中小企業がめざす脱炭素経営の姿とは

日本国内の中小企業でも、近年、脱炭素経営が大きな注目を集めています。気候変動問題への取り組みが求められる今日、脱炭素経営は企業の新たな経営方針となっています。
この記事では、中小企業が脱炭素経営を成功させるための具体的な手段とその効果について解説します。

目次

中小企業にとっての脱炭素社会

脱炭素に対する国際的な動きは加速しています。京都議定書からパリ協定へと流れが受け継がれ、2015年9月の国連サミットで採択され、2030年までに達成することを目指しているSDGsにおいても、脱炭素に関連する内容が盛り込まれています。
また、日本においても、2050`年カーボンニュートラル宣言を受けて、今や中小企業にとっても、脱炭素は避けて通れない課題となっています。

脱炭素社会とは何か?

脱炭素社会とは、温室効果ガスの排出を大幅に削減し、持続可能な社会を形成することを目指す社会のことを指します。具体的には、再生可能エネルギーの導入、エネルギーの効率的な利用、地球温暖化対策などが求められます。

中小企業にとっての脱炭素の必要性

中小企業にとっても脱炭素は急務となっています。
脱炭素への取り組みは、CO2排出量を削減するだけでなく、経営の効率化や企業イメージの向上にも寄与します。また、企業の社会的責任(CSR)としても重要であり、消費者やビジネスパートナーからの評価向上につながる可能性があります。また、取り組まないことのデメリットもあります。大手企業がこぞって脱炭素に取り組んでいる中、サプライチェーン全体での取り組みが求められており、中小企業が脱炭素に取り組まない場合、その流通経路から外される可能性もあります。

中小企業が直面する脱炭素化の課題

中小企業が、脱炭素に取り組む際に直面する課題があります。
主に2つあり、1つは、コスト面での課題です。大手企業と違って、多額のコストをかけられない点が課題となります。
もう1つは、税制や政策面での課題です。脱炭素の国際的な流れを受けて、日本でも脱炭素関連の様々な施策が行われようとしており、中小企業がその施策に対して、どのように対応するかが課題となってきます。

初期投資と採算性

脱炭素経営に取り組む際、中小企業が最初に直面するのが初期投資です。エネルギー効率の良い設備の導入や再生可能エネルギーの活用は、しっかりとした投資計画とその資金調達が求められます。
多くの場合、初期投資に多額のコストがかかりますが、維持費や専門性の高い人件費など、トータルのコストで考えた場合、中小企業では採算が合わなくなる可能性もあるので注意が必要です。
また、例えば電力会社を変えて、再生可能エネルギーによる電力を購入した場合、CO2排出量は減りますが、電気代自体が高くなることもありますので、そういった点も注意が必要です。

炭素税導入や排出量超過によるリスク

中小企業にとっての脱炭素経営の課題としては、炭素税の導入や排出量の規制もあります。
炭素税とは、温室効果ガスの主要な原因であるCO2などの排出を抑制するために導入される税金のことです。この税金は、化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の消費に課され、それにより発生するCO2の排出量に応じて税額が決定されます。

この税制の目的は、排出量に対する金銭的なペナルティを課すことで企業や個人がCO2排出を抑制する行動を促すことにあります。例えば、エネルギーの効率的な使用、省エネルギー型製品の選択、再生可能エネルギーの使用増加などです。しかし、炭素税の導入は、CO2排出量が多い鉄鋼業界や化学業界にとって大きな負担となります。日本は化石燃料に依存しているので、エネルギーコストの上昇も課題となります。

排出量取引(排出権取引)制度とは、CO2などの排出量に上限(キャップ)を設け、それを超えて排出した場合にはペナルティが課せられるという制度です。この制度のポイントは、排出量の上限を下回った企業や団体がその「余剰分」を他の企業や団体に売ることができるという取引の部分です。つまり、排出量を削減できた企業はその分を「排出権」として販売でき、逆に排出量を抑えられなかった企業はその権利を購入することで排出量を相殺することができます。
企業は排出枠を超過した分に相当する排出権を市場から追加で購入する必要がありますが、この際、市場価格が高騰していると高額なコストが発生する可能性があります。また、一部の制度では、排出枠を超過した企業に対して罰金が科されます。罰金の額は排出超過量によって決定されることが多く、こちらも大きなコスト負担となる可能性があります。

