地球温暖化対策が世界的な課題となっている今、脱炭素社会に向けた動きはますます活発になっています。
パリ協定で立てられた共通指標によって、私たちが到達すべき脱炭素社会の実現へ向けた日本の現状や課題、そしてどのような取り組みを行っているのかをご紹介します。
脱炭素社会とは
脱炭素社会とは、地球温暖化の主要因となる二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガス排出量の「実質ゼロ」を目指している社会を指します。
脱炭素社会の目指すもの
脱炭素社会にする動機は、地球環境の悪化を防ぐためです。
世界的な気候変動問題を引き起こしている大きな要因が、産業革命が始まった1750年台から増加し続けている温室効果ガスによる世界規模の平均気温の上昇です。これが地球温暖化です。
地球温暖化の加速に影響を及ぼす温室効果ガスには、CO2やメタンガス、一酸化二窒素、フロンガスなどがあり、特に問題視されているのはCO2の排出量の多さです。
この地球規模の課題を解決するために求められているのが、なによりCO2排出量の削減ですが、「実質ゼロ」はCO2排出を完全に無くすための取り組みには当たりません。
経済発展や人間における活動上、CO2は排出がなかなか避けられないため、後から回収し、実質的にゼロを目指すといった取り組みやカーボン・オフセットがあります。
気象庁の調査によると、100年あたり0.72℃の割合で気温は上昇しています。深刻な気候変動問題を食い止めるためには、平均気温を上昇させない取り組み、すなわち脱炭素社会の実現は欠かせません。
脱炭素社会へのグローバルな動き
現在125カ国・1地域が2050年までに、カーボンニュートラル社会の実現を表明しました。
新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ景気回復策の一環として、脱炭素分野における政策的支援は活発です。各国政府は地球温暖化対策を未来への先行投資と捉え、研究開発や先端技術の導入を意欲的に支援しています。
アメリカ:多種エネルギー資源を保有し高い自給率を誇るアメリカでは、エネルギー起源CO2の排出量は世界で最も高い位置にいます。
この現状を改善するため、非化石電源比率を高める方針を打ち出しました。
再生可能エネルギーの比率は2010年から2016年にかけて10〜15%も向上しました。さらに、原子力発電の規模拡大のため、2018年に前年比10%増となる13億ドルの予算を承認しています。
フランス:フランスでは、発電にかかる温室効果ガスの排出削減をすることで、国民一人当たりの温室効果ガス排出量を日本の半分である4.4トンにまで抑えています。またこれまでと違った省エネルギーの施策を実行しており、温室効果ガス排出量が少ない、低排出量自動車の税控除や住宅のエコリノベーションの推進し、さらなる改善に努めています。
中国:世界最大のCO2排出国である中国は、世界全体の排出量の28%を占めています。
政府はCO2排出量を2030年までに減少へ転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロへとするカーボンニュートラル宣言を表明しています。
2019〜2020年のわずか1年間でも、原発約120基分の再生可能エネルギーの設備容量を整備しており、 次なる目標として2030年までに太陽光発電と風力発電の設備容量を約12億キロワット以上にまで引き上げる計画です。
日本の脱炭素社会への道
世界各国の二酸化炭素排出量は、現時点で1位中国、2位アメリカ、3位インド、4位ロシア、そして5位が日本となっています。
いわゆる先進国が地球温暖化の原因となる二酸化炭素などをより多く出して生活していることは一目瞭然です。
そんな日本の脱炭素社会に向けた現状を見ていきましょう。
2050年の目標
2050年カーボンニュートラル実現を目標として、日本では、2030年度において温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指しています。
具体的には以下が挙げられています。
・地球温暖化対策推進法に基づいて、自治体が再生可能エネルギー促進区域を設定
・住宅や建築物の省エネルギー基準への適合義務付けを拡大
・2030年度までに100ヵ所以上の「脱炭素先行地域」を創出(地域脱炭素ロードマップ)
・脱炭素技術を活用し、開発途上国においてのCO2削減をサポート
化石燃料依存と脱炭素化の遅れ
CO2排出量が世界第5位へ結びつく日本でのエネルギー自給率の低さには、いくつか要因があります。
大きな原因としては国内のエネルギー資源が乏しいことです。
日本のエネルギーは石油・石炭・天然ガスといった化石燃料に大きく依存しており、そのほとんどは海外からの輸入で賄われています。1970年代に起こったオイルショックによって化石燃料への依存度は低下しましたが、2011年の東日本大震災以降、ふたたび化石燃料の使用が増加し、2019年度の化石燃料への依存度は84.8%となっています。
