炭素税とカーボンプライシングの違いとは?

地球温暖化対策のため、CO2の排出量を可視化する方法としてさまざまな国で導入されているカーボンプライシング制度。ここでは、炭素税との違いや導入に関する国内外の動向、企業や個人に与える影響を解説します。

目次

炭素税とカーボンプライシングの定義と基本概念

炭素税とカーボンプライシングはどのような関係にあるでしょうか。それぞれの言葉の定義と制度の仕組み、導入することによってどのような効果があるのか見ていきましょう。

カーボンプライシングの意義と目的

カーボンプライシングとは、CO2の排出量に価格をつけて、排出企業などに金銭的な負担を課す制度です。これにより、企業のCO2排出行動を抑制することを目指しています。カーボンプライシングには、いわばCO2排出の経済的コストを内部化する目的があり、政府と民間による異なるアプローチが存在します。

政府のカーボンプライシングは、「明示的カーボンプライシング」「暗示的カーボンプライシング」の二種類に分けられます。CO2排出へ直接課税する炭素税や排出権取引は明示的カーボンプライシングにあたり、規制やガイドラインなどコストが明示されないものを暗示的カーボンプライシングと区分しています。

炭素税の仕組みと効果

炭素税は環境税の一種とされ、政府による明示的カーボンプライシング政策のうちの1つに数えられます。石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含有量に応じた税金をかけ、化石燃料やそれを利用した製品の需要を抑えることで、実質的にCO2排出量を抑制するための税制です。

CO2排出量1トンあたり289円となるように、化石燃料それぞれに税率が設定され、現行の石油石炭税に上乗せ課税されます。炭素税は、下記の4パターン、又はその組合せで課税される仕組みになっています。

上流課税:化石燃料の採取時点、輸入時点での課税
中流課税:化石燃料製品や電気の製造所からの出荷時点での課税
下流課税:化石燃料製品、電気の需要家への供給時点での課税
最下流課税:最終製品(財・サービス)が最終消費者に供給される時点での課税

炭素税が導入されることによって、CO2排出量の少ない製品の開発や流通ルートの開拓など経済的なメリットが見込まれます。また、社会全体への影響、環境対策の財源になるなどの効果も期待できます。

日本のカーボンプライシングの現状と動向

カーボンプライシングの日本国内の導入状況はどのようになっているでしょうか。現状と動向を見ていきましょう。

日本における炭素税の導入と影響

日本における炭素税の導入は、「地球温暖化対策のための税」として2012年に始まりました。スタート時から税率は段階的に引き上げられており、現在はCO2排出量1トンにつき289円です。炭素税を本格導入しているヨーロッパに比べると、日本はまだそれらの国々の10分の1に満たない低税率なのが現状です。

一方で、化石燃料を輸入に頼っている日本にとって、炭素税が上乗せされることでさらなる企業のコスト上昇につながるため、本格的な導入が難しいとされているのも事実です。個人のレベルでも、低所得者への税負担につながっていることが問題視されており、税収を再分配するなどの対策も検討されています。

日本における排出権取引制度の動向と影響

もう1つの代表的な政府の明示的カーボンプライシングが、排出権取引制度です。排出権取引とは、企業ごとにCO2排出量の枠を設けて、その枠の過不足を企業間で取引できるようにする制度です。現在、日本では国レベルでの排出権取引制度は実施されていませんが、2026年を目処に本格稼働を目指すとしています。一方、東京都や埼玉県など自治体レベルでは、すでに独自の排出権取引を行なっているところもあります。

政府では、特に化石燃料の利用が多い電力会社に対して、2033年度から排出枠を割り当て、負担を求めるとしています。これまでは排出上限を超えた場合には国外のクレジット取引に頼らざるを得ませんでしたが、国内の事業者間取引になることで、さらなるCO2排出量の削減につながることが期待されています。

炭素税とカーボンプライシングの企業への影響と戦略

カーボンプライシングは、地球温暖化対策のための効率的な政策手段として注目されています。しかし、導入にはさまざまな障壁もあります。制度が与える企業への影響と、企業が立てるべき戦略を見ていきましょう。

企業のコストとリターン

カーボンプライシングは、確かに企業にとっては追加コストになりますが、見方によってはリターンが見込める脱炭素化投資のコストと考えることもできます。

エネルギーコストが高い日本においては、新たな税負担が国際的な産業競争能力の低下につながる恐れがあります。しかし一方で、CO2排出に沿った適切な課税が実現されることによって、企業に留まらず社会全体の行動変容を促す可能性も秘めています。また、価格が明示されていることで、企業が脱炭素投資を検討する際、予見しやすいとうこともメリットだといえるでしょう。

企業の環境戦略とカーボンプライシング

カーボンプライシングの導入は、CO2排出量を直接規制するとともに、政策手段としても必要不可欠です。すでに世界の多くの企業では、相応の炭素税や排出権取引制度による負担を抱えていることになりますが、炭素価格が高騰することで脱炭素投資へのハードルが下がり、排出量削減へのインセンティブが働いていることも事実です。企業の環境戦略は、結果としてカーボンプライシングの導入を社会全体で促進させる好循環を生むともいえるのです。

国際的な動向と日本の位置付け

日本では、まだカーボンプライシングの国単位での本格導入には至っていませんが、世界においてはどうでしょうか。国際的な動向と日本の位置づけを解説します。

世界のカーボンプライシングの導入状況と日本の位置

世界では多くの国や地域が、炭素税や排出権取引制度を導入しています。世界銀行の調査によると、2022年時点でカーボンプライシングを導入している国と地域は合わせて68あります。炭素税が36例、排出権取引が34例で、国レベルの導入もあれば、日本のように地域レベルで独自に行なっているところもあります。

積極的な取り組みを進めている国としては、世界に先駆けていち早く炭素税を導入したフィンランドが挙げられます。1990年から暖房用燃料と輸送用燃料消費の2つを課税対象として制度がスタート。2017年時点では、CO2排出量1トンあたり7,880円という高い税率を採用しています。

ヨーロッパでは、EU-ETSと呼ばれる欧州域内の排出権取引の枠組みがありますが、ドイツやフランスはそれに加えて炭素税や独自の排出権取引も採用・運営しています。アメリカは国単位の実施はないものの、州単位で独自に排出権取引を導入。カリフォルニア州とオレゴン州の2州が単独で行なっているほか、12の州が共同で運営するRGGIという排出権取引の枠組みを導入しています。
日本もこれらの制度を参考にしながら、独自のカーボンプライシング制度を検討している状況です。

出典・参照:環境省 主な炭素税導入国の比較

日本のカーボンプライシング制度と国際競争

日本では前述したように、2012年に「地球温暖化対策のための税」として炭素税を導入しましたが、税率は諸外国に比べると著しく低く、本格導入というには程遠い状況です。そのような中、2021年には環境省が税制改正による炭素税の本格導入を要望し、政府に対応を求めていますが、具体的な開始時期についてはまだ発表されていません。

経済産業省では、炭素税導入によって企業に新たな負担がともなうため、慎重な姿勢を示しています。しかし、日本のカーボンプライシング制度は国際的な競争力を保つために重要であり、他国の事例から学び、導入を推進していく必要があります。今後、企業や低所得者層への負担増加を考慮しつつ、対応していくことが求められるでしょう。

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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