具体的な取り組み

中小企業が脱炭素経営に取り組む際の、具体的な取り組みとその効果を見ていきます。

エネルギー効率化と省エネ活動

エネルギー効率化や省エネ活動の具体策を以下に挙げます。

・省エネルギー設備の導入: 省エネルギー性能の高い機器や設備を導入することで、エネ
ルギーの消費を減らします。例えば、LED照明や高効率な空調システム、エネルギー効
率の高い製造機器などが該当します。

・エネルギー監査: 自社のエネルギー使用状況を把握します。エネルギー監査を通じて
無駄なエネルギー消費を特定し、その改善策を立案します。

・業務プロセス、オペレーションの見直し: 製造工程やサービス提供の流れを見直し、
無駄なエネルギー消費を減らすように工夫します。たとえば、製造ラインの効率化や、
リモートワークの推進などが該当します。また、無駄な電力消費を減らすためのオペレーションの見直しも行います。例えば、空調設定温度の見直しや、不在時の電源オフなど
です。

これらは、コスト削減やCO2排出量削減への直接的な効果となります。また社会的評価の向上という間接的な効果もあります。 省エネ活動は、企業の環境配慮の具体的な証となります。その結果、企業イメージの向上や、環境に配慮した消費者からの評価を得やすくなります。

再生可能エネルギーの活用

再生可能エネルギーの活用は、中小企業が脱炭素社会に貢献できる大きな手段です。特に太陽光発電や風力発電などの導入は、CO2排出量の削減だけでなく、電力コストの削減にもつながります。一方で先に述べた通り、設備への投資などは、初期投資とその採算性をよく計画した上で実行する必要があります。

政府や金融機関の支援

中小企業の脱炭素経営を支援する政府や金融機関の役割を見ていきます。

資金提供や助成金の活用

脱炭素経営への取り組みには、政府や金融機関からの支援を活用することが重要です。
以下にその例を挙げます。

・省エネ設備導入支援: 政府は省エネ設備の導入を支援するための助成金を提供しています。例えば、環境省の「エネルギーの使用の合理化等に関する施設等の設置に対する
補助金」では、省エネ設備の導入にかかる費用の一部が補助されます。

・太陽光発電システム導入補助: 太陽光発電システムの導入に対する補助もあります。
環境省の「地球温暖化対策地域活動推進事業補助金」では、太陽光発電システム導入費
用の一部が補助されます。

融資金利の優遇などの支援

・融資制度: 環境配慮型の事業に取り組む中小企業に対して、金融機関が特別な融資制度を提供しています。例えば、日本政策金融公庫の「地球温暖化対策資金」は、CO2削
減や省エネに取り組む事業者に対して、低利での融資を提供しています。

脱炭素経営とビジネスチャンス

中小企業の脱炭素経営は、課題が多くある一方、そこに大きなビジネスチャンスもあります。

グリーンビジネスの成長と市場拡大

環境に優しい製品やサービスを提供するグリーンビジネスの領域で中小企業が取り組むことができる例を以下に挙げます。

・エコ商品の開発・販売: 環境意識の高まりに伴い、エコ商品に対する需要は増大して
います。中小企業は、自社製品の環境負荷を減らすことで、新たな市場を開拓できます。

・リユース・リサイクル事業: 循環型社会を実現するためには、製品のリユースやリサ
イクルが重要です。中小企業は、これらのニーズに対応する新しいビジネスを展開する
ことが可能です。

脱炭素経営が中小企業にもたらすチャンス

脱炭素経営が中小企業にもたらすチャンスの例を以下に挙げます。

・イメージアップ: 環境に配慮した経営を行うことで、企業のブランドイメージが向
上し、消費者の信頼を得やすくなります。特に、若い世代は企業の社会貢献活動に対す
る意識が高いため、脱炭素経営は顧客獲得につながります。

・新規ビジネスチャンス: 省エネ製品の開発や再生可能エネルギーへの投資など、脱炭
素経営に取り組むことで新たなビジネスのチャンスを掴むことができます。

・投資家からの評価: ESG投資(環境、社会、ガバナンスを考慮した投資)が増える中、
脱炭素経営を行う企業は投資家から高く評価されます。これにより、資金調達が容易に
なります。

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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