脱炭素社会に向けた取り組みを解説:政策から個人のアクションまで

脱炭素という言葉はよく耳にするようになりましたが、その意味や重要性についてまでは分からないという人もいるのではないでしょうか。
脱炭素とは何か、脱炭素社会を実現するために、今どのような取り組みが求められ、実際に行われているのかを解説します。

目次
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脱炭素社会の基本理念と目指すべき姿

脱炭素の定義とは何でしょうか。その基本理念と目指すべき姿を見ていきましょう。

脱炭素社会とは?社会が目指すべき姿とは

脱炭素とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを指します。脱炭素が実現された社会が脱炭素社会です。
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、地球温暖化を進行させ、気候変動を引き起こしています。このままのペースでいけば、海面上昇による生態系の破壊や、水不足、食糧不足などの問題がより深刻化する恐れがあると懸念されています。

しかし、経済活動を維持するために、二酸化炭素の排出は避けられません。完全にゼロにすることは難しいため、すでに排出された二酸化炭素を回収し、差し引きで実質ゼロにするというのが脱炭素の考え方です。

カーボンニュートラルの目指す社会

脱炭素はカーボンニュートラル(カーボン=炭素、ニュートラル=中立・中間)とも呼ばれます。
2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択され、2016年に発効したパリ協定では、2020年以降の温室効果ガス削減に対する世界的な取り組みが示され、世界共通の長期目標として下記の2点が掲げられました。

世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

これを受け日本においても、2020年10月に当時の菅首相が所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言しました。続く2021年4月には、気候サミットにおいて「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と表明しています。
日本以外の多くの国や地域でも、2050年のカーボンニュートラルを目標に取り組みを進めています。

具体的な政策と効果

カーボンニュートラルに向け、具体的にどのような政策が行われているでしょうか。また、実際に効果が出ているのか、それに対する問題点についても解説します。

脱炭素社会を目指す具体的な政策

日本政府は、世界的な脱炭素社会の機運を日本の成長の機会ととらえ、2020年に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、具体的な政策を推進しています。

「グリーン成長戦略」では、産業の成長が見込まれ、かつ温室効果ガスの排出削減が不可欠な14の重要産業分野が設定されました。それぞれにおいて実行計画が策定され、着実な実施が進められています。
例えば電力部門では、再エネの最大限の導入と原子力の活用、さらには水素・アンモニア、分離・貯留したCO2の有効利用(CCUS)で脱炭素化を推進。また、産業・運輸・業務・家庭部門(電力部門以外)では、「電化」を柱とし、熱需要には「水素化」、「CO2回収」で対応するとしています。

さらに企業のイノベーションを後押しするため、企業に沿った支援策を政策ツールとして打ち出しています。1つは「グリーンイノベーション基金」の創設です。政府では同基金に2兆円の予算を投じ、企業を今後10年間継続して支援するとしています。
その他、脱炭素に効果が高い製品への投資を優遇する「カーボンニュートラルに向けた投資促進税」の導入など税制面の政策や、新技術の導入・普及を促す規制緩和・強化が行われています。

具体的な税制政策や規制改革の取り組みとしては、以下のような例があります。

税制政策
カーボンニュートラル実現を含めた投資に対し、欠損金の繰越控除上限を引き上げる特例
イノベーション創出拡大のための研究開発税制の控除上限を25%から30%に引き上げる

規制改革
電力会社へのカーボンフリー電力(水素・アンモニア)の調達義務化と取引市場の活用
再生可能エネルギーが優先的に送電網を利用できるルールの適用開始

地域脱炭素ロードマップとは

政府では、2025年までを脱炭素化に向けた集中期間と設定、政策を総動員して人材・技術・情報・資金を積極的に支援することを掲げた「地域脱炭素ロードマップ」を2021年6月に策定しました。「地域脱炭素ロードマップ」には、地域における脱炭素社会を実現するため、2030年までに行われる具体的な取り組みが明示されています。
この施策によって、国と地域が連携し2030年までに少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」をつくるとしています。具体的には、自家消費型太陽光や省エネ住宅、電動車などの普及・促進を図り、全国へ次々に伝搬させ「脱炭素ドミノ」を起こすことを見込んでいます。

企業と個人が脱炭素社会に向けてできること

脱炭素社会に向けて、企業が行っている取り組みにはどのようなものがあるでしょうか。また個人のレベルにおいても、日常生活で行える取り組みがあるのかどうかを見ていきましょう。

企業が進める脱炭素社会の取り組み

世界的な脱炭素化への動きが加速する中、様々な方向性で積極的に取り組みを行う企業が増えてきています。
中でも省エネ対策はすぐに着手できる事例として多くの企業で取り入れられています。CO2削減はもとより、エネルギーの無駄を抑えられコスト削減にもつながるメリットがあります。

再生可能エネルギーの導入、切り替えも多くの企業で進んでいる事例と言えるでしょう。これまでは、太陽光パネルを設置するなど高額な設備投資が必要でした。現在では再エネを取り扱う電力会社も増え、すぐ切り替えられるようになりそのハードルも下がっています。

省エネ対策や再生可能エネルギー導入であまり効果が出なかった、あるいは取り入れることが難しい企業のために「カーボンオフセット」という代替手法もあります。カーボンオフセットは、削減できなかった温室効果ガスの排出量に応じて、森林や環境団体へ寄付をすることで間接的に貢献するというものです。
企業によって取り組む内容や規模は様々ですが、脱炭素化に参画することに意義があると言えるでしょう。

