私たちの現代生活において、あらゆるサービスが便利になればなるほど、二酸化炭素が多く排出されるようになりました。
これによって、大気中の温室効果ガス濃度は上昇し続け、地球温暖化が加速しています。これに伴って、「低炭素社会」の実現は必須課題となっています。
低炭素社会について理解する
持続可能な社会・未来にとって重要な「低炭素社会」とはどういう社会なのか、必要性や実現させるための取り組みを理解しましょう。
低炭素社会とは
「低炭素社会」とは、文字通り二酸化炭素の排出が少ない社会を指し示します。
現在は「脱炭素社会」への実現に重きをおいていますが、数年前までは「低炭素社会」が主軸でした。
この転換の背景として、2015年にフランス・パリで開かれた「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議=COP21」で採択されてから、「脱炭素社会」へと措置方針が変わったとされています。脱炭素が二酸化炭素の ”実質ゼロ” なのに対して、低炭素は ”最小限の排出” を指標としています。
なぜ低炭素社会が必要なのか
科学的な知見・見解によると、このまま温室効果ガス濃度の上昇がつづき地球温暖化が進行すると、自然・生態環境、生命や健康の存続危機、経済面において大きな影響を及ぼす可能性があると指摘されています。
WHOが2023年時点で発表している具体的な気候変動としては、
平均気温の上昇:2022年の世界の平均気温は、1850〜1900年の平均気温を約1.15 ℃も上回っています。
2023年以降、エルニーニョ現象(太平洋赤道域の日付変更線付近から、南米沿岸にかけ海面水温が平年より上昇し、その状態が1年程続く現象)が発生することが分かり、2024年はさらなる気温上昇が予測されています。
海面の上昇:2022年には、全球平均海水面が観測史上最高値を記録。この上昇率は、衛星観測が始まってから最初の10年間(1993〜2002年、2.27mm/年)と直近10年間(2013〜2022年、4.62mm/年)の間で倍増しています。
3つの主要温室効果ガス濃度の増加:2021年に、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の濃度が観測史上最高値を記録しました。2020〜21年の年間メタン濃度の増加量としては過去最高ということです。
氷河融解:氷河の厚さの平均が、2021年10月〜2022年10月の間に1.3m以上も薄くなりました。
1970年以降で見ると厚さの累積減少幅は約30mという事実が確認されています。
これらをふまえ、地球温暖化を防止することは世界各国の人々が共通して取り組むべき責任課題であると言えます。したがって低炭素社会を実現することは、地球温暖化の防止だけでなく、新たな産業や雇用創出にもつながります。
エネルギーの効率化と課題
低炭素化の課題でもある産業界のエネルギー効率の向上は、企業側がエネルギーコストと温室効果ガスの大量排出を阻止する最も迅速で効果的な方法です。
エネルギーの効率化とは
エネルギー効率化とは、より少ないコストでより多くの生産を達成するということを意味しています。
エネルギーを削減しながらも、消費者ニーズを満たす技術を発展させ活用することで、新しい発電の必要性を減らし、大気汚染の悪影響を緩和し、消費者側における省エネ対策につなげることができます。 産業を主とした、各企業分野のエネルギー効率戦略は、より快適な生活環境を創出し、さらに低炭素社会にも結びつきます。
エネルギー効率化の課題と解決策
しかし、エネルギー効率化を目指す上で、さまざまな課題が存在します。
エネルギー生産・自給率の低さ:エネルギー効率化を考える上でも、日本はエネルギー自給率が低いという認識が必要です。
自給率の低さにはさまざまな要因がありますが、大きな原因としては、国内にエネルギー資源がとぼしいことが挙げられます。日本のエネルギーは石油・石炭・天然ガスといった化石燃料に供給依存していて、そのほとんどは海外からの輸入です。
