トラックの「シャーシ」とは、荷台の下に装備されている金属製のフレームを指す言葉です。
車体を支えるシャーシは、トラックの構造において重要な役割を果たしています。今回はトラックにおけるシャーシとは何なのか、その種類や用途、選び方について解説します。
シャーシの基本と種類
トラックのシャーシは車両の骨格部分を指し、2軸・3軸・MG付き・モノコック・ラダーフレームなど、単にシャーシといってもさまざまな種類があり、形や性能は大きく異なり、それぞれ特有の特徴と用途があります。
トラックのシャーシとは
前提として、トラックにおける「シャーシ」とは車体の下部に位置するタイヤやエンジン、ミッションなどを取り付けて走行可能にした部分のことを指します。
「フレーム」と呼ばれることもありますが、厳密には走行可能なキャビンとフレーム部分を合わせた全体をシャーシ、骨格のみの状態はフレームと呼びます。
そこにボディ部分をボディーメーカーが装着させる事で、ダンプカーやウィング車等のトラックが出来上がります。
また、シャーシの上にコンテナを搭載して輸送可能な状態にしたものを「トレーラー」と呼びますが、現場によっては「オンシャーシ」と呼ぶこともあります。このように、運送・物流現場によって意味が異なることもあるため、注意しましょう。
シャーシの種類と特徴
まず、トラックのシャーシには大きく分けて「2軸シャーシ」「3軸シャーシ」の2種類があります。
この軸とは、左右にあるタイヤを連結している棒のことを指し、2軸シャーシの場合は全部で4個のタイヤ、3軸シャーシの場合は全部で6個あります。したがって、2軸シャーシよりも3軸シャーシのほうがトラックの最大積載量は多くなり、中〜大型のトラックには3軸シャーシが搭載されることが多いです。
つぎに、トラックに搭載されているシャーシには「MG付き」シャーシと呼ばれるタイプのものがあります。このMGとは、電動発電機を意味する「Motor Generator」の略語で、その名のとおりMG付きシャーシには電動発電機が搭載されています。この電動発電機のおかげでシャーシ上に積んだコンテナ内の温度は一定に保つことができるため、冷凍食品を運ぶ大型トラックにはこのMG付きシャーシがよく用いられています。
またシャーシの中でも特に広く知られているのが「モノコック」と呼ばれるもの。一般的にシャーシとは自動車のボディを除いた部分のことを指していますが、近年では軽量化などを目的として、ボディとシャーシが一体化したものが開発されています。さらに衝突事故が発生した際に、衝撃を吸収してくれるというメリットもあります。
最後に、「ラダーフレーム」と呼ばれるタイプのものもあります。モノコックタイプが開発される遥か昔から使用されていて、シンプルな構造が大きな特徴。他のタイプと比べると重量があることから、現在ではオフロード4WDや商用車のシャーシとして使われることが多くなっており、ラダーフレームは独自の進化を遂げています。
各シャーシの用途と選び方
前述でも紹介したように、シャーシはタイヤの数によって2軸・3軸シャーシというように区分されます。
これらの違いはまず後輪部分のタイヤの数で、さらに特徴や用いるメリットも異なるため、選ぶ前によく理解しておきましょう。
2軸シャーシの特徴
2軸シャーシは、左右のタイヤを連結させる棒=軸が2本あるシャーシのことで、シングルタイヤだと4輪、ダブルタイヤだと8輪のタイヤが装備されています。
この2軸シャーシの場合、3軸シャーシに比べると小回りが利くため移動しやすいメリットがあります。
3軸シャーシとその利用
対して、3軸シャーシは軸が3本あるシャーシで、タイヤの数がシングルタイヤだと6輪、ダブルタイヤだと12輪付いているタイプです。
2軸シャーシよりも最大積載量が増えるので、大型トラックは3軸シャーシを採用している場合がほとんどです。
2軸シャーシと比べると3軸の車軸は小回りが利きにくくなりますが、しかしながら大量の積載に耐えることができるので、鉄鋼製品など比較的重い製品の搬送や長距離輸送などに向いています。
