての活用が期待されています。
飛行の仕組みと技術
空飛ぶ車の飛行の仕組みは、主に以下の2つに分けられます。
・プロペラ方式
ドローンのように複数のプロペラで揚力を生み出し、垂直に離着陸します。
電動モーターでプロペラを回転させることで、静かで環境に優しい飛行を実現します。
主に都市内移動や短距離移動に適しています。
・飛行機の翼方式
飛行機のように翼を用いて揚力を発生させ、飛行します。
エンジンを搭載し、長距離の飛行が可能です。
都市間移動など、長距離移動に適しています。
近年では、これらの方式を組み合わせたハイブリッド型のeVTOLも開発が進められています。
世界の空飛ぶ車開発：主要プロジェクトと最新動向
空飛ぶ車の開発は世界中で大きな注目を集めており、各国の企業やスタートアップがしのぎを削っています。ここでは、海外と日本それぞれの開発状況や注目企業について見ていきましょう。
海外の開発動向と注目企業
空飛ぶ車の開発は、主にアメリカやヨーロッパの企業がリードしています。
・Joby Aviation
アメリカのカリフォルニア州に拠点を置く企業。トヨタ自動車から出資を受けており、5人乗りのeVTOLを開発しています。2024年6月にアメリカ連邦航空局（FAA）から型式証明を取得しましたが、商用運航開始は2025年以降になる見込みです。
・Lilium
ドイツのミュンヘンに拠点を置く企業。5人乗りのeVTOL「Lilium Jet」を開発し、2025年の商用運航開始を目標としています。
・Vertical Aerospace
イギリスのブリストルに拠点を置く企業。4人乗りのeVTOLを開発し、2025年までにヨーロッパ航空安全庁（EASA）から型式証明を取得する予定です。
・Archer Aviation
アメリカのカリフォルニア州に拠点を置く企業。4人乗りのeVTOLを開発し、2024年の商用運航開始を目指しています。ユナイテッド航空から10億ドルの先行予約を受けています。
・EHang
中国の広州市に拠点を置く企業。2人乗りのeVTOLを開発し、中国で限定的な商用運航を開始しています。ドバイやオーストリアでも試験飛行を実施しています。
これらの企業は、空飛ぶ車の実現に向けた試験飛行や型式証明の取得を進めており、近い将来の移動手段として注目されています。
日本の開発事例と展望
日本でも空飛ぶ車の開発が進んでおり、未来のモビリティに向けた挑戦が活発化しています。
・SkyDrive
2018年に設立された日本のスタートアップ企業。1人乗りのeVTOL「SD-03」を開発し、2020年には有人飛行試験に成功しました。2025年の大阪万博での飛行を目指し、開発を進めています。
・テトラ・アビエーション
2018年に設立された日本のスタートアップ企業。2人乗りのeVTOLを開発し、2022年には有人飛行試験に成功しました。
・ACSL
産業用ドローンの開発で知られる日本の企業。eVTOLの開発にも参入し、物流や災害対応などでの活用を目指しています。
これらの企業に加え、SUBARUや川崎重工業など、既存の航空機メーカーもeVTOLの開発に参入しています。
日本政府は、2025年を目標に空飛ぶ車の商用運航開始を目指しており、制度整備やインフラ整備などを進めています。
空飛ぶ車の普及に向けた課題：法規制、インフラ、安全性
空飛ぶ車が未来の交通手段として期待される一方で、実際に私たちの生活に普及するためには、いくつかの重要な課題を解決しなければなりません。法規制やインフラ整備、安全性の確保など乗り越えるべきハードルが多いですが、各国や企業がそれぞれに取り組みを進めています。ここでは、普及に向けた具体的な課題について見ていきましょう。
法規制・インフラ整備に関する課題
空飛ぶ車の実用化には、法規制とインフラ整備の両面で解決すべき課題が多くあります。
・法規制の未整備
空飛ぶ車は、航空法の規制対象となります。しかし、現行の航空法は、従来の航空機を前提としており、eVTOLのような新しいタイプの航空機に対応しきれていません。そのため、eVTOLの運航ルール、型式証明の取得、パイロットの資格要件など、新たな制度の整備が必要となります。
・インフラの整備
eVTOLの離着陸場や充電ステーション、専用の空路（UAMコリドー）などのインフラ整備も必要です。都市部では、ビルの屋上などを活用した離着着場の設置が検討されていますが、騒音や安全性などの課題もあります。