1970年代に起こったオイルショックの影響もあり、化石燃料への依存度は少し下がりましたが、2011年の東日本大震災以降は化石燃料の使用がふたたび増加しています。
2019年度では化石燃料への依存度はおよそ84%です。
しかし海外にエネルギーを依存すると、エネルギーの安定供給問題に直面します。戦争や規制など国際情勢などに左右され、安定的にエネルギー資源を確保できないことが考えられます。
そこで日本では、非常時に備えて約230日分の石油(90%は中東地域からの輸入)の備蓄を行い、そのほかのエネルギー源の輸入先地域を分散することで安定的な供給を目指しています。
エネルギーコスト:次に、効率化において重要なエネルギーコストの課題と解決策について考えてみます。
まず電気料金は、化石燃料などの輸入価格の変動の影響を大きく受けやすくなっています。その結果、近年のロシア・ウクライナ間の戦争を受け、国民、民間部門はもちろん、不安定な中小企業や国際競争にさらされている産業部門からは悲鳴も上がっており、電力コストの引き下げが大きな課題となっています。
IEA などの国際機関の見込みによれば、化石燃料の国際価格は中長期的に上昇していくとみられています。
日本の対策としては、価格変動のリスクを減らすことを第一にエネルギー資源調達先の多角化や、調達コストを抑制するとともに、安全性が確認されている原子力発電の活用と再生可能エネルギーの導入拡大により、化石燃料依存度を引き下げることが不可欠です。
このようにエネルギー効率において、供給とコスト面の安定化と低・脱炭素化の共存を目指すためには、まずは化石燃料から再生可能エネルギーの利用への移行が必要不可欠です。
そしてエネルギー効率化利用、省エネルギーへの努力、技術発展、インフラ投資を進める政策が求められます。
交通と産業の低炭素化
さらに、低炭素化のためには極めて二酸化炭素排出の大きな要因でもある交通と産業分野の低炭素化を図ることが重要です。
交通の低炭素化の方法
2030年度に向けた、26%減(2013年度比)の二酸化炭素の排出削減目標の達成のために、運輸部門の二酸化炭素排出量を3割も削減する必要があります。
そのためには二酸化炭素を多く排出する交通手段から、低炭素な交通への転換促進が不可欠です。
日本における国全体の二酸化炭素排出量のうち、運輸部門の排出量割合は産業部門、民生部門に次いで多く、全体の17.9%も占めています。
さらに、運輸部門のうち二酸化炭素排出割合が最も多い輸送機関は自家用乗用車で、46.2%にも達しています。これと比較して、鉄道の二酸化炭素排出割合はわずか4.1%です。
輸送機関別に人ひとりを1km運ぶ際に排出する二酸化炭素をみると、鉄道は自家用乗用車の約7分の1、航空の5分の1にすぎません。こうしたデータ検証からも、鉄道は環境負荷がより小さく、環境にやさしい乗り物であることがわかるでしょう。ただし、マイカー移動から公共交通機関への転換を進めるためには、ただ乗り換えるだけではなく、低炭素な公共交通機関の導入や利便性の向上が重要となります。
さらに先進的な設備機器の導入や、回生電力を有効活用できるネットワークの構築を通じた交通の低炭素化の促進が必要です。
産業の低炭素化とその課題
つぎに、産業部門においては低炭素化の動きは他国にくらべ遅れをとっています。
産業界の低炭素化に向けては、エネルギー消費に使うエネルギー燃料を削減するだけでなく、顕著な転換をすることが不可欠であります。
産業界の低炭素化に向けてのイノベーションには、産業種によってさまざまな取り組みが考えられます。例えば、製造に要する材料を変えることによって低炭素化を進めることができます。あるいは製造工程において、使用エネルギーを再生可能エネルギーに変更したり加熱方法を変えたりするなどによる低炭素化も可能です。
近年関心の高まっている産業用燃料としては、CO2フリーである水素発電を利用することも、大きな発展につながり得ます。産業分野におけるこのような低炭素化の取り組みを加速化するためには、抑制量を評価する制度的な枠組みが必要であるともいえます。
