脱炭素先行地域の定義・目標・成功事例の全てを解説

近年、世界各国で地球温暖化対策の強化が求められています。
先進国をはじめに脱炭素化や再生可能エネルギーの導入が進められている中、日本でも2050年までの脱炭素社会の実現に向けさまざまな取り組みを推し進めています。
こうした流れの中で注目を集めているのが「脱炭素先行地域」です。
カーボンニュートラル実現に、この脱炭素先行地域はどのように関わりがあるのでしょうか。

目次
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脱炭素先行地域とは?

今回は、脱炭素先行地域の定義や選定プロセス、選ばれた地域がどのような取り組みを行っているのかを解説します。

脱炭素先行地域の目指す目標

脱炭素先行地域とは、2025年までに少なくとも100ヵ所の地域、都市部の街区・農村・漁村・山村、離島など、さまざまな地域において、地域課題を解決し、住民の暮らしの質も向上させながら、カーボンニュートラルなまちづくりに向かう取組の方向性を示します。
とくに地域別特性に応じて再生可能エネルギーの最大活用による追加導入や住宅建築物の省エネおよび再エネ導入といった脱炭素に向けた取り組みが軸となります。
さらに、民生部門(家庭部門・゙業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出に関しては、実質ゼロを実現することを目指します。

日本では、2050年カーボンニュートラル実現への整合的な目標として、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度から46%削減することを目指すことを掲げています。
そして2030年以降も全国へと地域ごとの脱炭素化を拡大させ、2050年を待たずして地域課題を解決した活力ある次の脱炭素時代の地域社会へと移行することを目指すとしています。
つまり脱炭素先行地域とはその名の通り、地域脱炭素化の取り組みを全国に広げるべく、国から先駆者として認定された地域を指します。

脱炭素先行地域の範囲

脱炭素先行地域の範囲としては、地域ごとの特性や気候風土などを考慮し、住生活エリア、自然エリア、ビジネス・商業エリアなどの10類型を想定しています。
脱炭素先行地域として応募した地域が実際に認められるためには、年に2度、学識経験者らの審査評価委員会により選定されて決まります。
認定にあたっては、先行地域モデルとして相応しい再生可能エネルギー導入量があることや、地域課題の解決と脱炭素化を同時に実現することが可能かどうかが重要視されます。具体的には、「2030年度までに、脱炭素先行地域内の民生部門の電力消費に伴うCO2排出量を実質ゼロにすること」や「再エネ能力を踏まえた設備の最大限の導入」などをはじめ、必須要件を満たす必要があります。
加えて、「今ある技術を活かし、全国各地域で取り組みやすいものであること」や「技術的に確立されているが、社会実装の例が少なく先進性があること」という要素も評価事項となっています。

脱炭素先行地域の補助金

支援なしには実現困難とされる脱炭素化。脱炭素先行地域に選定された地域への補助金はどのように活用されるのか見ていきましょう。

補助金制度の概要

まず、脱炭素先行地域に選定された際の大きなメリットは、支援金を受けられることです。
政府は、地域脱炭素ロードマップに基づき、脱炭素化事業に積極的に取り組む地方公共団体を支援するための、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金という支援金を設けています。
この支援金は「脱炭素先行地域づくり事業」と「重点対策加速化事業」に適用されており、前者については、脱炭素先行地域のみが援助を受けられます。
この支援金は再生可能エネルギー設備、基盤のインフラ設置、低炭素設備などに対して支援をするものであり、最大で50億円の支援金を受け取ることが可能です。このような経済的な支援を目的として、脱炭素先行地域に名乗りを挙げた地域は少なくないと言えます。

補助金の活用例

脱炭素先行地域の選定後、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金は主に以下のように活用されます。
1.CO2排出削減に向けた設備の導入事業
・再エネ設備の整備(自家消費型、地域共生・地域裨益型)
・地域の再エネ能力を最大限活かした再エネ設備の導入
・再エネ発電設備:太陽光、風力、中小水力、バイオマスなど
・再エネ熱利用設備/未利用熱利用設備:地中熱、温泉熱など

2.基盤インフラ整備
・地域型再エネ導入・利用最大化のための基盤インフラの設備導入
・蓄電池や充放電設備
・再エネ由来の水素関連設備
・屋根置きなど自家消費型の太陽光発電

3.業務ビル等における徹底した省エネと改修時等のZEB化誘導

4.ゼロカーボン・ドライブ
・地域住民のEV購入支援事業
・EV活用のカーシェアリング事業

脱炭素先行地域の成果

では、脱炭素先行地域に選ばれた地域は、国からの交付金を活用して再エネ設備や二酸化炭素を削減する設備の導入など、5年程度の支援を受けながら、どのような脱炭素化を進めているのでしょうか。