シャーシ関連の部品とメンテナンス
トラックは、非常に数多くの部品から構成されています。
大きく分類すると、ボディ部分・エンジン・シャーシ・ドライブトレインと分けることができます。また、シャーシはもともと、車両の骨格となるフレームを意味していましたが、フレームの役割をボディが担うようになった現在では一般的に、サスペンション・ステアリング・タイヤ・ホイールなど、おもに足回り関連の構成部品を表すようになっています。
主なシャーシ関連部品
Uボルト
シャーシのUボルトは、トラックのような大型車の荷台を支える縦根太とシャーシを上下方向に固定するU字型のボルト。
荷台と積荷の脱落を防ぐこのUボルトは、トラックの安全運転のために無くてはならない部分で、大型トラックの場合は、荷台の長さは6.5~10mもあり、積載量も最大で10トン以上になることから、このUボルトをシャーシに備えずに走行してしまうと大事故に繋がる恐れがあります。
また、正規のシャーシUボルト向けとして販売されたボルトを選ぶ必要があります。専用品として販売されている商品以外を使用してしまうと、大きな荷重がかかる大型トラックの場合、ボルトの折れやナットのゆるみにつながり大変危険です。
シャーシスペーサー
シャーシスペーサーとは、Uボルトを締め付ける際に、シャーシにかかる負荷を軽減してくれる緩衝材です。
また荷台の位置上げをして、フェンダーなどを見えやすくする高さ調整にも使用されます。
もしシャーシスペーサーを挟まない状態でUボルトを締め付けると、その強力なトルクによってシャーシ自体が変形してしまうリスクがあります。シャーシが変形すると、Uボルトに過度な負荷がかかり、破損や荷台の傾きなどが起こる危険性があります。また、スペーサーの材質には一般に廃プラが利用されていますが、ポリエチレン樹脂製や塩ビ、布入りゴム製などさまざま種類があります。
サスペンション
サスペンションとは車体と車輪を結ぶ部品の事で、その役割は大きく分けて「路面から車体に伝わる衝撃を和らげる」「乗り心地と走行安定性を向上させる」の2つが挙げられます。
路面の凸凹や段差の衝撃などをスプリングが吸収します。その衝撃を吸収したスプリングはビヨヨヨーンと振動を繰り返します。この振動を繰り返そうとする力を、ダンパーによってゆっくりと戻します。このようにして、路面から車体に伝わる衝撃を和らげています。
例えばスプリングのバネレートと、ショックアブソーバーの減衰力を高めに設定すると、乗り心地は硬くなりますが、カーブや高速道路などでの走行安定性が高くなります。スプリングのバネレートと、ショックアブソーバーの減衰力を低めにすると、柔らかくてふわふわとした乗り心地の足回りになります。
ステアリング
ステアリングシステムとは操舵装置と呼ばれ、乗用車では一般的に前輪で操舵を行います。しかし、4輪操舵システムと呼ばれる後輪でも操舵を行う車も、高級車を中心に採用されています。現代の自動車のステアリングシステムには「ラック&ピニオン式」が採用されるケースがほとんどです。
ラック&ピニオン式とは、ステアリングシャフトの先端にあるピニオンギヤと、ラックバーと呼ばれる歯が刻まれた棒を用いた、シンプルな構造のステアリングシステムです。ステアリングを回すと、ピニオンギアも回転し、回転に応じた量だけラックバーが左右に動きます。ラックバーが左右に移動することによって、車輪を支持しているナックルが動きます。
シャーシのメンテナンスと修理
シャーシは1つの部品で構成されておらず、複数のコンポーネントの組み合わせであるため、修理は容易ではないのが難点。
なんらかの問題に気づいた場合は、カーディーラーや販売元に連絡して診断を行うことを強くお勧めします。これは、シャーシ自体に問題があるのかどうか、どの構成部品を交換する必要があるかを正確に判断するために必要であり、結果によってメンテナンスの時間と費用が異なってきます。
また、シャーシの修理に関するよくある疑問を見てみましょう。
シャーシの折れ・ひび割れは修理できる?
