トラック運転中の荷崩れは、積荷の破損や、積荷の飛散による対向車・後続車との接触事故につながる恐れがあり非常に危険です。そのため、荷崩れの防止対策はトラックドライバーにとって不可欠な取り組みといえるでしょう。
本記事では、トラックの荷崩れが起こる原因とその影響、荷崩れを防止するための積み込み方法や運転の仕方、最新技術を活用した荷崩れ防止対策について解説します。また、法規制や業界別の注意点、実践的なチェックリストなども提供し、より包括的なガイドを目指します。
トラックの荷崩れとは?その原因と引き起こす影響
そもそもトラックの荷崩れとは具体的にどのような状況を指すものでしょう。まずは、トラックの荷崩れの定義と種類、荷崩れが起こる原因と及ぼす影響について解説します。
荷崩れの定義と種類
荷崩れとは、トラックで荷物を運搬中に、固定されていた荷物が崩れることです。荷崩れは、荷台が露出した平ボディのトラックだけでなく、アルミバンや冷蔵・冷凍車両などどのようなタイプのトラックでも発生する可能性があります。
荷台が露出した平ボディのトラックで荷崩れが発生すると、積荷が落下して破損したり、飛散した荷物が他の車に接触したりして事故につながる恐れがあり非常に危険です。荷台が覆われているアルミバン車両やウイング車などにおいても、積荷が転倒して破損につながる可能性は大いにあります。
他の車両との交通事故や道路の損傷、荷物の破損などが発生すると、結果的に企業の信頼を失ってしまうことにもなりかねません。
荷崩れの原因となる要因
トラックで荷崩れが起こる原因は、主に「過積載」と「偏荷重」によるものです。
過積載とは、トラックの最大積載量を超えて荷物を積み込んでしまうことです。過積載の場合、荷台のバランスが悪くなり荷崩れが起きやすくなります。偏荷重とは、荷物が前後もしくは左右に偏っている状況です。これも同様に、荷台の広さに対して積み荷のバランスが悪いことで荷崩れしやすくなります。
荷崩れの影響と事故統計
国土交通省の統計によると、2019年度の貨物自動車による交通事故のうち、約5%が荷崩れに関連する事故でした。これらの事故の多くは高速道路や幹線道路で発生しており、重大な人身事故につながるケースも少なくありません。
具体的な事例として、2018年に東名高速道路で発生した荷崩れ事故では、トラックから落下した鉄パイプが後続車に直撃し、1名が重傷を負う事態となりました。この事故により、約6時間にわたって高速道路が通行止めとなり、社会的影響も大きなものとなりました。
このような事故を防ぐためにも、荷崩れ防止対策は極めて重要です。
荷崩れを防ぐための実践的な積み込み方法
荷台に荷物を積み込む際に、何も考えずに積み込んでしまうと荷崩れ発生の可能性が高くなってしまうでしょう。荷崩れを防ぐための実践的な積み込み方法と、荷崩れ防止に役立つアイテムをご紹介します。
荷物の特性に合わせた積み方
荷崩れを防ぐためには、重い物・液体・ばら積み貨物など荷物の種類に合わせた積み方をする必要があります。荷物の形状に合わせて上下・左右にできるだけ隙間ができないように積み込むことが重要です。前後・左右に空間ができてしまう場合は、止め木などを用いて荷崩れを防止しましょう。
荷物の積み方には、交互列積み・棒積み・スプリット積みなどさまざまな種類があります。なかでも、段ボールの向きを縦横・交互に積んでいく「レンガ積み」が荷崩れを起こしにくい積み方です。
具体的な積み込み手順
1. 重い荷物を下に、軽い荷物を上に積む
2. 荷台の前方から順に積み込み、後方に空間を作らない
3. 荷物同士の隙間にはダンボールや緩衝材を詰める
4. 積み込んだ荷物の高さが均一になるよう調整する
5. 最後に荷締め器具で全体を固定する
荷崩れ防止アイテムの活用
基本的な荷崩れ防止アイテムには以下のようなものがあります。
– ロープ
– ラッシングベルト・ガッチャ
– 滑り止めシート・マット
– コーナー保護材
– エアバッグ(空気緩衝材)
トラックのボディタイプや積荷によって固定方法や使用アイテムは変わってきます。平ボディは荷台が露出しているため、積載荷物の長さが5m以上になる場合、少なくとも前後と中間の3点にロープを張って固定するようにしましょう。アルミバンやウイングボディのトラックはラッシングベルトを用いるのが一般的です。
また、滑り止めシートやマットを敷いておけば、最下部の荷物がずれにくくなり、荷崩れ防止になります。積荷の上部にL型アングル材をかけて固定すれば縦方向の揺れを抑えることも可能です。
エアバッグは、荷物と荷物の間に挿入することで、輸送中の振動や衝撃を吸収し、荷崩れを防止します。特に、形状が不規則な荷物や、隙間が生じやすい積み付けの際に効果的です。
荷崩れを防ぐための安全運転テクニック
走行中のトラックの荷台は、常に震度2、乱暴に運転すると震度7に相当する揺れになるといわれています。荷崩れを防ぐために押さえておきたい安全運転テクニックについてみていきましょう。
急発進・急ブレーキの回避