神奈川県・みなとみらい21地区

第一回公募で選定されたみなとみらい21地区は、オフィス・商業施設・住宅等に加え、企業の本社、音楽ホール、大学、MICE拠点などの多機能施設が集積する街であり、エネルギーの大量消費地です。
地区内の様々な企業と連携して、「公民連携で挑戦する大都市脱炭素化モデル」の構築を目指しています。
具体的には、以下の取り組みが挙げられます。
・エリア内施設の屋上、エリア外の公共施設や未利用地に太陽光発電設備を設置し、創出された再エネ電力の供給による電力の脱炭素化
・徹底した省エネや、地域一丸となってエネルギーマネジメントによる電力需給調整力の
創出を推進
・エリア内にある日本最大規模の冷暖房における脱炭素化
・飲食店等で生じた食品廃棄物やプラスチックのリサイクルによる資源循環の活性化
・市民・事業者の脱炭素化への行動変容を促すイベントの実施

栃木県・宇都宮市

2022年11月、第二回「脱炭素先行地域」の一つとして選定された宇都宮市。
応募に当たっては、芳賀町、宇都宮ライトパワー株式会社、NTTアノードエナジー株式会社、東京ガスネットワーク株式会社栃木支社、東京電力パワーグリッド株式会社栃木総支社、関東自動車株式会社との共同提案を行いました。

取り組みとしては、隣接する芳賀町とともに、今年8月に開業する全国初の次世代型路面電車「LRT」を地域の再生可能エネルギーのみで走行させる、世界でも類を見ない「ゼロカーボン・トランスポート」の実現や、バスや地域の交通機関など全ての脱炭素化に向けたものがあります。
脱炭素化を先行する「LRT沿線」における「公共施設等への太陽光発電設備などの導入」や「宇都宮ライトパワー株式会社における再生可能エネルギーの供給」などの取り組み内容が選定された大きなカギとなっています。

取り組みから得られた成果

前述で紹介した、横浜みなとみらい21地区と宇都宮市を含め選定された地域の多くが脱炭素化への大きな一歩を踏み出しています。経済的な援助もあり、インフラ設備を導入・設置することが可能になり、再生可能エネルギーの創出にも手を貸しています。
今年5月に開催された「G7広島サミット」の国際メディアセンターにおいて、宇都宮市は脱炭素先行地域を代表して、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた先進的な取組の広報展示に参加し、国内外向けて広く情報が発信されました。
脱炭素化は大前提として、目的の一つである地域脱炭素化へのロールモデルとしての役割を果たしています。

脱炭素先行地域の今後

先行モデル地域として、支援を受けて脱炭素化へ舵を大きく切ることはもちろん、地域活性化にも良い影響を与える脱炭素先行地域には伸びしろが見てとれます。

脱炭素先行地域の課題

脱炭素先行地域については、その後の展開を踏まえても100ヵ所の自治体ではまだ足りないという見方が強いです。
そして脱炭素社会の実現へ向けての取り組みは、自家消費型で行う太陽光発電の導入、建築物の省エネルギー向上やゼロカーボン・ドライブの普及などの脱炭素化の基盤となる重点的対策を、全国各地の地方自治体・企業・住民が主体となり進めることが必要です。
脱炭素先行地域の大きな課題として、地域内の今ある技術を適用して、再生可能エネルギーの地域資源を最大限活用することで経済を循環させながら、防災や暮らしの質の向上等の地域の課題をあわせて解決し、脱炭素地方創生に貢献することが求められます。

脱炭素先行地域の今後

今後、次なる脱炭素先行地域の公募に向けて意欲的な自治体はたくさんあります。
2023年1月時点で534の自治体(40都道府県、319市、15特別区、134町、26村)でゼロカーボンシティ宣言をしています。
最も多い再エネ導入を取り組んでいる自治体は306、次いで省エネ推進は152自治体、ゴミの減量かつ資源化では86自治体、EVなどの次世代車の導入は都心中心に71自治体、関心が高まっている水素活用やカーボンオフセットを取り入れている自治体は28にのぼっています。
この内容と動向を見ると、地域の資源や特徴を踏まえ、脱炭素化によって地域課題が解決されるような意欲的な取組が進んでいくことが期待されます。
そして自治体は、脱炭素化の全国拡大の前に地域において主導的な役割を持ち、最終的には脱炭素モデルとして全国に伝搬し、2050年を待たずして脱炭素社会の実現をめざすことは難しくないでしょう。

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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