トラックのシャーシを構成するフレーム部分は、過積載や経年劣化などにより塗装の剥離や錆化が起こることがあります。最悪の場合、ひび割れや折れの恐れがあり、そのような重大な損傷があるシャーシは、強度が落ちていく可能性が高く、修理をしても元に戻らない可能性が高いでしょう。また、無理に使用を続けると、車輪軸や架装を支えられなくなる危険性もあります。
著しい損傷があるシャーシは、修理ではなく交換するのが一般的ですが、交換すると数十万という高額な費用がかかります。
しかし、ひび割れが起きる前のシャーシであれば、表面の塗装の施工は可能です。もし経年劣化で錆防止の塗装が剥がれてしまっている場合は、塗装し直すことで防錆力を保つことができるので、早めの対応をしましょう。
シャーシの塗装の費用はどの程度?
業者によって少し差は出ますが、シャーシ塗装のおおよその料金相場を見てみましょう。
大型トラック(10トン車):20万円〜
中型トラック(4トン車):18万円〜
小型トラック(2トン車):14万円〜
また、料金は単色の同色であれば低くなり、一方で2面塗装や大幅な色変更となると費用は高くなる傾向があります。予算と仕上がり状態が納得できる塗装条件を選びましょう。
車両に装備されたシャーシは非常に腐食しやすいです。
ただし定期的な錆のチェックや手入れにより、耐用年数を延ばすことはできます。具体的には、まずサスペンション部分をよく洗浄し、防錆剤を均一に塗布します。もしシャーシに錆がすでに発生している場合は、ワイヤーメッシュで錆を取り除きましょう。
面倒ですが、この予防メンテナンスをするのとしなのでは、シャーシの寿命は変わってくるのです。
シャーシの今後
シャーシの世界市場は、予測期間(2023年~2033年)において年平均成長率6%で推移しており、2033年末までに1100億米ドル(約15兆8,844億円)の収益を獲得すると予測されます。
シャーシはパワートレインと車体を支えるフレームであり、エンジン、ブレーキ、ドライブトレイン、サスペンション部品、ステアリング部品、ホイールを含むほとんどの車両機械部品はシャーシにボルトで固定されており、自動車の重要な構造のひとつです。
トラック業界のシャーシ技術の進化
トラック産業における技術革新と発展は、さまざまな車両部品や積載物を支えるために必要な強度を提供し、トラックの剛性を維持するのに役立つシャーシが求められます。
これまでのトラックボディの素材を見てみると、鉄製ボディが主流だったことは間違いありません。車両ボディとして鉄の使用が主流になったのは、フレームとボディを一体化させたモノコックシャーシが登場したことが挙げられます。鉄製は加工が容易であることや、フレームとボディを分けて生産するよりもコストを低く抑えることができ、なおかつ一体型なので装備の手間も少なくて済みます。
また、三菱ふそうトラック・バスが2021年4月に開催した自社イベント「デザイン・エッセンシャルズ」で、ボディとシャーシの連結部分をモジュール方式としたモジュールトラック「I.RQ(Intelligent.Rescue Truck)」を発表しています。このトラックは状況や目的に応じた車両に換装することができるというもので、トラック業界でも普及が期待されています。
次世代車両へのシャーシの影響
今後、トラックを含む自動車や輸送業界には、「安全・環境・燃費・リサイクル・IT化」など、多くのキーワードが求められています。
さらに次世代車両であるハイブリット車やEV(電気自動車)の登場と一般普及によって、今後はますます車両を構成する個々の部品やシステムに関して複雑さが増すことも予想されます。
常に新しい技術が生み出され、進歩を続ける輸送業界において、最近注目されているのが、トラックのバーチャルシャーシ(仮想シャーシ)と呼ばれる技術があります。
バーチャルシャーシとは、車両の挙動制御に必要な情報を車両外部に装備されたセンサーから、リアルタイムで収集することで、車両動作安定性を高める技術。これによって、車両の挙動制御がより正確になります。
例えば、道路上にある凹凸や、強い風などによる影響を、バーチャルシャーシのセンサーから収集したデータをもとに、リアルタイムで判断し、適切な制御を行うことが可能となります。これにより、トラックの挙動制御がより高度化され、運転の安定性と効率化が増すことが期待されます。
また、バーチャルシャーシは外部にセンサーを設置するため、車両の重量削減も可能になります。
バーチャルシャーシは、輸送業界・自動車業界における革新的な技術の一つであるといえるでしょう。