日本における低炭素社会への取り組み、なぜ低炭素社会が必要なのか、日本の現状と取り組みがどういった形で進められているのかについて解説します。
低炭素社会を理解する
低炭素社会の定義と、それがなぜ今後の持続可能な社会に不可欠なのかについて解説します。
低炭素社会とは?
低炭素社会とは、温室効果ガスの主要な原因である二酸化炭素(CO2)などの排出を大幅に削減し、地球温暖化の進行を抑制することを目指す社会のことを指します。具体的には、以下のような特徴や取り組みを持つ社会を指します。
再生可能エネルギーの導入:
太陽光、風力、水力、地熱など、再生可能なエネルギー源を使用して電力を生産します。
エネルギーの効率的な使用:
低炭素社会では、エネルギーの使用を最適化し、無駄を減少させるための技術や方法が導入されます。
移動手段の変革:
低排出量またはゼロ排出の輸送手段、例えば電気車や水素車の普及、公共交通機関の利用促進、自転車や徒歩を奨励する政策などが推進されます。
なぜ低炭素社会が必要なのか
地球温暖化は、化石燃料の燃焼や森林の伐採などにより増加するCO2の影響で、地球の平均気温が上昇する現象です。この温暖化による影響は、極端な気象、海面上昇、生態系の変動などとして現れ、人間の生活や経済、生物多様性に深刻な打撃を与える可能性があります。
これらの課題に対処するため、2015年に採択されたパリ協定は、地球の気温上昇を2℃以下、なるべく1.5℃以下に抑えるという目標を掲げました。この目標を達成するためには、CO2の排出を大幅に削減する必要があり、そのために低炭素社会の実現が不可欠です。
低炭素社会は、次世代へ安定した環境を継承するための鍵であり、持続可能な未来を構築する重要なステップです。
日本の挑戦状況
日本のCO2排出量の現状と、化石燃料によるエネルギー供給の問題点を解説します。
日本のCO2排出量の現状
日本は、2030年までのCO2削減目標を、2013年の排出量に比べて46%削減、さらに努力目標として50%削減を掲げています。これは、当初の26%削減の目標から見直されたものです。
また、2020年に、日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出と吸収のバランスを取る、ネットゼロ排出)を目指す方針を発表しました。
環境省と国立環境研究所が取りまとめた、2021年度の温室効果ガスの排出・吸収量は11億2,200万トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、前年度比2.0%(2,150万トン)の増加となり、2013年度比では20.3%(2億8,530万トン)の減少となっています。
化石燃料への依存問題
日本は天然資源に乏しいため、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料の大部分を輸入に頼っています。これにより、外部からのエネルギー供給の安定性や価格変動に大きく影響される立場にあります。
2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の影響で、多くの原子力発電所が運転を停止した結果、化石燃料への依存度が一時的に増加しました。
事故後のエネルギー政策の見直しにより、再生可能エネルギーの導入が促進されるようになりました。特に太陽光や風力発電の導入が進められていますが、全エネルギー供給に占める割合はまだ限られています。
具体的な国内の取り組み
政府の再生可能エネルギー推進政策と、企業や個人がどう低炭素社会に貢献できるかについて解説します。
政府と自治体の取り組み
日本の政府は、再生可能エネルギーの導入を促進するために、以下のような主要な政策を進めています。
固定価格買取制度 (FIT: Feed-in Tariff):2012年に導入されたこの制度は、電力事業者に対して、一定期間(10年または20年など)、再生可能エネルギーにて生産した電気を一定の価格で買い取ることを義務付けています。
これにより、再生可能エネルギーの事業者は投資回収や事業展開をしやすくなりました。
非化石燃料エネルギー源割合の目標設定:2030年のエネルギーミックスにおいて、再生可能エネルギーの割合を約22%〜24%にするという目標を設定しています。