法規制とインフラの整備は、空飛ぶ車の普及に欠かせない要素であり、円滑な実現のためには引き続き官民での連携が求められます。
安全性確保の課題
空飛ぶ車の普及には、安全性の確保が最も重要な課題となります。空を飛ぶためには地上の車と比べ、故障やトラブル時のリスクが高く、万が一の際の被害も大きくなる可能性があるためです。
・安全性確保のための技術開発
eVTOLの安全性向上には、AIを活用した自動制御や障害物回避システムなどの導入が進んでいます。飛行経路や高度を自動で調整し、他の空飛ぶ車やドローン、航空機との衝突を防ぐシステムも開発されています。
・事故防止のためのシステム構築
乗客の安全確保だけでなく、空飛ぶ車同士の衝突防止や他の航空交通との干渉を避けるためのルールや監視システムの整備も必要です。
これらの安全対策が整うことで、空飛ぶ車が安心して利用できる未来が近づきます。
空飛ぶ車が実現する未来：社会への影響と新しい移動体験
空飛ぶ車が普及した未来には、私たちの生活や都市の姿が大きく変わる可能性があります。交通渋滞の解消や都市構造の変化、新しい移動体験など、どのような未来が待っているのか想像するとワクワクします。ここでは、空飛ぶ車がもたらす社会への影響について見ていきましょう。
交通渋滞の解消と都市構造の変化
空飛ぶ車が普及すると、地上の道路に依存しない新しい移動手段が増え、交通渋滞の解消が期待されます。とくに通勤ラッシュ時の混雑が減少することで、通勤時間の短縮や働き方の幅が広がり、生活の質の向上が見込まれます。地上の交通量が減少すれば、都市部の道路では車線を減らして自転車専用道路や歩行者空間を増やし、安全な都市づくりが進むでしょう。
空飛ぶ車のための離着陸スペースが都市の各所に設置されることで、都市構造にも変化がもたらされます。建物の屋上が「バーティポート」として活用され、都市部での移動が一層便利になります。地上スペースを有効に活用できる分散型都市モデルが進展し、渋滞が少なく住みやすい都市環境の実現が期待されています。
空飛ぶ車による新しい移動体験
空飛ぶ車の普及により、私たちの移動はこれまでの車や電車とは全く異なる体験になるでしょう。
・空中からの視点で都市を眺める
空飛ぶ車で地上を離れ、空中を自由に移動することで、これまでにない視点から都市を眺めることができるでしょう。日常的に新たな発見や楽しみが生まれるかもしれません。
・短時間での遠距離移動
高速での移動が可能になるため、これまでの移動手段よりも短時間で遠距離を移動できるようになります。通勤や通学の効率が上がり、生活の質が向上する可能性があります。
・快適な移動手段としての「空飛ぶタクシー」
空飛ぶタクシーサービスが実現すれば、混雑を避け、快適に移動できる選択肢が増えます。出張や旅行など、移動スタイルにも大きな変化が起きるでしょう。
・新たな観光資源としての活用
空飛ぶ車は、観光にも新たな可能性をもたらします。空から観光名所を眺めたり、離島や山間部へのアクセスが容易になったりすることで、観光産業の活性化に貢献するでしょう。
空飛ぶ車の実現は移動手段の進化にとどまりません。生活や都市のあり方を根本から変える可能性を秘めています。
・物流の効率化
空飛ぶ車は、物流の分野でも革新をもたらす可能性があります。ドローン配送よりも大型の荷物を運搬できるようになり、配送時間の短縮やコスト削減に貢献するでしょう。
・災害対応への活用
災害発生時、空飛ぶ車は、被災地への迅速なアクセスや物資輸送、救助活動などに活用できます。道路が寸断された場合でも、空から支援活動を行うことが可能になります。
・医療への応用
空飛ぶ車は、医療分野でも活用が期待されています。緊急患者の搬送や、離島や山間部への医療サービス提供など、医療アクセス改善に貢献する可能性があります。
空飛ぶ車の登場により、都市構造が見直され、住みやすい環境が形成されるかもしれません。建物の屋上に空港や空中駐車場が設置され、都市のスペースを有効に活用する未来が期待されています。
空飛ぶ車は、私たちの社会や生活に大きな変化をもたらす可能性を秘めた、革新的な技術です。その実現に向けて、多くの企業や研究機関が開発に取り組んでおり、近い将来、空飛ぶ車が私たちの日常の一部となる日が来るかもしれません。
この記事が、空飛ぶ車への理解を深め、未来のモビリティについて考えるきっかけになれば幸いです。