課題としては、現行の省エネ法は削減した電力に相当する原油の消費抑制量を評価する制度のため、それ以外は評価されないという批判も聞こえます。産業界の低炭素化促進のためのイノベーションを進めるためには、制度の変革も求められます。
再生可能エネルギーの採用
低炭素かつ脱炭素社会へ向け、従来の電力から再生可能エネルギーへ切り替えるとなると、「どのような種類があり、どのように導入すればよいか」などの疑問点をもつことはあり得ます。そこで、再生可能エネルギー採用のために、改めて種類やメリット、課題などをご紹介します。
再生可能エネルギーの種類と利点
現在、普及拡大する再生可能エネルギーについて以下が挙げられます。
・太陽光
・風力
・水力
・地熱
・太陽熱
・大気中の熱その他の自然界に存在する熱
・バイオマス(動植物に由来する有機物)
これらは地球が本来的に持っている自然派性のエネルギーを活用しているので、下記のようなメリットがあります。
・エネルギー源が枯渇する心配がない
・温室効果ガスの排出量が比較的少ない
・エネルギーの供給場所を問わないため、すぐに調達できる
・有害物質、放射性廃棄物が発生しない
・各地にたくさん設置することで、一部に不具合が生じても、影響範囲が少なくなる
・災害時にとても有用であり、エネルギー供給が止まる期間を縮小できる
・需要と供給が発生するので、製造産業の発展にもなる
このように、再生可能エネルギーの普及が完備された場合、資源枯渇の心配をする必要性がないので、長期的な観点でも大きいメリットが多数あります。SDGsをはじめとした世界環境保全の動きとマッチしたエネルギーともいえます。
再生可能エネルギーの課題と解決策
しかし一方で、デメリットでもある課題があることも事実です。
・太陽光、風力発電などは、天候によって発電量が大きく変動し不安定
・再生可能エネルギーによる発電コストは依然高い
・エネルギー資源や設置に適した場所を調べる手間とコストがかかる
・従来の発電方法と違うため発電規模は小さく、価格が高くなりがち
電気というエネルギーは水などとは異なり、保存しておくことが困難なエネルギーであるため、発電量が不安定になってしまう点はとても大きな課題といえます。
では、日本の再生可能エネルギー採用における課題に対し、推進させるためにどのような解決策があるのでしょうか?
発電コストの低減:導入側となる企業や個人にとって大きな課題である発電コストを下げるために、人件費や物価をカバーするコスト削減が必要となります。また、発電時にかかるコストを下げる必要もあります。これらを解決する策として以下の2例が挙げられます。
FIT・FIP制度の採用:大規模な再生可能エネルギーの発電インフラの建設・発電にかかるコストを抑えられるように、2012年に「FIT制度」と呼ばれる固定価格の買い取り制度が導入されました。
家庭や一般事業者が企業社屋の屋上や住宅の屋上で生成された再生可能エネルギーを、電力会社が一定価格で買い取り、電力を生産した側が利益を得ることができるという制度です。
また、買い取り側である電力会社にとっては、再生可能エネルギーによって生産される電力の増加で、自社での発電コストを抑えられることができるメリットがあります。
さらに発電に関わる企業の市場競争力を高めながら、スピーディなコスト低減のため、2022年からは「FIP制度」が導入されています。
この制度によって、再生可能エネルギー発電事業者が卸電力というマーケットで電力を販売できるようになり、販売価格にさらに利益が上乗せできるという制度です。
エネルギーミックス:もう一つの解決策として、従来の原子力発電や火力発電などの方法に加え、再生可能エネルギーを含めた複数の発電方法を効率的に組み合わせてエネルギーを供給する方法があります。
タイムリーに自然、天候の状況を読み、それに応じて発電方法の割合を変更できる仕組みの研究が進められています。
適材適所な再生可能エネルギー供給によって、発電コストを低減することを可能にした取り組みが現在おこなわれています。