電力システム改革:再生可能エネルギーの導入拡大を背景に、電力システムの供給体制や市場構造を改革する動きが進められています。これには、全国一律の電力供給体制から、より多様な事業者が参入しやすい市場構造への移行が含まれます。
研究・開発の推進:太陽光や風力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギー技術の研究・開発を国が支援しています。これは、技術の進化とコスト低減を促進するための措置です。
地域での導入促進:地域ごとの再生可能エネルギーの導入促進や、地域住民との協力体制構築のための取り組みが進められています。
再生可能エネルギーは地域資源を活用する側面が強いため、地域の特性やニーズに応じた展開が求められます。
再生可能エネルギーの融資や補助:再生可能エネルギー関連のプロジェクトに対する融資や補助金を提供することで、事業の展開を支援しています。
企業と個人の取り組み
低炭素社会への移行は、国や自治体の政策だけでなく、企業や個人の取り組みも非常に重要です。
以下は企業や個人が低炭素社会に貢献するための方法や取り組みの例です。
企業ができること
再生可能エネルギーの導入:太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーソースへの投資や採用。
製品の環境設計:製品のライフサイクル全体でのCO2排出量を考慮し、環境にやさしい設計や材料選定を行う。
テレワークの導入:社員の通勤や出張に伴うCO2排出の削減。
個人ができること
エネルギー消費の抑制:節電、節水、適切な室温設定、家電製品のエコモード活用など。
移動手段の見直し:公共交通機関の利用、自転車や徒歩の活用、カーシェアリング、エコドライブ。
リサイクルの実践:正しい分別やリユース、リサイクル、コンポスト作成などの廃棄物の適切な管理。
将来の取り組み
日本が次に目指すべき低炭素社会への目標と、個々の市民がどう持続可能な生活を送れるかについて解説します。
次なる目標
日本は、2030年や2050年の目標達成を見据え、中長期的なCO2の削減計画を進める必要があります。2050年のカーボンニュートラルを目指す中で、中間目標や段階的な取り組みを設定することも重要であり、以下のような取り組みが重要となります。
再生可能エネルギーの拡大:エネルギーソースとしての再生可能エネルギーの割合をさらに増やす。
太陽光、風力、バイオマス、地熱など、多様な再生エネルギー源の導入と技術開発を進めることが重要です。
エネルギーの使用効率の向上:エネルギー消費を抑制しつつ、生活や産業活動を維持・発展させるための効率的なエネルギー利用を推進する。
都市構造の変革:低炭素型の都市構造や交通システムを推進し、人々の生活やビジネスのスタイルも含めて再検討する。
技術革新の推進:炭素捕捉・利用・貯蔵(CCUS)技術や水素技術など、新しい低炭素技術の研究、開発、普及を進める。
教育と啓発:低炭素社会の価値や重要性を広く伝えるための教育・啓発活動を強化する。次世代への継続的な取り組み意識の育成を図る。
国際協力の強化:国際的な低炭素社会への取り組みをリードし、発展途上国への技術支援や協力を拡大する。
持続可能な生活スタイルへ
持続可能な生活を送るために、個々の市民が日常生活で心がけるべきことや取り組むべき行動は多岐にわたります。以下は、市民一人ひとりが持続可能な生活を送るための具体的な例です。
エネルギー消費の抑制:節電や節水、エコモードの利用、冷暖房の適切な設定など、日常のエネルギー消費を見直す。
移動手段の選択:公共交通機関の利用、歩行や自転車の活用、カーシェアリングなど環境負荷の低い交通手段を選ぶ。
リサイクルの実践:ゴミの正しい分別、リユース、リサイクル商品の購入など、廃棄物の適切な取り扱いを心掛ける。
食の持続可能性:地産地消の食材の選択、食品ロスの削減、植物中心の食生活の取り入れなど、持続可能な食を選択する。
水の使用を効率的に:節水シャワーの使用、水道の無駄使いを避ける、雨水の利用など、水の有効利用を心がける。
自然との共生:地域の緑地や公園を活用し、自然との関わりを深める。また、自宅の庭やベランダで、植物を育成する。
持続可能な生活は、大きな変革や努力を必要とすることもあるかもしれませんが、小さな日常の選択や行動の積み重ねが大きな変化を生むことがあります。一人ひとりが持続可能な生活を意識して行動することで、社会全体の持続可能性も向上します。