2050年にカーボンニュートラルを実現させるため、各企業では脱炭素化に向けた取り組みが活発化しています。
顕著な動きとしては、各企業が独自で温室効果ガス削減に取り組むのではなく、サプライチェーン全体での取り組みに方向転換していることです。
カーボンニュートラル実現のためには、大企業だけでなく中小企業も含めた活動が必要です。
この記事では、脱炭素サプライチェーンにおける企業が取るべきステップやメリットを紹介します。今後ますます加速される脱炭素を推進するために企業として必要な取り組みです。
なぜ脱炭素サプライチェーンが求められるのか
サプライチェーンとは、企業が製品として販売するまでの原材料の調達から生産、物流さらには消費者の廃棄も含めた一連の工程を指します。
なぜ一企業のみでなくすべての工程に関わるサプライチェーンでの脱炭素が求められているのでしょうか。
脱炭素は、事業活動で使用するエネルギー源となる化石燃料の使用量削減と化石燃料の代替エネルギーへの変換に大きく寄与します。
さらに、企業単体での取り組みでは大きな効果は期待できないため、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減が脱炭素に大きく貢献するのです。
また脱炭素が進むと地球温暖化を抑えることもできます。
特に地球温暖化の大きな問題となっているのは、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料を使用したエネルギー利用時に発生する二酸化炭素の排出です。
脱炭素サプライチェーンによって温室効果ガスである二酸化炭素排出量を削減することで、気温上昇を抑え、更には気候変動による災害などのリスクを解消することができます。
脱炭素サプライチェーンとは二酸化炭素排出量実質ゼロを目標として地球温暖化を抑制するとともに、化石燃料の枯渇を防ぐための手段といえます。
また、昨今企業において脱炭素経営は、環境に配慮した取り組みを行いながら社会的責任を果たすことが会社存続の必須条件とされる社会的背景から求められています。
2016年のパリ協定では、産業革命以前に比べ2℃低く保ち、1.5℃に抑えるという世界共通目標が掲げられました。
日本においても温室効果ガスの主要産出国として脱炭素化社会の実現が急務となり、政府や各自治体のみならず、企業の協力が必要不可欠になりました。
2050年のカーボンニュートラル達成のために企業の脱炭素経営が求められており、より脱炭素サプライチェーンへの注目が集まっています。
サプライチェーン全体での脱炭素化の取り組み
日本を含め世界では、サプライチェーン全体での脱炭素化の取り組みを加速しています。
脱炭素サプライチェーンを推進するには、原材料から製造・販売・廃棄までの一連の流れで発生する温室効果ガス排出量を分類し、可視化することが大切です。
該当する事業活動に応じて温室効果ガス排出量を把握し、事業活動に関わるすべての排出量を算出後、削減計画を立て、目標に向けて取り組むことも大切になります。
また、事業活動の内、自社での消費電力を把握し、再生エネルギー調達率100%を目指す取り組みも掲げられています。
サプライチェーン全体で脱炭素に取り組むことで以下のメリットが期待できます。
脱炭素化に取り組む企業は、他の企業に比べ差別化が図れ、新たな事業活動の獲得が期待できる
大企業の温室効果ガス削減取り組みに中小企業も協力することで、より大きな脱炭素効果が期待できる
大企業と中小企業との信頼関係が構築し、経営基盤の更なる強化が図れる
サプライチェーン全体の脱炭素化は、生産に関わる企業全体の競争力確保につながるのです。
具体的な取り組み例とその効果
ここでは、サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組む企業の具体例やその効果について紹介します。
株式会社二川工業製作所
建設機械や鉱山用機械器具等の製造業を展開する二川工業製作所は、自社のみならずサプライチェーン全体にまで脱炭素化に取り組んでいます。
自社で再エネ発電所を保有し、全拠点での使用電力量である約600万kwhすべてを再エネで賄い、二酸化炭素排出量を削減しています。
