今世紀の最大の課題である気候変動。私たちは従来の経済モデルを見直し、脱炭素の持続可能な未来を築く必要があります。その中で、脱炭素社会の実現において重要な鍵を握っているのがサーキュラーエコノミーです。
この記事では、何故サーキュラーエコノミーが脱炭素社会達成の鍵となるのか、その役割と具体的な取り組みについてご紹介します。
サーキュラーエコノミーと脱炭素社会
まずはサーキュラーエコノミーの意義と、サーキュラーエコノミーが脱炭素社会にどのように影響を与えるかについて見ていきましょう。
サーキュラーエコノミーとは何か
サーキュラーエコノミーとは、資源の循環利用と廃棄物の最小化を追求する経済モデルのことです。
このモデルでは、製品の寿命を延ばし、修理、再利用、リサイクルなどを通じて資源の循環を促進するため、持続可能な経済成長と環境保護の両立を図ることが可能です。
サーキュラーエコノミーは脱炭素社会への移行に不可欠な役割を果たし、持続可能な未来を築くための重要な手段として注目されています。
サーキュラーエコノミーが脱炭素社会に及ぼす影響
サーキュラーエコノミーが脱炭素社会に及ぼす影響について、海外では具体的な研究が為されています。
まず、エレン・マッカーサー財団によるレポート「COMPLETING THE PICTURE: HOW THE CIRCULAR ECONOMY TACKLES CLIMATE CHANGE」によれば、再生可能エネルギーとエネルギー利用効率化は、温室効果ガス排出の55%に対しては取り組んでいるものの、残りの45%にはアプローチされていないと指摘されています。この45%にアプローチするには製品の製造や利用の循環化が必要です。
また、オランダのサーキュラーエコノミー推進団体であるCircle Economyは「Circularity Gap Report 2021」において、サーキュラーエコノミーが2019年の温室効果ガス排出量の39%にあたる228億トン(CO2換算)を削減し、気候崩壊の防止に大いに寄与すると試算しています。
つまり、従来のエネルギー対策だけではなく、製品の製造や利用の循環化を推進することによって、温室効果ガス排出量の大幅な削減が可能となります。
サーキュラーエコノミーによる温室効果ガス削減
世界ではサーキュラーエコノミー施策として、リユース・シェアリング・サービス化によって温室効果ガス削減を図る動きが出ています。その効果について詳しく見ていきましょう。
また、施策によって逆に温室効果ガスが結果的に増大する「バックファイア効果」のリスクや、対策についても解説します。
リユース、シェアリング、サービス化の効果
リユース、シェアリング、サービス化は、サーキュラーエコノミーの施策として採用されることで、温室効果ガスの排出削減効果が期待されます。
まず「リユース」は、新たな製品の生産や資源の消費を抑えることができます。
また「シェアリング」は製品やリソースを複数の人々で共有することによって、個々人が所有物を持つ必要性を減らします。
さらに「サービス化」は、製品の所有権を持つ代わりに製品の利用をサービスとして提供します。製品の需要を最適化し、需要変動や使用パターンの変化に対応することで、資源の効率的な利用を実現します。
このようにリユース、シェアリング、サービス化は、資源の消費削減、廃棄物処理の削減、エネルギー使用量の削減を可能にし、結果的に温室効果ガスを削減します。
バックファイア効果のリスクとその対策
サーキュラーエコノミー施策としてリユース・シェアリング・サービス化を採用することで、温室効果ガスを削減できますが、これにはリスクが伴います。
代表的なリスクとして挙げられるのが「バックファイア効果」です。
バックファイア効果とは、サーキュラーエコノミー施策によって減少した温室効果ガスの排出量が、かえって増えてしまう現象を指します。
例えばシェアリングやサービス化に伴い、輸送回数や距離、使用回数が変化することで、減少分を上回る温室効果ガスの増加が生じ、結果的に排出量が増大するリスクがあります。
つまり、サーキュラーエコノミー施策を脱炭素化に繋げるためには「バックファイア効果」を生じさせないことが不可欠です。
バックファイア効果の対策としては、脱炭素型の輸送手段を用いたり、シェアリングの範囲を一定距離の地域内にしたりする方法があります。
また、施策を実施する前に、温室効果ガスの排出量への影響やリスクについての評価を行い、具体的な目標や指標を設定しておくことも重要です。
世界のサーキュラーエコノミー事例
次にヨーロッパと日本における具体的なサーキュラーエコノミーの取り組み事例と、それが脱炭素社会達成にどのように寄与しているかをご紹介します。
また、日本国内の今後の動向についても見ていきましょう。
欧州における取り組み
ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミーをビジネスとして実現している会社が多くあります。
例えばオランダの「マッド・ジーンズ(Mud Jeans)」社は、ジーンズを売るのではなくリースするという取り組みを行っています。
ジーンズの所有者はマッド・ジーンズ社であり、リース使用期間が終了すると同社がジーンズを回収し、素材としてリサイクルして新たなジーンズを製造します。また、ジッパーについても、リペアやリサイクルが難しいという課題を考慮し、適切な代替品を採用ました。
これにより、マッド・ジーンズ社は消費者に持続可能な選択肢を提供し、ジーンズの廃棄物を最小限に抑えることに成功しています
日本の取り組み
日本では「ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)」が不要な服を回収し再利用する取り組みである「RE.UNIQLO」を2020年に開始しました。商品の一つであるリサイクルダウンジャケットでは、国内で回収した62万着のダウン商品が再生・再利用され、資源消費の削減に貢献しています。
今後もこのような資源の有効活用や廃棄物の削減による環境負荷を軽減することで、経済成長と環境保護の両立が図られると期待されています。
サーキュラーエコノミーへの移行と消費者の役割
最後にサーキュラーエコノミーへの移行に必要な消費者の「5R」とその実践方法を紹介します。サーキュラーエコノミーと脱炭素社会の実現のためには、消費者の意識変革がきわめて重要です。
5R(リデュース、リフューズ、リシンク、リユース、リペア)の実践
Reduce(リデュース) 資源や製品の利用自体を減らす
Refuse(リフューズ) 不要ならば買わない、使わないという選択
Rethink(リシンク) 生産や消費の在り方を再考する
Reuse(リユース) 製品を再利用する
Repair(リペア) 製品を修繕して使い続ける
5Rの実践とは、本当に必要なモノだけを購入し、修理しながら長く使うことです。例えば、ペットボトルを買わずにマイボトルを活用し、ゴミが減るように行動するのも5Rの実践です。使用頻度の低いものは、シェア利用するのもいいでしょう。
この5Rを個々人が意識することでサーキュラーエコノミーが広がります。
消費者の意識変革は、持続可能な社会を築く上で最も重要です。
意識の変化により、環境や社会への影響を考慮した消費行動が広まり、資源の効率的な利用や廃棄物の削減につながります。さらに、その消費者の選択が企業の取り組みや市場の方向性の基盤となり、持続可能性な社会を形成することができるのです。
持続可能な未来の実現のために、まずは私たち消費者が、脱炭素に向けて意識を変えていきましょう。