脱炭素時代への挑戦:未来を築く戦略と技術

2020年10月、政府が掲げた「2050年 カーボンニュートラルの実現」の宣言を機に、気候変動のリスクは自社経営上のリスクととらえ脱炭素社会の中での経営に向けて舵を切る企業が増えています。
では、企業は利益を上げながら脱炭素時代で生き残るためにカーボンニュートラル実現においてどう挑むのか、またこの社会転換期に求められる技術と戦略とはどういうものか考えていきましょう。

目次

脱炭素時代の背景

まず「低炭素」時代から「脱炭素」時代へと変化したその背景について見ていきましょう。

​​2050年カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出を全体としてゼロにしようという取り組みを指します。
全体としてゼロというのは、人間や経済活動上でやむを得ず排出する二酸化炭素を、植林や森林保護等といった別の形で吸収するカーボンオフセットなどの活用を含め、地球全体でゼロを目指すというものです。
日本の現状として、CO2排出量の約4割は電力部門、残りの約6割が運輸、産業、家庭などの非電力部門に分かれます。
電力部門のうち大半を占める火力発電からCO2が排出されており、2050年のカーボンニュートラル実現には、絶対的に再生可能エネルギーへの代替が必要といえるでしょう。

パリ協定による脱炭素の加速

「脱炭素」時代の大きな鍵となったパリ協定とは、京都議定書の後を継ぐかたちで取り決められた新たな気候変動対策の枠組みです。これにより国別に温室効果ガスの削減目標が定められています。
パリ協定の役割は、先進国だけではなく途上国を含めた世界全体で温暖化を食い止める対策を推し進めています。各国は全体の削減目標を持つものの、各企業や産業においては自発的に目標数値を定めることができます。
日本政府が発した「2050年カーボンニュートラルの実現」への宣言は、他の先進国に遅れはとったものの、初めて明確にした期限により、あらゆる産業の脱炭素経営が勢いづきました。

企業の脱炭素への取り組み

ESG投資の活発化によって、脱炭素活動に関する情報開示があらゆる市場からの信頼につながり、企業イメージ・価値と直接結びつき始めています。
脱炭素時代における各企業の取り組みは、経営存続やビジネス継続の最低条件になりつつあります。

JCLPとは:日本企業の脱炭素取り組み

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、持続可能な脱炭素社会への実現には産業界が健全な危機感を持ち、積極的な行動を開始すべきであるという認識の下に2009年に発足した、日本独自の企業グループです。 脱炭素社会への移行を先導することで、社会から求められる企業となることを目指しています。
以下にJCLPに加盟する日本企業の取り組み例を挙げていきます。

明治ホールディングス株式会社

明治グループは持続可能な脱炭素社会の実現を目指すため、JCLPに2021年7月から賛助会員として加盟しています。
さらに2050年までには、サプライチェーン全体でCO2などの温室効果ガス排出量を実質ゼロとすること、自社拠点において総使用電力量の再生可能エネルギー比率100%の達成を目標とし、再生可能エネルギーの導入や、生産工程での効率化を目指した省エネ活動にグループ全体で取り組んでいます。

KDDI株式会社

KDDIは、2023年春にJCLPへ加盟し、カーボンニュートラル実現に向けて通信設備や携帯電話基地局などの省電力化と再生可能なエネルギー導入などの取り組みを推進しています。
パリ協定に基準を合わせる脱炭素化社会の実現を後押しする行動を社会にアピールすることで、自らの脱炭素化のみならず事業発展を通じた社会の脱炭素化に取り組んでいます。

RE100に参加する日本企業

次に​​​​RE100(アールイー100)とは、「Renewable Energy(再生可能エネルギー)100%」の略で、企業が事業活動において使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な取り組みです
株式会社リコーが日本企業ではじめてRE100へ参加を表明したのが2017年4月。以降2023年7月時点で日本企業は80社が参加しており、国別参加企業数ではアメリカに次ぐ数となっています。
RE100に参加する、最新の主な日本企業リストは以下のサイトで確認できます。
(参照:RE100・EP100・EV100 国際企業イニシアチブ|JCLP)
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RE100は、参加する個別企業が再生可能エネルギー100%導入を進めることはもちろん、企業が結集することにより、投資家や立案者に対し再生可能エネルギーへの移行を加速させるためのシグナルを送る意図もあります。