個人ができる脱炭素社会への取り組み

脱炭素の取り組みは、国や企業にだけ求められているわけではありません。日本における二酸化炭素排出量は、全体の約15%(2021年)が家庭から出るものです。むしろ個人レベルで、一人ひとりが意識して取り組むこと必要だと言えるでしょう。

家庭内でできる主な取り組みには、下記のようなものがあります。
省エネ性能に優れた家電への買い替え
省エネ住宅への買い替え・リフォーム
再生可能エネルギー利用の電力プランへの切り替え
食品ロス、ごみの排出を減らす
自家用車の移動を控え、公共交通機関や自転車を利用
電気自動車への乗り換え

この他にも個人でできるエコアクションはたくさんあります。小さなことでも行動することが大事でしょう。
出典・参照:国立環境研究所 部門別のCO2排出量

脱炭素社会への世界の取り組み

世界の国々では脱炭素社会へ向けて、どのような取り組みが行われているでしょうか。国際協力と技術移転の必要性という観点から解説します。

世界の脱炭素社会への取り組み

パリ協定で掲げられた世界共通目標に基づき、世界の120以上の国と地域が自国目標を掲げ、脱炭素化の取り組みを行なっています。

主要先進国の目標は以下のようになっています。
EU:1990年比で少なくとも55%減
イギリス:1990年比で少なくとも68%減
アメリカ:2005年比で50〜52%減
中国:2030年までに排出を現場に転換
日本:2013年度比で46%減

EUでは、3つの削減目標とそれに対応する8つのシナリオを立てて、目標の達成方法を検証。イギリスでも、様々な仮説を立てた上で、必要な電力需要やエネルギー構成などをシミュレーションし具体的な取り組みに反映しています。

アメリカは、パリ協定に復帰した2021年に気候サミットを開催するなど、バイデン政権発足直後から様々な政策を打ち出し取り組んでいます。2030年までに洋上風力による再エネ生産量を倍増させ、「気候変動への対応、クリーンエネルギーの活用、雇用増」を同時達成する「ウィン・ウィン・ウィン」の実現を目指すとしています。

中国は、新エネルギー自動車向けの補助金などにより、電動車市場を急拡大させています。2025年までに新エネルギー車の割合を20%前後に引き上げ、2035年までに電気自動車を新車販売の主流にするという目標を掲げています。

出典・参照:資源エネルギー庁 諸外国のおける脱炭素化の動向

国際協力と技術移転の必要性

脱炭素社会の実現には、国際協力が不可欠です。そのための国際的な取り組みとして「国際イニシアティブ」があります。国際イニシアティブは、環境問題へ取り組む世界中の多くの企業が加盟する企業連合で、温室効果ガスの排出量算定や基準を定めた「GHGプロトコル」に基づいています。

代表的な国際イニシアティブには、下記のようなものがあります。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)
SBT(Science Based Targets)
RE100(Renewable Energy100%)
EP100(Energy Productivity100%)
CDP(Carbon Disclosure Project)

日本の加盟企業も年々増えており、RE100だけでも現在82の日本企業が加盟しています。

また、近年ではEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)に取り組むことを企業に求めるESG投資の動きが高まっています。投資家が企業のESG評価を見極める上でも、国際イニシアティブは注目されています。

国際協力の取り組みとして日本では、技術移転の可能性も模索しています。その1つとして「二国間クレジット制度」があります。
「二国間クレジット制度」は、脱炭素に向けた技術開発やインフラ整備へのコスト投入が難しい発展途上国へ、日本の優れた低炭素技術・システムなどを提供する経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるプロジェクトです。

日本の技術を途上国で実証し、その成果を「クレジット」として発行することで、自国の脱炭素政策目標に反映させるというものです。

プロジェクトの事例

ベトナム アンザン省における太陽光発電プロジェクト
株式会社兼松KGKが代表事業者を務める同プロジェクトでは、アンザン省の約80ヘクタール程の土地に太陽光発電システムを導入し温室効果ガスを削減。これにより2030年までに国内電力供給料の23%を自然エネルギーで賄うというベトナム政府の目標に貢献しています。
モンゴルの飲料工場へのLPGボイラー導入による燃料転換
株式会社サイサンによるこのプロジェクトは、ウランバートル市の飲料工場にLPGボイラーを導入し、温室効果ガスの排出削減、大気汚染の緩和に貢献しています。貫流ボイラーと真空温水器でシステム効率を上げることにより、既存の石炭ボイラーの燃料消費量を抑えるとしています。
このことからも、自国だけでの取り組みではなく、国際協力のもと脱炭素に向けて取り組んでいく重要性が伺えるでしょう。

出典・参照:RE100 RE100 Members

出典・参照:環境省 JCMプロジェクトの事例

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この記事を書いた人

環境課題とAIなどの先端技術に深い関心を寄せ、その視点から情報を発信する編集局です。持続可能な未来を構築するための解決策と、AIなどのテクノロジーがその未来にどのように貢献できるかについてこのメディアで発信していきます。これらのテーマは、複雑な問題に対する多角的な視点を提供し、現代社会の様々な課題に対する理解を深めることを可能にしています。皆様にとって、私の発信する情報が有益で新たな視点を提供するものとなれば幸いです。

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