また、ため池ソーラーを開発し、4MWの太陽光発電により発電した電力をトラッキング付き非化石証書として購入、再生エネルギー利用率100%を達成しました。
株式会社リコー
複合機やレーザープリンターなどの製造や販売を行う株式会社リコーも、自社のみならず、サプライチェーン全体でも脱炭素化に取り組んでいます。
海上輸送コンテナ積載時に完成・未完成品などを1つのコンテナに混載することにより、積載率10%向上し、二酸化炭素換算で約700トンを削減しました。
また、アメリカの生産関連会社本部社屋の10%の年間消費電力にあたる約350,000kwhを再エネルギーで賄い、年間の二酸化炭素排出量を98.1トン削減可能となりました。
脱炭素サプライチェーンのメリット
企業は、脱炭素化をサプライチェーン全体で取り組むことで多くのメリットが得られます。
市場が刻々と変化するグローバル社会では、サプライチェーンの取り組みが様々な経営課題を解決する重要な施策となるため、注目が集まっています。ここでは、企業が取り組む脱炭素化のメリットについて解説します。
企業価値の向上
脱炭素というキーワードは、消費者の関心度が高いため、企業価値の向上につながります。
特にサプライチェーン全体で脱炭素に取り組む企業は、投資家や金融機関には大きなアピール材料となり、イメージアップが図れます。
また、積極的に環境保全を優先する企業としてイメージアップとなり、さらには投資家から長期的な支援を期待できる取り組みといえるのです。
新規顧客や人材の獲得につながる
脱炭素化の要請に応えられない同業他社との差別化ができ、新規顧客獲得などビジネスチャンスの獲得につながる可能性が高まります。
特に大手企業にとっては、脱炭素化に取り組む中小企業と連携することで市場価値が高まり、新たな事業展開も期待できます。
また、環境問題に関心が高い若い世代から、脱炭素化に取り組む企業として人気が得られるのも、人材獲得のための大きなポイントです。
さらに、脱炭素化の取り組みをSNSなどで発信することで、共感を得た新たな人材の獲得に寄与することでしょう。
脱炭素化に取り組むための指標と目標
<脱炭素化をサプライチェーン全体で取り組むためには、具体的な指標と中長期的な目標が必要です。
脱炭素化を目指す企業には、自社だけでなくサプライヤーにも二酸化炭素排出削減量の見える化の必要性が増しています。ここでは、脱炭素化の具体的な取り組みとなる指標と目標について解説します。
TCFD、SBT、RE100などの目標・指標
脱炭素化に取り組む企業の具体的な指標(TCFD)や目標設定(SBT、RE100)について解説します。
TCFD
金融安定理事会に設置された民間主導のタスクフォースであり、気候関連財務情報の開示を企業に求めることを目的にしています。
気候変動に伴う企業経営のリスクや機会を開示し、自社のビジネス戦略の理解を得られやすくなるなど、投資家などへのアピール材料になります。
SBT
パリ協定と整合した温室効果ガス排出量目標であり、目標を設定し認定された企業はイニシアチブが受けられます。
企業は5~15年後の目標を設定し、年間の二酸化炭素排出量削減率2.5%以上を都度達成することで環境負荷低減への貢献が期待できます。
RE100
企業が事業活動において使用する電力を再生可能エネルギー100%で賄う国際的なイニシアチブで、2050年までに達成する目標が求められています。
再生可能エネルギーを発電する方法と再生可能エネルギーで発電した電力を購入する方法の2種類があり、参加要件は電力消費量100GWh以上です。
ただし、特例として日本企業は50GWh以上の緩和措置となっています。
Scope1~3の理解とその活用
Scopeとは、原材料の調達から販売・廃棄などの一連の流れで発生する温室効果ガス排出量の分類です。
Scopeでは次のように温室効果ガス排出を1~3に分類しています。
Scope1:自社の直接排出
Scope2:自社のエネルギー源を他社から供給し、使用する間接排出
Scope3:商品の製造以外(使用や廃棄など)の事業活動に関連する間接排出
まずこのScorpの考え方を理解することが大切です。Scopeの分類毎に温室効果ガス排出量を把握し、再生可能エネルギーを効果的に活用することで、サプライチェーン全体で脱炭素化の企業経営が実現できます。