デジタル技術とカーボンプライシング

次に、脱炭素時代に必要なデジタル技術とカーボンプライシングについて、事例を含めご紹介します。

デジタル技術がもたらす社会

脱炭素時代での新たな事業・戦略のヒントは、CO2削減へのデジタル技術における「見える化」にあります。
AI(人工知能)はもちろんですが、SINET(サイネット)という学術情報ネットワークが広がりを見せています。
国内外の遠く離れた研究機関との共同実験が可能となり、実験機器の遠隔操作や、データ収集・共有が実現し、バーチャル上での研究開発の効率化に貢献しています。
近年、SINETでつないだHPCIの産業利用は活発に行われており、京や富岳などのスーパーコンピュータを利用したリチウムイオン電池の長寿命化、安全性向上シミュレーションや商品開発、インフラ整備などの分野で多くの企業に利用されています。

カーボンプライシングの効果

政策として、カーボンニュートラル実現社会に向け検討が進んでいるカーボンプライシング。この政策は企業などが排出するCO2に価格をつけ、それにより排出者の行動を変容させるために導入され注目が高まっています。
​​「炭素税」や「排出量取引」などの明示的カーボンプライシングは、​​温室効果ガス排出量に応じた費用負担が生じることで、排出に伴う社会的費用を「可視化」できるという大きなメリットがあります。
2005年から世界で初めて「排出量取引制度(ETS)」を開始したEU。その取引量は、EU諸国でのCO2排出量の4割強もカバーしていると推計されています。
アジアでは、韓国が2015年から制度を開始。直近3年間ではCO2排出量が平均12.5万トン以上の事業者などの約600社が対象となっています。これはなんと韓国の年間排出量の約7割もカバーしています。

また課題としては、​​企業がカーボンプライシングの導入がない海外の国へ拠点を移し温室効果ガスを排出し続けると、当然地球全体の排出量は削減されません。加えて規制の緩い国の製品の価格競争力は増し、輸入は増え、国際競争において不利な立場になることも懸念されています。
これに対しEUでは、2023年から不公平を阻止する「炭素国境調整措置」に乗り出し、2026年から本格導入される予定です。

我々一人ひとりの役割

カーボンニュートラルの実現は、企業や自治体だけが取り組むべき活動ではありません。

個々が果たすべき役割と行動

わたしたちは、個人の果たすべき役割が大きい消費者という立場にいます。
多くの企業が​​「消費者の継続的な支援と参加なしには、カーボンニュートラル社会は達成できない」とみなしています。
そして個人レベルでも、普段の生活から起こせるアクションはたくさんあります。
車の運転を控え自転車や徒歩、公共交通機関で移動 (1日200g以上削減)
使用時以外の主電源は切り、待機電力の削減 (1日100g以上削減)
冷暖房機器にできるだけ頼らず過ごす (1日90g削減)
シャワーの時間を1分でも短くする(1日70g削減)
家庭の照明をLEDに換える (1日45g削減)

というような小さな行動で温室効果ガス・CO2削減に個々で取り組むことができます。

地域脱炭素ロードマップ

カーボンニュートラル実現に向け、「国・地方脱炭素実現会議」において、2021年に「地域脱炭素ロードマップ」が取りまとめられました。
ロードマップの重点となる主な取り組みは、2030年までに少なくとも国内100カ所で「脱炭素先行地域」を作成することが挙げられます。「脱炭素先行地域」とは、地方自治体が中心となり、交通、建築物、農林水産業など各分野で排出削減対策に取り組む地域です。
このロードマップでは自治体・民間・市民の目線で、地域一丸となり必要な行動の工程と具体策を示します。
この取り組みにより脱炭素化とあわせて地方課題を解決し、地域の魅力と価値を向上させることが可能になります。
環境へ配慮した行動に対してポイントを配布し地域で使用できるように推進したり、ふるさと納税の返礼品として各地域の再生エネルギーを受け取ったりすることができます。これによって、脱炭素化と地域貢献に向け双方を応援することが可能になりました。

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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