「脱炭素化」という言葉は、今や様々な場面で見聞きするようになりました。脱炭素化にはどのようなメリットがあるのでしょうか。脱炭素化が及ぼす影響や効果、その可能性について掘り下げていきます。
脱炭素とは
脱炭素(カーボンニュートラル)とは、そもそも何を指す言葉でしょうか。脱炭素という言葉の定義と温室効果ガスとの関係、それを受けて日本政府がどのような目標を立て政策を打ち出しているのか解説します。
温室効果ガスと脱炭素化
脱炭素(カーボンニュートラル)とは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、環境負荷のかからない持続可能な社会とその未来を実現する取り組みです。
産業革命以降、世界経済は急速に発展しました。しかし、それと引き換えに大気中に二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが大量に排出され、地球温暖化は深刻なレベルにまで進行しました。脱炭素化は、地球の平均気温の上昇を抑え、気候変動を緩和することが目的です。
また、これまでの主要なエネルギー源である石炭などの化石燃料は、燃焼することによって大気中に二酸化炭素を大量に排出することになります。これら従来のエネルギー源に代わる再生可能エネルギーなどの利用を促進し、持続可能なエネルギー源を確保するためにも脱炭素化の必要性は高まっています。
脱炭素化の目標と政府の方針
2016年に採択された「パリ協定」では、「産業革命以前に比べて平均気温の上昇を2℃、努力目標として1.5℃に抑える」という世界共通の目標を掲げました。そして、2050年までにCO2の排出量と、排出されたCO2の回収や自然環境においての吸収量との差し引きで実質ゼロにするとしています。
日本政府も2020年に当時の菅首相が、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにし、カーボンニュートラル実現を目指すと表明しました。
その目標に向けた政策の1つとして、2021年の「グリーン成長戦略」があります。
グリーン成長戦略は、太陽光発電やバイオ燃料などの「グリーンエネルギー」を積極的に導入・拡大することで、環境負担を抑えながら産業の振興、経済成長を目指すものです。エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業などをはじめ、重点項目となる14の産業分野において具体的かつ高い目標を設定しています。
その他にも、CO2の排出活動を抑制するため、企業などが排出するCO2に価格をつける「カーボンプライシング」の導入や、カーボンニュートラルに取り組む企業に対する補助金や支援などの政策を実施しています。
脱炭素のメリット
脱炭素化の取り組みは、企業だけではなく個人を含む社会全体にとって様々なメリットをもたらします。地球温暖化への影響、エネルギー率の向上と健康への影響という観点で見ていきましょう。
環境への貢献
脱炭素の一番の目的は、CO2などの温室効果ガスの排出を抑制し地球温暖化を防止することです。環境中の貴重な資源が守られることで、持続可能な未来を作っていくことができます。また生態系を維持し、自然と共生していく上でも脱炭素化社会を地球全体で築いていかなければいけません。
エネルギーの効率化と健康への影響
脱炭素化は、エネルギーの効率化が図れるというメリットがあります。
脱炭素を進めると、エネルギーを消費する非効率な設備やプロセスが改善されるため、光熱費・燃料費などのコストを削減することもできます。また、再生可能エネルギーを導入すれば、電気代の削減になるだけでなく、電気料金の高騰リスクを低減することも可能です。
脱炭素化によって個人が得られる暮らしのメリットも多岐に渡ります。その1つとして健康へのメリットがあります。例えば、CO2の排出削減のために、移動時の自家用車の利用を控え、徒歩や公共交通機関を利用することは、健康的な生活の促進にもつながります。
また、「クールビズ・ウォームビズ」と言った取り組みも、気候に合わせた服装と適切な室温で生活することで健康的な暮らしにつながると言えるでしょう。
脱炭素がもたらすビジネスチャンス
脱炭素の取り組みは、新たな産業の開拓など今後のビジネスチャンスをもたらす可能性も秘めています。経営効率化の効果や金融面におけるメリットなどを詳しく見ていきましょう。
新産業の創出と経営の効率化
今後ビジネスの世界において重要となってくるのが、再生可能エネルギーへのシフトおよびグリーンテクノロジーの推進です。これまでの化石燃料によるエネルギー依存から脱却するため、企業が再生可能エネルギーに切り替え、関連事業へ参入することで新たな産業の創出につながります。
その一例として、VPP(バーチャルパワープラント)があります。VPPとは、発電所と同等の機能を提供する「仮想発電所」とも言われ、IT技術によりエネルギーリソースを細かく制御することができる仕組みです。再生可能エネルギーは自然の影響に左右されるため、供給が不安定になるというデメリットを解消するシステムとして注目されています。
経済面でのメリット
金融取引においても脱炭素化の波はやって来ています。これまでの投融資においては、企業の業績などの財務情報のみが投資基準とされてきました。しかし、近年では財務情報に加えて環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に考慮したESG投資が増加しています。ESGに配慮した経営は、資金調達の面でも優位性を獲得することができるのです。
個人と企業の取り組み
脱炭素化の取り組みは、個人レベルでも積極的に行っていくことができます。個人ができる具体的な行動例と、企業がどのように脱炭素化を経営に取り入れ推進できるのか、双方の視点で解説します。
個人ができる脱炭素の取り組み
私たち個人が生活の中で実践できる具体的な取り組みはたくさんあります。
例えば、省エネ家電の導入や省エネリフォームがあります。これらは、光熱費の節約、快適で健康的な暮らしを私たちにもたらしてくれるでしょう。
また、交通においてはスマートムーブ(エコドライブやカーシェアなど)やゼロカーボン・ドライブ(再エネ燃料、EV車への切り替え)の動きが広く注目されています。食関係では、食品ロスの削減を意識することなども大事です。ごみを減らすためにマイバッグやマイボトルを持ち歩くといったことも、カーボンニュートラルへの立派な貢献になります。
企業ができる脱炭素の推進
企業が脱炭素経営を推進していくには、電力の再生可能エネルギー化を進めることが必要です。再生可能エネルギー電気は、様々な方法で調達できます。最もスムーズなのは、小売電気事業者と契約し購入する方法です。取引コストが比較的かからず、すぐに導入できるメリットがありますが、将来的に見た調達リスクもあります。
また自家消費型太陽光発電の設備を設置するという方法もあります。導入に補助金や税制優遇を受けられる、自社で一手に管理できるなどのメリットがありますが、コストがかかる、設置場所の確保、定期メンテナンスが必要などのデメリットも考慮する必要があります。
他にもコストがかからないPPAやリース、再エネ価値を証書で購入するなどの方法があり、自社の状況と照らし合わせながら比較・検討すると良いでしょう。
また、自治体や金融機関との連携も重要です。地域の自治体は、設備の導入や基盤インフラ整備に対して国からの交付金による支援が行われています。企業との連携・協働によって、脱炭素の推進力を増強できるでしょう。