運転中の荷崩れを防ぐには、急発進・急ブレーキ・急ハンドルなど「急」がつく操作を極力しないように努めましょう。特に、急ブレーキを踏むと震度7相当の衝撃が荷台にかかるといわれています。走行スピードが速ければ速いほど揺れや遠心力は大きくなるため、荷崩れが起きた時の被害は甚大です。
加速・減速は徐々に行う、適切な車間距離を確保する、できるだけエンジンブレーキを活用するといった習慣をつけ、安全運転を心がけましょう。
具体的なテクニック
1. 発進時は、クラッチをゆっくり繋ぎ、アクセルも徐々に踏み込む
2. 減速時は、前方の交通状況を見越して早めにアクセルを緩める
3. ブレーキは段階的に踏み、急激な減速を避ける
4. カーブ進入前に十分減速し、カーブ中は一定速度を保つ
5. 道路状況に応じて適切な速度を選択し、むやみに速度を上げない
カーブや悪路での注意点
カーブへ進入する際や、雨天・雪道などの悪路では、特に荷崩れが起こらないよう注意して運転する必要があります。
カーブでは「スロー・イン、ファースト・アウト」を心がけることが重要です。カーブにさしかかる手前の直線道路で十分に減速をして、カーブの途中からゆっくりとアクセルを踏み込んでカーブを抜けるようにしましょう。
雨天時や雪道では路面が滑りやすくなっているため、スピードを出し過ぎすると急なハンドル操作を余儀なくされる場合があります。そのような事態を避けるためにも、悪路では徐行運転する、前の車との車間距離を十分開けるといったことを心がけましょう。
悪路での具体的な注意点
1. 雨天時は通常の1.5倍以上の車間距離を確保する
2. 橋や高架、トンネルの出入り口では特に注意して減速する
3. 積雪路面ではチェーンを装着し、極力ハンドル操作を控えめにする
4. 強風時は速度を落とし、横風に注意する
最新技術を活用した荷崩れ防止対策
顧客の大切な荷物を守るためにも荷崩れは決して起こさないようにしなければなりません。最近では、IoTセンサーやAIなどの最新技術を活用した荷崩れ防止対策も進んでいます。
IoTセンサーによる荷崩れ検知システム
現在、運送業界では荷崩れ防止を目的とした、IoTセンサー「ティルトウォッチ」の活用が増えてきています。ティルトウォッチは、アメリカのSpotSee社が開発した傾斜検知製品です。輸送中の荷物に貼り付けて使用し、転倒や傾きが起きるとティルトウォッチの中央部が赤く変色するようになっています。一度色が変わると元に戻らないため、ドライバーへの注意喚起につながり、荷崩れの未然防止が可能です。
ティルトウォッチは、ANAの精密機器輸送サービス「PRIO SENSITIVE」で活用されていることでも知られています。半導体製造装置や医療機器といった精密機器を積載した貨物にティルトウォッチを貼付。発着空港や経由地の空港でチェック・モニタリングすることで輸送時の衝撃リスクを回避するのが目的です。
トラック業界においても、荷物に貼り付けるだけという手軽さもあって、精密機器や高価な美術品などの運送時に幅広く使われるようになってきています。
導入方法
1. 運送する荷物の特性に合わせてティルトウォッチを選択
2. 荷物の見やすい位置にティルトウォッチを貼付
3. 出発前、休憩時、到着時にティルトウォッチの状態を確認
4. 変色があった場合は荷物の状態を詳しく点検し、必要に応じて再固定
導入コスト:ティルトウォッチの価格は、種類や購入数によって変動しますが、1個あたり数百円から千円程度が目安です。荷物の価値や重要度に応じて使用数を決定できます。2024年7月時点での最新価格については、SpotSee社のウェブサイトや販売代理店にご確認ください。
AIを活用した積み込み支援システム
AIを活用したさまざまなシステムを活用し、荷崩れを防ぐ取り組みも広がってきています。
例えば、荷物の大きさ、重さなどの条件をAIに学習させ、最適な積み込み方を提案してくれる積み付けシステムや、AIを活用した荷崩れリスク予測システムなどが代表例です。積み付けシステムでは、荷物の大きさ・重さ・凹凸・比重などのさまざまな積み込み条件から、AIが膨大な計算をもとに積み込みを計画・提案してくれます。そのため、人が考えた積み付け計画よりも積載率を上げることが可能です。
また、積み込みを自動で行なってくれるAIロボットも登場してきています。SGホールディングスでは、佐川急便など4社共同で、業界初となる「AI搭載の荷積ロボット」の実証実験プロジェクトを立ち上げました。佐川急便の中継センターを中心に導入・実用化が進んでいます。
荷崩れを防止するために積み込みを行う際には細心の注意を払う必要がありますが、昨今の人員不足や労働時間の規制等の問題で十分な対応が難しいケースも少なくありません。先述した最新技術の活用によって、少人数で作業を最適化しつつ荷崩れを防止できるようになるため、今後ますます導入が進んでいくと予想されます。
AI積み込み支援システムの導入方法
・システム提供業者と相談し、自社の需要に合ったシステムを選択
