脱炭素社会を目指す上で、サプライチェーンの脱炭素化が進んでいることをご存知でしょうか。知らなかったという方も、少なくはないでしょう。
大手企業だけでなく、その企業活動全体を支えるサプライチェーンの脱炭素化を進めることで、大規模な脱炭素社会を実現するための原動力となります。
ここでは、脱炭素社会におけるサプライチェーンの重要性や、脱炭素化がもたらす企業価値、サプライチェーン全体で温室効果ガスを削減する必要性について解説します。
この記事を読めば、脱炭素化とサプライチェーンについての関係性を理解することができるでしょう。
脱炭素化とサプライチェーン
脱炭素化は、大手企業が単体で推進するのではなく、サプライチェーンも巻き込んで推し進めるのが効果的です。
サプライチェーンとは、商品やサービスが消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費の一連のプロセスを言います。
この一連の流れに関わる企業群が大規模に脱炭素化を行うことで、より効果的に脱炭素社会を推し進めるきっかけとなります。
日本のカーボンニュートラル宣言
日本では、2050年までに脱炭素化を実施し、温室効果ガスを実質ゼロにするというカーボンニュートラル宣言を表明しております。
カーボンニュートラルを実現するためには、中小企業や大企業も含めたサプライチェーン全体で推進する必要があります。
脱炭素化がもたらす企業価値向上
脱炭素化を推し進めることは、脱炭素社会を実現するだけでなく、他企業との差別化を図り、企業価値を高める効果が期待できます。
サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むことで、消費者はもちろん、投資家や金融機関にも大きなアピールポイントになり、市場における企業のイメージアップや長期的な支援に繋がることにもなるでしょう。
Scopeの考え方
サプライチェーン全体で脱炭素化を推し進める上で、重要な考え方にScopeがあります。
Scopeとは温室効果ガスの算出や報告に関する国際基準である「GHGプロトコル」を採用しており、発生する温室効果ガス量を上流、自社、下流に分類する考え方のことです。
Scopeを使った温室効果ガスの排出量の分類は以下の通りです。
Scope1:自社が排出する温室効果ガスの量
Scope2:他社から供給された熱や電気、蒸気の使用に伴う間接的な温室効果ガスの排出量
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出量(自社活動に関わる他社の排出量)
Scope3は自社より上流工程における原材料の配送や調達、自社より下流工程になる製品の使用や廃棄に際し発生する温室効果ガスが含まれます。
このScope3を計測することにより、自社以外の上流工程や下流工程で発生する温室効果ガスの排出量を把握することができ脱炭素の見える化を実行できるため、サプライチェーン全体での脱炭素化を推し進めるにはScope3が重要な指標になります。
サプライチェーン全体での削減の意義
脱炭素化はScopeの考えに則り、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量を把握しながら実施することが重要です。
ここでは、サプライチェーンで温室効果ガス削減を目指すことがもたらす効果について解説していきます。
企業価値の向上
異常気象や気候変動が世界的に認知されている今、温室効果ガス排出量削減は注目の的となっています。
大手企業が中小企業を含んだサプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むことは、消費者に対して企業のイメージアップに繋がり、企業価値の向上を促します。
例えば、投資家や金融機関の中ではESG投資が盛んになってきており、ESGに対して透明性の高い経営状態を維持することで、自然と資金が集まりやすい状況を作り出すことができます。
企業の脱炭素化への取り組みは企業のイメージ向上の一助となり、周囲からの長期的な支援を受けやすくするためには、必要不可欠な要素となります。
他社との差別化
脱炭素化を進めることで、他社との差別化を図ることも可能です。
脱炭素化を推し進める大手企業の中には、サプライヤーにも脱炭素経営を要望する企業もあります。そこで、その要望に応えられるかどうかが、サプライヤーが生き残れるかどうかの分水嶺となります。
中小企業にとっては、大手企業が要望する脱炭素経営に応えることができれば、これまで通りか、あるいはそれ以上の仕事の受注を望むことができ、会社経営を安定させることができます。
脱炭素経営は、新たなビジネスチャンスを作り出すことができる機会にもなるのです。
人材確保も有利に
脱炭素経営はZ世代と呼ばれる若い世代にも大変関心を持たれております。脱炭素化を進めることは、企業価値の向上や他社との差別化に留まらず、若い人材を集めることもできます。
若い世代には、環境に対する企業の取り組みは、非常に大きな関心事になっているのです。
日本では労働人口減少が叫ばれている昨今ですが、脱炭素経営を実現することは、若い世代への有効なアピールにもなり、企業の採用力を強化することができます。
脱炭素に向けた具体的な取り組み
ここでは、大手企業、中小企業の実際のサプライチェーンの脱炭素化に向けた取り組みについて、解説していきます。
大企業の取り組み事例
世界的なカーボンニュートラルの実現政策や、ESG投資の活発化などの動きを受け、大企業では脱炭素化を進める取り組みが進んでいます。
ドイツの自動車大手のダイムラーグループでは、将来のLCA規制を視野に入れ、自動車部品の製造時の温室効果ガス削減に向け、サプライヤーにも脱炭素化に取り組むように仕向けています。
しかも、2039年までに、その目標に対して、未達になったサプライヤーとの取引契約を除外するとまで明言しています。
他にも、AppleやGoogleなどもサプライヤーに再生可能エネルギーの利用を100%にすることを求めており、多くの大手企業が脱炭素経営に乗り出していることが伺えます。
中小企業の取り組み事例
ここでは、中小企業が実施しているカーボンニュートラルに対する取り組みをご紹介します。
協発工業株式会社
協発工業は愛知県岡崎市にある自動車部品の加工会社です。
この会社では、2030年度までに、温室効果ガスを2018年度と比較して50%削減することを目標としています。
具体的な取り組みとしては、工場で利用する電力を、再生可能エネルギーを主体としたものにすることや、Scope3に分類される温室効果ガスの間接排出量を測定し、その削減を行うことを実現しようと動いています。
ユタコロジー株式会社
愛知県名古屋市にあるビル環境やトイレタリー商品の企画製造販売を行っている会社であるユタコロジー株式会社では、2030年までに脱炭素100%を目指しています。
具体的には、事業活動で排出される温室効果ガスをカーボンオフセットすることや、SDGsに関する社内勉強会の実施が一例としてあげられます。
勉強会は週1回程度催されており、社員の環境に対する意識改革を目指しているそうです。
株式会社篠原化学
こちらも愛知県名古屋市にある会社で、寝具の企画、開発、製造販売などを手掛けている会社です。
脱炭素化を目標としてSDGsについて取り組んでおり、全国の企業のSDGsに対する取り組みをサポートしている会社でもあります。
具体的な脱炭素活動としては、2030年までに温室効果ガスを2018年度比で50.4%削減することを表明しています。電力の使用を再生可能エネルギーに代替したり、社用車をガソリン車から環境に優しい電気自動車に乗り換えたりすることをあげています。
このように、脱炭素化に向けた動きは、大企業を中心として、サプライチェーンである中小企業までにも波及しており、ESG投資家や金融機関、消費者の趣向を実現するためには、欠かすことのできない動きとなっています。