明治維新以降、日本は重工業を推進し、このロールモデルで大成功を収めた国であり、現在に渡り社会全体がこれに沿うよう構築されています。
このことが脱炭素社会への遅れをとっている要因と言えます。
日本の取り組み
これからの脱炭素社会を実現するためには多くの取り組みが必要とされており、遅れをとる日本でもすでに様々な取り組みは始まっています。
カーボンプライシングの導入
カーボンプライシング制度とは、CO2を排出した企業や法人を課税対象にする制度です。
炭素の価格付けとも呼ばれ、方法としては以下の炭素税や排出枠取引、国境調整措置の導入が検討されています。
・炭素税(地球温暖化対策税):
各企業におけるCO2排出量に応じ、課税額を設定する制度
CO2排出量1トン当たり289円の課税
・排出枠取引:
企業が排出するCO2量に上限を設定、超過した場合は罰金徴収をする制度
・国境調整措置
輸出入品の製造過程で発生したCO2排出量に応じて、課税または減免を行う制度
ゼロカーボンシティの普及と革新的技術
ゼロカーボンシティとは、「2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする」目標を掲げている地方公共団体を指します。
脱炭素化に向けた目標設定を軸として、温室効果ガスの排出量の算出・把握や、再生可能エネルギーを普及させるためのPR活動などを行っています。
具体的な地域活動として挙げられるのは、電気自動車(EV)導入の補助制度、省エネ推進、公共施設への再エネ導入などです。
2023年6月時点では、973自治体(46都道府県、552市、22特別区、305町、48村)がゼロカーボンシティの表明、自治体総人口でいうと約1億2,581万人にものぼります。
個人と企業ができること
日本では、企業や個人単位で脱炭素社会の実現に向け様々な取り組みを始めています。脱炭素社会の新しい時代へ向けた変革を後押しするために、脱炭素への移行段階に応じた各分野での対策が不可欠です。
最も取り組みやすく、効果がある取り組みを見ていきましょう。
再生可能エネルギーの導入
私たちの身のまわりには、豊かな土地や風、水、熱、生物資源などが豊富に存在しています。有限でいずれは消耗し尽くす化石燃料とは違い、これらは自然の活動によって絶えず再生・供給されます。
小売業界最大手のイオン株式会社では2018年よりRE100に参画しており、同社の消費電力は日本全体の0.8〜0.9%に当たるほどの量です。
再エネの取り組みとしては、店舗屋上の太陽光発電システム、PPAモデルの導入拡大や電力の買い取りなどイオンの取り組みは多岐にわたっています。同社では2030年までに日本国内の全店舗で使用している電力の50%を再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げ、2040年までにグループ内のCO2排出総量を実質ゼロにすることを目指しています。
また、キリンホールディングス株式会社は2020年にRE100に加盟しました。
最近では2023年1月に、福岡工場と岡山工場における購入電力の100%再生可能エネルギー化を挙げた事例があります。これにより両工場は、購入電力由来のGHG(温室効果ガス)排出量がゼロとなっています。さらに先行して名古屋工場と仙台工場でも再エネ100%へシフトチェンジしており、現時点では、国内9工場のうち4工場で再エネ100%を達成し、グループ全体の再エネ比率も42%となりました。
個人でできる取り組みとしては、
・家庭や個人事業の方が共同で電力を購入する
・家屋の屋根に太陽光パネルを取り付け、太陽光を電力に変換し家庭で利用
・小売電気事業者が提供している再エネ電気プランを選び、再エネ由来の電気に切替
というような再生可能エネルギー導入に注目が集まっています。
省エネルギー設備の普及
東日本大震災以降、企業だけでなく住宅設備の中でも省エネルギー設備に対する注目が高まっています。
特に太陽光を利用した発電については、技術の発展や補助金制度支援によって急速に進みつつあります。
業務部門では、現在およそ75.6%の高効率照明の導入が達成しており、2030年には、ほぼ100%と見込まれます。
さらに企業建築物の断熱改修の推進や高効率給湯器の導入で省エネルギー化は進んでいます。
家庭部門では、高効率照明の導入は85.9%にのぼっており、高効率給湯器の導入は36.7%とまだ普及率は低いですが、これからさらに増加すると期待されています。
既築住宅でも断熱改修は広まっており、新築住宅において省エネ基準は高く、家庭発電設備のデフォルト化やスマートメーターを利用した家庭では徹底的なエネルギー管理の実施も推し進められています。