・必要なハードウェア(センサー、カメラなど)を設置
・荷物のデータ(サイズ、重量、形状など)をシステムに入力
・AIによる最適な積み付け提案に基づいて作業を実施
・定期的にデータを更新し、AIの精度を向上させる
導入コスト:初期費用として500万円〜1000万円程度、その後の運用コストとして月額10万円〜30万円程度が一般的です。規模や機能によって大きく変動するため、各社の状況に応じて検討が必要です。複数の業者から見積もりを取って比較検討することを推奨します。
業界別の荷崩れ防止対策
荷崩れ防止対策は、運送する貨物の種類や業界によって異なる場合があります。ここでは、代表的な業界ごとの特有の注意点や対策を紹介します。
建設資材運送業
建設資材は重量物が多く、形状も不規則なものが多いため、特に注意が必要です。
注意点
・鉄骨やパイプなどの長尺物は、荷台からはみ出さないよう注意
・セメントや砂利などのばら積み貨物は、シートで覆い飛散を防止
・重機の運搬時は、専用の固定具を使用し確実に固定
対策
・荷台に滑り止めマットを敷き、摩擦を増やす
・荷締めベルトを多用し、荷物同士を強固に固定
・積み込み時にはクレーンなどの重機を使用し、安全に配慮
食品運送業
・食品は温度管理が重要であり、かつ衛生面にも配慮が必要です。
注意点
・温度変化による荷崩れリスクの増大(結露や凍結による滑りやすさ)
・生鮮食品の場合、荷崩れによる品質劣化のリスク
対策
・保冷車や冷凍車を使用し、適切な温度管理を行う
・段ボールは防湿加工されたものを使用
・パレットを活用し、荷物の固定と通気性の確保を両立
家電製品運送業
家電製品は衝撃に弱く、高価な商品も多いため、慎重な取り扱いが求められます。
注意点
・製品の重心が偏っている場合がある(例:冷蔵庫)
・梱包箱の強度が製品によって異なる
対策
・エアクッションやダンボールなどの緩衝材を多用
・重心の高い製品は低い位置に積載
・製品間の隙間にはエアバッグを挿入し、動きを抑制
荷崩れ防止に関する法規制
荷崩れ防止は法律でも定められており、違反した場合には罰則の対象となる場合があります。主な関連法規について説明します。
道路交通法
道路交通法第75条では、「積載物の重量、大きさ、積載の方法」について規定しています。この規定に違反した場合、3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
貨物自動車運送事業法
貨物自動車運送事業法第17条では、「輸送の安全を確保するために必要な事項」を遵守することが義務付けられています。荷崩れ防止もこれに含まれ、違反した場合には事業停止などの行政処分の対象となる可能性があります。
労働安全衛生法
労働安全衛生法では、事業者に対して労働者の安全と健康を確保する義務を課しています。荷崩れによる労働災害を防止するための措置を講じることも、この義務に含まれます。
荷崩れ防止チェックリスト
以下のチェックリストを活用し、荷崩れ防止対策を徹底しましょう。
出発前チェックリスト
□ 積載量が最大積載量を超えていないか
□ 荷物が偏って積まれていないか
□ 荷締め具は適切に使用されているか
□ 荷台のあおりやゲートは確実に閉じられているか
□ 突起物や長尺物が適切に固定されているか
□ シートやネットで荷物全体が覆われているか(必要な場合)
運転中チェックリスト
□ 急発進、急ブレーキを避けているか
□ カーブでは十分に減速しているか
□ 道路状況に応じた適切な速度で走行しているか
□ 定期的に荷台の状態を確認しているか(休憩時など)
到着時チェックリスト
□ 荷降ろし前に荷崩れの有無を確認したか
□ 荷崩れが起きている場合、状況を記録し報告したか
□ 次回の改善点を確認したか
よくある疑問
Q1: 荷崩れが起きた場合の対処法は?
A1: まず安全な場所に停車し、ハザードランプを点灯させます。荷崩れの状況を確認し、他の車両に危険が及ぶ可能性がある場合は警察に通報します。可能であれば、荷物を再固定しますが、危険と判断した場合は専門業者に依頼しましょう。事故報告書を作成し、原因分析と再発防止策を立てることも重要です。
Q2: 荷崩れ防止器具の選び方は?
A2: 運搬する荷物の種類、重量、形状に合わせて選びましょう。例えば、重量物にはラッシングベルト、軽量で不安定な荷物にはネットやシートが適しています。また、使用頻度や耐久性、コストパフォーマンスも考慮に入れて選択することが大切です。
Q3: 荷崩れ防止の教育はどのように行うべきか?
A3: 定期的な社内研修や、ベテランドライバーによるOJTが効果的です。座学で基本的な知識を学んだ後、実際の積み込み作業や運転でのポイントを実践的に指導します。また、荷崩れ事故の事例研究や、最新の防止技術の紹介なども取り入れると良いでしょう。
以上で、トラックの荷崩れ防止に関する包括的なガイドを終わります。この情報を参考に、安全な輸送業務の実現にお役立てください。